東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
スマホの普及により、ワイヤレスイヤホンを装着する人が多くなっています。
一方で、車両の運転中にイヤホンで音声を聴くことには、周囲の音が聞こえにくくなる、イヤホンの音声に気を取られて注意力散漫になるなどのリスクがあります。
今回は、車の運転中にイヤホンをするのは法令違反になるか、どのような罰則が科されるかなどを解説します。
また、Bluetoothがないときにスマホで音声を聴く方法についても解説しますので、参考にしてください。
目次
車の運転中にイヤホンをする行為に対してですが、イヤホンを使用して音楽などを聴く行為そのものを禁止している法律や条例はありません。
イヤホン使用に関して、法令違反が問題になるのは、以下の状況で事故を起こした場合です。
では、順にみていきましょう。
まず、イヤホン使用によって、周囲の音や声がよく聞こえない状態で運転していたことが原因で事故を起こした場合です。
道路交通法では、車の運転中にイヤホンを使う行為自体は禁止されていません。
道路交通法第70条は、車両運転者に対して、以下の安全運転義務を定めています。
「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」
イヤホンを使っていたために、適切な運転ができずに事故を起こした場合、同条の安全運転義務違反となる可能性があります。
各都道府県条例では、イヤホンの使用を具体的に規制したものがあります。
たとえば、神奈川県・茨城県・福岡県の条例※では「イヤホン等を使用して音楽を聴くなど、安全な運転に必要な音または声が聞こえない状態」で車両を運転することを禁止しています。
ここでいう「安全な運転に必要な音または声」とは、クラクションや救急車・消防車・パトカーのサイレン、警察官による指示のことです。
いずれも、違反が発覚した場合は反則金を科せられるので注意してください。
※神奈川県道路交通法施行細則第11条5号
茨城県道路交通法施行細則第13条16号
福岡県道路交通法施行細則第14条8号
それでは、イヤホンを使用してスマホで通話する場合はどうでしょうか。
まず、運転中にスマホを手に持った状態で通話することは、道路交通法第71条5の5により禁止されています。
ただし、同条項で禁止される「運転中の通話行為」は、「(携帯電話などが)その全部または一部を手で保持しなければ送信も受信もできない場合」に限られています。
このため、イヤホンを使用してハンズフリーで通話する場合、通話行為そのものは道路交通法違反になりません。
しかし、ハンズフリー通話が原因で事故を起こした場合には、同法第70条の安全運転義務違反となる可能性があります。
車の運転中にイヤホンをしていた場合、道路交通法第70条違反及び、都道府県条例違反の罰則が科されます。
警察庁の交通事故統計上、道路交通法第70条の安全運転義務違反は、以下の7つに区分されます。
1操作不適 | 車の操作を誤ること(ブレーキとアクセルの踏み間違い、ギヤの入れ違いなど) |
2前方不注意 2a漫然運転 (内在的前方不注意) 2bわき見運転 (外在的前方不注意) | 前方に対する注意が足りない状態で運転すること 考え事などにより注意力や集中力が低下した状態での運転 カーナビ・スマホ操作、物を取ろうとするなど、他方に注意を向けた状態での運転 |
3動静不注視 | いわゆる「だろう運転」:相手当事者を認識したが、動静に対する注視を怠ったこと |
4安全不確認 | 前方・後方・左右の安全確認を十分に行わないこと |
5安全速度違反 | 曲がり角など状況に合わせて速度を落とす義務に違反すること |
6予測不適 | 歩行者や対向車などの動きを予測せずに運転すること |
7その他 | 故意の蛇行など、対向車や歩行者に危険が伴うおそれがある運転をすること |
このうち、イヤホン使用が原因の事故に該当するのは、主に「漫然運転」と「安全不確認」でしょう。
同条に違反した場合、同法第119条1項14号により、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金刑を科される可能性があります。
また、違反点数として、基礎点数(安全運転義務違反)の2点に加えて、以下の違反点数が科されます。
交通事故の種別 | 当該違反行為をした者の不注意が主な原因で事故が発生した場合の点数 | 左欄以外の場合における点数 |
---|---|---|
死亡事故 | 20 | 13 |
傷害事故(負傷者※の要加療期間3カ月以上または後遺障害が存するもの) | 13 | 9 |
傷害事故(同・30日以上3カ月未満) | 9 | 6 |
傷害事故(同・15日以上30日未満) | 6 | 4 |
傷害事故(同・15日未満) | 3 | 2 |
※負傷者が2人以上の場合、最も負傷程度が重い者の要加療期間とする
(参照元:警視庁 )
条例で「音声が聞こえない状態での運転」が禁止されている地域で違反行為を行うと、「公安委員会遵守事項違反」とみなされ、5万円以下の罰金が科せられます。
このように、車を運転するときは、イヤホンの使用は控えるべきでしょう。
それでは、Bluetoothなしで、スマホで音楽を聴くことはできるでしょうか。
ここでは、Bluetoothがないときにスマホを聴く方法を解説します。
Bluetoothなしでスマホの音楽を聴く一番簡単な方法は、スマホを車のスピーカーに直接接続することです。
やり方は、スマホと車のスピーカーをイヤフォンジャックやUSBケーブルで接続するだけです。
音楽アプリで好きな曲を再生すれば、高音質で音楽を楽しめます。
ただ、この方法はスマホの機種によっては使えない場合があります。
お持ちのスマホが使える方法かは、あらかじめ確認しておきましょう。
他に、FMトランスミッターを使用するという方法もあります。
FMトランスミッターとは、スマホやMP3などの音声信号をFMラジオ波に変換して、カーラジオで受信できるようにする装置です。
スマホとFMトランスミッターを接続して、FMラジオの周波数を合わせれば音楽を再生できます。
現在、スマホとBluetooth接続したイヤホンで、音楽などを聴きながら運転する方は少なくないのではないでしょうか。
多くの条例で「運転に必要な音や声が聞こえない状態での運転」を禁止していますが、イヤホンを使用すればその状態になる可能性が高いと思っておいた方がよいでしょう。
イヤホン使用による運転が原因で事故を起こしてしまった場合や、事故の加害者がイヤホンを使用していた場合は、過失割合などで揉める可能性があります。
適正な内容の示談を成立させる上で、弁護士に相談されることをおすすめします。