記事の要約
- 単独相続には、「相続開始時から法定相続人が1人の場合」と「複数の相続人のうち1人がすべての財産を取得する場合」があります
- 1人が財産を取得することと、ほかの人が相続放棄をして相続人でなくなることは別です
- 相続税の基礎控除は実際の取得者数ではなく法定相続人の数で計算し、配偶者が取得する場合は二次相続まで確認する必要があります
ご家族など身近な方が亡くなり、自分1人で遺産を相続することになった場合、「遺産分割協議書は必要なのか」「借金もすべて引き継ぐのか」「相続税は高くなるのか」と不安に感じる方も多いでしょう。
1人がすべての財産を取得する場合でも、法定相続人の人数や、遺言・遺産分割協議・相続放棄のどの方法によるかによって、必要な手続きや注意点は異なります。
この記事では、単独相続の意味や主なケース、遺産分割協議書の要否、必要書類と期限、借金・遺留分・相続税の注意点を分かりやすくお伝えします。
目次
単独相続とは|2つの意味と共同相続との違い

単独相続とは、亡くなった方の遺産を1人がすべて受け継ぐことをいいます。ただし実務では、2つの意味で使われています。
| 比較項目 | 法定相続人が1人だけ | 相続人は複数だが1人がすべて取得 |
|---|---|---|
| 法定相続人の数 | 1人 | 複数人 |
| 1人が取得する理由 | 親族関係上、相続人が1人しかいない | 遺言または遺産分割協議など |
| 遺産分割協議 | 通常は不要 | 遺言がなければ、原則として相続人全員の合意が必要 |
| 主な確認事項 | 本当にほかの相続人がいないか | 遺産分割協議、遺留分、借金などに問題がないか |
一方、共同相続とは、複数の人が相続人となることです。相続人が複数いる場合、遺言などで取得者が決まっていない相続財産は、遺産分割が成立するまで、原則として共同相続人の共有状態になります。その後、遺産分割協議などにより、1人がすべて取得することも、複数人で分けて取得することもできます。
なお、自宅は長男、預貯金は長女が取得するといったケースでは、不動産は長男の単独名義になりますが、遺産全体を1人が取得しているわけではないため、この記事でお伝えする単独相続にはあたりません。
法定相続人が1人だけの場合
亡くなった方の親族関係を確認した結果、法律上の相続人が1人しかいないケースです。たとえば、次のような場合が考えられます。
- 配偶者はいるが、子ども、直系尊属である父母・祖父母、兄弟姉妹やその代襲相続人がいない
- 配偶者がおらず、子どもが1人だけである
ここで気を付けたいのは、「一人っ子だから相続人も1人」とは限らないという点です。配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の親族は、子ども、父母・祖父母、兄弟姉妹の順に相続人となります。子どもや兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、その人の子どもが代襲相続人になることもあります。
そのため、子どもが1人でも、亡くなった方の配偶者が存命であれば、配偶者と子どもの2人が法定相続人になります。
法定相続人が本当に1人だけの場合は、財産の分け方を話し合う相手がいないため、通常は遺産分割協議書を作る必要はありません。ただし、相続登記や預貯金の払戻しなどでは、ほかに相続人がいないことを証明するため、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍などを求められます。
相続人が複数いても1人がすべて取得する場合
法定相続人が複数いても、有効な遺言や相続人全員の合意によって、特定の1人がすべての遺産を取得できます。
たとえば、父親が亡くなり、母親と子ども2人が相続人となったものの、母親のこれからの住まいや生活資金を確保するため、母親が自宅や預貯金をすべて取得するケースです。
法定相続分は、遺産の分け方について相続人間で合意できない場合などに基準となる割合です。相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる割合で分けることも、1人がすべて取得することもできます。
ただし、財産を取得しない人も、家庭裁判所で相続放棄をしていなければ、相続人としての地位は残ります。遺留分や借金への影響については、後の「単独相続のメリットと注意点」で詳しく解説します。
単独相続になる主なケース
単独相続になる代表的なケースは、遺言や遺産分割協議によって1人がすべての財産を取得する場合や、相続放棄などの結果として相続人が1人になる場合です。
