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交通事故の無過失責任とは?過失0でも損害賠償責任を負うケース

弁護士 石木貴治

この記事の執筆者 弁護士 石木貴治

東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/ishiki/

交通事故の無過失責任とは?過失0でも損害賠償責任を負うケース

この記事でわかること

  • 無過失責任とは何かわかる
  • 無過失責任で加害者になってしまった場合の対処法がわかる
  • 無過失責任で損害賠償が請求された判例がわかる

無過失責任という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

普段の生活ではあまり耳慣れない言葉ですので、交通事故の示談交渉時に、はじめて耳にされる方も多いと思います。

無過失責任(むかしつせきにん)とは、その名のとおり、こちらに故意や落ち度がなくても、強制的に相手に与えた損害に責任を負うことをいいます。

無過失責任とは、どういったときに負うものでしょうか。

この記事では、証明が難しいといわれる無過失責任についてご説明します。

交通事故における無過失責任とは

交通事故で適用される民事法は、民法と自動車損害賠償保障法(いわゆる自賠法)の2つです。

通常は、民法と重ねて自賠法が適用されます。

しかし、民法と自賠法で定められた法律が異なる場合は、自賠法を優先して適用されます。

過失責任における取り決めも民法と自賠法で異なります。

民法は過失責任主義を適用

日本の民法は、原則的に「過失責任主義」が適用されています。

民法709条は、故意過失により他人に損害を与えた者は、その損害を賠償する責任を負うと規定しています。

逆に言うと、わざとやったわけでもなく、落ち度もなく、他人に損害を与えてしまったとしても基本的には免責されるということを意味します。

一般常識的にも、責められる原因がない人が損害賠償責任を負うのはかわいそうだという気がしますので、納得感がありますよね。

自動車損害賠償保障法では無過失責任を適用

一方、特別法である自賠責法は、無過失責任に近い責任を定めています。

自賠法第3条では、運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償しなければならないと定めています。

民法709条と読み比べてみると、故意または過失によりという要件がありません。

上述のように、自賠責法は民法に優先して適用されるので、運転者は無過失責任に近い責任を負うということになるのです。

無過失責任とされている理由

自賠責法3条は、無過失責任に近い責任を認めたものであるといえます。

なぜ法律は、加害者に厳しい無過失責任を認めたのでしょうか。

これは、運転者が自動車という便利なものを利用するメリットを享受できる一方、安全運転を徹底すべき・重大な責任を負うべきである立法政策上の考え方であるともいえます。

無過失責任では加害者が立証責任を負う

無過失責任といっても、全く責任がない場合まで損害賠償責任を負うということではありません。

自賠責法に定める無過失責任は、いわゆる立証責任の転換です。

裁判になった場合に自分に有利になる事柄を証明するのは、利益を受ける側がしなければならないのが原則です。

つまり、交通事故の慰謝料請求訴訟であれば、損害賠償金を受け取る被害者が立証しなければなりません。

過失責任であれば、被害者は「加害者の運行によって怪我をしました」ということに加えて、加害者が「故意または過失」があったことを証明する必要があります。

想像してみるとわかると思いますが、事故や怪我の存在は、警察の事故証明の提出や、主治医から診断書を出してもらえれば、容易に証明することができます。

一方、事故の原因が、加害者の故意または過失によるということは解釈が加わるので、第三者である被害者が証明することは非常に難しいのです。

反対に無過失責任となると、立証責任が加害者に転換されます。

よって被害者が証明しなければいけない事項は「加害者の運行によって怪我をしました」ということだけで、加害者が故意過失がなかったことを証明しなくてはいけません

証明が出来ない限りは、過失があったものとして、損害賠償をしなければならないのです。

被害者が故意過失の存在を証明するのも大変ですが、同様に加害者に故意過失がなかったことを証明するのも大変です。

ドライブレコーダーをつけているなどの場合は別ですが、ないことの証明は悪魔の証明ともいい、なかなか証拠提出が難しいのです。

損害賠償責任を負わないための対策

交通事故の無過失責任で加害者になってしまったときの対策

車を運転する限りにおいて、誰もが事故とは無関係ではいられません。

被害者になる可能性はもちろん、加害者になってしまうこともあるでしょう。

上述のように、自賠責法は加害者に無過失責任に近い責任を課しています。

損害賠償請求訴訟を起こされた場合、加害者が無過失であったことを立証するためには、以下3点を証拠を添えて主張立証していく必要があります。

運転者として一切の注意を怠らなかったことを証明する

交通事故の中でも多い事故が、衝突事故です。

衝突事故の結果、運悪く相手のドライバーが死亡してしまったとしましょう。

衝突の原因がどちらにあったのが事実であれ、自らが事故の原因がなかったことを積極的に主張立証していかない限り、遺族に対して高額な死亡慰謝料を支払わなければいけません。

