最終更新日:2025/12/17
ひとり起業のアイデアの見つけ方!おすすめの始め方などを税理士が解説!

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

ひとり起業とは、組織に属さず、自分一人の裁量と責任において事業を運営する働き方です。
魅力的な働き方である一方、注意すべき点もあります。
それは、会社員時代は組織が担っていた「会計」や「税務」といった、お金に関する管理もすべて自分で行う必要があることです。
この知識が不足していると、気づかぬうちに損をしてしまったり、将来的なトラブルの原因になったりする可能性もあります。
この記事では、ひとり起業としてどのような業種で始めるかの棚卸しチェックリストから、実際のアイデアや事業の始め方、陥りがちな失敗例などを税理士が詳しく解説します。
ひとりでの起業に興味がある方は、ぜひご覧ください。
なお、この記事ではひとり起業を始める際に多くの人が選択する「個人事業主」としての起業の仕方について解説しています。
株式会社や合同会社などの「法人」の特徴や設立について知りたい方は、以下の記事をご確認ください。


目次
「ひとり起業」のメリットとデメリットとは
ひとり起業は、組織に属さず、自分一人の裁量で事業を運営する働き方です。
会社員として働くことと比較し、得られる裁量と負うべき責任が大きく異なります。
ひとり起業をするという選択が、自身にとって最適かを見極めるためには、まずその具体的なメリットとデメリットを正確に把握することが不可欠です。
メリット:すべてを自分で素早く決められる
ひとり起業の最大のメリットは、意思決定の「裁量」と「スピード」です。
会社組織では、安価な業務ツールを新しく導入するだけでも、上司への提案、稟議書の作成、関連部署の承認といったプロセスが必要になり、実行までに数日、場合によっては数週間を要することもあります。
一方、ひとり起業であれば、そのツールが必要だと判断した瞬間に契約・導入を完了できます。
市場のニーズ変化や競合の動きに対し、即座に対応策を実行できるため、事業機会を逃しません。
また、サービス価格の決定、取引先の選定、広告宣伝費の配分といった経営判断のすべてを自分一人で決定できます。
事業から得られた利益の100%が自身に還元されるため、成果が直接報酬に結びつく点も大きな魅力です。
デメリット:判断ミスがが自分の責任になる
メリットである裁量の大きさは、そのまま「全責任を自分で負う」というデメリットにもつながります。
会社員であれば、万が一業務でミスをしても、最終的には組織がカバーしてくれます。
しかし、ひとり起業では、その判断ミスが直接的に事業の損失、ひいては自身の生活に影響します。
価格設定や法務、税務などに関するすべての判断を自分で行い、その結果のすべてを引き受ける覚悟が求められます。
最適なひとり起業のための棚卸しチェックリスト
ひとり起業をする際には、具体的な起業アイデアを探し始める前に、まず自身の現状を正確に把握する必要があります。
この棚卸し作業が、事業の成功確率を高める土台となります。
以下の3つのチェックを行い、「やりたいこと」だけでなく「できること」「許容すること」という制約条件を明確にしましょう。
- 事業に使える時間
- 準備できる初期費用
- 希望する働き方
これらの条件を明白にしておくことで、自分が始めるひとり起業のアイデアを選別しやすくなります。
チェック1:事業に使える時間(副業と本業のどちらで始めるか)
事業に投下できる時間は、選択すべきビジネスモデルを左右する最初の分岐点です。
会社員や主婦(夫)の方が起業する場合、副業として小さく始めるか、本業として最初から集中するかを決める必要があります。
副業で始める場合、最も注意すべきは本業の就業規則です。
競業避止義務(本業と競合する事業の禁止)や、副業許可の有無を必ず確認してください。
また、本業として独立する場合、事業が軌道に乗るまでの収入が落ち込む期間を乗り切る「生活防衛資金」が不可欠です。
一般的に、生活費の最低6カ月分、できれば1年分を準備することが推奨されます。
チェック2:準備できる初期費用(少額か20万円以上か)
初期費用は、事業の選択肢に直結します。
たとえば、Webライターやオンラインアシスタントであれば、すでに所有しているPCとインターネット環境を使用すれば、初期費用はほぼ0円で開始できます。
一方で、ECサイトで物販を始めるなら、商品の仕入れ費用やサイト構築費用(プラットフォーム利用料など)で最低でも10万円以上は必要になるでしょう。
