東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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Contents
破産申請は、債務者自らが申請する自己破産が一般的ですが、債務者に代わり債権者が申し立てることも可能です。
破産法第18条では、債権者・債務者どちらでも破産申請できると定められているのです。
一般的ではないとはいえ、債権者破産の実例で巨額詐欺事件のニュースが記憶に新しいところでしょう。
こちらの章では、債権者破産の利用が少ない理由と手続きに必要なことを説明します。
債権者破産の利用数が少ない理由は、債務者の本意で申請しないために必要資料の提供やサポートが望めないことです。
また、債務者が継続的に支払い不能であること、もしくは資産より借金が多いことを債権者が疎明しなければならず、大変手間がかかります。
疎明とは、デジタル大辞泉の解説で「確信ではなく、確からしいという推測を裁判官に生じさせる当事者の行為」のことを言います。
疎明が必要な理由として、債務者が支払い不能ではないのに、威圧的な行為で破産濫用を抑制するためです。
債権者は、債務者が破産に相当すると裁判所へ理解させるために、説明材料となる資料を準備します。
支払い不能と債務超過の疎明には、支払い能力不能、資産より負債が多額であることを裁判所が認識できるものを指します。
債務者の決算書等の入手は難しく、開示されている不動産登記事項証明書に設定されている抵当権によって負債の疎明とするでしょう。
資産の疎明をするにあたって、債務者の資産調査は極めて困難であり、裁判所で財産開示申請します。
破産手続きによって、全資産は換金処分後に債権者へ均等に分配されます。
とはいえ、負債の全額を徴収できるケースは少なく、破産申請した債権者にとってそれほどメリットがあるとは言えません。
後述しますが、債権回収以外の意図で債権者破産を利用することがあるのです。
事例ジャパンライフ社の債権者破産
2,000億円にも及ぶ巨額の負債を抱えて破綻したジャパンライフ社は、レンタルオーナー商法による詐欺で1万人もの被害者を出しました。
2020年12月に5回目の債権者集会が開かれ、管財人により同社の不動産を処分し、6億円程度は回収されましたが、回収された分は未納の税金に充当される見込みで、被害者への配当は難しいようです。
同社の債権者破産は、債権者が債権回収と新たな被害者を出さぬよう、会社の消滅を目的とした破産申請のケースと言えます。
債権者が債務者に代わって破産するには、得られるメリットや目的があります。
こちらの章では、債権者にとって、債権者破産を利用するメリットについて説明します。
債権者破産では、債権者が不良債権を損金処理しオフバランス化します。
オフバランス化とは、資産や負債を貸借対照表からなくすことです。
未回収の債権が貸借対照表から消えることにより、無駄な資産が消滅し財務のスリム化が実現できます。
債権は、回収の見込みがなくても会計上は売上ですので、売上に対して法人税が発生します。
法人税の実質的な所得税負担率は、おおむね35%程度かかるため、未回収の債権があると税負担が重くのしかかってきます。
そこで、直接償却により不良債権をオフバランス化し、損失計上後に貸借対照表から消滅させます。
オフバランス化により、自己資本比率が改善し、外部からの企業評価や信用力を高めることへの繋がりが期待できます。
強制執行による資産の差し押さえが困難なときに、債権者破産を利用します。
強制執行は強い効力があり、債務者の資産を突き止めて債権回収しますが、多くの差し押さえは難しい場合があります。
また、強制執行の適用は裁判所へ申請し、訴訟・支払い督促により債務名義を得て、強制執行の対象となる資産特定が必要であり、労力がかかることが予測できます。
破産手続きでは、管財人が債務者の全資産を調査するため、隠れた資産が判明し、より多くの債権を回収します。
債権者にとっては、全額回収は叶わなくてもある程度の分配を得られます。
債務者によっては、債務超過状態であっても資産を処分・換金するケースがあります。
勝手に処分されると、債権者に分配する債権が少なくなるので債権者に不利益を与えるでしょう。
債権者破産を申請すると、否認権行使によってすでに換金済の資産でも取り戻せます。
否認権とは管財人が持つ権利であり、破産者の行為を否定し資産の流出を防ぐのです。
債務者の負債額が多くても経営自体に問題がない場合、会社を継続しながら徴収する民事再生を適用します。
破産手続きから民事再生への変更には、過半数を占める債権者の了承が必須であり、会社存続に値する裏付けと支払い能力の根拠が必要です。
たとえば、ワンマン経営により不透明な負債で経営を圧迫している会社があります。
これは経営者の問題であり、会社自体は利益を得る構造であれば、新経営者のもと会社の建て直しを見込めるでしょう。
民事再生では、裁判所で負債の減額により経営再建し、民事再生後の負債残高を債権者へ支払っていきます。
会社存続により経営利益が確保でき、債務の返済を受けられますが、従来あった債権より減ることは免れません。
債権者により破産手続きされると、債務者にとってデメリットがあります。
こちらの章では、債務者に起こるデメリットについて説明します。
債権者破産は、破産開始決定前に代理人弁護士による資産・債権調査がなく、通常の自己破産よりも時間を要します。
