

東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

目次
自動車の全損とは、交通事故などによって車両が大きな損害を受け、修理ができない場合や、修理費が車両の価値を上回る場合などに認定される状態をいいます。
まずは、自動車の全損の種類や判断基準について確認していきます。
自動車の全損には、「物理的全損」と「経済的全損」の2種類があります。
物理的全損とは、自動車が大破・焼失したり、水没によって修復が困難になったりして、物理的に修理できない状態をいいます。
物理的全損と判断された場合、車両を元の状態に戻すことができないため、原則として事故当時の車両の時価額などを基準に損害額が算定されます。
経済的全損とは、物理的には修理可能であるものの、修理費が事故前の車両の時価額と買替諸費用の合計額を上回る状態をいいます。
たとえば、事故前の車の時価額が80万円、買替諸費用が20万円であるにもかかわらず、修理費が150万円かかる場合には、修理するよりも買い替えた方が合理的と考えられるため、経済的全損として扱われます。交通事故で問題になる全損の多くは、この経済的全損です。
経済的全損と判断されると、実際に修理するかどうかにかかわらず、原則として「事故前の車両の時価額+買替諸費用」を上限として損害額が算定されます。
車が盗まれて戻ってこない場合も全損として扱われます。盗難にあった場合、車両そのものが失われてしまい所有者が利用できなくなる点では、事故によって修理不能となった場合と同じだからです。
また、盗難後に車両が発見されたとしても、解体されていたり大きく損傷していたりして利用できない状態であれば、全損として扱われることがあります。
なお、盗難による損害が補償されるかどうかは加入している保険の内容によって異なります。車両保険に加入していても、契約内容によっては盗難が補償対象外となる場合があるため、保険証券や約款を確認しておきましょう。
全損かどうかを最終的に決めるのは警察や裁判所ではなく、当事者や保険会社との交渉です。
交通事故では、保険会社が修理見積額や車両の時価額を調査したうえで、「経済的全損にあたるため、時価額と買替諸費用を賠償します」と提案してくることがあります。しかし、その判断に被害者が必ず従わなければならないわけではありません。
たとえば、保険会社が算定した時価額が実際の中古車市場価格よりも低い場合や、修理費の見積もりに争いがある場合には、全損認定そのものや賠償額について交渉できる余地があります。
特に経済的全損では、「車の時価額をいくらと評価するか」が賠償額に大きく影響します。そのため、保険会社から全損と言われた場合でも、提示内容をそのまま受け入れるのではなく、時価額の根拠や修理費の内容を確認することが重要です。
全損かどうかは、単に車の壊れ方だけで決まるわけではなく、損傷の程度や修理費、事故前の車両価値などを踏まえて判断されます。
ここでは、物理的全損と経済的全損の具体的な判断基準や、経済的全損になりやすい車の特徴について解説します。
物理的全損かどうかは、自動車を修理して元の状態に戻せるかどうかを基準に判断されます。
たとえば、事故によって車体の骨格部分が大きく変形し修理が不可能な場合や、火災による焼失、水没によって車両の機能回復が見込めない場合には、物理的全損と判断されることがあります。
また、技術的には修理が可能であっても、安全性を回復できない場合や、必要な部品の調達が困難で現実的に修理できない場合には、物理的全損として扱われることがあります。
実際には、修理工場の見積書や損害調査会社の調査結果などをもとに、修理の可否や安全性を総合的に検討して判断されます。
経済的全損かどうかは、修理費と事故前の車両の価値を比較して判断されます。具体的には、修理費の額が「事故前の車両の時価額+買替諸費用」を上回る場合、経済的全損と判断されるのが一般的です。
経済的全損になりやすい車の特徴としては、次のようなものが挙げられます。
ただし、希少価値の高いヴィンテージカーやクラシックカー、限定生産車などについては、市場での取引価格や収集価値などを踏まえて時価額が算定されることがあります。
修理費は、修理工場が作成する見積書をもとに算定されます。
時価額とは、事故当時にその車を中古車市場で売買した場合の価格をいいます。一般的には、同程度の車種・グレード・年式・走行距離の中古車価格を参考に算定されます。
