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最終更新日:2026/9/11

遺言執行者とは?本当に必要?権限・報酬・選び方、いない場合の手続きは

本間 剛 (行政書士)
この記事の執筆者 行政書士 本間剛

VSG行政書士法人 代表行政書士。山形県出身。

はじめて相続を経験する方にとって、相続手続きはとても難しく煩雑です。多くの書類を作成し、色々な役所や金融機関などを回らなければなりません。専門家としてご家族皆様の負担と不安をなくし、幸せで安心した相続になるお手伝いを致します。

PROFILE:https://vs-group.jp/sozokuzei/profilehonma/

記事の要約

  • 遺言執行者とは、遺言者に代わって遺言書の内容を実現する人のことであり、遺言認知や相続人の廃除など遺言執行者にしかできない手続きもある
  • 相続人を遺言執行者にすることも可能だが、手続きの負担や公平性の面で注意が必要
  • 相続に強い税理士や司法書士に依頼すると、遺言の執行から相続税申告・相続登記まで円滑に任せられる

遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)とは、遺言者に代わって遺言書に記された内容を正確に実現する役割を担う人のことです。

遺言書の作成を検討される中で、「遺言執行者をあらかじめ指定しておくべきか」という点で判断に迷われる方は少なくありません。

遺言執行者はすべての相続において必須となるわけではありません。

一方で、法律上「遺言執行者がいなければ実現できない手続き」が存在するほか、遺言書の中で指定しておくことで相続人間のトラブルを防ぎ、手続きを円滑に進められるケースも多々あります。

この記事では、遺言執行者の必要性や専門家へ依頼する際の判断基準、報酬の相場、遺言書での具体的な指定方法まで、順を追って分かりやすく解説いたします。

なお、VSG相続税理士法人では、相続に関するご相談を無料で受け付けておりますので、相続でご不安なことがございましたら、お気軽にご連絡ください。

目次

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遺言執行者とは「遺言の内容を実現する人」

遺言執行者とは、遺言書に記載された内容を確実に実現するため、必要な手続きを行う人のことです。

遺言は、「遺言者が亡くなったとき」にはじめて効力が生じます。
そのため、遺言者本人は、自分の遺言が実現される場面に立ち会うことができません。

そこで、遺言執行者が遺言者に代わって遺言の内容を実現する役割を担います。

遺言執行者の権利義務は、民法で次のように定められています。

遺言執行者の権利義務

第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

引用元 e-GOV法令検索┃民法

遺言執行者は、一般的に遺言書に名前を記載して指定します。

また、遺言によって「遺言執行者の選任」を信頼できる第三者へ委託することもできます。

遺言執行者ができること(権限)

遺言執行者は、遺言書に記載された内容を実現するために必要な、一切の行為を行う権限を持っています。

たとえば、遺言書に「長男Aに〇〇銀行の預金を相続させる」と書かれていた場合、遺言執行者は単独でその銀行口座の払い戻しの手続きを行うことができます。
その預貯金すべてが遺言の対象になっている場合は、口座解約も可能です。

不動産の名義変更(相続登記)や株式の名義書換えなども、遺言の対象であれば同様に手続きが可能です。

遺言の内容を実現するために必要であれば、遺言執行者はほかの相続人の同意を得ることなく、単独で手続きを進めることができます。

また、相続人は「遺言の執行を妨げるべき行為」をすることをしてはならず、遺言執行者に無断で相続財産を売却したり名義変更をしたりした場合、その行為は原則として無効になります。※

法律の観点からも、遺言執行者には職務を全うするための強い権限と保護が与えられています。

※例外として、遺言の内容や事情をまったく知らなかった「善意の第三者」が取引をした場合、その人に対しては無効を主張できないケースがあります。

遺言執行者にできないこと(制限事項)

一方で、遺言執行者であっても行えない行為があります。

主な制限事項は、以下の5つです。

できないこと 理由
遺言書に記載のない事項の執行 権限は「遺言内容の実現に必要な行為」に限定されるため
遺産分割協議への介入・調整 遺言の内容をそのまま実現する立場であり、分け方を変更する権限はないため
遺留分侵害の是正 遺言の内容を独断で修正したり、遺贈を停止したりする権限はないため
特定の相続人のための紛争交渉・代理 特定の相続人の利益のための紛争交渉・代理は当然に職務に含まれるわけではないため
相続税の申告および納付の代理 申告・納税は相続人や受遺者それぞれの固有の義務であるため
※相続税の申告は税理士に代理を依頼できる