どのケースに該当するかによって、遺産分割協議書の要否や必要な手続き、注意すべき点が異なります。
遺言で1人がすべて相続する
亡くなった方が、有効な遺言書に「すべての財産を長男に相続させる」「全財産を妻に相続させる」などと記載していた場合は、原則として遺言の内容に沿って相続手続きを進めます。
遺言書がある場合は、まず次の点を確認しましょう。
- 遺言書の種類
- 遺言書が法律上の形式を満たしているか
- 遺留分を持つ相続人がいるか
自宅などで見つかった自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が必要です。一方、公正証書遺言と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管されている遺言書は、検認を受ける必要がありません。
検認は、遺言書の存在や内容を相続人に知らせ、遺言書の状態を確認して偽造・変造を防ぐための手続きです。遺言書が有効か無効かを判断する手続きではありません。
また、遺言によって1人に財産が集中し、一定の相続人の遺留分を侵害している場合は、財産を取得した人が遺留分侵害額の請求を受ける可能性があります。詳しくは後述します。
遺産分割協議で1人がすべて相続する
遺言書がない場合や、遺言書で取得者が指定されていない財産がある場合には、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議では、相続人全員が合意すれば、1人がすべての財産を取得することも可能です。家庭裁判所を利用せず、相続人間の話し合いで決められます。
ただし、遺産分割協議には相続人全員が参加しなければなりません。相続人の一部を除いて行った協議では、適切な遺産分割手続きを進められないため、先に戸籍を確認して法定相続人を確定させる必要があります。
たとえば、次のような理由から、1人に財産を集約することがあります。
- 配偶者の住まいや生活資金を確保したい
- 自宅や収益不動産を共有にしたくない
- 家業を継ぐ人に事業用財産や自社株を集めたい
- ほかの相続人がすでに生前贈与を受けている
- ほかの相続人が財産を取得しないことに同意している
ただし、1人に財産を集めることが、必ずしも家族全体にとって公平な分け方になるとは限りません。
不動産などを1人が取得し、ほかの相続人へ現金を支払う「代償分割」も選択肢です。1人がすべて取得する方法と代償分割を比較し、家族関係、取得後の維持費、代償金や相続税の支払資金まで含めて検討しましょう。
相続放棄などにより相続人が1人になる
一部の相続人が家庭裁判所で相続放棄をした結果、民法上の相続人が1人になることがあります。
たとえば、亡くなった方に配偶者がおらず、子どもが2人いる場合に、そのうち1人が相続放棄をすると、残った子どもが単独で相続します。相続放棄をした人は、その相続について、初めから相続人にならなかったものとして扱われます。
なお、相続放棄には原則として3カ月の期限があります。詳しい期限と手続きについては、後述する「単独相続で意識したい3つの期限」で解説します。
ただし、相続放棄によって必ず相続人が1人になるとは限りません。
たとえば、亡くなった方に配偶者と子どもがいて、子どもが全員相続放棄した場合、父母や祖父母が存命であれば、第2順位の相続人として祖父母が相続します。直系尊属がいなければ、兄弟姉妹や、先に亡くなった兄弟姉妹の子どもである甥・姪が第3順位の相続人として相続します。
相続欠格や廃除によって相続権を失う人がいる場合も、その人の子どもが代襲相続人になることがあります。「残った自分だけが相続人」と決めつけず、戸籍をもとに相続関係を確認しましょう。
単独相続のメリットと注意点
単独相続には、相続後の財産を管理・処分しやすいというメリットがあります。
一方で、相続放棄、遺留分、借金などを正しく理解せずに進めると、後から予想外の請求や相続人間のトラブルが生じる可能性があります。
財産の管理や処分を1人で進めやすい
単独相続の主なメリットは、相続後の権利関係が分かりやすくなることです。
不動産などを複数人で共有すると、不動産全体の売却や建替え、担保設定などを行う際に、共有者間で合意を取らなければならないことがあります。意見が一致せず、財産を活用・処分できない状態が長引くこともあります。
1人が単独で所有すれば、次のような判断を進めやすくなります。
- 不動産全体を売却または賃貸する
- 建物を修繕・建て替える
- 土地や建物を担保に入れる
- 非上場株式や事業用財産を後継者に集約する
- 持分が細かく分かれるのを防ぐ
