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会社解散・清算時における残余財産の分配の税金・会計処理まとめ

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

この記事でわかること

  • 残余財産の分配を行う会社の税金計算や会計処理を知ることができる
  • 子会社から残余財産の分配を受けた会社の会計処理がわかる
  • 現物で残余財産の分配が行われた場合の考え方を知ることができる

子会社を保有する会社が、子会社を政策的に整理・統廃合し、今後の事業展開を変革することがあります。

そのような場合、会社の清算を行い、会社をたたむ手続きを行うことも考えられますが、この場合倒産とは違い、会社自体は財産を保有しているため、その財産を株主に受け渡すための処理を行う必要があります。

この記事では残余財産の分配を行うことで、どのような会計処理や税金計算が必要となるのか、解説していきます。

会社清算時の残余財産の分配とは

会社をたたむ際の手続きは、その会社に財産がある場合とない場合では大きく異なります。

財産がない場合は、いわゆる倒産となり、裁判所での手続きが必須となり、破産管財人による処理が行われます。

これに対して財産がある場合は、裁判所での手続きは必要ありません。

その代わり、清算人に就任した人が会社に残った財産を株主の保有株数に応じて分配することとされています。

会社の財産を株主に分配することを「残余財産の分配」といい、財産が残った会社は必ず行わなければなりません。

残余財産の分配を株主に行った際の税金・会計処理

解散・清算した会社から、株主に対して残余財産の分配を行った場合、その会社にはどのような課税関係が生じるのでしょうか。

残余財産の分配を行った会社の税金や会計処理について、解説していきます。

残余財産の分配を行った会社自体には課税はない

まず大前提として確認しておきたいのは、残余財産の分配を行ったことでその会社に課税関係は生じないということです。

残余財産の分配を行ってもその会社に利益はないことから、考えてみれば当然のことです。

ただ、会社が残余財産を分配する際に、株主に課税関係が生じる場合があり、会社としても注意しなければならないことがあります。

みなし配当が発生するかどうかを確認する

株主は、会社を設立する際、あるいは会社が増資した際に、会社に対して出資をしています。

そのため、残余財産の分配で株主に支払われる金銭の中には、その出資した金額に相当する部分と、それを超える部分があります。

出資した金額に相当する金額は、会社に対する出資金額の払い戻しであり、課税対象とはなりません。

一方、出資した金額を超えて支払われる金額は、株主に対する配当とみなされ、課税対象となります

そのため、残余財産の分配を行う際に、株主に対して分配される金額からみなし配当が発生するかどうかを計算する必要があります。

みなし配当が発生するかどうかを確認するためには、残余財産の分配額と出資金額に相当する金額(資本金等の額)を比較します。

そして、残余財産分配額の方が資本金等の額より大きい場合には、その差額がみなし配当となるのです。

一方で、残余財産分配額より資本金等の額の方が大きい場合には、みなし配当は生じないこととされます。

みなし配当がある場合は源泉徴収を行う

みなし配当が発生する場合、税務上は会社から株主に対して配当が行われたのと同じと考えられます。

そのため、通常の配当を支払う場合と同じように、支払配当金から所得税を源泉徴収しなければなりません

非上場会社の場合、みなし配当の額×20.42%が源泉所得税の税率となります。

残余財産の分配(みなし配当あり)の計算例

たとえば、残余財産が5,000万円、資本金等の額が1,000万円の場合、残余財産の分配による支払は以下のようになります。

  • (1)みなし配当の額
    5,000万円-1,000万円=4,000万円
  • (2)源泉所得税の額
    4,000万円×20.42%=816.8万円
  • (3)株主に交付される金額
    5,000万円-816.8万円=4,183.2万円
  • (4)税務署に納付する源泉所得税
    816.8万円

