東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
平成29年度の警視庁管内で起こった交通事故の統計調査によると、重傷者の損傷部位の第1位(28%)が脚部である結果とのが出ました。
また、事故直前の行動別でみてみると、負傷者のうち脚部(下肢)を損傷した者は、自動二輪車の乗車中が35%、自転車の乗車中が36%、歩行中が32%でそれぞれの第1位でした。
この記事では、交通事故による足首の靭帯損傷に着目し、後遺障害の認定申請と認定を受けられなかったときの対処方法、慰謝料などもあわせて解説していきます。
目次
人間などの内骨格動物では、靭帯が骨と骨をつないで関節を形成し、いくつかの靭帯の相互作用によって関節の可動域をコントロールしています。
この関節の可動域に反して何らかの強い力が加わると靭帯を損傷してしまうことがあります。
足首も関節なので、足首を捻ったことが原因で捻挫、脱臼などをおこした結果、靭帯を損傷してしまうことがあります。
その損傷の程度は、靭帯が伸びてしまった状態、部分的に断絶した状態、完全に断絶した状態の3つに分けられます
主な症状は、重症度によって以下のように分かれます。
後遺障害は、審査機関である損害保険料率算出機構によって認定されますが、損傷部位と運動能力の低下の程度によって1等級から14等級と140種類、35系統の細かく分けられた基準によって認定されます。
片方の足首の靭帯損傷の場合、認定を受けられる主な後遺障害等級は「8級7号、10級11号、12級7号」の3種類で、数字が大きくなるにつれて障害が軽くなります。
損傷した関節の可動域(動く範囲)が、その反対側の正常な関節と比べ1/10(10%)以下しかない状態のことで「関節の用を廃したもの」と表します。
なお、「1下肢の3大関節の中の1関節」を簡単にいうと「左右どちらかの脚部の股関節、膝関節、足関節のどれか1つ」ということです。
損傷した関節の可動域(動く範囲)が、その反対側の正常な関節と比べ1/2(50%)以下しかない状態のことで「関節の機能に著しい障害を残すもの」と表します。
損傷した関節の可動域(動く範囲)が、その反対側の正常な関節と比べて3/4(75%)以下しかない状態のことを「関節の機能に障害を残すもの」と表します。
この項目では、靭帯損傷について、その症状に応じた治療と検査を説明していきます。
靭帯損傷の治療は、初期治療を経て重症度に応じた3つの治療が行われます。
現場での応急措置や初期治療としてRICE処置という次の4つの手順が行われます。
RICEとは、それぞれの頭文字「R(rest)、I(icing)、C(compression)、E(elevation)」から採ったものです。
軽度の症状「痛みはあるが腫れはなく、痛みを我慢すれば歩ける」など捻挫、靭帯が伸びてしまった場合では、包帯やテーピング、サポーターなどで患部を固定して約1週間を目安に安静にします。
中度の症状「一部分が腫れて軽い内出血もあり、体重をかけると痛みが強くなって歩けない」など靭帯を部分断絶した場合では、ギブスや硬性サポーターで患部を固定して約3週間から6週間を目安に安静にします。
重度の「痛みが非常に強く、足首全体が腫れて内出血もひどく、関節がグラグラして固定できない」など靭帯を完全断絶した場合では、初期に患部をギブスで固定し、消炎鎮痛剤を使用したりして腫れが引いてから硬性サポーターに変更して約2ヶ月から3ヶ月を目安に安静にします。
また、必要があれば靭帯再建手術を行うこともあります。
靭帯損傷の可能性がある場合、具体的な検査と後遺障害の認定を受けるための注意点を説明していきます。
後遺障害の原因となるような重い靭帯の損傷の場合、受傷当初から激しい痛みを伴うことが通常ですが、被害者の中には、興奮状態にあったり混乱したりしていて冷静な対応が取れないことも多く、実際に損傷を受けていても痛みを感じなかったという方までいます。
しかし「事故直後の些細な症状でも伝える」ことが重要で、少しでも症状を自覚したらすぐに医師に伝えて検査や診断を促しましょう。
医師の問いかけに中途半端な受け答えをしていると、実際の症状よりも軽い診断がなされることもあるので注意してください。
また、被害者も事故当日の状況を記録し、損傷部の状態(青あざや擦り傷、腫れなど)を治療・加療が済むまで画像に撮影しておいてください。
靭帯が損傷は、骨折と違って通常のレントゲン撮影やCT画像には映らないため、事故直後から早いうちにMRI撮影やエコー検査を受けることをおすすめします。
これらの画像などは、診断や今後の治療のためだけのものではなく、後遺障害の認定でも重要な画像所見にもなります。
