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最終更新日:2026/8/12

遺言無効確認訴訟に時効はないが相続税期限に注意。勝てるコツや費用・期間は

川﨑 公司 (弁護士)
この記事の執筆者弁護士 川﨑公司

VSG弁護士法人(https://sozoku-lawyer.com/office/)所属弁護士。新潟県出身。

相続問題は複雑なケースが多く、状況を慎重にお聞きし、相続人様のご要望の実現、相続人様に合ったよりよい解決法をアドバイスさせていただくようにしています。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/

記事の要約

  • 遺言無効確認訴訟に時効はないが、相続税の申告期限(10カ月)と遺留分侵害額請求の行使期限(1年)は進行する
  • 自筆証書遺言は無効になりやすい一方、法律の専門家が作成する公正証書遺言は無効になりにくい
  • 訴訟は数年がかりになることが多いため、未分割のままの相続税の申告と、負けたときの備えをあらかじめ計画しておくこと

亡くなった親の遺言書を読み、「本当に本人の意思だったのだろうか?」と疑問を持つケースは少なくありません。

認知症が進んでいたはずの時期に書かれていたり、生前に聞いていた話とまったく違う内容だったりするとなおさらでしょう。

「遺言無効確認訴訟」は、このような不審な遺言書の法的効力を争うための手続きです。

遺言無効確認訴訟の提起自体には、期限はありません

ただし、相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10カ月以内」と決められており、訴訟期間中も止まることはありません

この記事では、遺言が無効になるケース、勝率を判断するポイント、必要な費用と期間、訴訟を起こしている間の相続税の扱いまでお伝えします。

なお、私たちVSG相続税理士法人は、提携するVSG弁護士法人とともに、訴訟への対応と相続税の申告を一体で進めています。

相続に関するご不安や疑問があれば、お気軽にご連絡ください。

目次

遺言無効確認訴訟とは?遺言書を「なかったこと」にする裁判

遺言無効確認訴訟とは、対象となる遺言書が法律上無効であることを裁判所に確認してもらうための訴訟です。

あくまで「遺言に法的効力があるかどうか」を裁判所に判断してもらう手続きであり、遺言の内容が不公平かどうかを判断するものではありません。

遺言が無効になると、遺産分割協議のやり直しになることもある

判決によって遺言の無効が確定すると、その遺言は「はじめから効力がなかったもの」として扱われます

無効となった遺言の内容については、ほかに有効な遺言がなければ遺産分割の対象となります。

遺言が無効になったことで、既に終わった協議が白紙となる場合は、相続人全員による遺産分割協議をあらためて行うことになります

ただし、判決は「遺言が無効である」という当事者間の権利関係の確認にとどまるため、勝訴すれば直ちに財産が手元に戻るわけではありません

すでに不動産の名義が変わっていたり、預金が払い戻されていたりする場合は、名義抹消・回復手続きや、お金を返してもらうための手続きを、別途進める必要があります。

なお、遺言の有効性を確認する「遺言有効確認訴訟」もありますが、ほかの方法で解決できることが多く、実際に提起されることはめったにありません。

遺言無効訴訟の提起に時効(出訴期限)はない

遺言無効確認訴訟は、提起に関する期限(消滅時効や除斥期間) が定められていません

したがって、遺言者が亡くなってから何年経っていても、理論上は訴訟を起こすことができます。

しかし、「期限がない」という事実のみで訴訟提起を先送りすると、ほかの手続きに間に合わない可能性があります

遺言無効確認訴訟にかかわる「3つの期限」

遺言無効訴訟に期限がなくても、以下の手続きには期限があります。

遺言無効確認訴訟にかかわる「3つの期限」

手続き 期限 期限が過ぎた場合の影響
相続税の申告・納税期限 10カ月 無申告加算税や延滞税がかかる
遺留分侵害額請求の消滅時効 1年 遺言無効訴訟で敗訴した場合の、財産確保を行う手段を失うことになる
一部の看護記録・検査記録などの保存期間 2年 遺言能力を証明するための証拠が廃棄されることがある

遺言無効確認訴訟は、第一審の判決までに約1年から2年、控訴審や上告審まで進んだ場合は数年を要することも珍しくありません。

すなわち、訴訟の最中に、3つの重要な期限が到来することになります。

したがって、相続発生後の数カ月間における対応が、訴訟における勝敗だけではなく、最終的に相続できる金額にも影響します

遺言の効力が否定される主なケース(無効・取消し)

