記事の要約
- 相続放棄は、家庭裁判所に受理される前なら取り下げられるが、受理された後は原則として撤回できない
- 詐欺・強迫、未成年者などによる単独での放棄、錯誤といった事情があれば、例外的に取消しが認められることがある
- 取消しもできない場合は、「無効」を主張できる事情がないか確認し、ほかの相続人からの贈与も検討する
「故人に借金があったから相続放棄をしたのに、後から多額の預貯金や不動産が見つかった」
「兄弟に言われて相続放棄したけれど、やっぱり撤回したい」
このように、相続放棄をなかったことにしたいと悩む方がいらっしゃいます。
結論からお伝えすると、家庭裁判所に受理される前であれば、申述を取り下げて手続きを止められます。
一方、受理された後は原則として撤回できず、「取消し」が認められるのも、詐欺・強迫や錯誤などの限られたケースのみです。
ただし、取消しができない場合でも、「無効」を主張できる事情の確認や、ほかの相続人からの贈与といった選択肢が残されているので、あきらめずに検討してみましょう。
この記事では、受理の前後でできることと、取消しが認められるケースを具体的にお伝えします。
なお、私たちVSG相続税理士法人では、相続に関するお悩みに無料でお答えしています。何かお困りのことがあれば、下記からお気軽にご連絡ください。
目次
相続放棄は撤回できる?

相続放棄を撤回できるかどうかは、家庭裁判所に申述が「受理される前」か「受理された後」かによって変わります。
受理される前であれば、申述を取り下げて手続きを止められます。
一方で、受理された時点で相続放棄の手続きは完了するため、たとえ熟慮期間※1の途中であっても、自分の意思で撤回することはできません。
- ※1
- 自分が相続人になったことを知ったときから3カ月以内の、遺産を相続するか放棄するかを決めるための期間

以下では、相続放棄の撤回について、詳しく見ていきます。
なお、この記事では、「撤回」「取下げ」「取消し」「無効」という4つの言葉が登場します。
それぞれ以下のような意味なので、混同しないよう注意しながらご覧ください。
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 撤回 | ■ 申述が受理された後に、自分の意思でなかったことにすること ■ 原則として、認められていない |
| 取下げ | ■ 家庭裁判所に受理される前に、申述を引き下げること ■ 受理前であれば可能 |
| 取消し | ■ 詐欺・強迫・錯誤などの事由があるときに、後から効力を失わせること ■ 限られた場合にのみ認められる |
| 無効 | ■ 「本人の意思に基づかない」など、最初から効力がないこと ■ 該当する事情があれば、後から主張できる |
裁判所の受理前なら「取下げ」で止められる
家庭裁判所へ相続放棄の申述書を提出してから受理されるまでの流れは、おおむね次のとおりです。
- 相続放棄申述書と添付書類を、故人の最後の住所地の家庭裁判所に提出する
- 家庭裁判所から「照会書(回答書)」が届いたら、質問に回答して返送する
- 家庭裁判所が内容を審査する
- 家庭裁判所が申述を受理し、「相続放棄申述受理通知書」が届く
家庭裁判所が申述を受理する前までなら、相続放棄の申述を取り下げることが可能です。
取下げをしたいときには、申述書を提出した家庭裁判所に「取下書」を提出します。
なお、申述書を提出してから受理されるまでの期間は、一般的に「数週間から1カ月」程度です。
裁判所の受理後は原則として撤回できない
相続放棄の申述が家庭裁判所に受理された後は、原則として撤回できません。
民法では、相続の承認や放棄は、熟慮期間の3カ月以内であっても撤回できないと定められています。
民法
第919条 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。引用元 民法 | e-Gov 法令検索
相続放棄があると、「次の順位の人が相続人になる」「債権者が請求できる相手が変わる」といった影響が生じます。
このため、相続放棄を簡単に覆せてしまうと、周りの人の立場が安定しなくなってしまいます。
そこで、次のような理由では、相続放棄の撤回は認められません。
- 相続放棄した後に、預貯金や不動産などの財産が見つかった
- 相続放棄した後に、気が変わった
- ほかの相続人に頼まれて相続放棄したが、やめたくなった
ただし、相続放棄に至った事情によっては、撤回とは別の「取消し」という形で、放棄をなかったことにできる場合があります。
次の章では、取消しが認められるケースをお伝えします。
【例外】相続放棄の取消しが認められるケース

相続放棄は「撤回」はできませんが、例外的に「取消し」が認められることがあります。
取消しが認められる主なケースは、次の3つです。
各ケースを詳しく見ていく前に、取消しができる「期限」と「手続き」を確認しておきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期限 | ■ 「追認できるとき」から6カ月以内 ■ 追認できるときとは、「だまされていたことに気付いたとき」や「未成年者が成年に達したとき」などを指す ■ ただし、この期限内であっても、相続放棄から10年を経過すると取り消せなくなる |
| 手続き | ■ 相続放棄の申述をした家庭裁判所に、「取消しの申述」をする ■ 「詐欺の証拠」や「後見開始の審判を受けていたことがわかる書類」など、取消事由を裏付ける資料も求められる |
なお、相続放棄の取消しは、事由があれば必ず認められるものではなく、実際に認められる例は多くありません。
そこで、取消しをお考えの場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
それでは、相続放棄の取消しが認められる主なケースを見ていきましょう。
ケース1:詐欺・強迫によって放棄させられた

