東京弁護士会所属。
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民事再生手続きは、債務者が債権者から多数の同意を得て再生計画を定め、経済生活の再生を図るための法律的な手続きのことを指します。
「民事再生法」という法律により定められているもので、個人から法人まで幅広く対応している手続きです。
一般的に、民事再生手続きは会社倒産手続きの一つとして、経営陣の人事を変更することなく破産や清算を回避し、会社の経営を立て直すために選択されます。
民事再生手続きを行うことで債務者と債権者の権利関係を調整し、会社を残しつつ債権を減らすことで、経済的な再建や事業の継続を目指せるのです。
民事再生法の再生計画には、以下の3つがあります。
再建型 | 本業により将来的に獲得することのできる収益で債務の弁済を行い、自力で再建を図るもの。 |
---|---|
スポンサー型 | スポンサーからの資金援助により債務の弁済を行うと同時に、事業の再建のための資金についても支援を受けて再建を図るもの。 |
清算型 | 営業譲渡などを行って、営業の全部または一部を受け皿となる会社に移す一方で、旧会社は事業を移管させた後に清算を行うもの。 この場合、旧会社は新会社に営業を譲渡した代金で債務の弁済を行う。 |
民事再生法に基づく民事再生手続きと、会社更生法に基づく会社更生手続きは、経営状態の悪化した会社が行う法的な手続きという点では一致しています。
しかし、この両者はその手続きの方法が全く異なります。
会社更生法に基づく会社更生手続きも、経営に行き詰った会社が再建を目指して行う倒産手続きです。
会社更生手続きは株式会社のみが利用でき、有限会社や医療法人、社団法人などの法人は利用できません。
会社更生手続きの申立てをすると、それまでの経営者は一切経営に関われなくなり、代わりに裁判所が任命した管財人が会社の再建を行います。
管財人は会社のすべての財産を管理し、処分できるものは処分し、並行して資本金の100%減資を行うなど、株主の責任を明確にします。
会社更生手続きを申し立てた場合、会社更生のすべての手続きは裁判所で管財人の管理のもと厳粛に時間をかけて行われます。
会社更生法の適用に反対の債権者がいたとしても、債権者が担保権を行使して自己の債権の代金を回収することはできません。
民事再生手続きと会社更生手続きにはどのような違いがあるのでしょうか。
項目 | 民事再生手続き | 会社更生手続き |
---|---|---|
対象 | 法人・個人ともに可能 | 株式会社のみ |
経営者の継続 | 経営者の継続が可能 | 基本的に全員退任 |
管財人の選任 | 基本的に必要なし (例外的に選任されるケースあり) | 管財人が選任され、経営権・処分権を持つ |
権利変更の対象 | 手続き開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で無担保かつ優先権のないもの(再生債権) | 手続き開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(更生債権) 担保権付の請求権(更生担保権) 株主の権利 |
担保権の扱い | 担保権は民事再生手続きが行われていても、実行可能 ただし、競売手続の中止命令および担保権消滅制度があり再生計画認可後は担保権が実行可能 | 担保権は会社更正手続き開始後・更生計画認可後は実行不可 |
株主の扱い | 維持 | はく奪 |
租税の扱い | 民事再生手続きに関係なく随時返済が必要 | 会社再生手続きに関係なく随時返済が必要 |
計画の成立 | 再生債権者の決議による再生計画案の可決 裁判所の認可 | 更生債権者、更生担保債権者、株主による更生計画案の可決 裁判所の認可 |
大きな違いとしてあげられるのが、現在の経営者が再建を行うかどうかです。
民事再生手続きは現在の経営者が引き続きその手続きを行いますが、会社更生は裁判所が任命した管財人によって行われます。
また、民事再生手続きは担保を有する債権者が担保権を行使できます。
しかし、会社更生手続きの場合は担保権者であっても債権の回収のために担保を競売にかけるなどの処分を行うことはできません。
さらに、両者には以下の違いもあります。
会社の再建という目指す方向は同じように見えても、その過程や関わる人については大きな違いがあるのです。
民事再生手続きは、すべて裁判所を通して行われ、手続きの流れは細かく定められています。
民事再生手続きをする場合は、裁判所に再生手続き開始の申立てを、保全処分の申立てとあわせて行います。
保全処分とは、申立てを行った会社が、申立て前日までに発生した債務の弁済を禁止する処分のことです。
保全処分の申立てが決定すると、申立てをした会社は債務の弁済を禁止され、同時に債権者も財産の仮差押え・仮処分ができなくなります。
