東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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経営状態や資金繰りが悪化した会社は、破産を選択することがあります。
破産した会社の債権者に対しては、裁判所から破産債権届出書という書類が送られてきます。
この破産債権届出書とはどのような書類なのでしょうか。
ここでは、破産債権届出書とはどのような書類なのか、そしてその記載方法や添付書類について解説していきます。
Contents
破産債権届出書とは、破産者に対して貸付金や売掛金などの債権を持つ者が、破産債権者として認められるために提出する書類です。
破産手続きを進める際には、破産しようとする者がどれくらいの負債を抱えているのかを確定させる必要があります。
しかし、破産者が負債の額を報告すれば手続きを進めることはできますが、本当にその金額が正しいかを調べるのは大変な作業です。
そこで、債権者から債権の種類や金額・発生原因などを届け出ることとしており、その際に用いるのが破産債権届出書なのです。
破産債権届出書を提出しなければ破産債権者とは認められず、その後の手続きに参加することもできません。
法人が破産手続開始の申立を行う際には、債権者一覧表を作成します。
ただ、この段階では破産しようとする者が代理人となる弁護士とともに、会社の資産と負債を調査するだけです。
その後、裁判所により破産手続開始決定が出されると、次の段階に進みます。
債権者一覧表をもとに、裁判所が債権者に対して破産債権届出書を提出するように求める書類を送付します。
書類の送付を受けた債権者は、その内容にしたがって債権の内容を記載し、破産債権届出書を提出するのです。
届出書の内容については、破産管財人が確認していきます。
債権者から提出された証拠書類や破産者に残された資料から、その中身や金額が正しいのかをチェックするのです。
破産管財人から指摘を受けず、その後の調査期間において債権者からの異議申立もなければ、破産債権が確定します。
確定した破産債権は、破産確定者表に記載され、確定判決と同一の効力を有することとなるのです。
それでは、破産債権届出書とはどのような書類なのでしょうか。
何を記載するのか、記載漏れがないようにするにはどのような注意点があるのか、確認していきましょう。
この破産債権届出書の書式は、名古屋地方裁判所から公表されているものです。
書式は裁判所ごとに異なりますが、記載する内容はほぼ変わりません。
なお、破産債権届出書は債権者が自ら届け出るものではなく、裁判所から送付されてくる書類です。
そのため、書式が公表されていないケースがほとんどです。
ここでは、名古屋地方裁判所の書式に沿って、その記載内容を確認していきましょう。
事件番号は、破産事件ごとに裁判所で定められた番号です。
また破産者名は、法人名や個人名で正確に記載されている必要があります。
通常は、裁判所から送付されてきた破産債権届出書に記載されているため、債権者が記入する必要はありません。
債権者が個人の場合は、住所を記載します。
この住所とは、住民票上の住所を指すため、間違えないようにしましょう。
なお、住民票の住所以外の場所に住んでいる場合は、下の通知等を希望する場所に現在の住所を記載しておきます。
法人の場合は本店所在地を記載します。
法人の場合も、登記上の本店所在地と実際の事務所等の所在地が異なる場合は、通知等を希望する場所を記載します。
債権者の氏名または法人名を記載します。
法人の場合は、法人名のほか代表者名も記載する必要があるので、忘れないようにしましょう。
なお、印鑑は実印でなくてもよいとされています。
債権者としての破産手続きを弁護士に依頼する場合は、代理人の欄に弁護士の住所と氏名を記載し、弁護士が押印します。
なお、代理人を選任した場合は、委任状を添付する必要もあるので忘れないようにしましょう。
ここには、債権の種類ごとに記載された債権額の合計額を記載します。
(6)以降の項目は、債権の種類ごとにその金額を記載していきます。
(6)は、給料や退職金などが未払いとなっている場合、その金額を記載します。
なお、解雇予告手当とは、解雇予告なしに解雇された場合に会社から支払われる手当のことです。
破産した会社から解雇予告を受けていなかった場合には、解雇予告手当を請求する権利を有している可能性があります。
そのため、給料や退職金の金額とあわせて、解雇予告手当の額も記載する必要があります。
請求の対象となる給料については、その対象期間を記載する必要があります。
また、証拠書類として、給与明細等を添付することとされています。
売掛金は、売上代金の未回収分を指すものです。
また、貸付金は文字どおり、破産者に対して貸している金額をいいます。
貸付金がある場合には、最後の支払日以降に利息が発生していると考えられるため、利息や損害金の利率も記載します。
売掛金を記載した場合には、証拠書類として請求書や納品書などを提出する必要がありますし、貸付金がある場合には、貸付の際の契約書や借用書を提出しなければなりません。
破産者が様々な支払いをする際に、手形や小切手を利用している場合もあります。
これらの手形や小切手のうち、未決済となっているものについて記載しなければなりません。