遺言執行者が執行できる範囲は、遺言の内容を実現するために必要な範囲に限られます。

遺言書に記載のない財産を独断で売却したり、遺産の配分を変更したりすることはできません。

また、遺言執行者の役割は、遺言の内容を実現することです。

そのため、自ら遺産の分け方を変更したり、遺言執行者として特定の相続人のための紛争交渉を行ったりすることは職務には含まれません。

遺言の内容が遺留分を侵害している場合であっても、執行者自身が内容を修正することはできず、遺言書どおりに執行する義務を負います。

相続税の申告・納付についても、財産を引き継いだ相続人や受遺者それぞれの義務であり、遺言執行者の職務には含まれていません。

また、税務申告の代理は、税理士などの「法令上税理士業務を行える者」に限られます。

遺言執行者が選任されている場合であっても、相続税の申告手続きは別途進める必要があります。

遺言執行者は本当に必要か?執行者が不要なケースは?

遺言執行者は、すべての相続で必要になるわけではありません。

遺言に記載された内容の多くは、相続人全員が協力できる状況であれば、遺言執行者がいなくても手続きを進めることができます。

次のようなケースであれば、遺言執行者がいなくても相続手続きが進めやすいでしょう。

遺言執行者がいなくても手続きを進めやすいケース

  • 相続人全員が遺言の内容に納得しており、手続きに協力的である
  • 遺言書に「認知」や「相続人の廃除」に関する記載がない
  • 相続財産が預貯金中心など、シンプルな構成である

このようなケースでは、相続人同士が協力して金融機関や法務局での手続きを進めれば、遺言の内容を実現することができます。

それでも遺言執行者を指定しておくべき理由

遺言執行者がいなくても手続きできるケースがある一方で、「遺言執行者にしかできない手続き」や、「遺言執行者がいることで手続きが円滑に進むケース」があります。

(1)法律上、遺言執行者がいないと実現できない事項がある

遺言書に以下の内容が書かれている場合、法律上、遺言執行者の選任が必要です。

遺言執行者が必要な遺言事項

  • 遺言による子の認知(遺言認知)
  • 推定相続人の廃除や廃除の取り消し
  • 一般財団法人の設立

遺言による「子の認知」の手続きは、原則として遺言執行者しか行うことができません。

遺言認知があった場合、遺言執行者は就任から10日以内に、市区町村役場へ認知の届出をします。

また、「相続人の廃除」とは、被相続人が、特定の推定相続人から遺留分を含めた相続権を奪うための制度です。

遺言による廃除・廃除の取り消しも、遺言執行者が家庭裁判所に請求して行います。

これらの内容を遺言に書く予定がある場合は、遺言執行者の指定が前提になると考えておきましょう。

もし、遺言書に遺言執行者の指定がない場合、相続人などの利害関係者は家庭裁判所に対し、「遺言執行者の選任申立て」を請求する必要があります。

(2)相続人の協力が得られなくても遺言内容を実現できる

遺言執行者がいない場合、各種相続手続きには、相続人全員の署名・実印の押印や印鑑証明書の提出が求められることが大半です。

しかし実際には、以下のような事情から手続きが停滞するケースは少なくありません。

  • 相続人が多忙で、平日に金融機関や役所へ行く時間が取れない
  • 相続人が遠方に住んでいる、または高齢で手続きが難しい
  • 相続人同士の関係が良好でなく、書類への署名や押印に応じてもらえない

一方、遺言執行者がいることで、ほかの相続人の協力を得ずに進められる手続きが増え、手続きが停滞しにくくなります。

さらに、遺言執行者には「遺言の内容を相続人に通知する義務」および「財産目録の作成・交付義務」が定められています。

相続人全員が、遺言内容や財産の全体像を共有できるため、手続きの透明性が確保され、不信感から生じるトラブルを防ぐ効果も期待できます。

【一覧】遺言執行者を指定したほうがよいケース

以下の状況に当てはまる場合は、遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。

遺言執行者を指定したほうがよいケース

  • 相続人が多い、遠方に住んでいる、または多忙である
  • 相続人同士の対立やトラブルが予想される
  • 相続人以外の第三者や団体に遺贈したい
  • 相続財産の種類が多く、不動産や未上場株式が含まれる
  • 相続税の申告が必要になる可能性が高い

遺言執行者には誰がなれる?相続人と同一人物でもいい?