遺言が無効となるのは、民法が定めた特定のケースに当てはまる場合に限られます。

法的効力が争われるケース
効力が否定されるケース どのような状態か
遺言能力の欠如 認知症等の精神上の障害により、自らの遺言行為の結果を弁識・理解する能力を欠いていた状態。
方式違背 自筆証書遺言の本文がパソコンで作成されている、日付が特定できない、押印がない等、法的様式を欠く状態。
証人の欠格 公正証書遺言の作成に際し、受遺者や推定相続人等、法律上証人となれない者が立ち会っていた状態。
共同遺言 夫婦が同一の書面を用いて連名で遺言を作成したなどの状態。
錯誤・詐欺・強迫による取消し 内容について重大な勘違いがあった場合や、だまされたり強迫されたりして遺言をした場合。
公序良俗違反 不倫関係の維持を直接の目的とする遺贈など、社会秩序に反する内容である状態。

実際の裁判で、もっとも多く争われているのは「遺言能力の欠如」です。

遺言無効確認訴訟における勝率の判断基準

遺言無効確認訴訟を起こすうえでもっとも大切な検討事項は、「勝てる見込みがあるかどうか」です。

勝訴の見込みは、「遺言書の種類」と、「客観的証拠」の2つから判断します。

自筆証書遺言と公正証書遺言では、「立証のハードルの高さ」が異なる

自筆証書遺言公正証書遺言では、「無効を立証するための難易度」が大きく異なります。

一般的に、自筆証書遺言は無効になりやすい傾向にあります。

一方、公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が遺言者から内容をヒアリングしたうえで、2人の証人立ち会いのもとで作成されます。

本人の遺言能力を第三者が確認した事実が残ることから、公正証書遺言が無効とされたケースは限定的です。

公正証書遺言の有効性を争う場合は、遺言作成時に本人が遺言能力を欠いていたことや、証人が不適格であったことなど、事実関係を具体的に立証する必要があります

遺言能力の有無を争うときに、裁判所が重視するポイント

遺言能力の有無を争うときは、遺言作成当時における、遺言者の精神・身体状態を示す客観的資料を集めることが大切です。

証拠の種類 収集先・入手方法
診療録(カルテ)、主治医の意見書 医療機関への開示請求
要介護認定調査票・主治医意見書 関係市区町村への行政情報開示請求
認知症機能検査結果(長谷川式、MMSE等) 医療機関への開示請求
看護記録・介護サービス実施記録 医療機関や訪問看護・介護事業者への開示請求
生前の会話録音、日記、手紙 遺族・関係者の手元に保管されている私的資料の確認・精査

なお、裁判所は、単なる医学的数値だけではなく「遺言内容がどれくらい複雑か」「生前の発言や人間関係と矛盾していないか」「遺言作成時にどのような状況だったか」などを総合的に判断します

軽度の認知症や要介護の認定を受けていた場合であっても、遺言内容が単純かつ合理的なものであれば、有効と判断されたケースもあります。

証拠の保管期限に注意

客観的証拠の多くには、保存義務期間があります

たとえば、診療録(カルテ)の保存期間は、診療が終わった日から5年です(医師法第24条など)。
一方、看護記録や検査所見の記録などは、過去2年分の保存でよいとされています(医療法施行規則等)。

対応が遅れた場合、勝訴に必要な証拠が廃棄されるおそれが高まります。

遺言内容に疑問を持った時点で、速やかに開示請求を進めましょう。

訴訟をするか遺留分侵害額請求をするか

遺言無効確認訴訟を検討する際、並行して比較したい手続きが「遺留分侵害額請求」です。

遺言無効確認訴訟と遺留分侵害額請求の違い

遺留分侵害額請求で「最低限の取り分」を受け取れる

遺留分とは、故人の配偶者や子どもといった一定の法定相続人に法律で保障されている、「最低限の遺産取得割合」です。

遺言の内容が遺留分を侵害している場合、財産を多く受け取った人に対して遺留分相当額の金銭を請求できます遺留分侵害額請求)。

遺言の有効性を争うことがなく、訴訟をするより期間も費用も抑えられます。

遺留分侵害額請求で受け取れる金額には上限がある

遺留分侵害額請求で受け取れる金額には上限があります。

遺産総額:1億円、相続人:子ども2人、遺言書に「全財産を長男に相続させる」と記載されていたケース

遺留分の計算式は、「遺留分 = 遺産総額 ×(法定相続分 × 2分の1)」です。

子ども2人の法定相続分は各2分の1であるため、次男の遺留分は「1億円 ×(2分の1 × 2分の1)=4分の1」となり、請求可能額は2,500万円となります

一方、遺言無効確認訴訟で勝訴した場合、ほかに有効な遺言がなく、特別受益・寄与分・債務などを考慮せず、法定相続分で分割する前提であれば、次男の取得額の目安は5,000万円となります

取得可能額の差額と、訴訟提起に伴う立証・費用・期間が、選択の判断基準と言えます。

【注意】兄弟姉妹には遺留分がない

被相続人の兄弟姉妹や、兄弟姉妹の代わりに相続人となる甥や姪には遺留分がありません

たとえば、子どものいない兄が亡くなり、相続人が弟のみだが、遺言で全財産を第三者に遺贈していたとします。

この場合、弟は法定相続人でありながら、遺留分を請求できません。

遺言無効確認訴訟と遺留分侵害額請求、どちらを選ぶ?

