東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
目次
自賠責保険とは、正式名称を「自動車損害賠償責任保険」といい、自動車の所有者のすべてに加入が義務づけられている損害保険のことをいいます。
自賠責保険に加入しなければ一般道を走行することはできませんし、車検を通すこともできません。
万一、自賠責保険に加入せずに一般道を走行すると罰則の適用があります。
1年以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事処分を受けるだけでなく、違反点数6点という行政処分も定められており、一発で免許停止処分となります。
このように自賠責保険はすべての自動車の所有者に加入が強制されているため、「強制保険」とも呼ばれています。
なお、自賠責保険は交通事故の被害者に対する最低限の補償を目的とした保険であるため、補償内容は任意保険よりも限られたものとなっています。
保険料は任意保険よりも安く、どこの保険会社の自賠責保険に加入しても金額は変わりません。
次に、自賠責保険の補償内容や限度額をみておきましょう。
ここでは、自賠責保険に請求してから実際に補償を受けるまでの流れについても併せてご説明します。
任意保険ではさまざまな内容の損害について補償されますが、自賠責保険では補償される損害項目は以下のものに限られています。
自賠責保険の補償内容
以下、それぞれについて内容をご説明します。
慰謝料とは、交通事故によって被害者が受けた精神的損害に対して支払われるもので、次の3種類のものがあります。
交通事故の慰謝料
入通院慰謝料は治療期間に応じて計算され、後遺障害慰謝料は認定を受けた後遺障害等級ごとに定められています。
死亡慰謝料も一律に定められていますが、遺族の人数に応じて加算があります。
いずれについても、後ほど詳しくご説明します。
治療関係費とは、交通事故による怪我の治療のために要した費用のことです。
診察料や検査費用、薬代の他に文書料(診断書作成料)、義肢等にかかる費用、付添看護料や諸雑費なども含まれます。
付添看護料と諸雑費については、次のように日額が一律で決められています。
ただし、これを超える費用を要したことを証明できる場合は増額されるケースもあります。
怪我の治療のために通院する際にかかった交通費については、原則として実費が支払われます。
怪我の状態など事情によってはタクシー代の請求が認められることもありますが、基本的には公共交通機関の料金またはマイカーのガソリン代に限られます。
また、通院に際して付添人を要する場合は、付添人の分の交通費も支払われます。
休業損害とは、交通事故による怪我やその治療のために働けなくなり、収入が減った場合の損害のことです。
休業した日数について、原則として1日あたり6,100円(2020年3月31日以前に発生した事故については5,700円)が支払われます。
ただし、これを超える減収があったことを証明できる場合は、1日あたり19,000円を上限として増額されます。
損害の種類 | 補償される内容 | 限度額 |
---|---|---|
傷害 | 治療関係費・入通院慰謝料・通院交通費 | 120万円 |
後遺障害 | 後遺障害慰謝料・逸失利益 | 75万円~4,000万円 |
死亡 | 死亡慰謝料・逸失利益・葬儀費 | 3,000万円 |
自賠責保険で補償される保険金には限度額があります。
傷害による損害については、120万円が限度額です。
この範囲内で、治療関係費や入通院慰謝料、通院交通費が補償されます。
後遺障害による損害については、認定された後遺障害等級に応じて75万円~4,000万円が限度額となります。
この範囲内で後遺障害慰謝料や逸失利益などが補償されます。
死亡による損害については、3,000万円が限度額です。
この範囲内で死亡慰謝料(本人分、遺族分を含む)、逸失利益、葬儀費などが補償されます。
なお、被害者が即死ではなく亡くなるまでに治療を受けた場合は、傷害に対する損害について別途補償されます。
自賠責保険は、交通事故で生命または身体を害された被害者の保護を図るための保険です。
そのため、以下の損害は補償との対象となりません。
自賠責保険で補償されないもの
それぞれ1つずつ見ていきましょう。
物損は「生命または身体」の損害に当たらないので、自賠責保険では保障されません。
ここでいう「被害者」とは、自賠責保険による補償の対象者という意味です。
対象者に10割の過失がある場合は「加害者」に当たります。
したがって、被害者の保護を図る自賠責保険の保障の対象とはなりません。
自賠責保険は、契約者が起こした交通事故で、被害に遭った相手方の損害を補償するものです。
契約者自身の人身損害について補償を受けるためには、任意保険の人身傷害保険に加入しておく必要があります。
交通事故に遭った後、自賠責保険に保険金を請求するのは、治療を受け怪我が完治するか症状固定の診断を受けた後です。
それまでは損害額が確定しないため、請求するのは待ちましょう。
保険金を請求するときは、請求書など必要書類を保険会社へ提出します。
