東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
破産管財人というのは、ドラマや経済小説などで時折目にする存在です。
ただ、破産管財人が法人の破産手続に関して、どのように関与していくのかということは、あまり知られていません。
破産管財人とは、裁判所から選出される弁護士であり、破産者の資産を換金して債権者に分配することを目的とします。
ただし債権者や破産者の味方ではなく、あくまで中立の立場のとして、破産手続きを進めます。
破産管財人はどの組織が決めるのか、どのようにして選任されるのか、また破産管財人との関わりが法人破産においていかに重要かをまとめます。
破産管財人とは、裁判所が破産手続開始と同時に選任する、法人の残された財産を管理する責任者です。
大半のケースでは、裁判所の管轄区域内の弁護士が選任され、主に下記のような手続きを行います。
破産財団(破産した会社の財産)の占有・管理 | 会社の財産を、破産した会社の代わりに所有・管理する |
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破産原因と破産財団の調査 | なぜ破産したかの原因を調査、裁判所や債権者に報告する |
破産債権の調査 | 届け出られた債権(破産する会社が有していた請求権)、債務(つまり、会社の借金)の他に、債権・債務がないかを調査する |
破産財団の換価 | 会社にはお金以外にも固定資産・有価証券・土地建物などの財産があるため、お金になる財産は全て現金に換える |
契約関係・訴訟関係などの処理 | 様々な契約・訴訟を処理する |
債権者集会での報告義務 | 債権者・債務者が出席する債権者集会で、財産状況や債権債務に関して報告する |
他にも別除権、取戻権、財団債権への対応、否認権の行使など専門的な業務を行いますが、大まかには上記の業務を処理すると考えておくとよいでしょう。
なお、破産管財人の報酬は、裁判所の確認を通して破産財団の中から支払われる形となります。
「破産管財人ってどういう立場なのか?」と思うかもしれません。
そこで下記では、破産管財人の立場について説明します。
破産管財人はあくまで、公平な立場にいます。
債権者に1円でも多く配当できるように会社資産を調査しますが、同時に破産した側が今後生活できるように配慮もします。
具体的には破産した方が今後も生活できるように自由財産(99万以下の財産)を所持できるように許可したり、債権・借金を帳消しにする「免責」を認めたりします。
なので破産を申し立てる側から見たら「敵でも味方でもないが、助けてくれる」という立場になります。
破産手続きにおいて、破産管財人の意見は重要になるため、嘘をついたり印象の悪い対応をしてはいけません。
また破産管財人の目的は破産手続きがスムーズに進むようにサポートすることです。
すべての破産手続きで、破産管財人が選任されるわけではありません。
下記のような状況だと、破産管財人が選任されることが多いです。
まず債権者への配当・借金の返済を見込める場合は、破産管財人が選任されることがあります。
破産管財人は会社の資産・負債を整理して債権者に配当するために手続きを進めます。
次に会社の財産が不正に流出・隠されている可能性がある、免責不許可の可能性がある、という場合は調査・検討のために管財人を選任します。
そもそも債権者への配当ができない・破産手続きの費用さえないという場合は、破産管財人が選任されません。
その場合は「同時廃止」といって、破産手続きの開始と共に破産手続きが完了します。
破産管財人の就任により、会社の財産・資産の一切は、破産管財人によって「破産財団」として扱われることになります。
そして売却・競売などの形で、お金にできる資産は全てお金に換えられる(換価処分)ことになるのです。
意外なところでは、特許などの知的財産権、著作権、これから請求する債権なども破産財団に組み込まれ、買い手が付く物に関しては換価処分されます。
法人の場合は、個人のように99万円の現金など最低限必要な財産を残すことはせず、財産を残さずお金に換え、債権者に分配します。
もし会社の借入の連帯保証人になっておらず、破産手続前に不審な資金移動、資産隠しを行っていなければ、自分自身の財産に影響が及ぶ可能性は少ないでしょう。
しかし、多くのケースでは、法人の借入時に代表者個人として連帯保証をするケースが多くあります。
そのため、実態としては法人の破産手続きと経営者自身の自己破産手続を同時に行うケースが多いのです。
ただし個人破産の場合は「自由財産拡張の申立」ができます。
この申立てが許可されれば、99万円以下の財産を手元に残せます。
法人と個人を同時に破産したとしても、個人の財産は99万以下だった保有できるかもしれません。
自由財産拡張の申立を許可するかどうかは、裁判所の判断によって決まります。
さらに裁判所は破産管財人の意見を参考にするため、破産管財人に対して「自由財産拡張を認めてほしい」と働きかけることが重要です。
破産管財人による財産調査は、下記の流れで行われます。
なお、破産財団という言葉を使うべきところもありますが、文章のわかりやすさのために、平易に言い換えている部分もありますのでご理解ください。
財産調査は長いと、1年以上の時間がかかるケースもあります。
早く終わらせたいなら、破産管財人になるべく協力して、スムーズに手続きが終わるようにしましょう。
