東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
通勤途中に交通事故遭ってしまって、会社から労災保険はなるべく使わないでほしいといわれているが、労災保険と自賠責保険のどちらに請求をすればいいのか、またはどちらに請求した方が損をしないのか知りたい、という方がいらっしゃると思います。
この記事では、通勤途中の交通事故で労災保険を使える理由と、交通事故に労災保険を使うことのメリットとデメリットを解説します。
併せて、交通事故の労災保険の請求方法と注意点、そして、労災保険と自賠責保険料の両方から補償を受けることはできるのかについても説明します。
目次
通勤中に交通事故に遭った場合、ケガなどの治療代の補償には、通常、加害者側の任意保険を利用することが多いと思われます。
被害者側に正しい知識がないと、任意保険から治療代を補填してもらい、休業損害と慰謝料を支払ってもらって済ませてしまうということが多いといえます。
また、業務上の交通事故には自賠責保険の利用が推奨されていると一般的には思われる傾向があります。
労災が適用できるのではないか、と思っても、次のような労災保険の利用を躊躇する理由があります。
しかし、労災保険の保険料は一定額が定められているので、労災保険を使ったからといって、保険料が上がるということはありません。
パートやアルバイトでも労災保険には加入が義務付けられており、申請することはできます。
特に、労働災害が発生すると、会社側が安全管理の問題を指摘される可能性もあり、労災発生ゼロにこだわっている会社もあり、会社側が労災保険の使用を素直に認めたがらずに、労災保険の申請を躊躇するケースがあります。
しかし、通勤中や業務上の交通事故で労災保険を申請するのは、労働者の権利であり、会社が労災申請を疎むような風潮は不当なものです。
それに、労災保険を申請せず、任意保険のみから治療代の補償や休業損害、慰謝料を支払ってもらうと、被害者側が大きく不利になるケースがあります。
労災を選ぶか、または任意保険を選ぶかを労働者自身の意思で決定するのは、労働者の当然の権利ですので、正しい知識をつけて有利な方を選択するようにしましょう。
また、会社が労働者を労災に加入させていなかったり、保険料を滞納していたりして労災保険の利用をあきらめてしまうケースもあります。
このような場合は、労災保険の「事故後適用」を申し立てることが利用することができますので、あきらめないようにしましょう。
交通事故に労災を使うことは、自賠責保険や任意保険を使うのに比べてメリットが圧倒的に多いといえます。
それに対して労災を使うことのデメリットはほとんどありません。
労災と任意保険は同じ内容の給付につき、いずれかの選択給付となっていますが、たとえば、休業損害補償の「休業特別支援金」は、社会福祉的な観点から拠出されており、自賠責保険を利用していたとしても、支給を受けることが可能です。
この点だけでも労災からの支給を受けないと損をしてしまうことになります。
労災保険では、被災労働者の治療費の全額を負担できます。
自賠責保険では、自身の過失が7割以上あると減額されてしまい、任意保険では労働者側の過失割合によって支給額が変わりますが、労災保険ではそのような制限はありません。
労災保険では、休業損害補償として、給付基礎日額の6割に加えて、さらにプラス2割の「休業特別支援金」を受け取ることができます。
この「休業特別支援金」は自賠責保険を適用しても受け取ることができ、労災保険のメリットになります。
労災保険では無制限に支給されますが、自賠責保険では傷害部分には120万円が限度となっています。
自賠責保険では限度額範囲での治療しか補償されませんが、労災保険では限度額を気にすることなく、治療に専念できます。
後遺障害について、労災保険では7級以上が認定されると障害年金が支給されることになります。
しかし、自賠責保険ではすべての後遺障害等級の損害賠償金は一時金です。
死亡の場合、労災保険であれば一定要件を満たすことで遺族への年金が支給されますが、自賠責保険ではこれも一時金です。
労災保険では、休業補償給付が事故前の給与の6割+2割であり、給与の満額が支給される任意保険と比較するとデメリットになります。
ただし、労災保険の休業補償給付の2割部分は、自賠責保険を適用しても受け取ることができるので、デメリットとはいえないでしょう。
また、労災保険では入院中の諸雑費の支給はありませんが、任意保険では、日額1,100円が支給されます。