一方で、保険会社は「レッドブック(Red Book)」(中古車価格情報専門誌)などの資料を参考に独自の基準で時価額を算定することが多く、市場価格より低い金額が提示されるケースもあります。
買替諸費用とは、全損となった車と同程度の車両を取得する際に通常必要となる費用をいいます。具体的には、次のような費用が含まれます。
もっとも、すべての費用が必ず認められるわけではなく、事故との関連性や必要性を踏まえて個別に判断されます。
交通事故で車が全損した場合には、車両本体の損害以外にも請求できる費用があります。
ここでは、全損時に認められる主な賠償項目について解説します。
全損となった場合、車両本体の損害として請求できる金額は、原則として「事故前の車両の時価額+買替諸費用」が上限となります。
これは、交通事故の損害賠償が「事故によって失った利益を填補すること」を目的としており、事故前と同程度の車を取得できるだけの金額が賠償されれば足りると考えられているためです。
たとえば、事故前の車両の時価額が100万円、買替諸費用が20万円であれば、賠償額の上限は120万円となります。そのため、仮に修理費が150万円かかったとしても、経済的全損に当たる場合には、原則として120万円までしか請求できません。
事故によって車が自走できなくなった場合には、レッカー代や保管料も損害として請求できる可能性があります。
もっとも、無制限に請求できるわけではなく、事故との関連性があり、必要かつ相当な範囲の費用に限って認められます。そのため、過度に高額なレッカー費用や長期間の保管料については、全額が賠償されないこともあります。
請求に備えて、領収書や請求書は保管しておくようにしましょう。
事故によって車が全損となり、買い替えが完了するまで車を利用できなくなった場合には、代車費用を請求できる可能性があります。
もっとも、どのような代車でも認められるわけではありません。原則として、事故車と同程度の車種・グレードの代車を利用するために必要な費用が賠償の対象となります。
たとえば、事故車が一般的な乗用車であるにもかかわらず、高級車を借りた場合には、その差額部分が認められない可能性があります。また、事故車が外国製の高級車であっても、国産の高級車相当の代車費用しか認められないケースもあります。
代車費用を請求できる期間にも制限があります。認められるのは、全損車の買い替えに必要な合理的な期間に限られ、一般的には1カ月程度が目安とされています。
交通事故によって車内に積んでいた荷物が壊れたり使用できなくなったりした場合には、その損害についても請求できる可能性があります。
たとえば、パソコン、スマートフォン、ゴルフ用品、ベビーカー、スーツケースなどが事故によって破損した場合には、賠償の対象となることがあります。
もっとも、事故との因果関係や損傷の程度が確認できることが必要です。また、賠償金額は購入時の価格ではなく、事故当時の時価額が上限となります。
そのため、長年使用して価値が下がっている物については、購入価格よりも低い金額しか認められないことがあります。また、市場で取引できない物については無価値と判断され、損害賠償が認められない場合もあります。
ここでは、全損時に受け取れる賠償金の考え方や注意点について解説します。
全損となった場合に請求できる車両損害の額は、原則として「事故前の車両の時価額+買替諸費用」が上限となります。
そのため、実際に車を買い替える場合はもちろん、経済的全損の車を修理して乗り続ける場合であっても、この上限額を超える部分については加害者側に請求できません。
経済的全損となった車を修理する場合、修理費が「時価額+買替諸費用」を上回ることも少なくありません。この場合、上限を超えた修理費は自己負担となるのが原則です。
もっとも、自動車保険に「対物超過特約(対物超過修理費用特約)」が付いている場合には、上限を超える修理費について補償を受けられることがあります。たとえば、賠償額の上限が120万円であるにもかかわらず修理費が150万円かかった場合でも、特約によって差額の30万円が補償されるケースがあります。
適用条件や補償限度額は保険会社によって異なるため、加入している保険の内容を確認してみましょう。
交通事故について自分にも過失がある場合には、その割合に応じて賠償金が減額されます。これを「過失相殺」といいます。
たとえば、事故前の車両の時価額と買替諸費用の合計が100万円であったとしても、自分に20%の過失が認められる場合には、加害者側に請求できるのは80万円までです。