財産に関して、現金・預金・有価証券はもとより、会社が有するあらゆる物(前述のような知的財産権なども含む)を調査します。
また、土地建物であれば、抵当権設定があるかなども確認します。
会社が有していた債権や、債務の調査に関して、ヌケ・モレがないかを徹底的に調査します。
また、郵便物に関しても、破産管財人の就任後は、破産管財人の事務所に全ての郵便物が転送され、破産管財人による開封・確認作業が行われるのです。
その中で、債権者リストにない債権者がいることがわかった場合は、当該債権を調査していきます。
また、偏頗弁済(へんぱべんさい)といい、特定の債権者にだけ多く弁済していないかなどもチェックされるのです。
破産手続申請前の場合でも問題になりかねませんが、破産手続申請後に、「うちから借りた分だけでも返して」とか、「親戚・友達だから返して」という要求があって、少しでも返済してしまうと偏頗弁済を行ったことが、問題になってしまう可能性もります。
債権者によっては、かなり強いやり方で偏頗弁済を迫るケースも想定されます。
この場合、あくまで債務整理を弁護士に一任していることを伝え、偏頗弁済を強要することは問題になり得ること、今後の弁済に関しては弁護士に全て連絡するように伝え、直接の連絡を絶たなければなりません。
もし返済の強迫などを受けた場合は、弁護士に連絡し、どのように対処するかの判断を仰ぎましょう。
法人の場合は、個人と異なり、法人そのものが消滅するため、免責という概念はありません。
しかし、会社の代表者・役員が不正な資産の移動を行っていないか、債権・債務に遺漏がないか、財産内容に虚偽や漏れがないかなどの調査は、破産管財人が厳格に行います。
方法としては、会社の帳簿等も含めた各種資料の精査、関係者からのヒアリング、事務所・営業所などの現地調査、在庫の帳簿との突合など、様々な角度から調査を行います。
内容に虚偽や重大な瑕疵がある場合や、その他違法である部分については、破産法など関係法令で犯罪となるケースも想定されますので、特に注意し、少しでも疑問に思う部分については弁護士に事前に相談しましょう。
破産財団とは、破産によって失う財産のことです。
破産財団は、破産管財人によって換金されて、債権者に配当されます。
ここからは、破産財団について知っておきたいことを紹介します。
破産時に気になるのが「どの財産が破産で換金されてしまうのか?」だと思います。
破産財団には、下記の4つの基準を満たしているものが該当します。
破産時にすべての財産が完全に失われるわけではなく、生活に必要な財産に関しては、破産財団に含まれないこともあります。
破産財団になる財団は、主に下記のようなものです。
まず現金に関しては、99万円を超える場合に破産財団に組み込まれます。
99万円以下であれば、自由財産として認められるため、破産しても保持できます。
同様に20万円以下の預貯金も保持が認められるケースがあります。
自動車も価値が高いと、破産財団に組み込まれて、換金されます。
評価額20万円が目安になり、20万円を超えている自動車は破産財団になるケースがあります。
しかし自動車ローンが残っている場合もあるため、状況によって異なります。
すべての財産が破産財産に組み込まれるわけではありません。
下記のような財産は、破産しても保持できます。
生活に必要な財産や仕事に必要な道具は、差押えができない財産として扱われます。
さらに下記のようなものは、金額によって破産財団に組み込まれません。
退職金や社会保障のためのお金に関しては、差押えが禁止されています。
例外的に、破産財団から放棄される財産もあります。
破産財団から放棄された財産は「自由財産」として扱われることになり、破産した人でも保持が認められています。
具体的には、処分・換金が難しい不動産です。
例えば調査や売却に時間がかかる土地、売値よりも経費の方が高くなる不動産などは、破産財団から外される可能性があります。
なぜなら破産財団は換金をして債権者に配当することが目的になるため、余計に時間がかかったりお金にならない財産は扱いたくないからです。
破産管財人就任時の対応としては、下記の点を留意し、対応する必要があります。
破産管財人は、破産を申し立てた法人の代表者の行動が誠実であるかを厳しく見ています。
必要資料の提出はもとより、各種調査に対し、最優先での協力、アポイントメントの厳守など、社会人として基本的なルールはもとより、前述の偏頗弁済
や、会社か個人の財産か区別が付きにくい財産の勝手な処分や、その他の財産に手をつけることは、決してしないようにしてください。
疑問に思ったら弁護士を通じて破産管財人に確認する
自分では問題ないと思うことであっても、破産管財人の観点から見たら、破産法に抵触するケースもありえます。
そのため、少しでも疑問に感じたら、弁護士を通して破産管財人に、「この行為は問題ないか」ということを確認しましょう。
破産管財人は、裁判所から選任された立場であり、債権者・債務者、どちらの味方ということはありません。
そのため、必要以上に怖がる必要はないですが、誠実・迅速に対応するという原則をもって行動すれば、必要以上に怖がる必要はありません。
破産管財人がつくと、面談を行います。
面談では、破産に至った経緯・具体的な事情・財産関係についての説明をしなければいけません。
そのときに、嘘をついたり財産を隠したりしてはいけません。
破産管財人は破産申立書・破産者が提出した資料を持っているため、事実ではないことを説明しても、バレる可能性が高いです。