事故直後は痛みがあって難しいかもしれませんが、可能であれば関節の可動域の正確な検査を受けて、事故が原因で関節の可動域に影響がでていることを診断してもらいましょう。
また、足首のように左右ある関節は、患部とその反対側の正常部の可動を比較すると異常が分かりやすいので、少しでも異変を感じたら必ず医師へ伝えてください。
自力又は医師が足首を捻った状態(ストレスを与えた)でレントゲンを撮影すると、関節のゆるみ具合、剥離骨折などがわかります。
また、足を水平にした状態で重力によって足首を捻るグラビティ撮影なら痛みが強いときにも苦痛が少なくなります。
こちらも後遺障害認定の重要な画像所見になります。
後遺障害の認定を申請する場合「症状固定の診断」を受けて保険会社を介して審査機関(損害保険料率算出機構)へ書類を提出します。
この際、書類の提出先の保険会社の違いで「事前認定」と「被害者請求」の手続きに分かれます。
認定申請は、医師から後遺障害診断書を交付してもらいますが、これには被害者の状態がこれ以上の治療・加療を続けても効果がなく、症状が改善または悪化もしないという「症状固定の診断」がなされる必要があります。
「加害者側の任意保険会社」を介する手続きで、被害者は、医師から後遺障害診断書を交付してもらって任意保険会社へ提出します。
その他必要な書類は、任意保険会社が準備してくれるので簡単な手続きになります。
「加害者側の自賠責保険会社」を介する手続きで、被害者は後遺障害診断書のほか必要な書類をすべて自分で用意して提出する必要があり、大変手間のかかる手続きになります。
また、主な必要書類は次のとおりです。
後遺障害の認定が受けられると、入院、通院についての損害賠償(慰謝料)に加えて後遺障害の慰謝料と遺失利益なども請求できるようになります。
後遺障害慰謝料は、認定を受けた等級に応じて支払われますが、その支払額の基準に「自賠責基準」と「任意保険基準」、「裁判基準」の3種類があり、裁判基準が示談交渉での相場とされています。
最も低額なものが自賠責基準で、最も高額なものが裁判基準となりますが、任意保険基準は保険会社が独自に設定しているもので、一般的に自賠責基準を少し上回る額だといわれています。
被害者への支払いは、まず自賠責保険が自賠責基準で負担し、その負担額と任意保険基準又は裁判基準の差額を相手方(加害者又は任意保険会社)が負担することになります。
足首の靭帯損傷で後遺障害認定を受けた場合、認定等級別に自賠責基準と裁判基準を比較すると次のとおりになります。
等級 | 自賠責基準 | 裁判所基準(相場) |
---|---|---|
8級 | 324万円 | 830万円 |
10級 | 187万円 | 550万円 |
12級 | 93万円 | 290万円 |
後遺障害になったときの遺失利益とは「後遺障害がなければ得られた収入」のことをで、後遺障害認定の等級に応じて「労働能力喪失率」が定められ、足首の靭帯損傷で8級「45%」、10級「27%」、12級「14%」となり、これを遺失利益の算出に用います。
具体的には「基礎収入額」に「労働能力喪失率」と「労働喪失期間に対応する係数(ライプニッツ係数)」を乗じて算出します。
なお、ライプニッツ係数とは、将来的に受け取るはずの収入を前倒しで受け取るときに「発生する利息」を控除するために使う指数で、損害保険会社などが「ライプニッツ係数表」として公開しています。
仮に、年収500万円、47歳、男性、会社員が足首の靭帯損傷で後遺障害8級7号の認定を受けた場合、遺失利益は、33,473,250円となります。
後遺障害等級が認定されなかった、すでに認定された等級について不満がある被害者には、次の3つの救済手段があります。
異議申立をすると再審査をしてもらえます。
新たな資料を提供して追加の主張をすることで、認定結果が覆る可能性もあります。
審査機関が下した判断が適切かどうか紛争処理員会で審査してもうことができますが、一度しか手続きを利用できないため、慎重に判断した上で利用する方が賢明です。
後遺障害等級だけでなく損害賠償額に納得がいかない場合、訴訟を提起して解決を図ることも可能です。
ただし、早期の和解でも6か月、判決までに1年から2年ほど時間を費やすことになりますので覚悟が必要です。
後遺障害がでるような交通事故では、物損事故と比べて損害の見極め、被害の回復も難しいことがあり、資料収集、後遺障害等級の認定、示談交渉ともに困難なことがあります。
また、示談が済んだ後に後遺障害がでて苦労してしまわないためにも示談の成立時期も重要になってきますので、専門家の力を借りることも得策です。
この記事が被害に遭われた方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。