東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
交通事故の示談書とは、事故の被害者と加害者双方が話し合い、合意した内容について記載した書面のことです。
交通事故の示談において「示談書」は非常に大切なものです。
「どう書いたらいいのか」「示談書を書く上でどこに注意したらいいのか」といった疑問を持つ方が多いかのではないでしょうか。
この記事では、物損事故による示談交渉を自ら行う際に、注意する点などを解説していきます。
目次
交通事故の示談交渉では、保険を使わずに自ら交渉を行うことは、メリットとデメリットの両方が存在します。
ケースによって異なりますので、注意が必要です。
保険会社にお金を出してもらうと、等級が下がり、結果保険料が高くなってしまいます。
修理代がわずかな場合などは、保険を使うとかえって損をしてしまうことがあるのです。
また、被害者側の保険会社であっても、他の案件で忙しいなどの理由で適当な対応をされてしまうことがあり、
保険会社同士で過失割合について交渉を行うと、交渉を早く終わらせるために、事故状況を十分に検証せず、適正でない過失割合で折り合うこともあります。
こういった事態を、自ら交渉を行うことで防ぐことができます。
交通事故による示談交渉を自ら行うとなると、大変な労力と時間がかかってしまいます。
また、相手によっては交渉が長引くこともありますし、不快な思いをさせられることも珍しくありません。
示談交渉の相手が、不誠実な人や中には脅迫紛いのことをする「善良ではない人」であることもあり得ます。
自分で交渉をするとなると、そういった危険性も考慮しておく必要があります。
交通事故に遭うと、大抵の場合は自動車保険に加入している保険会社が事故相手との示談交渉を行うことになります。
しかし、事故の種類によっては保険会社が示談交渉できない場合があります。
どういうことか詳しく見ていきましょう。
もらい事故とは、被害者に一切過失がなく相手方のみに過失のある交通事故です。
交通事故の場合、事故の当事者両方に過失があるケースがほとんどですが、当事者の片方のみに過失が認められるケースがあり、それがもらい事故です。
過失割合でいうと、相手方:自分方=10:0です。
たとえば、「信号待ちをしていたら一方的に追突された」「停車中に相手側が中央線を越えて接触してきた」などがもらい事故のケースとなります。
このもらい事故の場合、通常保険会社には示談交渉を代行してくれません。
これは弁護士法という法律により、弁護士以外の人間が報酬を受け取り、他人の法律事務を代行する業務を行ってはいけないと定められているからです(弁護士法第72条、第73条)。
もらい事故での示談交渉代行は、被害者であるという他人の示談交渉を行っていることになり、弁護士法保険に違反してしまうことになるからです。
示談交渉は、基本的には話し合いで行われます。
この話し合いでうまくまとまると「面倒な示談書を無理に作成しなくてもいい」と思うかもしれません。
しかし、この示談書は必ず作成することをおすすめします。
それは以下の理由によるためです。
示談というものは、そもそも民法でいう「契約」の一種であるので、原則として口約束でも成立することになります。
しかし後日になって、意図的か勘違いかはともかく「言った、言わない」の水掛け論になってしまった場合、どちらが正しいのか証明する方法がありません。
また、「交渉で決まった内容を変更したい」「払いすぎたから返してくれ」と言われてしまうと、せっかくまとまった話も振り出しに戻ってしまいます。
こうした問題が起こらないように、合意した示談内容を明確にし、具体的な内容を書面にしておくことでトラブルを回避することができます。
加害者側も被害者側も内容をしっかり覚えていたとしても、時間が経つと記憶が曖昧になることがあります。
そうしたときに、合意内容と違う行動や発言をしてしまうと、お互いに不安な気持ちになるかもしれません。
しかし、書面で具体的な内容を残しておけば、お互いに自分の責任や義務を自覚・認識することができます。
この示談書をマニュアルとすれば、合意内容について誤解を防ぐことができます。
示談書を交わしたら、必ずその内容の通り履行しなければならないと考えている方が少なからずいらっしゃいます。
しかし、示談書はいわゆる契約書の一種です。
契約は民法の規定により、下記のような場合には無効となることがあります。
詐欺または脅迫によって意思表示をして示談をした場合は、直ちに無効とはなりませんが、取り消すことができます。
示談交渉の場で、脅迫まがいの発言があった場合は弁護士に相談することをおすすめします。
また、民法第90条では「公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効」とされています。
少しわかりにくい表現ですが、簡単に言うと、「一般常識で考えて悪いと思うことはしてはいけない」ということです。
具体例を挙げると、暴利行為、倫理に反する行為、正義に反する行為、人権を侵害する行為などです。
交通事故などでは、示談の時は身体的にも特に異常がみられなかったが、後になって後遺障害などが起きる場合があります。
