東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
近年、ライフスタイルの変化に伴い、カーシェア利用の人気が高まっています。
カーシェアの正式名称は「カーシェアリング」で、カーシェアリング会社に登録した人が同じ車を共有して利用できるサービスです。
全国の拠点で車を共有して利用できることが大きなメリットです。
しかし、カーシェアであっても自家用車の運転と同じように、交通事故のリスクは避けられません。
カーシェアで事故が発生した場合、カーシェア会社からはどのような賠償請求を受けるのでしょうか。
また、相手方との示談交渉の中で、特に物的損害についてはどのように請求すればよいのでしょうか。
今回は、カーシェアで交通事故に遭ったときの対処法や、示談交渉の際に注意する点などを解説します。
カーシェア利用中に交通事故に遭った場合、どのようにすればよいでしょうか?
ここでは、カーシェア利用中に交通事故に遭ったときの対処法について、自家用車の場合との違いとあわせて解説します。
初期対応については、自家用車の事故の場合と同じです。
事故で怪我をした人がいる場合、まず怪我人を救護してください。
意識を確認して、救急車を呼び、道路脇などの安全な場所に移動させます。
負傷者の救護と安全確保を行ったら、警察に連絡しなくてはなりません。
警察への連絡(事故報告)は、救護・安全確保と並んで、道路交通法第72条1項で義務づけられています。
警察への事故報告を怠った場合、交通事故証明書の発行を受けられません。
保険会社に請求する上で、「交通事故に遭った事実」の証明として必要になるため、必ず警察に事故報告してください。
また、警察が到着すると実況見分が行われ、実況見分調書が発行されます。
事故報告を怠ると実況見分調書の発行も受けられないため、保険会社に慰謝料や損害賠償の請求を行う上での重要な証拠が得られなくなってしまいます。
カーシェアでの交通事故と、自家用車での事故の初期対応の違いはこの点にあります。
自家用車の事故の場合、警察に事故報告を行った後、保険会社に連絡します。
カーシェアでの交通事故の場合、カーシェア会社の事故受付窓口に連絡しなくてはなりません。
これは、カーシェア車両が独自で自賠責保険・任意保険に加入しているためです。
カーシェアリング会社の事故受付電話は24時間対応しているので、事故の発生場所や被害の程度にかかわらず、必ず連絡しましょう。
カーシェア車両の返却までに事故受付窓口に連絡しなかった場合、保険や補償の適用を受けられず、さらに会員資格をはく奪されてしまいます。
カーシェアリング会社は、事故連絡を受けた後、保険会社に電話を転送します。
保険会社は、会員に過失がある場合は相手方に連絡を入れ、怪我の完治などの適切なタイミングで示談交渉を行います。
このように、カーシェアリングで交通事故が起きた場合は、先にカーシェアリング会社に連絡した上で、保険会社に対応を依頼する流れになります。
もし軽い接触事故などで、相手方が直接示談を申し入れてきても、相手方との示談には応じないようにしてください。
相手方と直接示談してしまうと、保険・補償の適用外となり、示談交渉や賠償金支払いなどすべての手続きを会員自身が行わなければなりません。
カーシェアリングで交通事故に遭った場合、注意しなくてはならない点として以下が挙げられます。
カーシェアリングで事故に遭った場合、まずNOC(Non Operation Charge)が発生することに注意が必要です。
NOCとは、以下の事情で当該車両によるカーシェアリングができなくなった場合に、営業補償の一部として会員が支払う金銭を指します。
NOCの金額は損害の程度により異なりますが、おおむね車が自走可能な場合は2万円程度、自走不可能な場合は5万円程度です。
なお、NOCの支払金額は、会員が規約を守って車両を利用し、事故や損害発生時に警察やカーシェアリング会社への連絡を行っていることが前提です。
警察やカーシェアリング会社への連絡を怠った場合や、その他の規約違反行為を行っていた場合は保険・補償の適用外となり、営業補償の全額を請求されます。
事故の原因について、利用者に重大な過失がある場合には、会員資格がはく奪される可能性があります。
重大な過失の例として、以下が挙げられます。
会員がカーシェアリング会社の会員規約に違反していた場合、保険・補償の対象外になる場合があります。
会員規約違反の例として、以下のようなケースが挙げられます。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
カーシェアリングでは、会員登録した人が、家族など一定の範囲内で「追加運転者登録」をすることが認められています。
しかし、会員本人が追加運転者登録をしていない人に運転させ、その運転者が交通事故を発生させた場合は規約違反となり、保険・補償が適用されません。
たとえば家族であっても、追加運転者登録のない人に車両を「又貸し」することは認められないことに注意しましょう。
道路交通法第71条の3第3項は、6歳未満の幼児が自動車に乗る場合のチャイルドシート利用を義務付けています。
チャイルドシートを設置しないで、または設置していても幼児に装着せずに車両を運転することは、同条項違反となります。
カーシェアの車の場合でも同様で、道路交通法違反になるとともに、カーシェアリング会社の規約違反にもあたります。
会社やステーションによっては、チャイルドシートを設置した車両を利用できますが、該当車両や対応するステーションは限られています。
なお、チャイルドシートを設置していない車両に、所有するチャイルドシートを設置することは問題ありません。
カーシェアの利用頻度が高く、6歳未満の子どもがいる家庭の場合は、チャイルドシートを事前に用意しておくことをおすすめします。
前述のように、カーシェアの車両を利用中に交通事故に遭った場合は、必ずカーシェアリング会社の事故受付窓口に連絡しなければなりません。
カーシェアリングに事故の連絡をせずに車両を返却した場合は規約違反となり、保険・補償を受けられなくなります。
ただし、もらい事故で重傷を負った場合のように、連絡しなかったことについてやむを得ない事情がある場合には、規約違反とみなされない可能性があります。
事故発生直後に警察に事故の届出を行うことは、道路交通法第72条1項で運転者等に義務付けられています。
警察に届け出をしなかった場合、前述のように事故証明書・実況見分調書の発行を受けられないほか、カーシェアリング会社の規約違反となります。
軽度の事故の場合、相手方から「警察に知らせないでほしい」と頼まれるケースがあります。
しかし、これに応じてしまうと規約違反となり、会員資格をはく奪されることになりかねません。
義務とともに権利を守るためにも、警察への届出は必ず行いましょう。
カーシェアは、その都度好みの車種を利用できる・利用した分の代金しか発生しないため、車を安く利用できるなど、多くのメリットがあります。
一方で、カーシェアも自家用車の運転と同様に、交通事故のリスクは避けられません。
また、規約違反があった場合は事故の保険・補償が受けられなくなるため、相手方との示談交渉をすべて自分で行わなければなりません。
カーシェアを利用するにあたっては、利用規約に目を通すとともに、交通事故に遭った場合の対処法や注意点を理解しておくことが大切です。
カーシェアリング会社や保険会社の対応に納得がいかないなど、カーシェアでの交通事故でお困りのことがありましたら、弁護士へのご相談をおすすめします。