動画編集を始めるなら、高性能なPCや編集ソフトの購入費用として20万円から30万円程度が必要になることもあります。
資金が少ないからといって起業できないわけではなく、資金量によって「選ぶべきビジネスモデルが変わる」と理解することが重要です。
チェック3:希望する働き方(在宅か対面・出張ありか)
事業を行う「場所」の制約も、アイデアを絞り込む重要な要素です。
たとえば、育児や介護と両立するために「在宅・オンライン完結」を必須条件とする場合、Webライター、デザイナー、オンラインアシスタントなどが候補になります。
一方で、「対面・出張あり」の仕事が許容できるのであれば、出張カメラマン、コンサルティング、小規模な専門サロンなど、より高単価を狙いやすい業種も選択肢に入ってきます。
逆に、安く利用できるスペースや所有している不動産などがある場合は、その場所を利用することを前提として事業を考えるといった手法も取れるでしょう。
チェック4:活かせる強み・スキル(専門的なスキルがあるか)
自身のこれまでの経験や専門スキルは、ひとり起業における強力な資本です。
営業や経理、マーケティングなどの過去の職務経歴や、プログラミングやデザイン、語学などの専門スキルを棚卸ししてみましょう。
なんらかのスキルがある場合、Webデザイナーや専門コンサルタントなど、それを直接サービスとして提供する「スキル集約型」のビジネスが可能です。
これは初期費用を抑えつつ、高単価を実現しやすいメリットがあります。
もし現時点で明確なスキルがない場合でも、心配する必要はありません。
その場合は、まず小規模な物販やデータ入力、作業代行などのスキル習得が不要な事業から始め、運営しながら必要なスキルを学んでいくというアプローチも有効です。
ひとり起業アイデアカタログ10選
ここからは、具体的な10の起業アイデアを紹介します。
棚卸しチェックリストで判明した自分の現状をもとに、どのようなアイデアが自分に最適かを考えてみましょう。
ひとり起業で人気のアイデアは、主に以下のようなものがあります。
- Webライター
- 短尺動画編集
- LP制作
- 資料作成代行
- SNS運用アシスタント
- リサーチ代行
- 経理・記帳代行
- ハンドメイド物販
- 無在庫EC
- 出張カメラマン
棚卸しチェックリストで判明した自分の現状をもとに、どのようなアイデアが自分に最適かを考えてみましょう。
タイプ1:専門スキル・制作系サービス
自身の専門スキルやクリエイティブ能力を「制作物」として納品するビジネスモデルです。
パソコン1台で完結しやすく、始めやすい点が特徴です。
| アイデア名 | 必要なスキル・ツール | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 1.Webライター | PC、文章力、リサーチ力 | 非常に始めやすいが、そのぶん最初は単価が安くなりがち。 専門性を高めて高単価案件に関われると安定性が増す。 |
| 2.短尺動画編集 | 高性能PC、編集ソフト、構成力 | SNSのトレンドを追い続けなければいけない。 BGM、フォント、映像素材などのライセンス費用が発生する。 |
| 3.LP制作 | PC、デザインソフト、コーディングスキルまたはノーコードツール | デザインソフトやサーバー代など、月額・年額の「サブスクリプション型」の経費が多い業種。これらは「支払手数料」や「通信費」として経費計上できる。 |
タイプ2:アシスタント・代行系サービス
企業や個人のノンコア業務(本来の業務ではないが必要な作業)を代行するビジネスモデルです。
専門性が高いほど高単価を狙え、月額契約など継続的な収益に繋がりやすいのが強みです。
| アイデア名 | 必要なスキル・ツール | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 4.資料作成代行 | PC、Officeソフト、構成力、デザイン力 | クライアントの内部情報をあつかうため、情報セキュリティのリスクが非常に高い。 PCのセキュリティ対策費やデータ破棄費用、損害賠償責任保険料などの支払いも必要経費となりがち。 |
| 5.SNS運用アシスタント | スマートフォン、PC、各種SNSの運用知識、分析ツール | 不適切な内容の投稿による「炎上」のリスク管理は必須。 場合によっては多額の損害賠償責任を問われる可能性もあるため、フリーランス向け賠償責任保険などへの加入も要検討。 |
