東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
交通事故の件数は年々減っています。
しかし、そのうち高齢者による交通事故は緩やかに増加傾向にあり、死亡事故・重大事故の割合は増えている状況です。
高齢化に伴い運転者の平均年齢も上がっていく中、2019年には池袋で起きた高齢者による大きな事故が注目され、高齢者の事故はいまや大きな社会問題になっています。
この記事では、高齢者の事故が起きやすくなる原因や防止する方法、交通事故が起きてしまった場合の対処法などを紹介していきます。
目次
交通事故全体件数や、高齢者による事故の状況および推移を簡単に紹介します。
国内の交通事故の発生件数は年々減っており、平成30年では約43万件、令和4年では約30万件となっています。
死者の数も同様に減少傾向にあり、平成30年では3,532人、令和4年では2,610人です。
高齢者による死亡事故の件数は、平成21年に422件、令和元年では401件で、その間も400~500の間を推移しています。
全体の事故の総数は減っていますが、そのうち高齢者の事故割合が増えている状況です。
内閣府の推計によると、65歳以上の人口の割合は増え続け、令和24年にピークとなり、約3人に1人が高齢者になると予想されています。
運転免許保有者における高齢者の割合も増え続けるため、高齢ドライバーの交通事故問題はしばらく続くことになるでしょう。
ではここで、高齢度ドライバーによる交通事故の事例を見ていきましょう。
池袋暴走事故とは、2019年4月19日、東京都豊島区東池袋で発生した交通事故の呼称です。
当時87歳の男性が運転する車が交差点に進入し、計11人が死傷(うち死者2人)しました。
事故の原因について、加害者側は車の電子系統の故障であると主張しましたが、裁判ではブレーキとアクセルの踏み間違えと認定されています。
運転者は事故の約1年前から足が不自由で杖を使うこともあり、パーキンソン症候群の疑いもありとして医師からは「運転は許可できない」と言われていました。
そのような状況下での事故ということもあり、この事故をきっかけに、高齢者ドライバーによる交通事故への関心が急激に高まりました。
また、この事件を契機として、高齢ドライバーによる免許返納の件数も増加しましたた。
2021年11月、大阪府狭山市のスーパーの敷地内で、乗用車が暴走して3人を死傷(うち1人が死亡)する事故が発生しました。
運転席にいたのは、当時89歳の男性です。
事故当時、車は停車中でしたがサイドブレーキをかけておらず、ブレーキペダルを踏んでいた足の力が緩んだことが事故のきっかけになりました。
運転者の証言によると、妻がトランクを開ける際に(ブレーキが緩んで)車が動き出したため、アクセルを踏んでいると勘違いし、慌ててブレーキを踏もうとしてもう一方のペダル(アクセル)を踏んでしまったとのこと。
サイドブレーキをしなかった油断と、加齢による筋力の低下から発生した事故と言えるでしょう。
高齢者ドライバーが交通事故や法令違反(交通違反)をしやすい理由は、以下のことが考えられます。
老化にともない認知症になると、以下のような症状が現れます。
また、気づかずに進行していると、運転中に自宅や目的地への道がわからなくなることもあり得ます。
認知症の予防方法はまだ確立されていないため、完全に予防することは困難であるとされています。
年齢とともに、様々な疾病のリスクが高まります。
運転中に持病による心不全や脳出血、呼吸困難などの症状が出ると、事故に繋がりやすくなります。
身体能力、筋力の低下も、交通事故の原因になります。
ブレーキを踏もうと思ってから実際に踏むまでの時間が長くなると、ブレーキが間に合わずに追突する恐れや横断歩道・交差点に侵入してしまいます。
また、足の力が弱くなることでブレーキが緩み、車が動きだして事故になることがあります。
その他、視力・動体視力が低下して判断が遅れるケースや、ハンドル操作が追い付かないといったケースも考えらえます。
老化によって様々な判断が遅れがちになり結果として無理な割込みや進入をしてしまうことがあります。
また、長年の運転経験による慣れや過度な自信によって、こうした状況が引き起こされやすくなります。
以下では、高齢者ドライバーが起こしやすい事故の原因・交通違反の例を紹介します。
直接的な原因で最も多いのが、操作ミスです。
このうち高齢者に最も多いのがハンドルの操作ミス、次いで多いのがブレーキ・アクセルの踏み間違いとなっています。
運転者の多くは「私は踏み間違いなどしない」と思っているでしょう。
しかし実際にあった事例のとおり、ブレーキを踏んでいた足が緩むことで車が動き出したのちに、アクセルを踏んでいると思い込み、慌ててもう一方のペダル(本当のアクセル)を踏んでしまうようなケースもあります。
こうしたパターンを知っておくことで、回避できる可能性を少しでも上げておくことが大切です。
安全不確認とは、一時停止や徐行をした際に周囲の確認を怠り、近くの車や歩行者等を見落とす・発見が遅れた場合を言います。
慣れや過信によって安全確認をし忘れ事故につながることがあります。
考え事をしている場合や、運転中にカーナビやスマホを利用するなど、よそ見・脇見によって前方不注意となり、事故が引き起こされるパターンも多いです。
老化による体力低下、疲れ、慣れによる油断などがこうした不注意に繋がります。
高齢者ドライバーによる交通事故を減らすには、どのような対策があるでしょうか?