破産管財人は、破産手続きが終わったあとに「免責するかどうか?」の意見を裁判所に述べる重要な役割を果たします。
免責とは、残った借金をゼロにすることです。
破産管財人に対して嘘をついて、「この人は誠実な対応ができない」と思われると、免責されにくくなるかもしれません。
破産管財人に対して、嘘をつかず、正直な対応を心がけましょう。
このように、破産管財人は、あくまで財産の処分・分配までの業務を、法律に基づき、事務的に行う立場です。
ともかく常識・誠実さを持った対応をしていくことが大切になります。
資金がない場合、どのように破産手続を行えばよいのでしょうか。
当然、弁護士事務所の側も、破産手続を行う側にはお金がないことがわかっていますので、分割など様々な措置で、資産がない場合でも法人・個人の破産手続が取れるように配慮してくれるケースが多くあります。
まず、法人の破産に理解のある事務所であれば、分割払いなどの措置を取ってくれるケースが多いです。
また、売掛金の回収分を報酬に充当したりなどの配慮をしてくれる事務所もあります。
また、法人破産のケースでも、実質一人法人から大規模な法人まで、規模は様々です。
会社が小規模な場合で、実質的に法人=個人の場合は、地裁(東京地裁など)の運用によっては、法人併存型という形で、法人と個人の破産手続を同時に行う場合もあります。
法人破産に当たっては、弁護士など専門家報酬と、裁判所に支払う実費をあらかじめ納める「予納金」が必要になります。
予納金の相場に関しては、下記の通りです。
破産管財人が就任する一般の管財事件 | 70万(負債が5,000万未満)~数百万+雑費 |
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少額管財事件 | 20万円程度+雑費 |
これに加え、事務所により幅はありますが、弁護士報酬として、下記の報酬が必要です。
破産管財人が就任する一般の管財事件 | 70万~数百万(事務所・金額・事業内容により相当幅がある) |
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少額管財事件 | 50万~100万(事務所によりこれより上下あり) |
このように、金額だけを見ると非常に大きいのです。
ですが、弁護士事務所の側でも、依頼者の負担をできるだけ少なくするよう分割払いその他の措置で、負担を軽減できるように配慮してくれるケースも多くあります。
時間をかけて悩んで負債を膨らますより、早めに法的整理に入った方が結果として費用負担も減るでしょう。
破産管財人は、破産者の財産を債権者に配当できる場合に選ばれます。
債権者に配当する財産もない場合は、破産手続きの開始と同時に終了する「同時廃止」になります。
破産が同時廃止として扱われるときは、破産管財人の選任もなく、裁判所へ支払う予納金も安くなり、手続きの期間も短くなります。
破産が管財事件として扱われて、破産管財人がついた場合は、お金・時間・手間がかかってしまいます。
「なるべく費用をかけず、早期に破産手続きを終わらせたい」という人は、同時廃止で破産手続きを進めましょう。
ただ法的な知識がない状態で破産手続きを進めるのは難しいため、弁護士への相談がおすすめです。
弁護士に相談すれば「どうやって進めると、同時廃止になって費用や時間が節約できるか?」のアドバイスをもらえます。
多くの弁護士事務所では初回相談を無料で行っているため、まずは相談してみましょう。
相談してみると「破産する必要はなくて、債権者と交渉した方がいい」という結論が出るかもしれません。
弁護士なら債権者との交渉も行ってくれるため、その後の手続きを任せられます。
税理士に相談することもできますが、税理士は債権者との交渉ができないため、弁護士に依頼した方がすべてお願いできます。
破産以外にも方法はたくさんあるので、法律のプロである弁護士に依頼するのは大切です。
会社を破産させ、清算するというのは、ここまで一生懸命育てた会社がなくなってしまうということですから、相当心理的に辛い面もあるかと思います。
しかし、負債が膨らんだり、先行きが見えたりしない場合に、無理して業務を続け、より借金が膨らんでしまっては、破綻を後伸ばしにすることになり、負担が大きくなるだけです。
ましてや、身内や親族、高利の商工ローン業者、利用してはいけない先(ヤミ金など)などから借りると、お金が返済のために消えていき、大変厳しい状況に陥ることは火を見るより明らかでしょう。
このような状況になる前に、事業に終止符を打ち、法的整理をする意志を固め、新しい出発を図ることを決断できるかは重要です。
日本の昔から言われる特徴として、限界まで頑張ることを美徳とする向きがあります。
しかし、法人経営においては、いくら頑張っても借金が膨らみ業況が改善する見込みがないと、全てがマイナスに動いてしまいます。
確かに見栄や名誉、世間の評判など気になり、法的整理に踏み出せず、ずるずると借金を重ねる、そういう気持ちも、理解できる面はあります。
しかし、一旦法的に仕切り直し、債務をゼロにして、新しい形で一から出発を図る勇気も必要ではないでしょうか。
破産管財人も中立的な立場であり人間です。
正直・誠意ある対応を行えば、破産管財人もきちんと評価してくれます。
ぜひ、破産管財人を必要以上に怖がらず、一対一の人間として向き合うようにしてみてください。