症状固定の診断を受けた場合は、このときに後遺障害等級の認定申請も併せて行います。
その後、損害保険料率算出機構というところの調査事務所において、事故の発生状況や保険金支払いの適確性などについて調査が行われます。
この調査は傷害のみの事故の場合は1ヶ月程度で終了しますが、後遺障害等級の認定申請を行った場合は2~3ヶ月かかることも少なくありません。
調査結果は保険会社へ報告され、被害者に対しては保険会社から調査結果に基づいた保険金が連絡されます。
その調査結果に異存がなければ示談が成立し、その後1ヶ月程度で被害者が指定する口座に保険金が振り込まれます。
請求してから保険金が振り込まれるまでの期間は傷害のみの事故の場合で1~2ヶ月、後遺障害が残った場合で2~3ヶ月が平均的です。
入通院慰謝料は、日額4,300円(2020年3月31日以前に発生した事故については4,200円)に、次のいずれか少ない方の日数をかけることによって計算します。
なお、入院した期間についても通院した期間についても日額は同じです。
治療期間が1ヶ月(30日)のケースについて、実治療日数が10日の場合と20日の場合とを比較してみます。
事例実治療日数10日の場合
この場合は「実治療日数の2倍」(20日)の方が「治療期間の総日数」(30日)よりも小さいため、前者で計算することになり、入通院慰謝料は8万4,000円となります。
(計算式)
4,300円×20日=86,000円
事例実治療日数20日の場合
この場合は「治療期間の総日数」(30日)の方が「実治療日数の2倍」(40日)よりも小さいため、前者で計算することになり、入通院慰謝料は12万6,000円となります。
(計算式)
4,300円×30日=129,000円
次に、治療期間が3ヶ月(90日)のケースについて、実治療日数が15日の場合と75日の場合とで比較してみましょう。
事例実治療日数15日の場合
この場合は「実治療日数の2倍」(30日)の方が「治療期間の総日数」(90日)よりも小さいため、前者で計算することになり、入通院慰謝料は12万6,000円となります。
(計算式)
4,300円×30日=129,000円
事例実治療日数75日の場合
この場合は「治療期間の総日数」(90日)の方が「実治療日数の2倍」(150日)よりも小さいため、前者で計算することになり、入通院慰謝料は37万8,000円となります。
(計算式)
4,300円×90日=387,000円
次に、治療期間が6ヶ月(180日)のケースについて、実治療日数が40日の場合と160日の場合とで比較してみましょう。
事例実治療日数40日の場合
この場合は「実治療日数の2倍」(80日)の方が「治療期間の総日数」(180日)よりも小さいため、前者で計算することになり、入通院慰謝料は33万6,000円となります。
(計算式)
4,300円×80日=344,000円
事例実治療日数160日の場合
この場合は「治療期間の総日数」(180日)の方が「実治療日数の2倍」(320日)よりも小さいため、前者で計算することになり、入通院慰謝料は75万6,000円となります。
(計算式)
4,300円×180日=774,000円
以上のように、入通院慰謝料は基本的には治療期間が長いほど高額になりますが、入通院した頻度によっても金額が異なることがおわかりいただけるでしょう。
先ほどもご説明したように、自賠責保険で補償される慰謝料には入通院慰謝料の他に後遺障害慰謝料と死亡慰謝料もあります。
ここでは、後遺障害慰謝料と死亡慰謝料の金額についてご説明します。
後遺障害慰謝料とは、交通事故によって負った怪我が完治せずに後遺障害が残った場合に、その後の人生で受け続ける精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金のことです。
後遺障害慰謝料の金額を知るには、まず障害を負った被害者が自賠責法の「別表第1」「別表第2」のどちらに該当するかを判断する必要があります。
《別表1》
後遺障害等級 | 法改正前の慰謝料額 | 法改正後の慰謝料額 |
---|---|---|
別表 後遺障害1級 | 1,600万円 | 1,650万円 |
別表 後遺障害2級 | 1,163万円 | 1,203万円 |
《別表2》
後遺障害等級 | 法改正前の慰謝料額 | 法改正後の慰謝料額 |
---|---|---|
1級 | 1,100万円 | 1,150万円 |
2級 | 958万円 | 998万円 |
3級 | 829万円 | 861万円 |
4級 | 712万円 | 737万円 |
5級 | 599万円 | 618万円 |
6級 | 498万円 | 512万円 |
7級 | 409万円 | 419万円 |
8級 | 324万円 | 331万円 |
9級 | 245万円 | 249万円 |
10級 | 187万円 | 190万円 |
11級 | 135万円 | 136万円 |
12級 | 93万円 | 94万円 |
13級 | 57万円(変更なし) | 57万円(変更なし) |
14級 | 32万円(変更なし) | 32万円(変更なし) |