また、過失相殺は車両損害だけでなく、治療費や慰謝料などの賠償額にも大きな影響を及ぼします。そのため、全損事故で十分な賠償を受けるためには、適正な過失割合で示談することが重要になります。
車が全損した場合、保険会社から提示された金額をそのまま受け入れると、本来受け取れるはずの賠償金よりも少ない金額で示談してしまうことがあります。
ここでは、全損事故で不利益を被らないために押さえておきたいポイントを解説します。
全損事故で損をしないためには、複数の業者に査定を依頼し、車両の適正な価値を把握することが重要です。
保険会社はレッドブックなどを参考に時価額を算定しますが、その金額が実際の中古車市場価格より低いケースも多いです。
特に、人気車種や状態の良い車、希少性のある車については、市場価格の方が高くなることも少なくありません。そのため、保険会社から提示された時価額に疑問がある場合には、中古車販売店や買取業者に査定を依頼し、査定書や見積書を取得しておくとよいでしょう。
見積もりを依頼する際は複数社に依頼しておくことをおすすめします。複数の査定結果があれば、「実際にはこれだけの市場価値がある」と客観的な資料をもとに主張できるため、保険会社との交渉を有利に進められる可能性があります。
全損事故では、車両の時価額だけでなく、買い替えに必要な諸費用も請求できる可能性があります。しかし、保険会社との交渉では車両本体の価格ばかりに目が向きがちで、買替諸費用の請求を失念してしまうケースも少なくありません。
買替諸費用には、登録手続き費用や車庫証明取得費用、廃車費用、未経過車検相当額などが含まれることがあります。これらの費用を適切に請求できれば、受け取れる賠償額が増える可能性があります。
交通事故では、過失割合によって受け取れる賠償額が大きく変わります。そのため、保険会社から提示された過失割合をそのまま受け入れるのではなく、本当に妥当なのかを確認することが重要です。
ドライブレコーダーの映像や事故現場の写真、防犯カメラ映像、目撃者の証言などの証拠がある場合には、過失割合の修正につながる可能性があります。判例タイムズなどの書籍を参照して事故類型別の基本過失割合を確認し、事故状況に応じた修正要素がないかを検討することが重要です。
保険会社が提示する時価額は、中古車市場の実際の販売価格よりも低くなる傾向があります。これは、保険会社が市場の平均的な取引価格などを基準に算定するのに対し、実際の販売価格には人気や車両状態の良さなどが反映されているためです。
そのため、人気車種や走行距離の少ない車、状態の良い車などについては、実際の中古車市場価格よりも低い時価額が提示されることがあります。提示額に納得できない場合には、中古車販売サイトの掲載価格や買取業者の査定書などを証拠として提出し、時価額の見直しを求めることが考えられます。
保険会社の提示内容に納得できない場合には、そのまま示談せず、時価額の根拠を確認したり、市場価格に関する資料を集めたりすることが重要です。
保険会社の提示額に納得できない場合は、まず弁護士への相談を検討しましょう。
全損事故では、車両の時価額や買替諸費用、過失割合などを巡って争いになることがあります。しかし、被害者自身が保険会社と交渉しても、適正な賠償額を主張するのは容易ではありません。
弁護士に依頼すれば、時価額の算定方法や過去の裁判例などを踏まえて交渉を進めてもらえます。また、保険会社とのやり取りを任せられるため、精神的な負担も軽減できます。
特に弁護士費用特約が付いている場合には、費用負担なく依頼できるケースもあります。
保険会社から提示された時価額に納得できない場合には、算定根拠の開示を求めましょう。
保険会社は、レッドブックなどの資料を参考に時価額を算定していることが一般的です。しかし、どの車種・年式・グレードを基準にしたのかによって、算定額が変わることがあります。
根拠資料を確認することで、車両情報に誤りがないか、適切な評価が行われているかを検証できます。
保険会社の提示額が実際の市場価格より低いと考えられる場合には、中古車市場価格を証拠として提出することも有効です。たとえば、中古車販売サイトに掲載されている同程度の車種・グレード・年式・走行距離の車両価格や、中古車販売店・買取業者の査定書などが参考資料となります。
こうした資料によって市場価格との乖離を示せれば、時価額の見直しや増額につながる可能性があります。
