最大震度7を観測した「令和8年熊本地震」や、最高レベルの警戒発表が相次いだ「令和8年8月千葉豪雨」など、今年も災害の多い年となっています。災害などの被害にあった場合、税制にはどのような負担軽減策が用意されているのでしょうか?
今回の記事では、被害にあった場合の税負担軽減についてご説明します。
目次
生活に通常必要な資産が被害にあった場合
生活に通常必要な資産が被害に遭った場合、雑損控除と災害減免法の適用が考えられます。
どちらも災害や盗難などで財産に損害を受けたときに所得税を軽減できる制度です。
所得金額の合計額(総所得金額等から特別控除を差し引いた後の金額)が1,000万円超の場合、災害減免法は適用できませんので雑損控除を適用となります。
所得金額の合計額が1,000万円以下の人はどちらか一方を選択して適用を受けることになります。
雑損控除(所得控除)とは?
雑損控除は、所得税法に基づき、損害額を所得から差し引く「所得控除」です。納税者や、納税者と生計を一にする配偶者・親族(総所得金額等62万円以下)が所有する生活に通常必要な資産が、災害、盗難、横領の被害にあった場合に適用があります。
詐欺や恐喝には適用がないため、オレオレ詐欺には適用はありません。
生活に通常必要な資産
雑損控除は生活に通常必要な資産が損害を受けたときに適用されます。
「生活に通常必要な資産」は、棚卸資産もしくは事業用固定資産等または生活に通常必要でない資産のいずれにも該当しない資産です。生活に通常必要でない資産とは別荘やリゾートマンション、ヨットなどの資産や、書画、骨董、1個30万円超の貴金属などであり、これらは雑損控除の対象とはなりません。
雑損控除の対象となるのは、生活に通常必要な資産を盗難や横領された場合や、洪水や地震、津波などで自宅とその敷地が崩壊するといった損害が生じた場合の自宅とその敷地、家の中の家財です。
敷地については、大震災の影響で地盤沈下したことから、宅地であった土地が海面下のまま原状回復できないことが確定するなど、土地の価値が失われた(滅失した)ときの損失の金額は、雑損控除の対象となります。
また、土地が滅失していなくとも、① 再び宅地として使用するために、滞留した泥を除去するための支出② 宅地としての原状回復のための支出が雑損控除の対象となります(参考:東日本大震災により被害を受けた場合の所得税の取扱い(情報))。
損失額の計算
雑損控除の計算において、災害により被害を受けた住宅や家財、車両の損失額は、その損失の生じた時の直前におけるその資産の価額を基として計算することとされていますが、①住宅の主要構造部に損壊がある場合で、かつ、②損害を受けた資産について個々に損失額を計算することが困難な場合には、次の方法により計算できます。
(1) 住宅に対する損失額の計算
損失額(注) ={(住宅の取得価額 - 減価償却費) × 被害割合} + 災害関連支出の金額※
- ※
- 災害関連支出:災害により滅失した住宅、家財などを取壊しまたは除去するために支出した金額など
(注) 保険金、共済金、損害賠償金などで補填される金額がある場合には、その金額を差し引いた後の金額が損失額となります。ただし、被災者生活再建支援法に基づくものは除きます(以下同じです。)。
② 住宅の取得価額が明らかでない場合
損失額 =〔{(1m2当たりの工事費用 × 総床面積)- 減価償却費} × 被害割合〕 + 災害関連支出の金額
(2) 家財に対する損失額の計算(生活に通常必要な動産で、車両を除きます。)
損失額 ={(家財の取得価額 - 減価償却費) × 被害割合}+ 災害関連支出の金額
② 家財の取得価額が明らかでない場合
損失額 = (家族構成別家庭用財産評価額※ × 被害割合) + 災害関連支出の金額
- ※
- 災害が始まった日の現況が、独身は一律300万円、夫婦の場合世帯主が29歳以下だと500万円、39歳以下だと800万円、49歳以下だと1,100万円、50歳以上は1,150万円。大人(年齢18歳以上)1名につき130万円を加算し、子供(年齢18歳未満)1名につき80万円を加算
(3) 車両に対する損失額の計算
車両については、生活に通常必要な資産と認められる場合に、雑損控除の対象となります。
なお、生活に通常必要であるかどうかについては、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族が、専ら通勤に使用しているなど、車両の保有目的、使用状況等を総合勘案して判断することになります。
雑損控除の金額
次の(1)と(2)のうちいずれか多い方の金額です。
- (1) (損害金額+災害等関連支出*の金額-保険金等の額)-(総所得金額等)×10%
- (2) (災害関連支出※の金額-保険金等の額)-5万円
- ※
- 災害等関連支出の金額
① 災害により滅失した住宅、家財などを取壊しまたは除去するために支出した金額など
② 盗難や横領により損害を受けた資産の原状回復のための支出など
災害等関連支出は②を含むが、災害関連支出は①のみ。
災害減免法(税額減免)とは?