民事再生手続きを行う場合、管財人は選任されないため、財産の管理や処分は現在の会社経営者が行います。
ただし、実際に会社の財産を管理・処分する際には、裁判所により選任された監督委員の監督を受けなければなりません。
監督委員は、弁護士の中から1名あるいは複数名が選任され、監督業務を行います。
実際に会社経営者が会社の財産を処分するなどの行為を行う際には、監督委員の同意を得て行いましょう。
民事再生の申立てから約2週間後、正式に民事再生手続きの開始が決定されます。
しかしすべての申立てについて民事再生手続きの開始決定が下されるとは限りません。
下記の場合には、民事再生手続きの開始決定が下されないことがあります。
民事再生手続きの開始決定が下されないケース
債権者が民事再生手続きに参加し、意思表示するために債権届出が必要です。
民事再生手続きを進める会社は、民事再生手続きの開始時点における保有財産の評定を行います。
そして、債権者から届出のあった債権(会社にとっては債務)と財産評定の結果を踏まえた財産目録・貸借対照表を作成し、財産状況を伝える報告書と一緒に裁判所に提出します。
民事再生手続きを開始した会社は、債権者から提出された債権届出の内容について、認否を行うことができます。
認否を行った後、民事再生を行う会社はその結果を認否書にまとめて裁判所に提出します。
再生計画案は民事再生を行う会社が、その債務をどのような方法で返済していくかを計画したものです。
債権者から債権届出の提出を受けた会社は、裁判所が定めた期間内に再生計画案を提出しなければなりません。
提出された再生計画案は、債権者集会で決議を受けます。
議決権を行使できる債権者のうち債権者集会に参加した債権者の過半数、かつ債権総額の1/2以上の賛成を得ることで再生計画案が可決されます。
再生計画案が可決されれば、裁判所はすぐに再生計画案を認可するという流れです。
再生計画が認可後、最初の3年間は監督委員監督のもと、再生計画を遂行します。
民事再生手続きにはさまざまな費用がかかります。
必要となる費用は、民事再生手続きそのものに必要な費用と、民事再生手続き中の会社経営に必要な費用の2種類です。
前者の費用としては、裁判所に納める予納金と弁護士費用があります。
民事再生手続きは裁判所への申立てから始まります。
しかし申立てをすれば自動的に開始されるわけではなく、申立て時に予納金を納めなければなりません。
予納金とは、民事再生手続きをする際に選任される監督委員などの費用に充てられるものです。
予納金の額は裁判所によって定められており、一律ではありません。
また、債務の総額によってその金額が変動することとされています。
たとえば、東京地方裁判所に民事再生を申し立てる場合の予納金の額は以下のように定められています。
負債総額 | 予納金基準額 |
---|---|
5,000万円未満 | 200万円 |
5,000万円以上1億円未満 | 300万円 |
1億円以上5億円未満 | 400万円 |
5億円以上10億円未満 | 500万円 |
10億円以上50億円未満 | 600万円 |
50億円以上100億円未満 | 700万円 |
100億円以上250億円未満 | 900万円 |
250億円以上500億円未満 | 1,000万円 |
500億円以上1,000億円未満 | 1,200万円 |
1,000億円以上 | 1,300万円 |
この表から分かるように、民事再生手続きをする際には最低でも200万円を予納金として裁判所に納める必要があります。
なお、予納金は申立て時に一括で納めると定められており、分割で納めることは認められません。
予納金を納めなければ民事再生手続きを開始できないため、必ず手元に資金を確保しておくようにしましょう。
民事再生手続きは弁護士の力を借りて進めるため、弁護士に支払う報酬が発生します。
弁護士に対する報酬の計算方法は必ずしも一定ではないので、計算根拠や金額はまちまちです。
一般的に「着手金」と「成功報酬」で報酬の額を計算しています。
民事再生手続きの依頼をした場合は、まず弁護士に着手金を支払います。
着手金は裁判所に対する予納金の額と同額程度が1つの目安です。
手続きの煩雑さなどから債務総額、債権者数が多くなるほど報酬は高くなります。
そして民事再生手続きが完了した段階で成功報酬を支払います。
成功報酬の計算方法もさまざまであるため、事前におおよその金額を確認しておきましょう。
民事再生手続きを進める過程で行う債権認否・債権調査や財産評定、あるいは再生計画案の策定については、弁護士とは別に会計士や税理士などの専門家に依頼します。
そのため、弁護士に対する報酬とは別に報酬が必要です。
会社の再生手続きにはいくつかの方法がありますが、多くの手続きの中で、民事再生手続きをするメリット・デメリットは何でしょうか。
