東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
狭い道や見通しの悪い道などでは、注意深く運転していても誤って車をガードレールに擦ってしまうことがあります。
ガードレールのような公共物を損壊した場合、車やバイク・歩行者などの「相手」がいる事故の場合と異なり、どのように対処すればよいかわかりにくいのではないでしょうか。
今回は、車をガードレールに擦ったときの対処法や、ガードレール弁償費用・車の修理費用の相場などを解説します。
目次
ガードレールに車を擦ってしまったときは、次のように対処しましょう。
まず、車を道路脇などの安全な位置に移動させてから、被害状況を確認します。
被害状況を確認するときは、後続車両に危険を知らせるために発炎筒や三角標識などを置き、二次被害防止に努めてください。
なお、法令上、自動車には、故障や事故によって車が動かなくなった場合に備えて、発炎筒(非常信号用具)を備えることが義務づけられています(道路運送車両保安基準第43条の2)。
安全確保を行ったら、被害状況を撮影し、できるだけ詳しく記録しておきましょう。
被害状況を確認したら、必ず警察に連絡しましょう。
交通事故が発生したときに、以下の事項について警察に報告することは道路交通法第72条1項で義務づけられています。
ガードレールに車を擦った場合、一番やってはいけないのは「当て逃げ」つまり、そのまま立ち去る行為です。
ガードレールに擦ったことに気づいて警察に連絡した場合は、物損事故扱いとなります。
前述の危険防止措置などの運転者の義務を果たしている限り、物損事故では減点も反則金もなく、刑事処分を受けることもありません。
しかし、当て逃げをしてしまうと、刑事処分と行政処分を両方科されることになるでしょう。
警察に検挙された場合、危険防止措置義務違反(道路交通法第72条1項前段・第117条の5第1項1号)により、1年以下の懲役または10万円以下の罰金刑が科せられます。
また、当て逃げ行為は違反点数が合計7点となり、運転者の前歴に応じて30日~90日の運転免許停止や、1年の運転免許取消処分が科されます。
当て逃げが発覚したときのことを考えて、ガードレールに擦った場合は必ず警察に連絡しましょう。
警察に連絡した後、加入している任意保険会社に連絡して、ガードレールに車をぶつけてしまった旨を伝えます。
その際、必ず事故発生場所の所在地も知らせましょう。
ガードレールの所有者(国または自治体)への連絡は、原則として保険会社が代行してくれます。
前述したように、ガードレールに擦ったときに警察に通報しない「当て逃げ」は厳禁です。
ここで、警察に通報しないリスクをまとめてご説明します。
当て逃げ行為は事故報告義務違反(道路交通法第72条1項後段・第119条1項17号)及び危険防止措置義務違反(同条1項前段・第117条の5第1項1号)に該当し、重い方の罰則である前者により1年以下の懲役または10万円以下の罰金刑が科せられます。
同時に、行政処分も科されることになります。
当て逃げ行為は違反点数が合計7点となり、運転者の前歴に応じて30日~90日の運転免許停止や、1年の運転免許取消処分が科されます。
警察への通報を怠ると、「交通事故発生証明書」の発行を受けられないため、保険会社に修理代の請求ができなくなります。
ガードレールに擦った車がカーシェアやレンタカーの車両だった場合、警察への通報を怠ることは規約違反となります。
ガードレールの弁償費用は保険・補償の適用外となり、車の修理費用も実費を請求される可能性が高いです。
また、カーシェアの場合、会員資格を停止またははく奪されるおそれもあります。
ガードレールに擦った場合、道路法第58条により、運転者がガードレールの弁償費用を負担します。
ガードレールの弁償費用には、ガードレールの実費だけでなく、工事費用も含まれます。
ここでは、ガードレールの弁償代や車の修理費用の相場を解説します。
ガードレールの弁償費用は、ガードレール代に加えて、工事費用も負担しなければなりません。