労災指定病院以外で治療を受けてしまうと、被災労働者は療養費を一度全額負担し、後日労災に請求することになります。
一時的とはいえ、治療費の経済負担が生じてしまう可能性があり、診療する病院が労災指定病院に限られてくるのはデメリットといえます。
交通事故で労災保険に請求する方法は具体的にどのようにすればよいのでしょうか。
請求には期限もあります。
労災保険の請求方法では、自賠責保険請求を先行させる方法もあるので、その注意点についても説明します。
まず、被災者が労災指定医療機関で治療したという前提で請求手続きの方法を説明していきます。
医療機関では、「労災保険を利用したい」旨を申し出て、「療養補償給付たる療養の給付請求書」または、「療養給付たる療養の給付請求書」を提出する必要があります。
その後、労災保険に請求する方法は、通常、「求償」という手続き方法になります。
業務中や通勤中に交通事故に遭ってケガなどを負った場合、労働に関連して起こった事故であるものの、事故じたいは、加害者という第三者の行為によって発生したものです。
加害者がいる以上、被害者のケガの補償、休業補償、後遺障害の補償などは、本来なら加害者が負担すべきということになります。
「求償」とは、このように本来なら加害者が負担すべきものを、労災保険が「一時的に立て替えて支給し、後で第三者から支払ってもらう」という手続きになります。
この手続きを示す書類が、「第三者行為災害届」です。
「第三者行為災害届」は、加害者に提出してもらうことになります。
その他には、「交通事故証明書」、「念書」、「自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書または保険金支払通知書」を提出します。
被災者死亡の場合は、これらのほかに、「死体検案書」または「死亡診断書」、「戸籍謄本」などの書類を提出します。
労災請求には給付ごとに請求できる期限があるものがあります。
まず、療養の給付については、労災指定病院で治療をしていれば、無料なので時効を考える必要はありません。
しかし、労災指定外病院で治療した場合は、費用支出から2年間が期限となります。
休業給付については、賃金を受けない日から2年間です。
遺族年金・一時金は、被災者死亡から5年間が期限です。
葬祭料は被災者死亡から2年間で時効となります。
障害給付は、「症状固定」から5年間となります。
「回復した日から」ではないので、注意が必要です。
また、症状固定に時間がかかる場合、労働基準監督署長の職権によって、傷病補償年金の支給がなされます。
これには時効はありません。
療養開始後1年6ヶ月以降、症状固定しておらず、一定の障害等級に該当していることが条件になります。
交通事故で労災保険を使う場合には、注意点がいくつかあります。
まずは、治療段階で労災を使う場合、健康保険は使えません。
労災保険指定医療機関であれば、治療代の請求手続をその病院がおこなってくれるため、被害者は窓口で費用負担をする必要はありません。
しかし、労災保険指定外医療機関の場合は、被害者はいったん窓口で治療費の全額を立て替え、その後、労働基準監督署に労災申請を行って補償を受ける必要があります。
労災保険の請求には、「求償」の方法のほかに、自賠責保険の請求手続きを先行させる「控除」の方法があります。
「控除」手続きでは、被害者は加害者の自賠責保険から賠償金を先に受け取り、その後労災保険から、自賠責保険と重複している賠償対象分を差し引いた額を受け取ります。
一般的には、「控除」手続きの方が休業補填をより多く受け取れるので被害者のメリットが大きくなりますが、被害者の過失が大きい場合などは、自賠責保険では過失割合によって賠償額が減額されるおそれがあるため、「求償」の方が良いといえます。
また、次の項で述べますが、示談の判断時期については慎重におこなう必要があります。
交通事故で労災保険に請求するには大きな注意点があります。
それは、労災保険への請求前に加害者との示談を行って慰謝料を受け取ってはいけないということです。
交通事故の示談というのは、被災者が加害者の不法行為によって受けた損害に対する損害賠償権について、加害者と早期合意によって解決するために、お互いに納得しうる額で折り合いをつけたということです。
つまり、被災者は、示談金額以外の損害賠償の請求権を放棄したということになります。
そのような場合は、国は、労災保険から示談成立以後の給付を行わないこととなっています。
