東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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破産というと、個人の借金整理の手続きというイメージがあるかもしれません。
しかし、破産手続きは個人だけでなく、法人の債務整理にも利用されます。
法人であっても、破産という手段を用いて債務整理をすべきケースもあるでしょう。
ただ、法人にとって破産を選択するというのは一大事です。
破産申立をすべき状態に陥っているのに、なかなか意思決定ができない場合もあるのではないでしょうか。
法人として破産の意思決定ができない場合に認められているのが「準自己破産」です。
この記事では法人の破産の意義、準自己破産について詳しく解説します。
準自己破産について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
まず、破産の法的な意義と、準自己破産の意義について確認します。
支払不能または債務超過にある法人の財産等の清算を、破産法という法律にのっとって行うのが、破産手続きです。
法人が自ら破産を申し立てることを自己破産と呼びます。
債務超過とは、法人の債務について、その財産をもって完済することができない状態をいいます。
本来は、法人が自己破産を申し立てるには、「法人」という団体の意思を決めるための手続きが必要です。
たとえば、「株式会社A」という法人が自己破産を申し立てる場合、株式会社A全体として、自己破産申立の意思決定をおこなわなければなりません。
しかし、そのような全社的な意思形成が整わないケースもあります。
準自己破産とは、全社的な意思形成が整わない場合に、準債務者と呼ばれる人が単独で申し立てる破産をいいます。
次に、準債務者になれる人を確認します。
株式会社の場合、取締役または清算人が準債務者となることができます。
これは、取締役や取締役会の同意が得られない場合でも、株式会社が破産を申し立てるべきケースもあるためです。
本来、株式会社が破産を申し立てるには、取締役会が設置されていない会社では取締役全員の同意が必要ですし、取締役会設置会社であれば、取締役会決議が必要です。
しかし、破産申立に対して取締役の誰かが反対していたり、取締役会を開けなかったりするケースもあるでしょう。
また、株式会社が清算手続きに入っていると、取締役に代わって清算人が業務を取り仕切っています。
そこで、取締役の1人や、清算人が準債務者として準自己破産を申し立てることができるとされています。
その他の法人で、準債務者となれる人は、次の通りです。
株式会社以外の準債務者
一般社団法人・一般財団法人 | 理事、清算人 |
---|---|
相互会社(保険業法に規定する会社) | 取締役、清算人 |
合名会社・合資会社・合同会社 | 業務を執行する社員、清算人 |
次に、準自己破産と自己破産の違いを確認します。
準自己破産であっても、自己破産であっても、破産の法的な効力は同じです。
準自己破産を申し立てる人は、原則として「疎明」をしなければならないという点が自己破産と大きく違います。
「疎明」(そめい)とは、裁判所に「確からしい」と思ってもらえる程度に証拠提出などを行う行為です。
「証明」は裁判所に確信を持ってもらうための行為なので、「疎明」は「証明」よりは緩やかなイメージととらえるとよいでしょう。
疎明の対象は以下のとおりです。
準自己破産申立で「疎明」を必要とするのは、準債務者が法人に嫌がらせをする目的で準自己破産を申し立てるケースを防ぐ目的があります。
なお、「疎明」は、法人が自ら破産を申し立てる場合は必要ありません。
準自己破産が向いているのは、破産すべき経営状態なのに、何らかの事情で、会社自ら自己破産を申し立てないケースです。
例えば、次のケースが考えられます。
他の取締役が世間体を気にして自己破産に反対するケースがあります。
株主が取締役を兼ねている小規模な会社では、取締役が自己破産に反対することもあります。
会社が自己破産してしまうと、株式の財産価値がなくなってしまうためです。
このように、他の取締役が破産に反対しているケースでは、準債務者である取締役の1人による、準自己破産の申し立てが向いています。
また、取締役が行方不明であったり、取締役会招集に応じなかったり、取締役会が開けない場合、自己破産を決議することができません。
そのようなケースでは、準自己破産の申し立てが向いています。
会社が解散し清算中に、会社の債務超過が判明し、自己破産すべきケースもあります。