ただし、法定相続人が複数いる場合、単独相続を選べば遺産分割協議が不要になるわけではありません。有効な遺言がなければ、1人がすべて取得することについて、相続人全員の合意が必要です。
また、財産を1人に集中させると、固定資産税、維持管理費、相続税、必要に応じて支払う代償金などの資金負担もその人に集中します。管理のしやすさだけでなく、取得後も財産を維持できるか、納税資金や代償金を確保できるかまで確認しましょう。
相続放棄と「財産を取得しないこと」は異なる
遺産分割協議で「私は何も受け取らない」と合意しても、家庭裁判所で相続放棄をしたことにはなりません。
両者には、次のような違いがあります。
| 比較項目 | 家庭裁判所での相続放棄 | 遺産分割協議で取得しない |
|---|---|---|
| 手続き先 | 家庭裁判所 | 相続人間の話し合い |
| 主な期限 | 原則として3カ月 | 3カ月の期限はないが、相続税申告や相続登記の期限に注意 |
| 相続人としての扱い | はじめから相続人でなかった扱い | 相続人のまま |
| プラスの財産 | 取得しない | 協議によって取得額を0円にする |
| 借金 | 承継しない | 債権者に対する負担が残ることがある |
| 次順位の相続人 | 現れることがある | 原則として現れない |
配偶者だけにプラスの財産を取得させることが目的であれば、子どもが相続放棄するのではなく、相続人全員で遺産分割協議を行い、配偶者が取得する方法が適していることがあります。
ただし、遺産分割協議で財産を取得しなかった人も、相続人としての地位は残ります。亡くなった方の借金について、債権者から返済を求められる可能性がある点には注意が必要です。
借金が財産を上回る可能性がある場合は、相続放棄を含めて早めに対応を検討しましょう。
遺留分や借金の問題が残ることがある
1人がすべての財産を取得しても、遺留分や借金の問題まで自動的に解決するわけではありません。
遺留分について
遺留分とは、兄弟姉妹以外の一定の相続人に保障されている最低限の取り分です。遺言や一定の生前贈与によって遺留分を侵害された人は、財産を取得した人に対し、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。
ただし、遺留分を侵害する遺言が直ちに無効になったり、不動産が自動的に共有へ戻ったりするわけではありません。一般的に、金銭の支払いで解決することになります。
たとえば、長男が自宅や自社株をすべて取得したものの、現金をほとんど持っていなければ、遺留分の支払いに困る可能性があります。不動産や自社株などを1人に集中させる場合は、相続財産の中の預貯金や生命保険など、遺留分の支払いに充てられる資金も確認しておきましょう。
借金について
借入金などの金銭債務は、原則として、相続開始時に法定相続分に応じて各相続人へ承継されます。
遺産分割協議書に「長男がすべての財産と借金を引き継ぐ」と記載しても、その合意は基本的に相続人間の内部的な取り決めです。債権者の同意がなければ、ほかの相続人が債権者から免責されるとは限りません。
借金を特定の相続人へ一本化したい場合は、金融機関などの債権者と債務引受について協議し、承諾を得る必要があります。
単独相続の手続き・必要書類と期限
単独相続の手続きは、一般に次の順番で進めます。
- 遺言書の有無を確認する
- 戸籍から法定相続人を確定する
- 財産と借金を調査する
- 財産と借金の状況を踏まえ、相続放棄などが必要か判断する
- 必要に応じて遺産分割協議書を作成する
- 預貯金、不動産、有価証券などの名義を変更する
- 必要な場合は相続税を申告・納付する
相続人が1人だと思っていても、手続きを始める前に戸籍を確認し、本当にほかに法定相続人がいないかを確かめることが大切です。
遺言書・相続人・財産と借金を確認する
最初に、亡くなった方が遺言書を残していないか確認します。
自宅や貸金庫を探すほか、公正証書遺言については公証役場の遺言検索、法務局で保管されている自筆証書遺言については「遺言書保管事実証明書」を請求して、その有無を確認できます。
続いて、戸籍を集めて法定相続人を確定します。相続人を確認するための主な書類は、次のとおりです。
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍
- 法定相続人の現在の戸籍
相続登記や金融機関の手続きでは、このほかに次の書類を求められることがあります。
- 亡くなった方の住民票の除票または戸籍の附票
- 財産を取得する相続人の住民票
- 相続放棄をした人がいる場合は、相続放棄申述受理証明書など