選び方の目安
状況 想定される手続き
明確な認知症の記録など、遺言能力を疑わせる医療データがある 遺言無効確認訴訟
遺言の様式不備(本人以外が書いた自筆証書遺言など)が明らかである 遺言無効確認訴訟
故人の兄弟姉妹・甥・姪であり遺留分がない 遺言無効確認訴訟(遺言の無効事由がある場合)
客観的証拠が乏しく、遺言の効力を無効化できる見込みが薄い 遺留分侵害額請求
争いを早く終わらせて、現金確保を優先したい 遺留分侵害額請求

訴訟を起こしても、証拠がそろっていなければ敗訴になりかねません

一方で、明確な証拠や遺言書に不備があれば、訴訟を検討する価値はあります

兄弟姉妹など遺留分のない相続人は、遺言の無効事由を裏付ける証拠がある場合には、遺言無効確認訴訟を検討することになります。

また、相続人ではない第三者にすべての財産が渡っているが、遺留分だけでは取り戻せる金額が限られるケースの場合は、訴訟以外に選択肢がないこともあります。

遺言無効確認訴訟の手続きの流れと期間

遺言無効確認訴訟は、以下の流れで進みます。

遺言無効確認訴訟の手続きの流れ

遺言無効確認訴訟の流れと期間
ステップ すること 期間の目安
証拠を集める 医療機関や介護事業者に記録の開示を請求する 1カ月から3カ月
当事者間で話し合う 相続人や受遺者と交渉する 数カ月
家庭裁判所に調停を申し立てる 話し合いでまとまらなければ調停に進む 3カ月から半年
地方裁判所に訴訟を起こす 訴状を提出する。誰を被告にするかを決める(書面またはオンラインで申立てる)
審理と判決 書面のやりとり、証人尋問、医療記録の取り寄せ、筆跡の鑑定 1年から2年
控訴・上告 判決に納得できない場合に争う 控訴審で半年から1年
勝訴後の遺産分割 相続人全員で協議し、まとまらなければ調停・審判 1年から2年

証拠集めから解決までには、数年かかることが多いです。

その後の遺産分割まで含めると、総じて3年以上の歳月を要することは十分に起こりえます。

遺言無効確認訴訟にかかる費用

ここからは、訴訟にかかる費用についてお伝えします。

(1)裁判所に納める費用(ペイジーによる電子納付)

訴訟を起こすときは、訴額に応じた手数料を裁判所へ納めます。

従来は収入印紙の貼付による納付でしたが、令和8年(2026年)5月21日より、民事訴訟の申立手数料は、原則としてペイジー(Pay-easy)による電子納付に変わっています

また、従来必要だった「書類を送るための郵便切手代(5,000円から6,000円程度)」も、申立手数料に一本化されたため、納付の必要がなくなりました。

遺言無効確認訴訟の訴額は、「遺言が無効になることで原告が得られる利益の額」を基準に算出されます。

また、申立て方法によって金額が変わります。

訴額 項目2 項目3
基礎控除以下 書面提出による申立て オンライン提出による申立て
1,000万円 52,500円 51,400円
3,000万円 112,500円 111,400円
5,000万円 172,500円 171,400円
1億円 322,500円 321,400円
実際の訴額計算方法は遺言の種別(遺贈か指定分割か)や被告の人数、裁判所の運用によって異なります。事前に訴訟代理人または管轄裁判所への確認が必要です。

なお、一定の段階で和解や訴えの取下げがあった場合、申立てにより手数料の一部が還付されることがあります。

還付を受けられる時期や金額の計算方法が細かく定められていますので、該当しそうな場合は裁判所に確認しましょう。

(2)弁護士費用(着手金と成功報酬)

弁護士に訴訟提起の依頼をした場合、一般的には依頼したときに支払う「着手金」と、解決したときに支払う「成功報酬」の2つの費用がかかります。

着手金
対象となる遺産額(あるいは主張する経済的利益)の規模に応じて計算する事務所が多いです。
報酬金
遺言の無効が認められた結果の、増えた取り分(経済的利益)を基準にするかたちが一般的です。