債務者は、破産開始により社会的な影響を受けるため、債務者の見解を述べる時間も設けられるでしょう。
債務者が破産を考えていない場合、支払い不能の否認・破産に至る原因について異議を唱えるなど反発が起こるため、手続きが長くなりがちです。
また、破産手続きが始まると、就業制限などにより一時的に就けない職業や資格があります。
債務者は、意図しないタイミングで破産申請されるので事前準備ができません。
自分で申請する場合なら、あらかじめ事前準備してから手続きするでしょう。
破産申請により口座が凍結されるため、銀行口座の変更や現金は引き出し不能となります。
また、破産申請を知った後に、現金の引き出しや資産を売却するなどの行為は、管財人による否認権行使の対象です。
債務者が破産前に資産を意図的に減少させた場合は、管財人の権限で原状回復されます。
債務整理には、破産以外に任意整理で借金を決着する手段がありますが、債権者に破産申請されてしまうと選ぶ余地がありません。
破産の要件は、支払い能力がないと判断された場合に限ります。
債務者に支払い能力があると認められると、債権者による破産申請は棄却されます。
債務者に安定した所得があるなら、任意整理で債権者に個別交渉できます。
また、債権者から破産申請されても、破産開始決定前であれば個人再生の手続きが可能です。
個人再生の場合、支払い不能に陥る前に申請可能であり、毎月安定した所得があると利用することができます。
ここからは、債権者破産申立の流れと要件について解説します。
債権者破産は、債務者の居住地の管轄内にある裁判所に申請します。
申請書類の他に必要な書類と申請にかかる費用を持参します。
また、修正がある場合に備えて印鑑も持っていきましょう。
破産手続申立書には、次の書類の添付が必要です。
陳述書は申立て先の裁判所によって書式は異なりますが、基本的に空欄を埋める形式となっています。
商業登記簿謄本は、破産者の登記情報が記載されている書類です。
申請書と手数料額に相当する収入印紙(書面請求の場合600円)を貼付して法務局にて請求してください。
債権証書は、申立人の破産者に対する債権債務を証明する書類のことで、借用証書などのことです。
裁判所に申請後、債務者と債権者両方に裁判所での面接があります。
一般的な破産申請とは違い、債務者は自らの意志により破産申請しておらず、言い分や反発があるでしょう。
債権者側は、なぜ債務者の破産手続きが必要なのかという根拠を説明します。
審尋では、双方から聞き取りと実際の資産・負債状況の確認作業があります。
裁判所より、資産の仮差押えによる保全処分が実行されます。
保全処分では、破産手続きが終わるまでの間、裁判所の命令により債務者の資産処分が阻止されるのです。
たとえば、債務者が所有する在庫品処分を禁ずる保全処分を出すと、債務者の在庫品は換金処分ができません。
保全処分のあと、破産手続きの開始決定が始まり、裁判所で管財人が選ばれます。
破産により会社は解散しますが、破産手続きが終わるまでは存続とみなされます。
管財人は、債務者の資産を処分・換金して現金化します。
債務者の資産を処分するにあたって、管財人と債務者は資産の中身や処分方法について話し合いをします。
破産手続きでは、債務者の資産を処分する権利は管財人に専属します。
破産者である債務者は、破産法による説明義務・重要財産開示義務があり、管財人に協力しなくてはいけません。
ただし、義務があるからといって、スムーズに進められないケースも多くあります。
破産に対して本意ではない債務者が手続きを進めることに非協力的になることもあり、一般的な破産手続きよりも時間を要するのです。
管財人は、換価された資産を債権者へ配当します。
換価して得られた資産は、債権者が有する債権額に応じて平等に分配されます。
債権者破産の場合、管財人に支払う報酬である予納金が返還されるケースは非常に稀です。
債権者破産で必要な申立費用は、予納金が100万円以上と裁判所費用がかかります。
ここからは、債権者破産に必要な費用について説明します。
一般的な破産手続きよりも、管財人による調査などに手間と時間も要するため、高額になります。
債務者の負債の全体像は債権者側からは分かりづらく、申立人が知り得る範囲となるため、申立人の持つ債権額と債務者の不動産担保額が基準になります。
負債総額(債務者) | 予納金 |
---|---|
5,000万円未満 | 100万円 |
5,000万円~1億円未満 | 200万円 |
1億円~5億円未満 | 300万円 |
5億円~10億円未満 | 400万円 |
10億円~50億円未満 | 500万円 |
50億円~100億円未満 | 700万円 |
100億円~250億円未満 | 800万円 |
250億円~500億円未満 | 1,000万円 |
500億円~1000億円未満 | 1,000万円以上 |
1000億円以上 | 1,300万円以上 |
一般的な自己破産申請よりも、割高になっています。
弁護士に依頼する場合は、別途弁護士費用がかかります。
今回は、債権者が申請する債権者破産についてまとめました。
本来、破産申請は自己破産が一般的でありますが、極めて少ないケースで債権者破産を利用することもあります。
債権回収の目的以外にも債権者破産が使われていますが、望み通りの結果が得られない場合もあります。
債権者破産するには、予納金の負担と長い時間がかかるため、得られるメリットが目的を果たすものであるか、充分検討しましょう。