必要な書類は、誰が財産を取得するか、遺言書があるか、どの財産を名義変更するかによって異なります。
たとえば、相続登記では、不動産を取得する相続人の住民票や、登記申請年度の固定資産評価額が分かる資料などが必要になることがあります。
相続人を確認したら、プラスの財産とマイナスの財産を調査します。預貯金や不動産だけでなく、借入金、保証債務、未払金なども確認しましょう。
| 調査するもの | 主な確認資料 |
|---|---|
| 預貯金 | 通帳、残高証明書、取引履歴 |
| 不動産 | 登記事項証明書、固定資産税課税明細書、名寄帳 |
| 株式・投資信託 | 証券会社の残高報告書 |
| 借入金 | 借入契約書、返済予定表、残高証明書 |
| 保証債務 | 保証契約書、金融機関や会社からの通知 |
| 未払金・税金 | 請求書、納税通知書、医療費や施設費の資料 |
相続放棄の申述や遺産分割調停を家庭裁判所に申し立てても、裁判所が相続財産を探してくれるわけではありません。相続人自身で必要な資料を集め、財産と借金を整理する必要があります。
借金の有無を確認しないまま預貯金の解約や不動産の処分などを進めると、相続放棄の判断に影響することがあります。借金が疑われる場合は、後述する3カ月の期限を意識して早めに調査しましょう。
遺産分割協議書が必要な場合・不要な場合を確認する
遺産分割協議書が必要かどうかは、法定相続人の人数や遺言書の内容によって異なります。
- 法定相続人が最初から1人だけである
- 相続放棄の結果、次順位者まで確認したうえで、民法上の相続人が1人になった
- 有効な遺言書で、すべての財産の取得者が明確に指定されている
- 法定相続人が複数いて、話し合いにより1人がすべて取得する
- 遺言書で取得者が指定されていない財産がある
法定相続人が複数いる場合、遺産分割協議には相続人全員の合意が必要です。合意内容は、不動産の相続登記や預貯金の払戻しなどに使用できるよう、遺産分割協議書にまとめるのが一般的です。
相続登記に用いる遺産分割協議書には、相続人全員が実印を押し、それぞれの印鑑証明書を添付します。預貯金や有価証券の手続きでは、金融機関や証券会社によって必要書類が異なります。
名義変更で必要になる主な書類の例は、次のとおりです。
| 手続き | 主な必要書類の例 |
|---|---|
| 不動産の相続登記 | 戸籍関係書類、遺言書または遺産分割協議書、不動産を取得する人の住民票、固定資産評価額が分かる資料など |
| 預貯金の払戻し | 金融機関所定の書類、戸籍関係書類、遺言書または遺産分割協議書、印鑑証明書など |
| 株式・投資信託の移管 | 証券会社所定の書類、戸籍関係書類、遺言書または遺産分割協議書、相続人名義の口座情報など |
| 自動車の名義変更 | 車検証、戸籍または法定相続情報一覧図の写し、遺言書または遺産分割協議書、印鑑証明書、車庫証明書など |
自動車の相続手続きでは車検証が必要となり、新しい使用者の住所などによっては車庫証明書も求められます。
法定相続人が1人だけの場合や、遺言書に基づく手続きでは、遺産分割協議による手続きと同じ書類が必要になるとは限りません。実際の必要書類は、財産の種類、遺言書の有無、金融機関や証券会社の取扱いなどによって異なります。
単独相続で意識したい3つの期限
単独相続では、次の3つの期限を特に意識しましょう。
| 手続き | 原則的な期限 |
|---|---|
| 相続放棄 | 自分のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内 |
| 相続税の申告・納付 | 相続の開始があったことを知った日(通常は死亡日)の翌日から10カ月以内 |
| 相続登記 | 相続による不動産の取得を知った日から3年以内。遺産分割が成立した場合は、成立日から3年以内に分割内容に沿った登記も必要 |
相続放棄は、自分のために相続が開始したことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所へ申述します。3カ月以内に財産や借金を調査しても判断できない場合は、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てることができます。
相続税の申告が必要な場合、申告と納付は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に行います。申告期限を過ぎると、本来の税額に加えて加算税や延滞税がかかる場合もあるため、注意しましょう。