| 6.リサーチ代行 | PC、リサーチ力、情報収集・分析能力 | 経費の「事業関連性」を厳しく問われやすい。 リサーチのための書籍、有料データベース、セミナー代などは経費だが、プライベートの学習との境界が曖昧になりがち。 |
| 7.経理・記帳代行 | PC、会計ソフトの知識、簿記資格(必須ではないが信頼度が上がる) | 「税務相談」や「確定申告書の作成代行」は税理士の独占業務。 無資格者が行うと税理士法違反で罰せられるため注意。 |
タイプ3:物販・対面型サービス
「モノ」を扱うか、物理的な「場所」でサービスを提供するビジネスモデルです。ほかのケースに比べ、原価や場所代が発生しますが、顧客との接点を持ちやすい点が特徴です。
| アイデア名 | 必要なスキル・ツール | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 8.ハンドメイド物販 | 材料、工具、販売プラットフォーム | 期末時点で売れ残った在庫は、その年の経費(売上原価)にはならない。 正確な利益を計算するため、期末の在庫を1点ずつ数え、金額を確定させる「棚卸」の作業が必須。 |
| 9.無在庫EC | PC、ECプラットフォーム、マーケティング知識 | 顧客への販売価格が「売上」、卸元への支払価格が「売上原価(仕入)」となり、差額が利益となる。 利益計算を混同しないよう注意が必要。 |
| 10.出張カメラマン | カメラ、レンズ、編集ソフト、ポートフォリオ | 交通費と減価償却費の管理が必要になりがち。 移動が多い場合、交通費(ガソリン代、新幹線代、宿泊費)をプライベートの旅行と明確に区分し、記録を残す必要がある。 |
ひとりで事業を軌道に乗せるための流れ
自身の棚卸しが完了し、事業アイデアが固まったら、次はいよいよ実行に移す段階です。
勢いだけで見切り発車するのではなく、必要な計画と手続きを着実に進めることが、事業を早期に安定させる鍵となります。
ひとり起業の流れは、大きく分けて以下の4ステップです。
- 事業の計画を立てる
- 開業手続きを行う
- 集客チャネルの構築とMVP(最小プロダクト)のテスト
- 「ひとりの限界」を超える外注化の検討
ステップ1:事業の計画を立てる
ひとり起業を成功させるためには、具体的な事業計画の策定が不可欠です。
計画がないまま事業を始めると、資金がいつ底をつくか、どれだけ売上があれば赤字を脱出できるかが把握できず、行き当たりばったりな経営になってしまいます。
まずは「資金計画」と「収益計画」の2点を明確にします。
資金計画とは、事業開始に必要な初期費用と、事業が軌道に乗るまでの運転資金を見積もることです。
特に運転資金は重要で、売上が安定的に入金されるまでの数カ月間、事業経費と自身の生活費(最低でも6カ月分が目安)を賄える額を準備する必要があります。
収益計画では、まず最低限必要な売上ラインである「損益分岐点」を計算します。
損益分岐点の計算式は以下のとおりです。
- 損益分岐点=固定費÷(1-(変動費÷売上高))
このラインを超えることで、初めて事業に利益が残るようになります。
よりクオリティの高い計画を立てたい場合は、「創業計画書」を作成しましょう。
これは日本政策金融公庫がテンプレートを公開しており、同機関の創業融資を受ける際にも提出が必要になる書類です。
創業計画書の詳しい書き方などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
ステップ2:開業手続きを行う
事業計画がまとまったら、税務署に対して法的に事業を開始したことを届け出るため「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。
この書類は通称「開業届」とも呼ばれます。
開業届は、納税地を所轄する税務署へ、事業開始の事実があった日から1カ月以内に提出することが定められています。
(開業等の届出)
第二百二十九条 居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。
しかし実務上は、開業届は出さなくても特に罰則などはありません。
そのため、ある程度事業が軌道に乗ってから提出するケースも多いですが、この場合には「青色申告承認申請書」の提出期限に気をつけなければいけません。
青色申告は複式簿記という手法で記帳を行うことで、原則55万円、最大で65万円までの特別控除を受けられるなど、さまざまなメリットのある記帳方式です。
しかしその青色申告を始めるための申告書は、開業届を提出したうえで「事業開始の日から2カ月以内」に提出する必要があります。
