ワイヤレスイヤホンの普及に伴い、昨今自転車に乗りながらイヤホンで音楽などを聴いている人が増えています。
現時点では、車両の運転中のイヤホン使用を直接禁止する法律はありません。
一方、ほとんどの条例で、自動車の運転中に「必要な音声が聞こえなくなる程度の大音量でイヤホンを使用すること」を禁止しています。
それでは、自転車の運転中のイヤホン使用についても、条例違反となるでしょうか?
また、条例違反となる場合はどのような罰則を科される可能性があるのでしょうか?
今回は、自転車運転時のイヤホン使用がどのような法令に違反するかについて、適用される罰則・罰金と合わせて解説します。
目次
自転車は道路交通法上の「軽車両」に該当し、車両の一種として道路交通法の適用を受けます。
自転車運転中のイヤホン使用そのものについては、現時点では道路交通法で直接禁止する規定がないため、法律違反という意味の「違法」であるとはいえません。
一方で、自動車の場合と同様、すべての都道府県の条例に「安全な運転に必要な交通に関する音が聞こえない状態」での運転を禁止した規定が存在します。
これらの規定では、「安全な運転に必要な交通に関する音が聞こえない状態」をもたらす例として、イヤホンやヘッドホン、カーラジオなどを挙げています。
さらに、自転車の交通違反に対する規制を進める動きに伴い、2024年5月に自転車の交通違反に対して交通反則切符(青切符)を交付する改正道路交通法が国会で成立しました。
改正法は、周知期間を経て、2026年内に施行される予定です。
改正道路交通法で青切符の対象となる行為の中には、イヤホンを付けながらの運転行為も含まれます。
これにより、改正道路交通法の施行後は、自転車に乗りながらイヤホンを付けることも違法になるといえるでしょう。
イヤホンを使用しながら自転車を運転していて交通事故を起こした場合、条例違反になるとともに、道路交通法第70条の安全運転義務違反となります。
自転車運転者は、車両運転者として「道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」を遵守する義務があります(道路交通法第71条6号)。
自転車運転時のイヤホン使用については、上記の「その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」として、都道府県が条例や規則で定めています。
ここでは、条例・規則で自転車運転時のイヤホン使用を禁止している都道府県の例をご紹介します。
北海道道路交通法施行細則第12条7号では、同条で列挙された「運転者の遵守事項」の中で、「高音でカーラジオなどを聞き、またはイヤホンもしくはヘッドホンを使用して音楽を聴くなど安全な運転に必要な交通に関する音または声が聞こえないような状態で、車両を運転しないこと※」と定めています。
※難聴者が補聴器を使用する場合または公共目的を遂行する者が当該目的のための指令を受信する場合を除く
同条項は、安全な運転に必要な交通に関する音または声が聞こえない状態になる例として「高音でカーラジオなどを聞く」ことと「イヤホンを使用して音楽(など)を聴く」ことを分けていると読み取れます。
このことから、同条項は音量にかかわらず、イヤホン使用そのものを禁止しているといえるでしょう。
参照元:北海道道路交通法施行細則
岩手県道路交通法施行細則第14条3号では、運転手の遵守事項として、「ヘッドホン等を使用して、安全な運転に必要な交通に関する音または声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと」と定めています※。
※公益上緊急やむをえない場合を除く
ここで注意したいのが、同県警察本部長名義の「道路交通法施行細則の解釈・運用の制定について」で示している見解です。
同文書では「ヘッドホン等」について、「イヤホンを含み、両耳をふさいだ状態をいう。」と定義するとともに、「ただし、片耳だけのものは、周囲の音が全く聞こえないこととはならないから該当しない」として、片耳イヤホンの使用を禁止しない見解をとっています。
しかし、片耳イヤホンを「ヘッドホン」に該当しない理由が「周囲の音が全く聞こえないこととはならない」であることに注意が必要です。
片耳イヤホンであっても、付けることによって周囲の音が聞こえなくなるようであれば、使用してはならないといえるでしょう。
参照元:岩手県道路交通法施行細則
島根県道路交通法施行細則第15条1号では、「イヤホン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音または声が聞こえないような状態で車両を運転しないこと」と規定されています。
島根県の場合、片耳イヤホンや骨伝導イヤホンについても、「安全な運転に必要な交通に関する音または声が聞こえない状態」になる使用方法を禁止する見解を明らかにしています。
さらに、遮音性のないイヤホンを片耳で使用することなども含めて、「安全な運転に必要な交通に関する音または声が聞こえなくなるばかりでなく、意識が音楽などに集中し、安全確認がおろそかになるなど、交通違反や交通事故を誘発する可能性が高くなるため、イヤホンそのものの使用を控えるよう指導している」と示しています。
前項の岩手県の見解が「形状を問わず、イヤホン使用によって周囲の音が聞こえない状態になる場合には自転車の運転を禁止している」と解釈できるのに対して、島根県では事実上イヤホン使用そのものを禁止しているといえるでしょう。
ここでは、自転車運転時にイヤホンをしていた場合に運転者が科される罰則・罰金について解説します。
自転車運転時にイヤホンをしていると、周囲の音が聞こえづらくなるため、事故を起こした場合には道路交通法上の安全運転義務違反を問われる可能性が高いです。
安全運転義務違反と判断された場合、以下の罰則が科されます。
イヤホンを付けて自転車を運転する行為が条例違反と判断された場合は、各条例の定める罰則に基づいて罰金が科されます。
罰金の額は、5万円以下と定められている条例が大半です。
現在では、すべての都道府県で「周囲の音が聞こえない状態」での自転車運転を禁止しています。
イヤホンを付けて自転車を運転していると、周囲の音が聞こえづらく、また運転に集中できなくなるおそれもあるため非常に危険です。
運転者がイヤホンを付けて走行していた自転車を当事者とする死亡事故が発生しているのも事実です。
自転車自体が他の車両や歩行者と衝突したケースに加えて、自転車を避けようとした自動車が歩行者を巻き込み、歩行者が死亡する事故も起こっています。
イヤホンを付けて自転車を運転していて交通事故を起こした場合、相手方の保険会社が自転車運転者の過失を大きく見積もる可能性が高いです。
過失をゼロにすることは難しいですが、相手方の運転行為によっては保険会社の主張が不当な場合もあるでしょう。
相手方や、保険会社の主張に納得がいかない場合には、交通事故を専門とする弁護士にご相談ください。