相続手続きをスムーズに進めるためにも、「誰を遺言執行者に指定するか」はとても大切な点です。

まずは、遺言執行者になれる人の範囲を確認しておきましょう。

遺言執行者になれる人・なれない人

遺言執行者になれる人・なれない人は、次のとおりです。

区分 対象者 備考・注意点
なれる人 相続人、受遺者、専門家(税理士・司法書士・弁護士等)、法人、友人・知人など 複数人を指定することや、予備的指定(第2順位)をすることもできる
なれない人 未成年者、破産者 行為能力や経済的信用の観点から制限がある

遺言執行者になれる対象は幅広く、信頼できる個人はもちろん、法人を指定することも認められています。

また、「相続人から1人+専門家1名」のように複数人を共同指定することや、遺言執行者が先に亡くなった場合に備えて、第2順位の遺言執行者を指定しておくことも可能です。

相続人を遺言執行者に選任する場合の注意点

「長男を遺言執行者にしたい」というように、相続人の中から遺言執行者を選ぶこと自体は問題ありません。

ご家族など、相続人のうちの1人が遺言執行者になることで、心理的な安心感が得られるケースも見受けられます。

ただし、以下の点には注意が必要です。

  • 財産を受け取る立場と執行する立場を兼ねるため、他の相続人から公平性を疑われることがある
  • 戸籍謄本類の収集、財産調査、金融機関や法務局での手続きなど、多くの時間と労力を要する
  • 複雑な権利関係や税務上の判断が必要になる場面で、対応に苦慮しやすい

相続人間の関係性に不安がある場合や、財産の種類が多い場合には、中立的な立場を保てる専門家へ遺言執行者を依頼してもよいでしょう。

遺言執行者は誰に依頼すべき?報酬相場と専門家の選び方

遺言執行者を専門家に依頼する場合、主な依頼先の候補には、税理士・司法書士・弁護士・行政書士・信託銀行が挙げられます。

ただし、遺言執行は一連の相続実務の一部に過ぎません。

遺言者が亡くなったあとは、遺言の執行と並行して、「相続税の申告(相続開始を知った日の翌日から10カ月以内)」や「不動産の相続登記(相続を知り、所有権を取得したことを知った日から3年以内)」といった、期限のある手続きも発生します。

ご自身の財産状況やご家族の事情に合った専門家を選ぶことで、 遺言の執行だけでなく、相続手続き全般の手続きがスムーズに進みやすくなります。

(1)税理士:相続税申告まで見据えて任せたい場合

相続税の申告が必要になる可能性が高い場合は、相続に強い税理士を遺言執行者に選ぶとよいでしょう。

相続税の申告は遺言執行者の職務には含まれず、また、税理士資格のない遺言執行者が申告を代行することはできません。

遺言執行者が税理士であれば、遺言執行と税務申告をあわせて依頼することができます。

報酬の目安は、基本報酬20〜30万円程度 + 遺産総額の1〜2%前後です。

(2)司法書士:不動産の相続登記が中心の場合

相続財産に土地や建物などの不動産が多く含まれる場合は、登記の専門家である司法書士が有力な候補になります。

2024年4月より相続登記は義務化されており、正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料の対象になります。

また、遺言書に「特定の相続人に特定の不動産を相続させる」と書かれている場合(特定財産承継遺言)、遺言執行者は単独で相続登記を申請できます。

司法書士が遺言執行者であれば、登記までの手続きを安心して任せられるでしょう。

報酬の目安は、基本報酬15〜30万円程度 + 実費です。

(3)弁護士:相続人間のトラブルが予想される場合

遺言内容について相続人同士の対立が予想される場合は、弁護士への依頼を検討しましょう。

弁護士であれば、遺言の執行に加えて、遺留分侵害などの相続トラブルをめぐる交渉や紛争対応についても相談できます。※

報酬の目安は、着手金20〜50万円程度 + 遺産総額の1〜3%前後です。

※
利益相反等の問題により、遺言執行者となった弁護士は原則としてほかの相続人の代理人を兼ねられません。

(4)信託銀行:資産規模が大きく、保管から執行まで一括で任せたい場合

信託銀行の「遺言信託」は、遺言書の作成サポートから保管、遺言内容の執行までをまとめて任せられるサービスです。

資産規模が大きく、金融資産の管理を長期的に任せたい場合に向いています。

ただし、最低報酬額が100万円前後となるプランもあるなど費用面で割高になりやすい点や、法的な紛争対応や税務申告そのものは信託銀行の業務外となり、別途士業への依頼が必要となる点に注意が必要です。

親族・知人に遺言執行者を依頼する場合、謝礼はどう決める?