死亡慰謝料とは、交通事故によって生命を絶たれることに対する精神的苦痛および被害者を失った遺族の精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金のことです。
2020年4月の法改正により死亡慰謝料の金額が引き上げられました。
慰謝料請求期限は、交通事故に遭った日から3年以内なので法改正前の事故か、法改正後の事故かで金額が変わりますのでご注意ください。
費目 | 改正後(2020年4月1日以降) | 改正前(2020年3月31日以前) |
---|---|---|
本人の死亡慰謝料 | 400万円 | 350万円 |
遺族の慰謝料 | 550万円~950万円 | 550万円~950万円 |
葬儀費 | 100万円 | 60万円 |
遺族の慰謝料は、被害者の遺族の人数に応じて金額が変わります。
遺族の人数によって変わる死亡慰謝料
遺族の分については、被害者に被扶養者がいた場合には上記の金額に200万円が加算されます。
事例
たとえば、被害者に被扶養者がいなくて、請求権のある遺族として両親がいた場合は1,000万円が死亡慰謝料として支払われます。
一方、被害者の遺族として被扶養者でもある妻と2人の子どもがいた場合は、1,300万円が死亡慰謝料となります。
(計算式)
350万円+750万円+200万円
自賠責保険では任意保険とは異なり過失相殺は行われないため、原則として保険金全額を受け取ることができます。
しかしながら、被害者に7割以上の過失がある場合は、次の表のように保険金額が減額されます。
このことを「重過失減額」といいます。
過失割合 | 減額割合 | |
---|---|---|
後遺障害・死亡にかかる損害 | 傷害にかかる損害 | |
7割以上8割未満 | 20% | 20% |
8割以上9割未満 | 30% | |
9割以上10割未満 | 50% |
なお、10割の過失がある場合は「被害者」とはいえないため、自賠責保険による補償の対象となりません。
ここまで自賠責保険についてご説明してきましたが、慰謝料を計算する際に「弁護士基準」と呼ばれる計算基準を用いれば、慰謝料額が大きく変わることもあります。
ここでは、弁護士基準についてご説明した上で、自賠責保険の基準と弁護士基準で慰謝料を計算した場合の違いを比較してみます。
弁護士基準とは、弁護士が被害者から依頼を受けて損害賠償請求をする場合に用いる慰謝料の計算基準のことです。
民事裁判でも同じ基準が用いられるため、「裁判基準」とも呼びます。
加害者本人または加害者が加入している任意保険会社に損害賠償請求をする際に、弁護士基準を用いることができます。
治療期間1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月のそれぞれの場合で、自賠責保険基準と弁護士基準で計算した慰謝料額を比較すると、次の表のようになります。
治療期間 | 慰謝料額 (自賠責保険基準) | 慰謝料額 (弁護士基準) |
---|---|---|
1ヶ月(30日) | 8万4,000円 (実治療日数10日の場合) | 19万円 (通院のみの場合) |
3ヶ月(90日) | 37万8,000円 (実治療日数75日の場合) | 69万円 (1ヶ月入院、2ヶ月通院の場合) |
6ヶ月(180日) | 75万6,000円 (実治療日数160日の場合) | 119万円 (2ヶ月入院、4ヶ月通院の場合) |
このように、弁護士基準を用いて計算するだけで、慰謝料が2倍近く変わるケースがあることがおわかりいただけるでしょう。
ただし、弁護士基準でも怪我の程度が軽い場合や通院頻度が低い場合は、減額されることもあります。
その一方で、入院期間が長引いたような場合には2倍以上の開きが出るケースも多くあります。
弁護士基準で計算した慰謝料を請求するためには、基本的には弁護士に依頼する必要があります。
自分で加害者側の任意保険会社に対して「弁護士基準で慰謝料を計算してください」と主張しても、受け入れられることはありません。
慰謝料を請求する裁判を起こせば、弁護士基準が適用されます。
しかし、裁判手続きは複雑ですし、専門的な知識がなければ敗訴してしまうおそれも高くなります。
最近では示談交渉においても弁護士から慰謝料を請求されれば、弁護士基準の適用に応じる任意保険会社も多くなっています。
そのため、示談交渉を弁護士に依頼するのが得策といえるでしょう。
裁判を起こす場合も、弁護士に依頼すれば全面的にサポートを受けることができます。
自賠責保険は強制加入の保険であり、被害者の過失が7割未満であれば減額されることはありません。
そのため、被害者が確実に補償を受けることができるという点では任意保険よりも優れているといえます。
しかし、補償額は必要最低限であるため、自賠責保険だけでは適切な損害賠償を受けたとはいえません。
弁護士基準は、過去の裁判例を研究して作成された法的根拠のある慰謝料の算定基準です。
自賠責保険から保険金を受け取った後でも、弁護士基準で計算した金額との差額を加害者または任意保険会社へ請求することが可能です。
自賠責保険金のみで納得できない場合は、弁護士に相談してみるのも良いでしょう。