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破産手続の開始が認められる「支払不能」とは?判断基準と形式的要因

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!

破産手続の開始が認められる「支払不能」とは?判断基準と形式的要因

この記事でわかること

  • 破産手続開始原因について理解できる
  • 支払不能の立証について、形式的要因と判断基準がわかる
  • 支払不能と債務超過の関係が理解できる

裁判所に破産を認めてもらうためには、まず破産手続開始申立を行う必要があります。

破産手続きは、裁判所の破産手続開始決定によって開始されますが、破産手続開始が決定されるためには、一定の法律要件を充たしていなければなりません。

この記事では、破産手続開始原因である「支払不能」の判断基準について、くわしく解説していきます。

また、もう一つの破産手続開始原因として法人のみに認められている「債務超過」についても説明します。

支払不能の立証について理解するとともに、債務超過との関係を把握しておきましょう。

破産手続開始原因-支払不能・債務超過

破産手続きにおいては、破産手続開始の要件の1つとして「債務者に破産手続開始原因があること」が求められます。

そのため、破産手続開始申立を行うためには破産手続開始原因が必要となります。

破産手続開始原因となるのが「支払不能」です。

法人の破産の場合は、「債務超過」も破産手続開始原因として認められています。

破産手続開始原因とは?

破産手続開始原因とは、債務者の財産状況が悪化したために破産手続を開始する必要があると認められる事由のことです。

そのため、財産状況が悪化しているとは認められない債務者についての破産手続は開始されません。

法人の破産手続開始原因は2つある

法人の破産手続開始原因は2つある

法人(合名会社と合資会社を除く)の破産手続開始原因には、「支払不能」と「債務超過」の2つがあります。

このうち「債務超過」は、法人(合名会社と合資会社を除く)のみに認められている破産手続開始原因です。

法人(合名会社と合資会社を除く)の破産は、有限責任ですから、債権者に対して最低でも出資金を弁済する義務を負います。

支払不能の立証の条件

支払不能の立証の条件

破産法によると、「支払不能」とは債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態とされています。

弁済と弁済期は法律用語で、「弁済」は支払い、「弁済期」は支払期限のことを意味しています。

法人破産において「支払不能」と認められるためには、以下の4つの形式的要因を充たしている必要があります。

支払不能の立証の条件

  • ・支払い能力を欠いていること
  • ・弁済期にある債務を弁済できないこと
  • ・一般的かつ継続的に債務を弁済することができないこと
  • ・客観的に見て支払不能に当てはまる状態であること

支払能力が欠いていることとは?

債務者が支払能力を欠いていることを「支払能力の欠如」と言います。

支払能力とは、債務者の経済的力量をさすもので、債務者の財産・信用・労務の3つの要素で構成されています。

支払能力欠如の判断基準

支払能力の欠如は、財産・信用・労務の3つのうち、どの要素によっても債務の履行ができない状態にあることをさしています。

単に財産の有無によって評価されるのではなく、債務者の信用や労務(労力・技能)なども考慮して評価することになります。

そのため、債務を弁済するための資金が不足している状態になっていても、債務者の信用や労務によって、弁済するための資金を用意することができるのであれば、支払能力を欠いているとは言えません。

また、仮に財産があったとしても、その財産を換価することができない場合(換価できないようなものである場合)には、債務を弁済することができないため、支払能力を欠いていると判断されることもあります。

弁済期にある債務を弁済できないこと

支払不能であるかどうかは、すでに弁済期が到来している債務を弁済できるかどうかによって判断されます。

まだ弁済期が到来していない将来の債務については、支払いができなくなる見込みであるとしても、すでに弁済期が来ている債務を支払うことができれば、支払不能とは言えません。

また、必要なのは「債務を弁済できない」ことであり、「債務を弁済しない」ことではありません。

正当な理由があってあえて債務を弁済しない場合は、弁済できないわけではないので支払不能にはなりません。

一般的かつ継続的に債務を弁済できないこと

支払不能と認められるためには、債務者が「一般的に債務を弁済できないこと」と「継続的に債務を弁済できないこと」が、あわせて必要とされています。

「一般的に債務を弁済できないこと」とは?

債務者が一般的に弁済期にある債務を弁済できない状態を「弁済の一般性を欠く」と言います。

弁済の一般性を欠くことは、総債務を弁済するだけの資力がないことが前提になっています。

そのため、債務を弁済できない理由が資力が不足していることでない場合には、弁済の一般性を欠くとは言えません。

一般的に弁済することができないということは、総債務を弁済するだけの資力がないために、すべての債権者に対して総債務を通常通りに弁済できないことを言います。

一部の債権者には通常の弁済をできても他の債権者には弁済できない場合も、通常通りに弁済できないことになります。

「継続的に債務を弁済できないこと」とは?

債務者が、継続的に弁済期にある債務を弁済できないことを「弁済の継続性を欠く」と言います。

突発的な事情によって一時的な資力不足となり、一般的な弁済ができないときがあっても、次月からは通常通りに一般的に弁済できるような場合は、弁済の継続性を欠く状態とは言えません。

一時的に弁済できない場合は、支払不能とは認められず、「継続的に」弁済できない場合に、支払不能と認められます

客観的状態であることが重要

客観的にみて「債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて、一般的かつ継続的に弁済をすることができない」状態であることを「客観的な状態であること」と言います。

つまり、債務者が主観的には弁済できないと判断しても、客観的にみて支払能力がある場合には、支払不能とは評価されません。

同様に、客観的にみた場合に一般的継続的弁済が可能であると判断された場合も、支払不能とは言えません。

逆に、仮に債務者が主観的には弁済が可能だと思っていても、客観的にみたときに、支払能力を欠くために一般的継続的弁済ができないと判断されれば、支払不能であると評価されることもあります。

支払停止による支払不能の推定

支払不能という客観的状態を外部から判断することは、難しいです。

特に、申立人が債権者である場合には、債務者が支払不能な状態であることを証明することができないこともあります。

そこで破産法では、支払不能の状態であることの証明を容易にするために「支払停止」があった場合には、支払不能の状態であったものとして「推定できる」としています。

支払停止は、それ自体では破産手続開始原因ではありません。

しかし、破産手続開始原因である支払不能を、法律上推定させる効果があります。

支払停止とは?