遺言執行者の報酬は、一般的に以下の優先順位で決まります。

  1. 遺言書に報酬額の記載がある場合:記載された金額
  2. 遺言書に記載がない場合:相続人・受遺者と遺言執行者との話し合い
  3. 話し合いがまとまらない場合:家庭裁判所への申立てにより決定

親族や知人に遺言執行者を依頼する場合の謝礼相場は、20万〜30万円前後が目安とされています。

相続開始後のトラブルを避けるためにも、遺言書を作成する段階で報酬額を明記しておくとよいでしょう。

なお、遺言執行者への報酬や執行にかかった実費は、相続財産から支払うことができます。

遺言書で遺言執行者を指定する方法と記載例

遺言をもって遺言執行者を指定する場合、遺言書の本文中に遺言執行者に関する条項を追加します。

遺言執行者を指定する文例(基本形)

第〇条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。

住所 東京都〇〇区〇〇一丁目2番3号
氏名 〇〇 〇〇
生年月日 昭和〇年〇月〇日

専門家や法人を遺言執行者に指定する場合は、事務所の所在地および正確な法人名称・氏名を記載します。

あわせて、次の内容も遺言書に定めておくと、より確実です。

  • 報酬の定め:「遺言執行者の報酬は、金〇〇万円とする。」
  • 第2順位の指定:「前条の遺言執行者が就任できないときは、次の者を遺言執行者に指定する。」

なお、遺言書の具体的な書き方については、以下の記事をご参照ください。

遺言執行者が行う相続手続きの流れ

実際に相続が発生した場合、遺言執行者は、次の流れで相続手続きを進めます。

1.就任通知と遺言書の開示
遺言執行者は、就任を承諾した後、相続人に対し「自分が遺言の執行を担う立場になったこと」と「遺言の内容」を通知します。
2.相続人の範囲の確定
戸籍謄本類を収集し、誰が法定相続人かを確定させます。
3.財産目録の作成と交付
遺言執行の対象となる財産を調査し、財産目録を作成して相続人に交付します。
4.遺言内容の実行
財産目録の作成後、遺言書の内容に基づいて、預貯金の解約や不動産の名義変更、遺贈の履行などの手続きを進めます。
5.業務の完了報告
すべての手続きが完了したら、執行の内容と収支をまとめた報告書を作成し、相続人や受遺者に報告します。

相続人は遺言執行者の手続きを妨げることはできませんが、戸籍や財産に関する情報の提供など、手続きに必要な協力を求められることがあります。

遺言執行者が指定されていない場合は「遺言執行者選任」の申立てができる

遺言書で遺言執行者が指定されていない場合や、指定されていた方がすでに亡くなったいや場合、あるいは就任を辞退された場合でも、家庭裁判所に「遺言執行者選任申立て」をすることで、遺言執行者を選任してもらうことができます。

遺言執行者選任申立書

「遺言執行者選任申立書」を一部抜粋

引用元 裁判所

遺言執行者選任申立ての概要は、以下のとおりです。

項目 内容
申立権者(申立てができる人) 利害関係人(相続人、受遺者、遺言者の債権者など)
申立先 遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
申立費用 執行の対象となる遺言1通につき収入印紙800円分 + 連絡用の郵便切手代
審理期間の目安 申立てから選任までおおむね1〜2カ月程度
※裁判所や事案によって異なる

申立ての手続きでは、主に以下の書類を準備して家庭裁判所へ提出します。

  • 遺言執行者選任申立書
  • 遺言者の死亡の事実が確認できる戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
  • 遺言執行者候補者の住民票または戸籍の附票
  • 遺言書の写しまたは検認調書謄本の写し
  • 申立人の利害関係を証明する資料(相続人であることを示す戸籍謄本など)

なお、申立書には希望する「遺言執行者の候補者」を記載することができます。

相続実務に精通した税理士や司法書士、弁護士などの専門家をあらかじめ候補者として申立てをすれば、選任後の相続手続きをスピーディかつ確実に進めやすくなります。

遺言執行者に関するよくある質問

まとめ:遺言執行者は「遺言を確実に実現する」ための備え

今回は、遺言執行者の必要性や依頼先の選び方、報酬の相場、指定の方法についてお伝えしました。

まとめ

  • 遺言執行者とは、遺言者に代わって遺言書の内容を実現する人のことであり、遺言認知や相続人の廃除など遺言執行者にしかできない手続きもある
  • 相続人を遺言執行者にすることも可能だが、手続きの負担や公平性の面で注意が必要
  • 相続に強い税理士や司法書士に依頼すると、遺言の執行から相続税申告・相続登記まで円滑に任せられる

遺言執行者を誰にするかは、遺言の内容をトラブルなく確実に実現するための、とても大切な選択です。

特に、相続税の申告や不動産の登記が関わる場合は、相続に強い税理士や司法書士といった専門家を遺言執行者にしておくことで、遺言の執行からその後の相続手続きまでスムーズに進めやすくなります。

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