相続登記は、2024年4月1日から義務化されています。2024年4月1日より前に発生した相続も対象で、期限は最も早い場合、2027年3月31日です。正当な理由なく相続登記を申請しなかった場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
単独相続をした場合の相続税
「1人で全部相続すると、相続税も高くなるのでは」と心配される方は少なくありません。
しかし、1人がすべての遺産を相続しても、相続税が必ず高くなるわけでも、必ず安くなるわけでもありません。相続税は、実際に財産を取得した人数だけでなく、法定相続人の数、課税対象となる財産額、誰が財産を取得するか、適用できる控除や特例などによって決まります。
ここでは、単独相続と相続税について押さえておきたい2つのポイントをお伝えします。
基礎控除は実際の取得者数ではなく法定相続人の数で計算する
相続税には基礎控除があり、相続税の課税価格の合計額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告も納税も必要ありません。
基礎控除額は、次の式で計算します。
相続税の基礎控除額
ここで大切なのは、実際に財産を取得した人数ではなく、法定相続人の数で計算するという点です。
たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人で、遺産分割協議により配偶者が1人ですべてを相続した場合でも、基礎控除額は法定相続人3人として計算します。
計算例
配偶者1人がすべて取得するからといって、基礎控除額が法定相続人1人の場合の3,600万円に減るわけではありません。
| 法定相続人の数 | 相続税の基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
また、家庭裁判所で相続放棄をした人がいる場合も、基礎控除額を計算するときは、相続放棄がなかったものとして法定相続人の数を数えます。したがって、相続放棄だけを理由に基礎控除額が減ることはありません。
相続税の総額は法定相続分で仮計算する
相続税は、次の流れで計算します。
- 各人の課税価格を合計し、課税価格の合計額を算出する
- 課税価格の合計額から基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を算出する
- 課税遺産総額を、いったん法定相続分で取得したものと仮定する
- 法定相続人ごとの仮の税額を合計し、相続税の総額を算出する
- 相続税の総額を実際の取得割合に応じて配分し、配偶者の税額軽減などを反映する
つまり、1人がすべての遺産を取得する場合でも、相続税の総額を最初からその1人だけで計算するわけではありません。
課税遺産総額をいったん法定相続分で分けたものと仮定して相続税の総額を計算し、その後、実際に取得した財産の割合に応じて各人へ税額を配分します。
5,000万円を配偶者と子ども1人が相続する場合の例
次の条件で考えてみましょう。
- 課税価格の合計額:5,000万円
- 法定相続人:配偶者と子ども1人
- 債務、生前贈与、生命保険金の非課税、小規模宅地等の特例などは考慮しない
法定相続人が2人なので、相続税の基礎控除額は4,200万円です。
課税遺産総額
課税遺産総額800万円を法定相続分の2分の1ずつで取得したと仮定すると、配偶者と子どもの仮の取得額はそれぞれ400万円です。
1,000万円以下の相続税率は10%であるため、相続税の総額は次のようになります。
相続税の総額
子ども:400万円 × 10% = 40万円
相続税の総額:80万円
実際の取得方法による納税額の違いは、次のとおりです。
| 実際の取得方法 | 納税額の目安 |
|---|---|
| 配偶者が5,000万円すべてを取得 | 0円(配偶者の税額軽減を適用した場合) |
| 配偶者と子どもが2,500万円ずつ取得 | 配偶者は0円、子どもは40万円 |
| 子どもが5,000万円すべてを取得 | 子どもが80万円 |
この例からも、相続税の総額は同じでも、誰が財産を取得するかによって、各人の最終的な納税額が変わることが分かります。
なお、これは説明のために条件を単純化した概算例です。実際の相続税額は、債務や葬式費用、生前贈与、生命保険金、小規模宅地等の特例、各種税額控除などによって変わります。
配偶者がすべて相続する場合は申告要否と二次相続を確認する
配偶者がすべての財産を相続する場合には、「配偶者の税額軽減」を適用できる可能性があります。