そのような場合には、必ずというわけではありませんが、示談合意した内容とは別に追加の損害賠償を認められることになります。
示談書を作成すると、示談金の金額や支払方法について、被害者・加害者双方が合意したということを書面に残す非常に重要なものです。
この示談書は一度作成して署名捺印をしてしまうと、撤回できなくなってしまいます。
後になって「内容を勘違いしていた」「金額を訂正したい」と思っても訂正することができず、後悔することになりかねません。
この示談書ですが、法律で決まった形式、書式はありません。
しかし、後日トラブルにならないよう、作成する際に必ず記載しなければならないことがありますので、注意が必要です。
当事者の氏名と住所を正確に記載しましょう。
当事者である被害者と加害者の名前を、フルネームで正確に記載することが必要です。
交通事故が起きたときの状況を詳細かつ正確に記載しなければなりません。
記載する具体的な内容は下記のものです。
ここで、間違った内容を記載してしまうと、示談書としての効力を失ってしまうこともあります。
そうならないよう正確に書くために、「交通事故証明書」を見ながら書くとよいでしょう。
この「交通事故証明書」は警察に届出を行い、そのあとに申請すると各都道府県の交通安全運転センターから発行してもらえます。
交通事故証明書は、事故が起きたという事実を証明する書類で、事故発生の日時、場所、当事者の氏名などが記載されています。
また、自分で作成せずに保険会社から示談書が送られて来る場合もありますが、交通事故証明書の通りに正確に記載されているか必ず確認しておくようしましょう。
まずは、事故の過失割合について記載しましょう。
この過失割合は、示談金の金額に大きな影響を与えるものとなります。
加害者と被害者が負うべき割合を「10:0」や「7:3」といった具合に記載します。
次に示談条件ですが、ここには示談金の金額と支払方法、支払いの金額について記載します。
事故によって生じた損害として、車の修理代やレッカー代、代車費用などを算出し、物損に対する補償を記載します。
示談金の金額ですが、保険会社が示談書を作成し送ってきた場合には注意が必要です。
保険会社としてもできる限り支払い金額を抑えたいという気持ちがあるため、本来被害者がもらえるはずの適正な金額より少額であるケースが多くみられます。
そのような場合は、弁護士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。
支払方法は、銀行の支店名や口座番号、支払いの期限について記載します。
最善の支払方法は全額を一括で支払ってもらうことですが、相手によっては難しい場合もあります。
仕方なく分割払いになる場合は、保証人を付ける、支払いがない場合に不動産などを強制執行手続きにより取り立てられるよう、示談書自体を公正証書にしておくとよいでしょう。
示談書を作成しお互いに合意したにもかかわらず、相手が期日を過ぎても示談金を支払わず、踏み倒す場合があります。
示談金の支払いが滞った場合に備え、示談金とはまた別に支払われなかった場合の違約金について記載しましょう。
この違約金については、年率○%の遅延損害金を支払う旨の条項を記載することが多いですが、この利率に関することや督促などは複雑なため、弁護士などの専門家に相談や確認をした方がよいでしょう。
この「清算条項」はあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、示談書において重要な意味を持ちます。
示談書は、いわば「事故に関する交渉に合意したことの証明書」です。
にもかかわらず、後になって「あなたにも過失があったのではないか」「やっぱり金額が納得いかないから返せ」と主張されると、何のために示談書を交わしたのかがわからなくなってしまいます。
こういったことを防ぐために、「この示談書で取り決めた内容で、今回の事故に関する交渉は終わりにし、この取り決め以外に、再度金銭などの請求をしない」といった旨を記載します。
原則として、この清算条項によって、示談が成立した後は示談金の追加の請求が認められなくなります。
清算条項の項目で述べたとおり、示談後は原則追加請求が認められません。
しかし、示談当時に予期できなかった、あるいは予期された以上に症状が悪化し後遺障害が発生するなど、著しく事情が変わってしまうことがあります。
そのような場合には、例外的に清算条項にかかわらず、損害賠償などの追加請求が認められる場合があります。
とはいえ、示談書に記載していない追加請求となれば、相手側も不満に思いトラブルになる可能性も高いので、予期していなかった後遺障害、後遺症について「留保事項」を入れておきましょう。
この留保事項は「もし示談書の締結後に後遺障害などが生じたときは改めて協議する」といった内容のことです。
後遺障害は、事故当初は「想像すらしていなかった」ということも珍しくありません。
後々のトラブル予防のためにも必ず記載しておきましょう。
示談書を作成する上で、注意しなければならないことがあります。
示談書作成は複雑であり手間がかかるため、つい手を抜いてしまいトラブルになってしまうケースが多くみられます。