民事再生手続きをするメリットとしてまず挙げられるのは、会社の事業を継続できることです。
破産手続きをすると会社の債務はなくなりますが、会社自体もなくなります。
それまでの事業を継続し従業員を雇用し続けることは不可能です。
もし破産手続き後に事業を行うのであれば、新たな会社を設立する必要がありますが、民事再生手続きの場合はその必要がありません。
また、民事再生の場合はそれまでの経営陣が会社に残ることができます。
会社の事業内容に精通した人が退任してしまうとその後の会社のかじ取りが難しくなります。
引き続き事業を行おうと考えている経営者にとっては大きなメリットです。
さらに民事再生の申立ては金融機関にも通知されます。
通知された金融機関は口座に入金された債務者の預金を相殺できなくなるため、手元資金の確保ができます。
民事再生をするデメリットは、会社の信用が大きく失墜することです。
破産手続きとは違って会社を残すことはできますが、民事再生手続きをした会社というマイナスイメージも残ります。
それまでのように取引を行い、売り上げを計上することは難しくなるでしょう。
それまでの経営陣が会社に残るメリットも説明しましたが、経営陣が残ることで債権者から再生計画への同意が得られないことも考えられます。
再生計画において再び経営危機に陥らないような方策が示されていなければ、債権者からの同意を得られない可能性が高くなります。
そのため、民事再生手続きではなく破産手続きや会社更生手続きに移行することも起こり得るのです。
さらに民事再生手続きの場合、担保付き債権を有する債権者はその担保権を行使することが可能であることも、会社にとってはデメリットとなります。
会社の財産を担保に入れている場合、その財産を差し押さえられることによってその後の再生計画が頓挫する可能性が高くなります。
債務が免除されることで、債務免除課税が発生するリスクもあります。
再生計画を立てるときにしっかり計算に入れておきましょう。
民事再生手続きは、会社・個人に関係なく、だれでも申立てが可能です。
民事再生手続きを成功させるためのポイントを確認しましょう。
民事再生手続きは、債権者の同意がないと手続きを進められません。
「債権免除の割合・返済期間や回数」を計画した再生計画案を提出する必要があります。
再生計画案は債権者がチェックして、過半数以上の賛成が得られると、採用されます。
経営者が一方的に「会社を存続したい」と主張するだけではいけません。
再生計画案をしっかり作成して、事業の黒字化・債務の返済などをアピールしましょう。
民事再生手続きには、費用がかかります。
裁判所に支払う予納金は最低でも200万円かかり、さらに弁護士への依頼費用も必要です。
また民事再生手続きを始めると、金融機関からの新規融資が受けられなくなるため、再生後の運転資金を自分で確保しなければなりません。
民事再生手続きは費用面でのハードルが高いため、資金に余裕のあるうちに手続きを進めましょう。
ここからは、民事再生手続きに関してよくある質問を紹介します。
民事再生の申立てをしても、必ずしも再生手続きが開始されるとは限りません。
民事再生手続きが開始されるのは、あくまで裁判所が立て直せると判断した場合のみです。
たとえば、再生計画案が認められない公算が大きい場合や破産手続きの方が債権者にとって有用と判断された場合は、申立てを行っていても民事再生手続きは開始されません。
民事再生をすれば、会社を立て直せる可能性はあります。
ただし、民事再生は会社の立て直しを保証するものではありません。
民事再生によって会社を立て直せるかどうかは、あくまでその会社の状況や民事再生計画の内容次第です。
また、民事再生を成功させるには、前提として煩雑な手続きや債権者との交渉を正しく行う必要があります。
成功率を上げたいのであれば、専門家へ相談することをおすすめします。
民事再生の再生計画案が可決されない場合でも、債権者集会を重ねることで可決を目指すことはできます。
次回の債権者集会までに各債権者と交渉し、可決されるような再生計画案を作成しましょう。
ただし、再生計画案が複数回にわたり否決された場合や期限内に可決された場合、民事再生手続きが廃止となります。
破産手続きに移行することとなりますので、注意しましょう。
民事再生手続きは、会社の経営状態を改善するために行われます。
債権金額を全額回収することができなくなる債権者の立場からすれば、会社再生によって得られるメリットが重要です。
もしこのメリットがなければ、より強硬に破産手続きを行うべきと主張することも考えられます。
民事再生手続きをする会社は、再生計画により経営再建後の会社の姿を債権者にきちんと説明することが大切です。
従業員の雇用を守りつつ会社の再生を果たし、再生計画が絵に描いた餅にならないよう、専門家の力も借りながら手続きを進めましょう。