子会社等から残余財産の分配を受け取ったときの税金・会計処理

子会社の株式を保有する親会社が、その子会社を解散・清算して残余財産の分配を受けることがあります。

この場合、その子会社の株式を100%保有しているかそうでないかにより、税務上の考え方は大きく異なります。

100%子会社から残余財産の分配を受けた場合

すべての株式を保有する子会社のことを、完全支配関係のある子会社(完全子法人)といいます。

完全子法人が解散・清算して残余財産の分配を受ける場合は、通常の処理とは大きく異なります。

親会社が完全子法人から残余財産の分配を受ける場合、子会社株式の帳簿価額を譲渡対価とみなすものとされます。

また、残余財産の分配額と帳簿価額との差額について、会計処理上は株式消滅損や株式消滅益を計上することとなります。

しかし、税務上は株式消滅損や株式消滅益を損金や益金に計上することはできません

その代わり、親会社の資本金等の額を減少または増加させることとされています。

なお、子会社株式の帳簿価額=譲渡対価とされるため、残余財産の分配を受けてもみなし配当は発生しません。

(例)帳簿価額2,000万円の子会社を解散・清算し、残余財産を2,500万円受け取った場合

会計処理現金 2,500万円子会社株式 2,000万円株式消滅益 500万円
税務処理現金 2,500万円子会社株式 2,000万円資本金等の額 500万円

この場合、当初の出資金額より多くの金額を受け取ることにより、会社の純資産が増えたと考えるのです。

100%子会社以外の子会社から残余財産の分配を受けた場合

100%子会社以外の子会社の場合、税務上完全支配関係にあるとはいえません。

この場合は、通常の残余財産の分配と同じように会計処理、税務処理が行われます

みなし配当が発生するケースもあるので、注意が必要です。

現物で残余財産の分配を行った・受け取ったときの税金・会計処理

解散・清算した会社が、現金ではなく不動産や有価証券などの現物資産を分配する場合があります。

この場合、現物分配された資産を残余財産確定時の時価により譲渡したものとして譲渡損益を計上します。

たとえば、帳簿価額100万円の子会社株式(持株割合50%)が解散し、時価80万円の有価証券の分配を受けると以下のようになります。

有価証券 80万円  / 子会社株式 100万円
株式消滅損 20万円

なお、完全子法人から残余財産の分配として、現物分配を受けることも考えられます。

完全子法人から受ける現物分配は適格現物分配と呼ばれます。

この場合、税務上は子会社の帳簿価額により譲渡が行われたものとされます。

そのため、親会社が現物分配により取得した資産の取得価額は子会社の帳簿価額となり、譲渡損益は発生しません

たとえば、帳簿価額100万円の子会社株式(持株割合100%)が解散し、時価80万円の有価証券の分配を受けると以下のようになります。

有価証券 100万円  / 子会社株式 100万円

会社解散・清算の税務上の注意点

最後に、会社が解散・清算する際の税務上の注意点を解説していきます。

税務署に対して必要な手続きも多くあるため、すべての手続きを忘れずに行うようにしましょう。

税務署に届出を提出する

会社の解散を株主総会で決議し、解散登記を行ったら、税務署に解散したことを届け出なければなりません。

また、残余財産が確定し、その分配も終えて清算結了登記を終えた後も税務署に清算結了の届け出を行います。

届出を行わないことによる罰則はありませんが、税務署に正しく報告をしなければ後から問い合わせが来ることとなります。

申告を行うタイミングは最低2回ある

解散から清算結了までの一連の流れの中で、税金計算を行って申告書を提出しなければならないのは、少なくとも2回あります。

  • (1)解散した日から2か月以内に行う解散確定申告
  • (2)残余財産が確定した後に行う清算確定申告

また、残余財産の確定までに1年を超える場合には、1年ごとに申告しなければなりません。

みなし配当が発生する場合は源泉所得税の納税義務がある

残余財産の額が、株主が出資した金額を超える場合はその超えた部分の金額は配当と同じ扱いとなります。

配当金を支払う場合、会社は配当金の額から所得税を源泉徴収する必要があります。

源泉徴収して源泉所得税を納付しなければならないのは、残余財産の分配を行った会社です。

源泉所得税の納付や、支払調書の作成を忘れないようにしましょう。

まとめ

子会社の解散・清算を行う場合、その子会社が完全支配関係にある会社かそうでないかにより、税務上の取扱いは大きく変わります

残余財産の分配を受けた親会社は、その持株割合に応じて会計や税務上の処理を変更しなければなりません。

また、残余財産の分配を行った会社も、みなし配当の有無を確認するなど、しなければならないことは沢山あります。

会社がなくなってしまうため、後から問い合わせを受けることのないよう適切に処理を進めていきましょう。

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