法律事務所によって、弁護士費用は異なります

依頼をする際は、複数の事務所から見積もりを取り、費用の内訳を書面で確認することが大切です。

訴訟中でも相続税の申告期限は延長されない

相続税の申告と納税の期限は、「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内」です。

遺言無効の訴訟中であることを理由として、相続税の申告期限を延長することは認められません

訴訟中の相続税対応

訴訟中の相続税申告と「分割見込書」

期限内に遺産分割が確定しない場合、一般的には法定相続分にしたがって仮の計算を行い、期限内に申告・納税手続き(未分割申告)をします

訴訟中だからといって、必ず法定相続分による未分割申告を行わなければいけないわけではありません。
誰がどの財産を取得したかは、遺言の内容や財産の承継状況に応じて仮の申告をすることができます。

その後、遺言無効の判決や遺産分割によって取得額が変わった場合は、修正申告更正の請求を行うことがあります。

なお、未分割申告の際は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署へ同時に提出しましょう。

分割見込書の提出を怠った場合、将来遺産分割が確定した際に、以下の税制上の制度・特例が原則として適用できなくなります。

使えなくなる制度

申告期限から3年を超えるときは「やむを得ない事由の承認申請」 をする

相続税の申告期限から3年を経過しても判決や分割が確定しない場合には、>「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して、税務署長の承認を受ける必要があります

提出期間は、申告期限から3年を経過する日の翌日から2カ月以内です。

訴訟中の財産は「延納の担保」や「物納財産」にできない可能性が高い

相続税を分割して納める「延納」制度を利用する場合、一定の担保を提供する必要があります。

しかし、係争中の財産そのものは、延納の担保として一般的には不適格であり、権利帰属に争いがある財産も物納不適格です

たとえば、「遺言無効確認訴訟の対象になっている不動産」は、担保として不適格とされます。

また、財産そのもので納める「物納」でも、権利の帰属について争いがある財産は「管理処分不適格財産」とされています

訴訟を起こす前の段階で、別途、納税資金の用意や担保資産の調達方法を考えておく必要があります。

訴訟提起とあわせて「負けたときの備え」をする

訴訟をする際は、「敗訴した場合の対策」をしておくことも大切です。

「遺留分侵害額請求」の意思表示を期限内に行う

遺留分侵害額請求権の時効は、「相続開始および遺留分を侵害する遺贈等を知った時から1年間」または「相続開始から10年」のいずれか早いほうです

遺言無効確認訴訟には時間を要することを考えると、判決を待ってから遺留分侵害額請求を行おうとしても、審理中に1年の時効期間が経過してしまう可能性があります。

つまり、何も対策をしないまま敗訴すると、遺留分すら回収できないリスクがあるのです

そのため、内容証明郵便などによる通知をもって、相手方に遺留分侵害額請求行使の意思表示をします。

事案によっては、訴訟を起こす際に「遺言無効確認」を主たる請求として提起し、予備的請求として「(遺言が有効と判断された場合の)遺留分侵害額請求」を同一訴訟内で併合して主張するケースもあります。

訴訟内容 遺言が無効と判断された場合 遺言が有効と判断された場合
無効確認請求のみ提起 遺産分割協議をやり直す 遺留分の時効も過ぎている可能性がある
主たる請求+予備的請求の併合 遺産分割協議をやり直す 遺留分相当額の金銭を請求できる

弁護士と税理士、どちらに相談すればよい?

遺言無効確認訴訟では、法務と税務、両方の手続きを連携して進めていく必要があります。

遺言無効確認訴訟は弁護士の専門分野ですが、相続税や特例・制度の適用に関する手続きは相続に強い税理士への相談が必要でしょう。

依頼先が別々になっていると、「申告期限から3年を超えそうだから、税務上の承認申請手続きを準備する必要がある」といった連携がうまく取れない可能性もあります。

遺言無効確認訴訟をするときは、弁護士と税理士が密接に連携している事務所へ相談・依頼することをおすすめします

遺言無効確認訴訟に関するよくある質問

まとめ:訴訟に時効はないが相続税の10カ月は待ってくれない

今回は、遺言無効確認訴訟の進め方と、訴訟が長引く間に動き続ける相続税の期限についてお伝えしました。

まとめ

  • 遺言無効確認訴訟自体に時効はないが、相続税の申告期限(10カ月)および遺留分侵害額請求の行使期限(1年)は止まらない。
  • 自筆証書遺言は無効になりやすい傾向だが、公証人や証人が関与する公正証書遺言の無効立証は難しい。
  • 訴訟手続きは数年単位に及ぶことが多いため、未分割状態での相続税申告および敗訴リスクに備えた事前の対策が不可欠となる。

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