たった一度の交通事故による後遺症で、生活が一変してしまうことも少なくありません。
頚椎など神経が集中している箇所に大きな衝撃が加わることにより、脳に障害がおきてしまう後遺障害もあります。
脳は複雑な器官なので、脳の障害といっても症状は多種多様。
後遺障害慰謝料請求の場面では、脳の障害は高次脳機能障害と総称されます。
それでは、高次脳機能障害とはいったいどのような症状なのでしょうか。
今回は「高次脳機能障害」についての症状について詳しく解説していきます。
「高次脳機能障害」は、交通事故や病気、手術など何らかの外的な要因によって脳組織に損傷が生じてしまい、結果として、言語・思考・記憶・行為・学習・注意など、脳の知的活動に障害が生じてしまった状態をいいます。
交通事故による高次脳機能障害については、大きく5つの症状が被害者の方に現れます。
記憶には短期的記憶と長期的記憶があるといわれています。
どちらの記憶にしても、物事を一定期間覚えておく能力に障害が発生するのが記憶障害です。
まるでアルツハイマーの患者さんのように、物をどこに置いたかわからない、他人と約束したことを忘れてしまう、新しいことを覚えられない、「夕ご飯はまだ?」など何度も同じ質問を繰り返すというような特徴があります。
日常生活に支障を生じますが、自分ではなかなか気が付きにくいので、ご家族に交通事故の被害者の方がおられる場合は、注意してみてあげるようにしましょう。
脳に損傷を受けることで、注意力や集中力が衰えてしまう注意障害も高次脳機能障害のひとつ。
例えば、仕事や家事など必要な作業を長く続けることができない、データ入力などの単純作業にミスが多くなる、忘れっぽくなる、目の前のことに集中できないため他の人の行動にちょっかいを出す、2つのことを同時に進行できなくなるなどの症状がでます。
仕事など労働能力に支障がでてくるので、会社でトラブルになったりしてしまう懸念もあります。
物事を進めるためには、段階を追ったり、段取り、計画をしたりして進める複雑な脳内の作業が必要です。
しかし、脳に障害を負うことで、脳内の作業がができなくなってしまうことがあります。
具体的には、段取りをつけて物事を行うことができない、細かなことまで他人から指示を受けないと行動できない、物事の優先順位がつけられないので些末なことにとらわれるなどの症状です。
仕事や家事のパフォーマンスに大きな影響を与えてしまうことが考えられます。
生活をしていくには、他者とうまく助け合ってコミュニケーションをとりながら生きていく必要があります。
しかし、脳の障害によって社会的行動についても支障がでてしまうこともあります。
例えば、すぐ他人を頼る依存の傾向、年齢にかかわらず子供っぽくなる、自分の本能や欲求を理性でコントロールすることが難しくなって、我慢ができない、何でも欲しがる、収入にみあわない浪費をするなどの問題行動を起こすようになります。
喜怒哀楽を適切な範囲にコントロールすることができなくなり、やたら怒りっぽくなったり、急に笑い出したりするなど、躁鬱のような症状が現れることもあります。
また、手を洗い続けるなど、ひとつの物事が頭から離れなくなり、他人からみると異常なこだわりをみせることもあります。
コミュニケーション能力が低下し、相手の立場や気持ちを考えられない発言を繰り返して孤立してしまう、意欲の低下や抑うつなどが続くうつ病のような症状が出る場合も同様です。
これらの症状は、もともとの性格や他の精神病との見分けがつけにくいという特徴です。
事故後、家族の性格が別人のように変わってしまったと感じられる場合は、高次脳機能障害の可能性を疑ったほうがよいかもしれません。
高次脳機能障害の症状は、仕事、家事、付き合いという人間の日常生活に大きな支障をもたらすものです。
しかし、患者本人が自覚しにくい病気を心理的に認めづらいのも特徴です。
また、骨折などのように画像や見た目からすぐに後遺障害の有無を診断できないこともあるので、他人や家族も気づきづらい特徴もあります。
障害の程度によっては、生存のために必要な行動もままならないということもありますので、周りが注意をして早めに発見し、適切な医療ケアを受けることが重要です。
被害者の方が受診を嫌がるなど、難しい問題もありますが、家族が上記のような症状があるように思われた場合は、まずは早期に医療機関を受診することをおすすめします。
高次脳機能障害について詳しく知りたい方は「高次脳機能障害とは」を参照してください。
高次脳機能障害の原因には、病気や事故などさまざまなものがあることをご存知でしょうか。
そのなかでも、主な原因は以下のようなものが考えられます。
病気が原因となって引き起こされる場合、病名で示すと、脳卒中脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など。
また、脳が細菌やウイルスなどの感染による脳炎や心筋梗塞により脳に酸素不足が原因の場合もあります。
高次脳機能障害の原因として、上記のような病変によって引き起こされることが圧倒的に多いのが特徴です。
続いて交通事故による各種運動障害が挙げられます。
交通事故による高次脳機能障害は、主に脳外傷を理由としています。
高次脳機能障害について認定される可能性がある後遺障害等級は、以下のとおり。
重症な順から、常に介護を要する著しい機能または精神的障害である1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号と続いていきます。
後遺障害等級の番号が若いほど、高額な慰謝料を受け取ることができるので、申請にあたっては十分に書類を吟味し、適切な等級認定が受けられるようにしましょう。
後遺障害等級について詳しく知りたい方は、「部位・障害・障害の程度によって違ってくる後遺障害等級」を参照してください。
高次元機能障害の慰謝料は上述した精神障害の等級によって決まってきます。
等級の番号が低いほど慰謝料の相場は高額になります。
しかし同じ等級でも慰謝料は3つの異なる基準があります。
どれを採用するかによって、受け取ることができる金額は大きく違います。
3つの基準はそれぞれ自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準といい、自賠責基準が最も安い慰謝料の金額となり弁護士基準が一番高い金額となります。
任意保険基準は、保険会社によって違いますが、やや自賠責保険基準によった中間の基準と言えるでしょう。
例えば障害等級5級の場合、慰謝料の基準は以下のようになります。
詳しくはこちらのページで解説していますが、保険会社と交渉を行う場合、まず始めに自賠責基準での金額を提示されます。
事故の被害に遭った時、自分で保険会社と交渉を行おうとすると、上述した自賠責基準や保険会社が基準とする任意保険基準の金額が提示されます。
しかし上述した慰謝料の基準を見ての通り、最も多く慰謝料を受け取れる基準は弁護士基準です。
また、高次元機能障害となるような重大な事故は慰謝料だけでなく医療費や入院費、傷害慰謝料、将来介護費用など様々な損害項目が絡んできます。
事故の被害に遭った際に、適切な賠償金を得るにはやはり専門知識があり、被害者の味方になってくれる弁護士に相談するのが良いでしょう。
人間の知的活動に大きな影響を与える高次脳機能障害について、特徴や該当する後遺障害等級などについてご参考になれば幸いです。
交通事故の後遺症については、交通事故の被害者の代理人経験数が多い弁護士に解決を依頼することがおすすめです。
平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属
骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。