東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
2020年からの新型コロナウィルス感染症のまん延防止のため、テレワークや外出自粛などからデリバリーサービスによって食事の配達を依頼する消費者が激増しています。
特にオンラインでのフードオーダー・デリバリー・プラットフォームサービスとして米国で始まったウーバーイーツ(Uber Eats)は、2016年に日本に導入されてから利用者が順調に増加して、その配達員を見かけることが多くなりました。
ただし、新しいビジネス形態であるウーバーイーツなどのサービスでは、法制度が追い付かずに消費者と配達員、運営会社だけではなく、配達中に第三者を交通事故被害に遭わせてしまったときの責任の所在について様々な問題が生じています。
この記事では、交通事故の加害者がウーバーイーツ配達員であるときの責任についてと事故被害に遭ったときの対処法やひき逃げ事故に遭ったときの対処法も併せて説明します。
目次
ウーバーイーツでは、運営会社が管理しているプラットホームシステムを介し、多くの注文者・飲食店・配達員をマッチングして、これまでの飲食店が提供してきたデリバリーサービスを広く一括して行います。
このプラットフォームサービスの特徴は、配達員とウーバーイーツ運営会社、飲食店に雇用契約や業務委託契約がなく、配達員が1回につき「基本配送料+インセンティブ」を報酬として受け取る仕組みとなっていることです。
しかし、この報酬の仕組みは、次の様な理由と合わせて配達員による危険行為を多発させ、交通事故を誘発させているともいわれています。
配達員に支払われるインセンティブは、昼食や夕食などの混雑時、雨天などの悪天時に上乗せされ、その時間帯にどれだけ配達回数を増やせることが高収入を得られるカギとなります。
配達員は、夜間や悪天候時に配達回数を増やそうと必死になって、交通マナーに反した危険行為を行った結果、交通事故の加害者となってしまっています。
配達員は、配達マッチング(依頼)をスマホのアプリを介して受けることになりますが、この依頼がアプリに配信されると、これを受けるか否かを短時間で返信しなければならないシステムになっています。
配達員の中には、道路を走行中にスマホを操作している人も多く、前方不注意のため歩行者や他の車両に接触・衝突したケースも多く存在しています。
この行為は道路交通法で禁止されている通称「ながらスマホ」と呼ばれている違法行為に当たります。
ウーバーイーツ配達員は、運営会社から雇用されているわけではないため、その収入が完全歩合制となっています。
そのため、少しでも収入を増やそうと長時間労働をして、肉体的・精神的に疲弊している人も多くいるといわれています。
この様な状態では、身体的反応や判断能力が鈍り、配達中に交通事故を起こしてしまう可能性が高くなります。
それでは、ウーバーイーツの配達員が交通事故を起こして加害者となったときに、その被害者に対する責任については、誰が負わなければならないかを検討します。
飲食店の出前では、その店の従業員が配達することが一般的であるため、配達中の交通事故については被害者に対して雇い主が使用者責任による賠償義務を負うことになります。
また、元請会社から配送業務を受けていた下請会社が業務中に起こした交通事故についても、業務を委託した元請会社が使用者責任を負うことがあります。
しかし、ウーバーイーツは配達員との雇用契約や業務委託契約がないとして、頑なに使用者責任について否定している現状があります。
下級審では、ウーバーイーツに対して使用者責任を追及する訴訟が提起された事例が存在しますが、この記事を執筆している段階では、使用者責任を認める判決に至っていません。
ウーバーイーツに対して使用者責任を追及する訴訟については、最高裁判所を含めた今後の司法判断に注目する必要があります。
配達員は、交通事故を起こした場合は当事者になりますので、過失に応じて被害者に対して賠償する義務を当然に負います。
このため、ウーバーイーツに使用者責任が認められなくても、被害者が配達員に対して損害の賠償を求めることができます。
また、ウーバーイーツでは、配達員が業務を行う上で必要な対人・対物賠償責任保険に加入していますので、被害者が賠償を受けられないということはありません。
ただし、この保険が適用されるのは配達中(配達員が配達リクエストを受けた時点から配達を完了、または配達をキャンセルした時点まで)だけになりますので注意が必要です。
配達中を除いた事故については、配達員が個人的に賠償保険に加入していないと、被害者が十分に賠償を受けられないおそれがあります。
配達員と注文を受けた飲食店には業務委託契約がないので、運営会社であるウーバーイーツに対する使用者責任の追及と同様に、被害者が注文を受けた飲食店に対して損害賠償を求めることが困難、または不可能だといえます。
ここからは、ウーバーイーツの配達員と交通事故を起こしてしまったときの対処法を説明します。
交通事故の当事者は、加害者・被害者によらず警察へ通報しなければなりません。
ウーバーイーツの配達員が自転車を運転していたときであっても、必ず警察へ通報することを忘れないでください。
警察が事故現場へ到着する間に、配達員が「配達を済まさなければならない」ことを理由に現場を立ち去ろうとすることが考えられます。
その場合は、その人が使用しているプラットホームのスマホアプリから配達のキャンセルが可能なので、キャンセルをして現場へ留まることを促してください。
ウーバーイーツの配達員の中には、自家用のバイク、軽自動車などを使用して業務にあたっている人もいます。
その場合は運単免許証やナンバープレートの情報を記録するようにしましょう。
また、配達員が自転車を使用していたときは、運転免許証など持っていないこともあるので、業務で利用しているスマホなどから連絡先などの個人情報を提示してもらうことをおすすめします。
そして、事故の目撃者、ドライブレコーダーの映像記録や現場周辺の防犯カメラの確認を忘れないようにしましょう。
前述したように、ウーバーイーツの配達員の中には「配達を終えないと収入にならない」という焦りに駆られてしまう人も少なくありません。
結果的に当て逃げやひき逃げの加害者となってしまう配達員もいるでしょう。
ここでは、仮にウーバーイーツの配達員からひき逃げの被害に遭ったときには、次の対処法をおすすめします。
人身事故では、刑事処分もなされるので警察の捜査が行われますが、特に加害者が事故現場から立ち去ってしまった「ひき逃げ」では、警察の捜査が徹底的に行われますので、必ず人身事故として届け出ましょう。
ウーバーイーツは、飲食店を中心にして、オフィスビルやマンション、住宅街など一定規模の街中を配達していることが多いので、事故の目撃者や現場周辺の防犯カメラも存在することが考えられます。
加害者の特定ために、第三者が保有する映像記録、目撃情報の提供してもらえるよう依頼することが重要です。
ウーバーイーツの配達員の中には、交通マナーを無視した危険行為や違反運転をして、交通事故の原因を作っていると批判されている人がいることは紛れもない事実です。
これら一部の配達員による交通事故の発生を減らすためには、1日でも早い法整備とウーバーイーツ運営会社の配達員や第三者への対応の改善が求められます。
また、この記事で紹介した配達員による交通事故は、典型的な交通事故事例に当てはまらないことも多いので、被害に遭われた場合には交通事故の問題解決に実績のある弁護士へ相談することをおすすめします。