支払停止とは「債務者が資力欠乏のために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は目次的に外部に表示する行為」のことを言います。

つまり、債務者が支払不能であることを明示的または黙示的に外部に表明する行為です。

支払停止の要件

まず、債務者が支払不能であることを明示的または黙示的に外部に対して表明する行為をしていることが要件となります。

ただし、支払不能を推定させる支払停止は、一般的かつ継続的な支払停止であることが必要です。

一部の債権者に対して債務の弁済を拒絶しているような場合には、支払停止とは言えません。

支払停止の表明

支払不能であることを外部に示す表明は、明示的なものでも黙示的なものでも構いません。

明示的な表明の例としては、以下の場合が挙げられます。

明示的な表明の例

  • ・6か月以内に2回以上の手形不渡りがあって、銀行の取引停止処分を受けた場合
  • ・事業所等に支払いができなくなった旨の貼り紙をした場合
  • ・各債権者に宛てて、支払ができなくなった旨を通知した場合

黙示的な表明の例としては、以下の場合などが該当します。

黙示的な表明の例

  • ・店舗・事業所等の閉鎖
  • ・廃業
  • ・債務者の代理人弁護士から各債権者宛てに、支払を停止する旨の通知を送付した場合

支払停止の効果

支払停止は、支払不能を法律上推定させる効果があります。

支払不能を法律上推定させるということは、逆に、支払不能ではないということの証明がない限り、支払不能があったものと認められます。

そのため、もし支払不能ではないという証明がなされた場合、破産手続開始原因となる支払不能は認められません。

支払不能と支払停止の違い

支払不能と支払停止の違いは、主に2つあります。

支払い不能は債務者の客観的状況で、支払い停止は債務者の行為のことを指します。

また、支払い不能は自己破産の条件となりますが、支払い停止は条件にはなりません。

支払不能が立証できないときはどうする?

法人(ただし合名会社と合資会社を除く)の破産の場合、支払不能が立証できない場合には「債務超過」を破産手続開始原因とすることができます

破産手続によって法人は消滅しますが、取締役等は連帯保証人になっている場合を除けば、債務について責任を負うことはありません。

支払不能に至るまで破産手続開始ができないとなると、結果として申立の時期が遅れてしまうこともあります。

破産手続開始の時期が遅れれば法人の債務が膨れ上がり、債権者が得る配当が減少してしまうという不利益が生じます。

債務超過も破産手続開始原因として認められているのは、こうした債権者の不利益を防ぐためです。

支払不能後にやってはいけないこと

支払不能後は、やってはいけない禁止行為があります。

支払不能後にやってはいけないこと

  • ・借入れや債権者への返済
  • ・家や自動車など高額な財産の処分(弁護士の了承を得て適正価格で売却する場合等は除く)
  • ・浪費やギャンブルなど

この中でも特に、一部の債権者への返済は、破産法で禁止されている偏頗弁済に該当するため注意が必要です。

偏頗弁済の疑いがある場合、管財事件となり手続きの費用が高額になる可能性があります。

また、返済を受けた人が返金を求められたり、支払った分の金額を再度準備しないといけなくなるなど、相手に迷惑をかけることになりかねません。

あまりに悪質な場合は、自己破産が認められなくなることもあります。

債務超過とは?

破産法によると、債務超過とは「債務者が、その財産をもって債務を完済することができない状態」のことを言います。

これは、客観的にみて、債務額の総計が資産額の総計を超過している状態にあることを意味します。

法人の破産の場合は、決算書の貸借対照表や損益計算書などで赤字になっていれば、債務超過を疎明することができます。

そのため、支払不能を破産手続開始原因とするよりも、債務超過を破産手続開始原因とした方が疎明・証明が容易になることがしばしばあります。

債務超過か否かの判断の基準

債務超過は、債務額の総計が資産額の総計を超過している客観的状態があるかどうかにより判断されます。

債務者の信用や労力は考慮されないこと、債務額には弁済期の到来していない債務も含まれることは、支払不能と異なる点と言えます。

資産額については、原則として清算価値を評価基準とします。

ただし、企業継続価値が清算価値を上回る場合については、企業継続価値が評価基準となります。

債務超過の判断の基準時はいつになるか

債務超過であるかどうかは、破産手続開始原因があるかどうかの問題であるため、判断の基準時は破産手続開始決定の時点となります。

まとめ

法人破産の破産手続開始原因である支払不能と債務超過について、解説してきました。

債務超過については、債権者の配当が減少してしまうのを防ぐことを目的として、少しでも早い時点で破産手続開始申立ができるようにするために、法人破産だけに認められた破産手続開始原因です。

個人の自己破産と比べると、法人の破産手続開始申立は大変複雑なものです。

また、法人の破産については、自分で申し立てるのではなく弁護士に依頼して申し立てる方が多いのが実情です。

できるだけ早い時点で、弁護士などの専門家に相談してみるのが良いでしょう。

破産のお悩みは深刻で不安なものです。
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