配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に取得した正味の遺産額が、次のいずれか多い金額までであれば、配偶者には相続税がかかりません。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
たとえば、配偶者の法定相続分相当額が1億円の場合でも、配偶者が実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円以下で、申告などの要件を満たせば、配偶者の税額軽減により配偶者の相続税はかかりません。
税額が0円でも申告が必要になる
注意したいのが、相続税申告の要否です。
配偶者の税額軽減を適用した結果、配偶者の納付税額が0円になる場合でも、相続税申告書を提出しなければなりません。申告書には、配偶者が取得した財産が分かる遺言書や遺産分割協議書などを添付します。
また、配偶者の税額軽減は、原則として相続税の申告期限までに遺産分割が成立し、配偶者が実際に取得した財産をもとに計算します。
申告期限までに分割されていない財産は、原則として配偶者の税額軽減の対象になりません。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出するなど、所定の手続きを行うことで、後から適用できる場合があります。
一方、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用しなくても、相続税の課税価格の合計額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告も納税も必要ありません。
小規模宅地等の特例を適用した結果として基礎控除額以下になる場合は、特例の適用を受けるための相続税申告が必要です。
配偶者がすべて相続する場合は二次相続にも注意する
配偶者がすべての財産を相続すると、最初の相続である一次相続では、配偶者の税額軽減によって相続税を抑えられることがあります。
しかし、その配偶者が亡くなったときに発生する二次相続では、次のような状況になる可能性があります。
- 配偶者がもともと所有していた財産と、一次相続で取得した財産が合算される
- 二次相続では、子どもが取得する財産に配偶者の税額軽減は適用されない
- 一般に法定相続人の数が一次相続より少なくなり、基礎控除額も小さくなりやすい
- 不動産が多い場合、相続税の納税資金が不足することがある
ただし、配偶者がすべて相続することが必ず不利になるわけではありません。
配偶者の年齢、今後必要となる生活費、配偶者自身の財産、子どもの人数、不動産の構成、将来の財産の増減などによって、適切な分け方は変わります。
一次相続の相続税額だけで判断せず、配偶者の生活保障と、一次相続・二次相続を通算した税負担の両方から検討することが大切です。
単独相続についてよくある質問
Q.相続人が1人なら遺産分割協議書は必要ですか?
ただし、相続登記や預貯金の払戻しでは、ほかに相続人がいないことを証明する戸籍などが必要です。相続放棄の結果として相続人が1人になった場合は、相続放棄申述受理証明書などを求められることがあります。必要書類は財産や手続き先によって異なるため、事前に法務局や金融機関へ確認しましょう。
Q.子どもが全員相続放棄すれば配偶者だけが相続人になりますか?
まとめ|単独相続では相続人・借金・税金・期限を確認する
単独相続には、相続開始時から相続人が1人だけのケースと、相続人が複数いる中で、遺言や遺産分割協議により1人がすべての財産を取得するケースがあります。
どちらも最終的には1人が財産を取得しますが、遺産分割協議書の要否、相続放棄、遺留分、借金、相続税の扱いは異なります。
手続きを進める前に、次の点を確認しましょう。
- 戸籍を調べ、法定相続人を確定したか
- 遺言書の有無と内容を確認したか
- 預貯金や不動産だけでなく、借入金や保証債務も把握したか
- 遺産分割協議書が必要なケースか
- 遺留分を請求された場合の支払資金を確保できるか
- 相続税の申告が必要か
- 配偶者が取得する場合、一次相続と二次相続を比較したか
- 相続放棄の3カ月、相続税の10カ月、相続登記の3年に間に合うか
相続税申告、不動産の相続税評価、一次・二次相続の税額比較は税理士、遺留分や相続人間の対立は弁護士、不動産の相続登記は司法書士が主な相談先です。
VSG相続税理士法人では、単独相続とほかの分け方による相続税の違い、不動産の相続税評価、配偶者がすべて取得する場合の一次・二次相続の税額比較についてご相談を受け付けています。税務面から適切な財産の分け方を確認したい方や、相続税がどの程度かかる可能性があるか分からない方は、無料相談をご利用ください。


