東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
交通事故の被害で椎間板ヘルニアが発症した場合、後遺障害等級の認定を受けられることがあります。
認定を受けることによって、慰謝料の額も変わってきます。
椎間板ヘルニアの後遺障害等級認定の申請や慰謝料の示談交渉では、理解していないと不利になるケースもあるので注意が必要です。
ここでは、交通事故による椎間板ヘルニアで認定される後遺障害等級、認定までの流れ、慰謝料の相場などについて詳しく解説します。
目次
椎間板ヘルニアは、一般的に加齢や重い物を持ったときの負荷で発生すると考えられていますが、交通事故などの外傷でも発生することがあります。
椎間板ヘルニアには、ヘルニアが発生する部位によって、「頸椎椎間板ヘルニア」「胸椎椎間板ヘルニア」「腰椎椎間板ヘルニア」に分けられます。
交通事故で発生するのは、頸椎椎間板ヘルニアと腰椎椎間板ヘルニアです。
椎間板ヘルニアが発生する仕組み、頸椎椎間板ヘルニアや腰椎椎間板ヘルニアの症状について見ていきましょう。
人間の背骨(脊椎)は24個の椎骨で構成されていますが、椎間板は椎骨と椎骨の間にありクッションの役目をしている部分です。
椎間板ヘルニアとは、椎間板の中心にある髄核が飛び出してしまった状態をさします。
椎間板の中心にある髄核が飛び出すことによって、脊椎の周りにある神経を刺激するのです。
頸椎は背骨の一番上にあり、7つの椎骨で構成され頭を支えるのが役割です。
頸椎椎間板ヘルニアは、5番目と6番目の頸椎の間、6番目と7番目の頸椎の間で多く発生します。
症状は、両上肢や両下肢に痛みやしびれ、知覚障害などが現れ、重度の場合は、歩行障害、筋萎縮、膀胱・直腸障害などが発症します。
腰椎は、上半身を支え日常動作や運動をスムーズに行うための部位です。
腰椎は5個(4個または6個のこともある)の椎骨で構成され、一番下の腰椎は骨盤の一部である仙骨に繋がっています。
腰椎椎間板ヘルニアは、腰椎の4番目と5番目の間と、5番目と仙椎の間で発生することがとても多く、この部分で椎間板が神経や脊髄を圧迫すると腰痛や坐骨神経痛になります。
「後遺障害」とは、怪我や病気の治療後に残った機能障害や神経症状の原因が交通事故であることが医学的に証明され、労働能力の低下や喪失が認められる程度が自賠責保険の等級に該当するものです。
具体的には、自動車損害賠償保障法施行令別表第一又は第二に該当する症状や状態が対象になります。
交通事故が原因で椎間板ヘルニアが発症した場合、12級13号または14級9号の後遺障害等級が認められる可能性があります。
12級13号は「局部に頑固な神経症状を残すもの」、14級9号は「局部に神経症状を残すもの」です。
後遺障害等級14級に認定される基準は「神経症状の残存が医学的に説明可能であること」です。
具体的には、症状が一貫・事故に関連していることがポイントとなり、カルテに残された症状が事故による神経障害が常時あると説明できることが大切です。
また自賠責保険の後遺障害等級の認定手続きで注意が必要なのは、治療状況や症状経過を重視するということです。
そのため、治療期間中には継続的に通院しましょう。
後遺障害等級12級に認定される基準は「神経症状の残存が医学的に証明可能であること」です。
「医学的に証明可能」とは、MRI検査や医師の視診などの他覚的所見で神経症状の残存が確認できる状態です。
後遺障害等級の認定手続きでは、他覚的所見が重視されます。
また、14級の認定基準と同様に、治療期間中の継続的な通院は大切です。
ヘルニアで後遺障害等級認定を受ける方法や流れを理解しておけば、満足のいく認定を受けられる可能性が高くなります。
ここでは、認定を受けた後の異議申立や示談交渉まで解説します。
後遺障害等級認定を受ける手続きには、「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。
事前認定は相手方の任意保険会社が申請手続きを行い、被害者請求は被害者自身が申請手続きを行います。
事前請求は、任意保険会社が手続きをほとんどやってくれるので、被害者にとって手続きの手間がかかりません。
しかし、最終的に賠償金の増額をするには、被害者請求が有利な傾向があります。
後遺障害は、交通事故後の日常生活や仕事に大きな影響を与えるものなので、被害者請求で認定申請したほうが満足のいく結果になる可能性が高いでしょう。
事前認定の場合、被害者がすることは「主治医に後遺障害診断書を依頼すること」「相手方任意保険会社に後遺障害診断書を提供すること」「相手方任意保険会社から結果通知を受け取ること」のみです。
手続きや資料の収集は相手方任意保険会社が行うので、被害者にとっては手続きの手間がかからないのがメリットといえるでしょう。
しかし、事前認定には、適正な後遺障害等級の認定が受けられない可能性があるというデメリットがあります。
相手方の任意保険会社が損害保険料率算出機構に提出した必要書類を被害者が確認できないためです。
後遺障害等級が非該当になってしまうと、認定を受けた場合に得られたはずの慰謝料が得られないということもあります。
被害者請求の場合は、被害者自身が後遺障害診断書やレントゲン・MR画像などの必要書類を準備し、自賠責保険会社や損害保険料率算出機構に提出しなければなりません。
交通事故後の体調や時間的余裕などによっては、手続きにかかる手間がデメリットだといえるでしょう。
しかし、被害者請求には、自分で自賠責保険会社や損害保険料率算出機構に提出する書類を確認できるというメリットがあります。
そのため、事前認定よりも高い障害等級の認定を得られる可能性もあるのです。
さらに、被害者請求の場合は、後遺障害等級の認定を得られると相手方との示談成立の前に自賠責保険金を受け取れるというメリットもあります。
椎間板ヘルニアで後遺障害等級認定を受ける流れは、以下のようになっています。