これを逃してしまうと、初年度に青色申告のメリットを受けることができなくなってしまいます。
赤字の3年繰越しなど、起業時にぜひ活用したいメリットも利用できなくなるので、事業を継続的に行うと決めた時点で、開業届と青色申告承認申請書は同時に提出することをおすすめします。
ステップ3:集客チャネルの構築とMVP(最小プロダクト)のテスト
ステップ2で税務上の手続きを完了させたら、いよいよ「売上」を作る段階に移ります。
どれほど優れたサービスや商品も、顧客に認知されなければ事業は成立しません。
この段階で重要なのは、最初から完璧なサービスを目指さないことです。
まずは、顧客に最低限の価値を提供できる「MVP(Minimum Viable Product)」と呼ばれる試作品・試用サービスを準備します。
たとえば、Webデザイナーであれば、全10ページのWebサイト一式をいきなり受注するのではなく、まずはトップページのデザイン案のみを低価格で提供してみましょう。
MVPを市場に提示し、その反応を見てサービス内容を改善・調整していくことが、ひとり起業で失敗するリスクを最小限に抑える現実的なアプローチです。
こうしたMVPを作成したら、集客を行うためのチャネル(媒体・流入経路)も作成しましょう。
主に以下のような集客チャネルが有効です。
| 集客チャネルの例 | 特徴 |
|---|---|
| SNS | 自身の専門性や人柄を伝えやすい。ファンの獲得にもつながるが、成果が出るまで時間がかかる。 |
| Webサイト・ブログ | 検索エンジン経由で、能動的に情報を探している質の高い見込み客を集められる。 資産性が高いが、構築と成果発生に時間がかかる。 |
| プラットフォーム | すでに集客力のある場所に出店できるため、早期の売上が見込める。 ただし手数料(売上の10%〜20%など)が発生する。 |
| リスティングなどの広告 | 即効性が高い。 費用をかければ短期間で見込み客にリーチできるが、継続的なコストが発生し、運用ノウハウも必要。 |
プラットフォームや広告など、費用が発生するチャネルを利用する場合は、その支払いに対してどれだけの売上や問い合わせがあったかを測定しておきましょう。
費用対効果を数値で管理する意識が、事業を成長させるうえでは不可欠です。
ステップ4:「ひとりの限界」を超える外注化の検討
事業が軌道に乗り、売上が安定してくると、ひとり起業家は必ず「時間の限界」という壁に直面します。
自身の労働時間が売上の上限となり、それ以上事業が成長しなくなるのです。
この壁を超えるためには、売上に直結しない経理記帳や請求書発行などのノンコア業務を手放す「外注化」の検討が必要です。
外注化を検討する際には、自身の時間単価(時給)を意識することが重要です。
仮に自身の時間単価が2,000円だとします。
このとき、月5時間を要する記帳業務を、月額1万円で外注できるとします。
この1万円はコストになりますが、外注によって生まれた5時間を自身の業務に費やした場合、2,000円×5時間で1万円の売上が発生します。
結果として、支払ったコストと、それによって生まれた売上が釣り合い、金銭面での損失が抑えられます。
業務実績や経験を積めるという点も踏まえれば、自分しかできない業務にリソースを集中させることには大きな意味があります。
ノンコア業務の外注は単なるコストではなく、未来の売上を生み出すための「投資」です。
ひとりのリソースを最大限に活用するために、この視点は常に持ち続けておきましょう。
ひとり起業で陥りがちな失敗5選と具体的な対策
ひとり起業は「裁量」と「責任」が表裏一体です。
会社員時代には組織が守ってくれた領域も、すべて自身で管理する必要があります。
そのため、セルフマネジメントやリスク管理をうまく行わないと、業務にさまざまな悪影響が生じます。
ひとり起業によく見られる失敗例は、以下の5つです。
- 業務過多で品質が低下する
- 法務・税務の判断で致命的なミスをする
- モチベーション低下で作業が止まる
- 会計・税務を後回しにしてしまう
- 単価設定が安すぎて「忙しいのに赤字」になる
それぞれの失敗例の詳しい内容と、対策方法について解説します。
失敗1:業務過多で品質が低下する
ひとり起業が軌道に乗り始めたころに、最も陥りやすい失敗です。
会社員時代は営業や実務などの業務が分業されていましたが、ひとり起業ではこれらすべてを自分自身でこなす必要があります。
売上が増加し、クライアントワークに追われるようになると、請求書発行や経理作業が後回しになりがちです。