無用なトラブルを避けるためにも、以下の注意点をみていきましょう
示談書を作成するときや、送られてきた示談書に署名捺印するときに大切なことが、被害の内容が判明してから示談を成立させることです。
保険会社によっては示談金をできる限り抑えたいと考えていますので、早めに示談をするよう求めてくることがあります。
交通事故に遭うと何かと時間も取られますし、精神的にも疲れるものです。
このときに保険会社から示談の申し出があると、断ること自体が面倒に思ってしまい、即座に示談してしまうことがあります。
そうなると、本来もらえるはずだった適正な金額よりもはるかに少ない金額で示談を成立させてしまう危険性があります。
示談成立後に修理箇所が新たに見つかるといったことも少なくありませんので、修理費などの被害額が確定してから示談交渉を始めた方がよいでしょう。
タイミングがわからない場合は、交通事故の示談交渉に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
示談書は契約書の一種ですので、法律的に拘束力があります。
とはいえ、「私文書」とされるので法的な拘束力は弱いといえます。
保険会社との間で示談をした場合はあまり心配ありませんが、当事者同士で示談をした場合は、示談はあくまで当事者同士で約束をしたというだけですので、示談書があったとしても相手側が示談金を支払わず踏み倒す可能性も考えられます。
ただ示談書があるというだけでは、強制的に示談金を支払わせることはできません。
このときに、示談書があるからと強引な方法で督促や取り立てをすると、逆に訴えられることもあります。
そのため、相手側が示談書の内容のとおり支払いをしない場合には、裁判手続きを行う必要があり、時間も手間もかかってしまいます。
こういったことを防ぐためにも事前に「公正証書」にしておくという方法があります。
この公正証書は、公証役場で公文書として作成された契約書のことであり、普通の契約書と比べて信頼性が高いものです。
公証役場で作成される際に、契約者が本人であるかも確認する手続きがあるので、相手側が契約書について知らないと主張しても争いになる心配がありません。
また、公正証書にしておくと、合意した内容の通りに金銭が支払われなかったときに、裁判の手続きをすることなく相手側の財産を差し押さえる強制執行が可能となり、裁判による手間を省くことができます。
ただし、公正証書を作成するには、公証人手数料や弁護士などの専門家への報酬など費用負担が必要となりますので注意が必要です。
示談書は「清算条項」の項目で解説したとおり、一度合意してしまうと後になって不満があっても訂正することができません。
示談成立後に、何があっても絶対に訂正できないというわけではありませんが、ほぼ不可能になります。
そのため自ら作成するときはもちろん、保険会社から示談書が送られてきたときは内容を慎重に確認し、少しでも不安や疑問な点があれば専門家に確認してもらうようにしましょう。
示談金の請求には時効があり、この時効が過ぎると、示談金を相手側に請求することができなくなってしまいます。
この時効期間ですが、民法第724条により定められており、物損事故の場合は「3年」となります。
交通事故の時効は、起算点が事故の内容によって異なり、物損事故の場合は基本的に事故の発生日が起算点とされます。
通常は時効が過ぎると示談はできませんが、刑事処分に影響することもあるので、被害者側の請求権が時効を過ぎていても、加害者側が賠償金などを支払いたいということで支払われるケースもあります。
ただ、これはあくまで加害者側が払いたいという場合であり、こちらからは請求できないので、時効には注意しましょう。
通常、示談の代理人として交渉するのは保険会社や弁護士、親族などですが、弁護士以外の人が報酬を得ることを目的として、他人の事件を処理することは保険会社を除き、弁護士法という法律で禁止されています。
にもかかわらず、「事件屋」「示談屋」と言われる人が、示談交渉に現れることがあります。
高額な報酬を得るために代理人となり、時には高圧的な態度で示談を有利に進めようとしてくる人もいます。
こういった類の人と示談交渉をすると余計なトラブルになることがありますので、事件屋や示談屋かもしれないという場合は、示談交渉自体を拒否した方がよいでしょう。
示談書は、交通事故の加害者と被害者の当事者双方が裁判所の手を借りず、話し合いによって解決し、その内容を書面にしたものです。
示談という方法は、複雑な裁判手続きをしなくても良いというメリットはありますが、例え「示談書」という形で書面に残していても、裁判所が間に入らないためトラブルになる可能性も高く、細心の注意と知識が必要になります。
少しでも不安があるなら、交通事故に強い弁護士に相談することも視野に入れた方が良いかもしれません。
依頼料はかかりますが、それを上回る金額の示談金引き上げをしてもらえる場合もありますし、何より一人で示談交渉を進める不安を解消してもらえます。
示談書は誰でも作成することができるものではありますが、記載内容に不備があると大変なトラブルを引き起こすこともあります。
もし、自分で作成するのであれば、様々な可能性を考慮し、万全な注意を払い作成するようにしましょう。