手形や小切手の写しを提出しなければならないため、忘れないようにしましょう。
(6)~(8)に記載した債権以外に、破産者から回収できていない金額があればここに記載します。
たとえば、取引上発生した経費の立替金などがあります。
ここまですでに記載した債権について、その回収が遅れた場合には利息が発生することがあります。
その利息の計算の基礎となる元金、利息の計算期間、利率を記載します。
また、利息とは別に、債権代金の回収が遅れた場合には、債権者に損害が発生する場合があります。
この損害を計算したものが遅延損害金です。
こちらも利息と同じように、元金や計算期間、利率を記載する必要があります。
破産債権届出書を記載している時点で利息や損害金が発生している場合、破産手続きが終了するまで利息や損害金の計算は続きます。
そこで、元金や利率などの計算の根拠を明らかにしておく必要があります。
なお、期間の開始は破産手続開始日となり、期間の終了は不明であるため、記載する必要はありません。
(12)以降は、該当する人だけが記載する項目です。
(12)には、破産者に対して抵当権・根抵当権などの権利を有する場合にチェックを入れます。
また、抵当権などの目的物となっているものについて、その不動産の内容などを別紙で用意しなければなりません。
抵当権や根抵当権などを有する場合で、その権利を行使しても回収することのできない金額があるときに、その行使が認められます。
そこで、抵当権や根抵当権がある場合はその不足額を明記しておく必要があります。
破産者が破産手続きに入る前に、債権の回収を行うために、すでに裁判になっている場合があります。
この場合、管轄の裁判所や事件名などを記載する必要があります。
ここまで、破産債権届出書の記載方法について解説してきました。
その中で、証拠書類の提出が求められるものがあることを説明しました。
ここからは、添付の求められる証拠書類について改めて詳しく解説していきます。
破産債権届出書を提出する者は、破産者に対する債権を有する人です。
破産によりその代金を回収することができなくなれば、その破産による被害者ということになります。
ただ、破産が確定する前では、その破産者に対する権利を有しており、その権利を主張することができます。
債権を有していると主張するには、その証拠書類を提示する必要があります。
証拠書類もなく権利だけを主張することは、スムーズな破産手続きの妨げになるとも考えられるのです。
それでは、破産債権届出書にはどのような書類を添付する必要があるのでしょうか。
その中身を確認しておきましょう。
売掛金は売上が発生したにもかかわらず、その代金を支払ってもらっていない状態をいいます。
証拠書類としてまず考えられるのは、請求書です。
このほか、納品書や受領書の控、伝票や売掛帳などの帳簿も証拠書類となります。
また、単発の売上であれば、売買契約書に金額などが明記されているかもしれません。
破産者に金銭を貸し付けた場合、金銭消費貸借契約書や借用書を作成しているため、その書類を準備します。
また、どれだけの貸付金が返済されたのかを明らかにするため、通帳のコピーなどを提出することもあります。
工事が完了したにもかかわらず、その代金が回収できない場合には、工事請負契約書や完了確認書などを添付します。
また、工事の途中で破産し代金が回収不能となった場合は、工事の進捗確認表や現場の写真などが必要です。
手形の表面・裏面の写しを添付しなければなりません。
特に裏面を忘れてしまうことがあるので、注意が必要です。
これまで述べてきたように、破産債権届出書を提出する際には、添付書類を提出することが求められます。
しかし、実際には債権者からの書類だけで債権の存在や金額を確認するわけではありません。
添付書類を偽造することも考えられるため、債権者からの届出だけに基づいて破産手続きを進めるわけではないのです。
破産管財人は、届出の内容を確認するとともに、破産者に残された資料や取引状況を確認し、手続きを進めます。
また、関係者からのヒアリングなどが行われる場合もあります。
そのため、添付書類がないからといって債権の存在が否定されることはありません。
ただ、指定された証拠書類がない場合には、債権の存在を証明することが難しくなるのも事実です。
指定の証拠書類がない場合には、それに代わる書類を添付するようにしましょう。
もし証拠書類として不十分な場合には、追加の書類を求められることもあるので、この場合は破産管財人の指示に従います。
ただし、破産債権届出書に債権があることを記載しない場合は、破産手続きに参加しないという意思表示となってしまいます。
証拠書類がなくても、破産債権届出書だけは必ず提出するようにしましょう。
取引先が破産し破産債権届出書が届くと、どのように記載していいかわからずに放置してしまう方もいます。
しかし、破産債権届出書を提出しなければ、破産手続きが完了しても配当を受けることはできなくなってしまいます。
そのため、必ず破産債権届出書に債権の金額やその内容を記載し、提出しなければなりません。
また、証拠書類の添付が求められているものについては、その債権の存在を証明できるような書類を添付しましょう。
指示どおりの書類がない場合でも、取引関係が明らかになるものがあればいいので、できるだけ多くの資料を準備しておきましょう。