特に人気車種や走行距離の少ない車、状態の良い車については、市場価格を根拠に交渉することで賠償額が増額されるケースもあります。
車をローンで購入している場合、「全損になったらローンは払わなくてよくなるのか」「賠償金でローンを完済できるのか」と不安に感じる方もいるでしょう。
ここでは、全損事故と車のローンの関係について解説します。
車が全損になったとしても、ローン契約そのものがなくなるわけではありません。ローンは車を購入するための借入契約であり、事故によって車が使えなくなったとしても、原則として契約どおり返済を続ける必要があります。
そのため、「車はなくなったのにローンだけが残る」という状況になることもあります。特に購入から間もない車の場合には、ローン残高が賠償金額を上回るケースも少なくありません。
全損事故であっても、残っているローン全額を相手方の保険会社に請求することはできません。相手方に請求できるのは、原則として事故前の車両の時価額と買替諸費用です。
ローン残高を基準に賠償額が決まるわけではないため、注意が必要です。
ローンが残っている状態で全損となった場合には、賠償金をローン返済に充てるのが一般的です。また、全損車に価値が残っている場合には、売却代金をローン返済に充当できることもあります。
それでもローンが残る場合には、不足分を自己資金で返済するほか、新たな車の購入時にローンを組み替える方法も考えられます。具体的な対応方法はローン会社や販売店によって異なるため、全損となった場合には早めに相談しておくとよいでしょう。
交通事故で車が全損した場合には、相手方への損害賠償請求だけでなく、自分が加入している車両保険を利用できる可能性があります。車両保険を利用すれば、示談交渉が長引いている場合や、過失相殺によって十分な賠償を受けられない場合の損害をカバーできることがあります。
また、契約内容によっては「新車特約(車両新価特約)」が付いていることもあります。新車特約とは、事故前の車両の時価額ではなく、新車価格相当額を基準として保険金が支払われる特約です。そのため、購入から間もない車が全損した場合には、加害者側への請求よりも手厚い補償を受けられるケースもあります。
もっとも、車両保険を利用すると等級が下がり、翌年以降の保険料が上がることがあります。そのため、まずは相手方に対する損害賠償請求を検討し、受け取れる保険金額と将来の保険料負担を比較したうえで利用するか判断することが大切です。
問題ありません。経済的全損とは「修理できない状態」ではなく、「修理費が車両の時価額などを上回る状態」を意味します。そのため、自己負担分を支払えば修理して乗り続けることも可能です。
いいえ。過失割合が10対0であっても、請求できる金額は原則として「事故前の車両の時価額+買替諸費用」が上限です。そのため、実際の買替費用がこの金額を超える場合には、超過分を請求できないことがあります。
原則としては時価額が基準となります。ただし、事故から間もない新車であれば時価額も高額になる傾向があります。また、自身の車両保険に新車特約(車両新価特約)が付いている場合には、新車価格相当額の補償を受けられることがあります。
一般的には難しいと考えられています。評価損とは、修理後も事故歴が残ることで車両価値が下がる損害をいいます。しかし、経済的全損の場合には修理を前提としていないため、評価損は認められないのが通常です。
廃車手続きを行った場合には、未経過期間に対応する自動車税(種別割)の還付を受けられることがあります。ただし、還付の有無や手続き方法は車種や登録地域によって異なるため、管轄の運輸支局や自治体に確認しましょう。
残っている車検期間に対応する費用については、買替諸費用の一部として損害賠償の対象となることがあります。ただし、認められる範囲は個別の事情によって異なるため、保険会社の提示内容を確認することが重要です。
交通事故で車が全損した場合、受け取れる賠償額は修理費ではなく、車両の時価額や買替諸費用を基準として決まるのが原則です。そのため、保険会社から提示された金額が思ったより低く、「本当に適正なのか」と疑問を感じることも少なくありません。
保険会社の提示額に納得できない場合や、少しでも多くの賠償を受けたい場合には、交通事故に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
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