ほかの相続人などにだまされたり、脅されたりして相続放棄をした場合は、取消しの対象になります。
- 「故人には借金しかない」と嘘を言われて、放棄した
- 「相続放棄しないと家族の縁を切る」などと脅されて、放棄した
このケースで取消しが認められるかどうかは、だまされた・脅されたことを裏付ける証拠が残っているかが鍵になります。
「メッセージのやりとり」や「録音」などがあれば、保管しておきましょう。
ケース2:未成年者や成年被後見人などが単独で放棄した

「判断能力に法律上の制限がある人」が、必要な手続きを踏まずに単独で相続放棄をした場合も、取消しの対象です。
- 未成年者が、親権者などの法定代理人の同意なく放棄した
- 成年被後見人が、本人だけで放棄した
- 被保佐人が、保佐人の同意なく放棄した
- 後見監督人がいるのに、後見人がその同意を得ずに、本人を代理して放棄した
ケース3:錯誤(重大な思い違い)で放棄した

「錯誤」とは、重大な思い違いをしたまま、意思表示をしてしまうことです。
「借金があると思って相続放棄をしたが、実際には財産のほうが多かった」というケースでは、この錯誤による取消しを検討することになります。
ただし、「思い違いがあった」というだけでは取り消せません。錯誤による取消しが認められるには、主に次の条件を満たす必要があります。
- 思い違いが、放棄するかどうかの判断を左右するほど重要なものだった
- 「借金があるから放棄する」といった放棄の理由が、申述書などで示されていた
- 本人に、重大な不注意(重大な過失)がなかった
このため、「財産の調査が不十分だった」というだけでは、認められにくいのが実情です。

司法書士からひと言
実際にも、「放棄した後に預貯金が見つかったので、錯誤で取り消せないか」というご相談をいただくことがあります。
錯誤が問題になりやすいのは、「多額の借金がある」とほかの人から聞かされて放棄したものの、実際には借金がなかった場合など、誤った情報をもとに判断したケースです。
ご自身の状況で主張できるか迷ったときは、放棄に至った経緯をメモにまとめたうえで、専門家にご相談ください。
相続放棄を撤回できないときにとれる対応は?

相続放棄の「撤回」も「取消し」もできないとわかったとき、現実的にとれる選択肢としては、次の2つが挙げられます。
以下では、それぞれの対応について詳しくお伝えします。
対応1:「無効」を主張できる事情がないか確認する

次のようなケースでは、相続放棄が「無効」となり、最初から効力がなかったと主張できる可能性があります。
- 知らない間に、ほかの相続人などが申述書を偽造して、相続放棄の手続きをしていた
- 相続放棄をした時点で、重度の認知症などにより判断能力を欠いていた
いずれのケースも、「相続放棄が本人の意思に基づいていないため、効力が認められない」という考え方です。
無効を主張するには裁判などで争う必要があるため、弁護士のサポートを受けながら進めるのが一般的です。
対応2:ほかの相続人に財産を贈与してもらう

無効を主張できる事情もない場合、遺産を受け取るには、相続した人から「分けてもらう」ことを検討することになります。
相続放棄をした人は、「はじめから相続人でなかった」ものとみなされるため、遺産分割協議に参加して財産を受け取ることはできません。
そこで、「ほかの相続人がいったん財産を相続し、その後で相続放棄した人に渡す」という形をとることになります。
ただし、この場合は「贈与」にあたることから、「贈与税」が課される可能性があります。
贈与税については、下記の記事で詳しくお伝えしているので、併せてご覧ください。
相続放棄の撤回に関するよくある質問
Q1:申述を取り下げた後、もう一度放棄できる?
Q2:相続放棄の取消しが認められたら、相続税の申告はどうなる?
Q3:相続放棄の撤回を未然に防ぐためには?
まとめ|相続放棄は基本的に撤回できない
今回は、相続放棄の撤回や取消しについてお伝えしました。
- 相続放棄は、家庭裁判所に受理される前なら取り下げられるが、受理された後は原則として撤回できない
- 詐欺・強迫、未成年者などによる単独での放棄、錯誤といった事情があれば、例外的に取消しが認められることがある
- 取消しもできない場合は、「無効」を主張できる事情がないか確認し、ほかの相続人からの贈与も検討する
相続放棄は、一度受理されるとやり直しが難しい手続きです。
ご自身の状況で何ができるのか迷ったときは、専門家に状況を整理してもらってはいかがでしょうか。
私たちVSG相続税理士法人では、相続に関するご相談を無料で受け付けております。何かお困りのことがございましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。