以下で詳しく紹介します。
高齢者マークをつけるのは、最も簡単で、有効な対策です。
マークがあれば一目で高齢者だと確認でき、『初心運転者等保護義務』の対象となるため、周囲の車はより注意して運転する必要があります。
高齢者マークの貼り付けは、70~74歳までは努力義務、75歳以上は義務化されています。
なお、70歳未満の方がつけても問題ありません。
60歳以上の方や、若い方が祖父母を載せて運転する場合なども、つけておくとより安心できるでしょう。
購入は免許センター等の公的な機関か、多くの100円ショップでも手に入ります。
また、ご当地キャラクターがプリントされたものなどもあるため、ご家族に高齢者がいればプレゼントするのもいでしょう。
高齢者の方は、他の交通機関で代用できるならば運転しないのも対策となります。
早めの免許返納をご検討ください。
また、ご家族や周りの方から免許返納を促すことも大切です。
認知症と診断されたら、運転免許の停止または取消になります。
しかし、医師の診断を受けたがらない人もいるでしょう。
その場合、そのまま運転を続けると事故のリスクはどんどん上がっていきます。
また、事故が起きた場合、運転者本人に責任能力がないと判断されると、本人以外の家族が賠償責任を負う可能性もあります。
認知症の兆候が少しでもあると感じたら、それ以降は定期的に医師の診断を受けることをおすすめします。
なお、免許更新期間が満了する日に75歳以上となるドライバーは、免許更新の際に認知機能検査等が義務づけられています。
眼科検診を定期的に受ける他にも、普段の健康に気をつけましょう。
視力だけでなく、動体視力も老化とともに落ちていき、自覚なく緑内障などで視野が狭くなることもあるため、眼科には定期的に通い、自分に合った眼鏡をかけるなどの対策が必要です。
また、食生活が普段の健康状態の他、ストレス・認知症の進行にも影響するとされています。
近年では高齢者の方も使いこなす方が増えているスマホ等のIT機器も、長時間使用すると脳機能が低下するといった研究結果も出ています。
普段の生活習慣に気をつけ、安全運転を心がけましょう。
セーフティ・サポートカーとは、自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ/AEBS)を搭載した車の愛称です。
また、ペダル踏み間違い時加速抑制や、車線逸脱警報などを搭載した車もあるため、こうしたサポート装置が充実した車を選ぶとよいでしょう。
公益財団法人交通事故総合分析センターの調査レポートによると、保有10万台あたりの対四輪車への追突事故件数は、AEB搭載によって62.9%減っています。
また、対人事故も、19.3%減少しています。
(※いずれも軽乗用車、第2世代AEB、2016年~2018年の調査による数字)
自動ブレーキは、2021年11月以降の新車には搭載が義務化され、海外の輸入車や既存モデルの車両にも徐々に義務化が進んでいます。
過度な自信は油断につながりやすいため、危険です。
誰でも歳をとり、判断力は日に日に少しずつ落ちていきます。
「今ブレーキを踏めば間に合う」と思っても、反射神経や筋力の衰えから、思っているよりもタイミングが遅れることがあります。
歳をとるごとに判断力が落ちるものと自覚し、事故が起こらないように丁寧な運転を心掛けましょう。
高齢者に限らず、運転中は他の車と距離を取ることが大切です。
また、駐車場などで停車する場合も、エンジンのかかっている高齢者マーク付きの車の正面や後ろには入らないようにしましょう
前述したように高齢者の事故原因はアクセル・ブレーキの踏み間違いや不注意が多く、急発進の可能性が高くなります。
通りぬける必要があるときは、その場所を回避する習慣をつけるとよいでしょう。
なお、こうした高齢者マークへの対応については、特に失礼と感じる必要はありません。
危険を回避することで、誰も事故の当事者とならずに済むでしょう。
事故を直接防ぐ方法ではないですが、事故後の対応や賠償には任意保険が必須です。
必ず加入しておきましょう。
以下、高齢者ドライバーによる事故に巻き込まれたときの対処法を、簡単に紹介します。
高齢者マークが見えるなどして、運転者が高齢者だと確認できる場合には、より安全の確保を最優先で行い、二次被害が出ないようにしましょう。
前述したように高齢ドライバーは、慌ててさらにペダルを踏むなどして車がまた動き出す可能性が高くなります。
特に、車の前後(進行方向)には絶対に入らないでください。
交通事故は、道路交通法によって警察への報告義務があります。
まずは警察を呼び、事故後の対応を行ってもらいましょう。
その後は加入する保険会社へ連絡し、相手方の連絡先を聞くなどの対応を行います。
怪我が重い場合には救急車を呼ぶか、軽い怪我または症状がない場合でも、基本的には当日中に病院に行き、治療または検査を受けるようにしましょう。
交通事故にあったら、弁護士に連絡することが大切です。
事故後は、治療費の清算や保険会社・警察とのやりとり、後遺障害の認定申請など、様々な手続きが待っています。
また加害者・被害者どちらにとっても、法的に適正な解決を図ることは、気持ちを整理する一つのポイントになります。
交通事故が起きてしまったら、弁護士に一度ご相談ください。
中年層・若年層の方も、いずれ歳をとります。
高齢者ドライバーによる交通事故の問題は、他人事と考えずに、社会全体で取り組むことが大切です。
免許を取って最初の頃は、運転に慣れることで技術が向上しますが、年齢とともに身体能力や判断力が落ちると、慣れが油断になることもあり得ます。
高齢となった場合には免許返納をするか、若いうちから免許返納について決めておくことも、効果的な事故対策になるでしょう。
また、自分が運転しなくても、高齢者による事故に巻き込まれる可能性があります。
そうした場合に備え、高齢者ドライバーが事故を起こしやすい状況を理解し、できる対策を確認しておくことが大切です。
運転する際には、初心にかえって、安全第一で運転しましょう。