さらに、新規の受注を断れずに受け続けてしまうと、自身の稼働時間という物理的な上限を超え、結果として既存クライアントへの納期遅れや、納品物のミス多発といった「品質低下」を招くこともあります。
対策は「自身の限界を数値化すること」と「業務を手放す勇気を持つこと」です。
まず、自身が1カ月に事業へ投下できる総時間を正確に把握します。
そのうえで、1つの案件の完了にかかる平均時間を算出し、「自分の受注上限は月◯件まで」といった物理的な限界ラインを定めます。
さらに、売上に直結しない経理記帳や請求書発行などのノンコア業務は、早期に外注化を検討しましょう。
失敗2:法務・税務の判断で致命的なミスをする
専門知識がないまま「自己判断」してしまうことで、取り返しのつかない金銭的損失を被る失敗です。
法務面では、契約書を交わさずに口約束で高額な案件を受注し、納品後に報酬が支払われなかったり、無償での無制限な修正を要求されるといったトラブルがよくあります。
税務面では、以下のようなミスが起こり得ます。
| 税務上のミス | 発生する損失 |
|---|---|
| 青色申告承認申請書の未提出 | 特別控除や赤字の繰越しなどが受けられなくなる。 |
| 経費範囲の自己判断 | 経費計上した内容を税務署から否認されてしまう。 本来の税額に加え、過少申告加算税や延滞税が課されるリスクもある。 |
| インボイス登録の判断ミス | BtoBでの取引で、クライアントが仕入税額控除できないことを嫌がり、取引を打ち切られる。 |
対策は「知らない領域で自己判断しないこと」です。
法務面では、弁護士などが監修した業務委託契約書の雛形を必ず用意し、取引前に締結・保管します。
税務面では、会計ソフトを導入し、日々の記帳ルールを確立します。
そして最も重要なのは、判断に迷う支出があった場合や、売上が急拡大したタイミングで、必ず税理士などの専門家に「スポット相談」などで確認をすることです。
税務調査は、過去2〜3年分をまとめて調査されることが一般的です。
初年度の小さな経費判断のミスが3年間蓄積し、税務調査で唐突に高額な追徴課税を言い渡され、キャッシュフローが一気に悪化するケースも珍しくありません。
専門家への相談費用は、こうした将来の致命的な損失を防ぐための「保険料」とも言えます。
失敗3:モチベーション低下で作業が止まる
ひとり起業は、上司や同僚がいない「孤独」との戦いでもあります。
会社員時代は、周囲の目や決まった始業時間があるため、半ば強制的に業務がスタートしていました。
しかし、ひとりで事業を行う場合、すべての管理を自分で行う必要があります。
特に在宅ワークでは、プライベートと仕事の境界が曖昧になり、集中力が途切れがちです。
この「中だるみ」が続くと、徐々に作業自体が止まり、売上もゼロになるという最悪の循環に陥る可能性もあります。
こうしたモチベーションの低下を防ぐためには、自分のやる気に頼るのではなく、業務に取り組むしくみを構築することが重要です。
効果的な対策は、物理的に「働く場所」を確保することです。
自宅や喫茶店などでなく、コワーキングスペースを契約すれば、その費用を回収しようという意識が働き、強制的に作業環境に身を置くことができます。
また、オンラインコミュニティや地域の商工会議所などに参加し、外部との接点を持つことも有効です。
他者の進捗を聞くことが、いい意味でのプレッシャーとなり、自身のモチベーション維持につながります。
失敗4:会計・税務を後回しにしてしまう
これは、ひとり起業家が陥りやすく、かつ金銭的損失の大きい失敗です。
売上を上げる「コア業務」はやる気が出やすく、緊急性も高いため優先されます。
一方、会計ソフトへの入力や領収書の整理といった「会計・税務」は、ついつい後回しにされがちです。
そうした後回しを続けていると、確定申告の期限直前になって、1年分の領収書の山と格闘することになります。
この「駆け込み処理」は、経費の計上漏れや計算ミスにもつながります。
また、このように会計を軽視していると、「今、どれだけ儲かっているか」「このままだと来年3月にいくら税金を払うのか」を正確に把握できません。
その結果、申告時期に想定よりも高額な納税が必要と判明し、慌てて資金を用意しなくてはならなくなる危険性もあります。
会計作業は日々のルーティンに取り込み、会計ソフトなどを活用してできるだけ効率化させましょう。
必要に応じて会計代行の外注や、税理士との契約も検討してみてください。
失敗5:単価設定が安すぎて「忙しいのに赤字」になる
起業初期は「まずは実績が欲しい」と言う意識から、自身のスキルを安売りしてしまう傾向があります。