交通事故後の痛みや症状と付き合いながらの通院を経て、症状が固定したら手続きを開始することになりますので、精神的には穏やかではない生活が続くと考えておいてよいと言えます。
それでは、それぞれのプロセスについて詳しく見ていきましょう。
症状固定とは、今後、治療を継続しても症状が変化することはなく改善を見込めない状態のことです。
主治医が症状固定と判断した時点で、被害者は後遺障害診断書の作成を依頼しなければなりません。
交通事故後に病院で治療を受け始めてから症状固定に至る前までは、相手方任意保険会社に治療費や休業補償を請求できますが、症状固定になると打ち切られます。
症状固定になった後は、「後遺障害慰謝料」「後遺障害逸失利益」を相手方任意保険会社に賠償請求することになります。
後遺障害等級の審査は、症状固定後の症状に対して行うのです。
そのため、症状固定にならないと後遺障害等級認定の申請は行うことはできません。
後遺障害診断書(自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書)とは、後遺障害等級認定の申請に必要な書類です。
後遺障害診断書がないと、後遺障害等級の認定を受けることができません。
前述したように後遺障害等級認定の申請方法には、事前認定と被害者請求があります。
どちらを選択するかはご本人によりますが、前述したそれぞれの方法のメリット・デメリットを考慮して決めることをおすすめします。
損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所が、後遺障害の調査をして等級の認定を行います。
調査内容は、申請書類に基づいた事故発生の状況や損害額などです。
異議申立とは、審査の結果、非該当や低い等級に認定された場合、損害保険料率算出機構に等級認定の再審査を求めることです。
異議申立は、時効にならないかぎり何度でも無料で行うことができます。
後遺障害等級認定が確定してから、相手方の任意保険会社と示談交渉が始まります。
示談交渉では、後遺障害慰謝料や逸失利益などを決めなければなりません。
後遺障害の示談交渉は長引く傾向があり、6カ月以上かかることもあります。
後遺障害等級が認定されると、「入院慰謝料」「通院慰謝料」だけでなく、「後遺障害慰謝料」や「後遺障害逸失利益」なども請求できます。
そのため、後遺障害等級の認定を得られるか非該当になるかによって、損害賠償額は大きく違ってくるのです。
後遺障害慰謝料とは、交通事故の被害者が後遺障害等級の認定を受けたときに請求できる慰謝料です。
後遺障害慰謝料には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの計算方法があります。
自賠責保険基準とは、自賠責保険から支払われる慰謝料の額を計算するための基準です。
自賠責保険基準の金額は、自動車損害賠償保障法施行令に明確に定められています。
任意保険基準は、生命保険会社がそれぞれ設定していますが、自賠責保険基準と同じような金額設定にしているところが多いようです。
弁護士基準は、訴訟を起こしたときに得られる金額の相場です。
保険金額の相場は、後遺障害12級で自賠責保険基準が94万円、弁護士基準が290万円、後遺障害14級で自賠責保険基準が32万円、弁護士基準が110万円になります。
後遺障害逸失利益とは、交通事故による後遺障害が残ったため休業せざるを得なくなったなど、将来の収入に対する補償のことです。
後遺障害逸失利益は、次の式で算出します。
後遺障害逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
基礎収入は、原則として交通事故が発生した前年の収入です。
労働能力喪失率は後遺障害等級に応じて決まっており、12級で14%、14級で5%になります。
ライプニッツ係数とは、逸失利益を預金などでつく利息を前もって差し引くための指数です。
ライプニッツ係数は労働能力喪失期間によって決まっています。
労働能力喪失期間は、後遺障害が残った年齢から67歳までの年数です。
交通事故による椎間板ヘルニアの場合、後遺障害等級認定や慰謝料交渉が難しいケースが多い傾向にあります。
症状が現れる時期が、交通事故直後とは限らないためです。
そういうときのためにも、対処方法を理解しておきましょう。
交通事故が発生した日と椎間板ヘルニアと診断された日に開きがあると、交通事故が原因で発症したのではないと見なされるケースがあります。
交通事故後に病院を受診したら、できるだけ細かい症状を医師に伝えることが大切です。
病院受診が不定期であったり少なかったりする場合は、椎間板ヘルニアの症状が軽度であると見なされる恐れがあります。
地理的要因で通院が難しい場合などは、転院して通院頻度を増やしましょう。
また、過去に同じ部位の椎間板ヘルニアの治療歴がある場合、直近の交通事故との因果関係を証明するのが難しいことがあります。
この場合でも過去の椎間板ヘルニアが完治していることを証明できれば、後遺障害等級認定も受けやすくなるでしょう。
交通事故による椎間板ヘルニアでの後遺障害等級認定や慰謝料交渉は、一般の人にはとても難しいものです。
できれば、弁護士に相談したほうがよいでしょう。
弁護士に依頼すれば、後遺障害等級認定申請でも被害者請求を代理で行ってくれるので手間を省けます。
慰謝料交渉でも弁護士基準での金額を得られる可能性が高くなります。
交通事故によって発症した椎間板ヘルニアの後遺障害等級は、12級または14級です。
どの級に認定されるのか、または非該当になるのかによって、慰謝料の金額は変わります。
椎間板ヘルニアの後遺障害等級の認定申請は、手続きの仕方によっては、より高い等級で認定を受けられる可能性もあります。
後遺障害等級の認定申請や示談交渉は、交通事故後の生活を左右するものなので、交通事故被害について経験豊富な弁護士に依頼することをおすすめします。