災害減免法は、昭和二十二年法律第百七十五号(災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律)に基づき、災害により住宅又は家財について甚大な被害を受けた者の所得税そのものを直接軽減・免除する税額控除です。
雑損控除と違い、盗難や横領は対象外となります。
その年の所得金額の合計額(総所得金額等から特別控除を差し引いた後の金額)が1,000万円以下で、かつ、住宅や家財の損害金額(保険金等による補填後)がその価値の2分の1以上である場合に適用されます。
災害の範囲
災害とは、次のいずれかの場合をいいます。
- (1)震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
- (2)火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
- (3)害虫などの生物による異常な災害
住宅や家財の範囲
「住宅」とは、自己または扶養親族が常時起居する家屋をいい、別荘のようなものは含みません。2か所以上の家屋に自己または扶養親族が常時起居しているときは、そのいずれをも住宅とします。
常時起居している家屋に附属する倉庫、物置等の附属建物は、住宅に含めます。
納税者(扶養親族を含みます。)の日常生活に通常必要な家具、じゅう器、衣服、書籍その他の家庭用動産をいうものとし、書画、骨とう、娯楽品等で生活に必要な程度を超えるものは含まれません。
損失額の計算
災害減免法による税金の軽減免除における住宅又は家財について生じた損害金額がその住宅又は家財の価額の2分の1以上であるかどうかは、被災時の時価により算定することとされていますが、損害を受けた資産について個々に損失額を計算することが困難な場合で損失額の合理的な計算方法(雑損控除における損失額の合理的な計算方法)により計算した結果、損害金額(保険金等により補てんされる金額を除きます。)が住宅又は家財の2分の1以上であれば、災害減免法による税金の軽減免除を受けることができます。
所得税の軽減または免除
住宅や家財の損害金額(保険金等による補填後)がその価値の2分の1以上である場合に、所得金額の合計額に応じて、その年の所得税額が以下のように免除・軽減されます。
その年限りの特例措置であり、翌年への繰り越しはできません。
- 500万円以下:全額免除
- 500万円超 750万円以下:50%軽減
- 750万円超 1,000万円以下25%軽減
どちらを選ぶ?「雑損控除」と「災害減免法」
災害等で大きな被害を受けたとき、どちらの制度を選べばより多くの税金が戻ってくるかは、「その年の所得」と「損害の大きさ」によって変わります。
所得が1,000万円を超える、または「盗難」の場合は自動的に【雑損控除】
災害減免法は所得1,000万円以下、かつ災害限定の制度です。これらに該当しない場合は、選択の余地なく雑損控除の一択になります。
所得が比較的低く、半壊以上の場合は【災害減免法】が有利になりやすい
例えば、所得が500万円以下で自宅が半壊以上の被害に遭った場合、災害減免法を選べばその年の所得税が「ゼロ(全額免除)」になります。
「高所得者」や「損害額が大きすぎて1年で引ききれない」なら【雑損控除】
年収が高く所得税率が高い人ほど、所得控除である雑損控除の「税金を安くする効果(節税効果)」は大きくなります。
また、住宅の全壊など損害額が数千万円規模になり、1年の所得を大きく超える場合は、翌年以降3年間にわたって繰り越すことができる雑損控除が有利になります。
生活に通常必要ない資産はどうなる?
災害による損失の優遇措置(雑損控除など)が受けられるのは、通常は「生活に通常必要な資産」に限られます。
しかし、それ以外の「生活に通常必要でない資産」にも救済規定があります。
譲渡所得の金額から控除できる
災害又は盗難若しくは横領により、生活に通常必要でない資産として政令で定めるものについて受けた損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)は、その損失を受けた日の属する年分又はその翌年分の総合課税の譲渡所得(特別控除50万円を控除する前の金額)から控除することができます。
生活に通常必要でない資産とは
生活に通常必要でない資産とは、主に、通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産とされています。
居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものは、賃貸用ではない、自分が使用する別荘が該当すると考えられます。
家屋は不動産ですから、通常であれば分離譲渡内の内部通算のみとなるところですが、災害又は盗難若しくは横領により損失を受けた場合は総合譲渡所得から控除が可能となっています。
万が一の災害時、お持ちの別荘やコレクションが被害に遭ってしまった場合は、その年や翌年に資産の売却予定がないか、税金の負担軽減の可能性を確認しましょう。
確定申告書等作成コーナーでシミュレーションを
雑損控除と災害減免法のどちらを適用するかを決めかねている場合、まず国税庁の「確定申告書等作成コーナー」などのシミュレーションを利用し、両パターンで税額を計算して比較するのが最も確実です。
被害の規模が大きく判断に迷う場合は、早めに税務署や税理士などの専門家へ相談しましょう。