ガードレール本体の修理費用は、形状や強度によって異なりますが、1mあたり2万円~5万円程度が相場です。
多くのガードレールは3~4mで1セットになっているので、実費だけで10万円を超えることも少なくありません。
また、工事費用として5万円~10万円程度かかります。
ガードレールに擦った車の修理費用は、パーツごとに相場が異なります。
ここでは、車体の中で擦り傷がつきやすいパーツごとの修理費用の相場をご紹介します。
バンパーは、柔らかい樹脂素材でできているため、傷がつきやすく、またひび割れなども起こりやすくなっています。
これは、あえて樹脂素材を使うことで、衝突の衝撃を吸収して運転者や同乗者、接触した物への衝撃を抑えるためです。
ドアは車の中でも大きな面積を占めるため、ガードレールに擦った場合に損傷しやすいパーツです。
また、ドアの内部はパワーウインドウの配線や、サイドエアバッグ配置のために空洞になっています。
このため、軽い擦り傷でもへこみが生じることがよくあります。
フレームは、車の骨格部分にあたるパーツで、大きく分けて「モノコックボディ構造」と「ペリメーターフレーム構造」の2種類があります。
現在の乗用車の構造は、モノコックボディ構造が主流です。
モノコックボディ構造 | ペリメーターフレーム構造 | |
---|---|---|
特徴 | フレームとボディが一体化している構造 ボディの損傷がフレームにも伝わるためフレームがゆがみやすい | フレームにボディを後付けしている構造 フレームとボディが独立しているため、ボディが損傷してもフレームがゆがみにくい |
修理費用 | 高い | 比較的安い |
フレームを修理する際には周囲のパーツを外す必要があり、解体・組み立ての工賃がかかるため修理費用が高くなります。
軽い擦り傷の修理だけでも、最低10万円はかかると思っておきましょう。
エアロは、車の空気抵抗を減らすパーツです。
バンパーと同様、樹脂でできているため損傷を受けやすいのですが、修理は比較的簡単にできます。
また、修理費用も比較的安く済むでしょう。
ガードレールに車を擦った場合、注意する点の1つとして「自賠責保険が使えない」ことがあります。
ここでは、ガードレールに車を擦った場合に、保険を利用するか否かの問題を解説します。
まず、前述したように、ガードレールに接触する事故は「物損事故」となります。
物損事故に対しては、自賠責保険の適用は受けられません。
自賠責保険が適用されるのは、人身事故に限られるためです。
任意保険に加入していない場合、ガードレールや車の修理費用がすべて自己負担になるので注意が必要です。
また、車両保険に加入している場合も、保険の種類によっては適用を受けられない場合があります。
車両保険には、大きく分けて「一般型」と「エコノミー型」の2種類があります。
ガードレールに擦った場合、その原因によっても異なりますが、エコノミー型の場合は適用が受けられない可能性が高いです。
加入している任意保険がどちらのタイプにあたるかを、事前に確認しておきましょう。
任意保険が適用できる場合でも、多くの場合等級が3等級ダウン、事故あたり係数適用期間がプラス3年となり、保険料の割引率が下がってしまいます。
保険を利用した場合に翌年以降の保険料がどのくらい上がるかがわからない場合、保険会社に依頼して試算してもらいましょう。
ガードレールは、車が衝突した際に変形することで衝撃を吸収し、被害の拡大を防ぐ役割を果たしています。
あえて変形しやすい造りになっているため、擦った程度でも修理が必要な程度に損傷を受けてしまいます。
ガードレールに接触したことに気づいたら、必ず停車し、安全措置をとった上で警察に連絡してください。
もし事故直後に連絡を怠った場合でも、できるだけ早く連絡することで、事故証明書の発行を受けるとともに、事故報告義務違反・危険防止措置義務違反による処分を免れる可能性があります。
「当て逃げしてしまったが、今から警察に連絡できるか」「保険が適用されない場合、修理代を払うのが難しい」など、ガードレール接触事故でお困りのことがありましたら、交通事故を専門とする弁護士にご相談ください。