クラウドソーシングサイトなどで、相場より著しく低い単価の仕事ばかりを受注してしまうケースです。
その結果、スケジュールは埋まり、毎日忙しく働いているにもかかわらず、月末に計算すると利益がほとんど残らない、いわゆる「ワーキングプア」の状態に陥ります。
これは、自身の「時間単価(時給)」と「経費」を計算せずに価格設定していることが原因です。
たとえば、月150時間働いて売上が20万円あったとしても、そこからソフト代や通信費、仕入費などの経費が5万円引かれれば、手取りは15万円になります。
この場合の時給換算は1,000円となり、最低賃金を下回る可能性すらあります。
実績が乏しいうちは、こうした状況に陥ることも少なくありません。しかしある程度の実績を積んだ段階で、より大きな利益を得るために数字の見直しを図る必要があります。
自身の月の総固定費と、仕事に費やせる最大稼働時間を明確にし、そこから最低限必要になる時給を計算しましょう。
固定費の中には国民健康保険料や家賃、光熱費なども忘れずに組み込んでください。
ひとりで起業するときに活用できる相談先
ひとりで事業を行ううえで、判断に迷う場面は必ず訪れます。
特に起業初期は「これは経費になるか」「この契約書で問題ないか」といった不安が尽きません。
判断ミスを防ぎ、事業を安定させるためにも、外部の相談先を把握しておくことは非常に重要です。
相談先は、その目的別に公的な窓口と民間の専門家に大別されます。
まずは、無料または安価に利用できる公的な窓口を活用することから始めましょう。
事業全般に関する広範なアドバイスや、地域の経営者とのネットワーク構築を目的とする場合は、地域の「商工会議所」や「商工会」が窓口となります。
また、国が設置する無料の経営相談所である「よろず支援拠点」も、創業初期のあらゆる悩みに対応しています。
参考:日本商工会議所|日本商工会議所
参考:よろず支援拠点全国本部|独立行政法人中小企業基盤整備機構
より専門的かつ個別の実務にかかわる内容の相談は、それぞれの専門家への依頼を検討してみましょう。
主な専門家とその役割分担は以下のとおりです。
| 専門家の種類 | 主な相談・依頼内容 |
|---|---|
| 税理士 | 税務相談、確定申告書の作成代行、記帳代行、節税対策、インボイス登録判断、融資の紹介や審査対策など |
| 弁護士 | 契約書の作成・リーガルチェック、取引先とのトラブル、知的財産権の確認など |
| 行政書士 | 許認可の申請代行、法人設立の定款作成など |
これらの専門家は、それぞれ独占業務(その資格者しか行えない業務)が法律で定められています。たとえば、税理士以外が有償で「確定申告の代行」を行うことは税理士法違反となります。
ひとり起業家にとって、最初に関わる専門家は「税理士」となるケースが一般的です。
なぜなら、許認可や法務トラブルとは異なり、確定申告などの税金に関係する作業は事業を行う限り100%発生するためです。
まずは会計・税務の基盤を税理士に相談し、そのうえで許認可や契約書の不安があれば、必要に応じてほかの専門家を紹介してもらう、という流れが最も効率的かつ安全な起業の進め方と言えます。
起業に関して相談する先をもっと知りたいという場合は、以下の記事でより詳しく解説しています。
ひとり起業について悩んだら税理士に相談しよう
この記事では、ひとり起業のアイデア選定から事業を軌道に乗せる流れ、そして陥りがちな失敗までを解説してきました。
ひとり起業は自由度が高い反面、事業に関わるあらゆる業務に対し、起業家自身が責任を持って臨まなければいけません。
開業当初はひたすら自分の仕事に熱中していればよかったものの、業務が拡大していくにつれて記帳や確定申告の手間が増えたり、税金の支払いがキャッシュフローを圧迫するといった悩みが出てきます。
ひとり起業家の最も貴重なリソースは「時間」です。
その貴重な時間を、慣れない会計作業や税務に費やすのではなく、売上を生み出す「コア業務」に集中させるためにも、一度税理士への相談を検討してみてください。
ベンチャーサポート税理士法人では、個人事業主の方へ向けた税務相談や、確定申告のサポートを行っております。
税理士だけでなく行政書士や司法書士、社労士も在籍しているため、さまざまな内容の案件にもワンストップで対応が可能です。
事業をより発展させるための「会社設立」や、創業計画書の作り方、融資を受けるためのサポートなども行っています。
レスポンスの速さにも定評があるため、初めての方もお気軽にご相談ください。


