こうした場合は、事故の様子を冷静に振り返り、自分に落ち度がなければその旨をきちんと主張しましょう。

例えば、自分が車を運転していて、センターラインからもはみださず、十分な車間距離をとり、法定速度を守っていたのに、相手が居眠りをしていて突如センターラインをはみだして激突してきたということも考えられます。

ドライブレコーダーがつけられていれば最も主張立証が容易ですが、警察の実況見分書などの公的記録や事故の目撃者の証言などを証拠として提出し、過失がなかったことを証明しましょう。

警察の実況見分書は、事故直後の状況を道路の状態や当事者からの記録で記したものです。

警察は民事不介入のため、こちらから請求をしなければ資料が提出されることはありません。

訴訟の際には弁護士照会を利用するなどして、積極的に利用しましょう。

損害賠償の観点でいうと、事故の加害者被害者とは、怪我の大小に関係なく過失割合が大きい方をいいます。

亡くなった相手ドライバーには気の毒ですが、こちらが被害者ということも十分ありえるのです。

相手や自分以外の第三者に故意・過失があったことを証明する

上記にあげた正面衝突の事例では、相手のドライバーが居眠り運転をしてセンターラインをはみ出してきたという自賠責法違反、過失があります。

たとえこちらにも過失があるとしても、相手方にも過失がある場合は、過失相殺といって相手の過失部分については損害賠償責任を負う必要はありません

運転していた自動車に欠陥や機能障害がなかったことを証明する

乗っている自動車に不具合がないように整備した上で運転することは、道路交通法により運転者に義務付けられています。

いざというときに、ブレーキがさびついていたということでは、道路交通法が目指す道路や交通の安全という目的は達成できません。

そのため、運転していた車がリコール対象など構造上の欠陥がないことを証明し、また、法定点検や定期点検を受けていることを点検記録などを示して証明しましょう。

詳しく知りたい方は、「受取金額に大きく影響!交通事故の「過失割合」をケース別に詳しく解説」を参照してください。

無過失なのに損害賠償を負ってしまった判例

交通事故にあった人の中には、無過失であるにもかかわらずその無過失を証明できずに、損害賠償責任を負うこととなってしまうことがあります

ここでは、実際に損害賠償を負った判例を確認しておきましょう。

2012年4月に発生した交通事故では、19歳の男子大学生が運転する車がセンターラインをはみ出し、対向車線を走る車に正面衝突しました。

この事故で、男子大学生が運転する車の助手席に座っていた、この車の持ち主である34歳の男性が死亡したのです。

この事故の原因とされたのが、男子大学生の居眠り運転です。

しかし亡くなった男性の遺族は、対向車にも自己の責任があるとして、損害賠償を請求する裁判を起こしました。

そして裁判所は、居眠り運転によって対向車線から突っ込まれた車の運転手の無過失が証明できないことを理由に、この対向車の運転手に対して4,000万円の損害賠償を認める判決を下しました。

常識的に考えれば、居眠り運転をした車が対向車線から突っ込んできた場合、突っ込まれた側はもらい事故であり、ほとんど過失はないあるいは過失ゼロと考えられます。

しかし、裁判では無過失とは認められず、逆に過失がないことを証明しなければ、多額の損害賠償責任を負うことになることが明らかになったのです。

まとめ

交通事故は、誰でも起こしてしまう可能性があります。

また、ある日突然、交通事故の被害者になってしまう可能性もあります。

特に交通事故の被害にあった人の中には、自身には全く過失がないのに、損害賠償責任を負わされることも考えられるのです。

ただ、交通事故の素人が、自身に全く過失がないことを証明するのは極めて困難です。

そこで、交通事故を起こした場合、あるいは交通事故の被害にあった場合は、弁護士に相談するのが最善の方法となります。

交通事故の加害者になった場合、あるいは被害者になった場合は、大きな問題になる前に円満に解決できるよう、早めに弁護士に相談しましょう。

保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。 保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。

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