そのようなケースでは、清算人による申し立てが向いています。
準自己破産が向くケースかどうかについては、個々の会社の状況にもよるので、早めに専門家に相談するとよいでしょう。
次に、準自己破産申立のデメリット・注意点を見ていきましょう。
まず、準自己破産を申し立てた取締役と、他の取締役の関係が悪化するというデメリットがあります。
前述のとおり、準自己破産が利用されるのは、取締役会で取締役の過半数の同意が得られないなど、おおかたの役員が破産申立に反対しているケースです。
取締役の1人が「破産すべき」と判断して準自己破産を申し立てたとしても、他の取締役からすれば「余計なことをした」と反発が起こるでしょう。
準自己破産申立に反対する取締役から、妨害行為を受けるかもしれません。
また、準自己破産申し立ての際に行う疎明の資料を開示してもらえない可能性もあります。
債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明するためには、貸借対照表などの決算書類や預金通帳などの書類を提出しなければなりません。
しかし、準自己破産申立に反対する他の取締役が、疎明に必要な資料を隠匿してしまうおそれもあります。
そして何といっても、準自己破産を申し立てるデメリットは予納金の納付でしょう。
破産手続開始の申立をするときは、申立人は予納金を裁判所におさめなければなりません。
予納金とは、破産手続の費用として裁判所が定める金額のお金ですが、準自己破産では、申し立てた取締役個人が予納金を負担します。
この予納金が、準自己破産では高くなるケースがあります。
先述のとおり、準自己破産では他の取締役の協力が得られず、破産手続きに時間がかかる可能性が高いためです。
最後に、準自己破産の手続き方法と必要書類を確認します。
準自己破産を申し立てる場合、管轄裁判所に破産手続き開始の申立書を提出しなければなりません。
法人の破産手続き開始の申立書は、最高裁判所規則で定める事項を記載した書面を利用しなければなりません。
個人が利用する書式であれば裁判所のホームページに掲載されていますが、株式会社は利用できないので、注意してください。
破産手続き開始の申立書に記載する事項には、必要的記載事項と訓示的記載事項があります。
破産手続き開始の申立書に記載する事項
必要的記載事項 | 訓示的記載事項(例) |
---|---|
|
|
必要的記載事項のうち、申立の趣旨とは、法人について破産手続き開始を求める旨となります。
また、「申立人」は準債務者である取締役など個人です。
たとえば、A株式会社につき、取締役甲が準自己破産を申し立てるのであれば、申立人は甲個人です。
準自己破産申立の必要書類には次のようなものがあります。
代表的なものを示します。
準自己破産は法人の債務に関する手続きです。
破産手続きにおける債務者である法人の本店や代表者などは、登記事項証明書に記載されています。
そこで、準自己破産開始の申立書には、債務者の登記事項証明書を添付しなければなりません。
準自己破産開始の申立書には、下記の書類を添付しなければなりません。
ただし、これらの書類は破産手続開始の申立の日の直近において、法令の規定に基づき作成されたものに限ります。
つまり、最新の貸借対照表と損益計算書で、法令の規定に沿った形式のものが必要だということです。
破産開始の申立書には、法令に具体的に定められている書類を添付しなければならないのは当然ですが、裁判所から求められる追加の書類もあります。
裁判所は、破産手続の円滑な進行を図るために必要な資料を追加で求めることができます。
法人の自己破産と準自己破産の意義、準自己破産を申し立てることができる準債務者などについて見てきました。
法人の重要な行為については、法律で定めた方式で意思決定をおこなわなければなりません。
自己破産の申立は、賛否両論あってなかなか決定に至らないこともあるでしょう。
しかし、傷口を広げるよりも法人の破産という選択をすべき場合もあります。
そんなときに冷静に判断できる取締役に認められている手段が準自己破産です。
ただ、準自己破産の手続きには、疎明や他の取締役の妨害、高い予納金などのデメリットもあります。
一人で悩んで行動してしまうと、多大な負担を強いられるかもしれません。
任意整理や民事再生手続きなど、法人の倒産・再建には破産以外の方法もあります。
弁護士など専門家に依頼すれば、一番よい方向性を一緒に考え、導いてもらえるでしょう。
法人の債務や経営状態に危機を感じたら、広く倒産・再建について知見を有する専門家に相談することをおすすめします。