いったん、給付が行われたとしても、示談成立が判明した後で返還させられることになります。
たとえば、加害者との示談成立後に、治療が長引いて、示談で成立した損害賠償額以上に治療費がかったとしても、示談後には労災保険からの給付はいっさいおこなわれません。
症状が悪化して、仕事を休業することになったり、障害が残ってしまったりしたとしても、示談内容以外の損害賠償額の給付がおこなわれることはありません。
とくに、後遺障害が残った場合、労災保険の給付は等級によっては年金形式で受け取ることができ、手厚いのが特徴です。
安易に加害者側の保険会社の示談に応じ、提示された書類にサインをすると、このような労災保険の恩恵を受けることができなくなってしまいます。
労災保険には慰謝料概念がないため、労災保険と任意保険では重複しない部分もあり、損害賠償の全部の示談ではなく一部の示談の場合、労災保険に請求できる可能性も残りますが、原則として、示談をして慰謝料を受け取ったら労災保険には請求できない、と考えておいた方がよいでしょう。
労災保険と任意保険(自賠責保険)にはどのような違いがあるのでしょうか。
労災保険と任意保険の両方から補償を受けることはできるのでしょうか。
できるとすれば、どのような条件があるのでしょうか。
以下で解説していきます。
労災保険と任意保険(自賠責保険)は、完全に別個の保険制度です。
任意保険(自賠責保険)は、交通事故の被害を補填する専門の制度であるのに対し、労災保険は、労働者の業務・通勤災害の被害を補填する制度です。
通勤途中の交通事故は、労災保険の救済範囲としてはごく一部ですので、対象に当てはまるかどうかの条件も厳しいといえます。
通勤災害として労災を使うには、次のような場合である必要があります。
さらに、これらの移動であっても、終業後に外食やショッピングをして事故に遭ったケースなどは、通勤の逸脱・中断とみなされ、対象になりません。
労災保険と自賠責保険では、補償内容にも大きな違いがあります。
傷害部分の補償内容はそれほど差はありませんが、労災保険では、慰謝料概念がありません。
後遺障害部分でも、労災保険では慰謝料概念がありませんが、自賠責保険が後遺障害等級に応じた一時金の慰謝料と逸失利益であるのに対し、労災保険では年金型の障害補償給付が支給されるのが大きな違いといえます。
労災保険と任意保険の両方から請求できるのは、重複しない部分です。
たとえば、補償内容が重複していても、どちらか片方の損害額が大きく他方の限度額を超過する場合は、超過分をもう片方に請求することができます。
さらにそれでも補えない場合、任意保険に請求することも可能です。
また、損害項目が同一であれば支給調整されますが、それぞれ異なる補償内容を定めている部分については、調整されません。
たとえば、労災保険では給付されない入通院慰謝料や、自賠責保険から補償されない特別支給金等については、調整がおこなわれず、両方から補償を受けることができます。
特に、労災保険で後遺障害認定された際に支払われる障害特別年金および障害特別一時金は、自賠責保険の後遺障害慰謝料と同様に思われがちですが、これらについても別個のものとして扱われ、支給調整されずに両方補償を受けられます。
後遺障害等級申請について、労災保険と自賠責保険のどちらを先に請求するかは、被害者の意思で決めることができます。
実務上は、自賠責保険から申請する場合が多いといえます。
自賠責保険は書面審査のみですが、労災保険は面談等もあり、労災保険の方がより被害者の症状などの実際に即した等級認定がおこなわれやすい傾向があります。
両者の認定方法が異なるため、等級認定の結果が一致しないケースもあります。
そのような場合、自賠責保険では「異議申立て」、労災保険では「審査請求」という制度を利用して不服申立てを行うことができます。
前述のように、労災保険の後遺障害給付の期限は、症状固定から5年間となっているので、期限にも注意する必要があります。
以上、通勤中に起きた交通事故については、労災保険を使った方がよいことや、自賠責保険との併用もできることなどがおわかりいただけたかと存じます。
交通事故の被害者であれば、ケガの程度がどの程度なのか、これからまだ入通院が必要な状態なのか、または、症状固定となり後遺障害が残ってしまったのかなどの状況によって、請求できる補償内容が異なってきます。
特に、重い後遺障害が残るような状態であれば、労災保険を使うメリットは大きいといえます。
記事を参考にして、加害者側の保険会社と示談をする前に、労災保険の請求を検討してみたらいかがでしょうか。