東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
業務中や通勤中に交通事故に遭った場合には、労災保険を利用できます。
加害者側の自賠責保険も利用できる場合、労災保険を利用しなくてもいいのでしょうか。
逆に労災保険を利用しないと損をする場合もありますので、具体的なケースを挙げてメリット・デメリットを解説していきます。
休業給付については、具体的な金額の算出方法や申立に必要な書類についても解説していますので、是非最後まで読んでみてください。
仕事中・通勤中に交通事故に遭った場合には、労災保険を利用することも可能です。
交通事故で労災保険を利用すると、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
労災保険と自賠責保険を比較して考えてみましょう。
労災保険を利用すると、大きく3つのメリットがありますので詳しく解説していきます。
交通事故の際,労災保険を利用すると、相手の損害賠償責任の有無に関係なく、被害の程度に応じて認定され、保険給付がなされます。
相手が無責である場合や、自損事故の場合であっても、交通事故が勤務中や通勤途中など労災対象であれば、労災保険は支給されます。
治療費や投薬費用など、療養に関わる費用については全額支給されます。
療養補償については、自賠責保険であれば支給される額は120万円までが上限です。
労災保険にはそのような上限規制がありません。
健康保険のように自己負担額もありません。
ただし、通勤災害の場合は労災保険にも200円の自己負担があります。
労災保険には、過失相殺がなされることはありません。
なぜなら、労災保険には被災労働者の救済や、労働者保護と福祉の増進という目的が強いからです。
このような考え方がなされているため、仮に被害者側に過失があったとしても、労災保険は満額支給されます。
他方で自賠責保険は、被害者に重大な過失があれば過失相殺されます。
任意保険についても、被害者の過失割合に応じて過失相殺されます。
労災保険の給付制限について、もう少し詳しく解説しましょう。
労働者災害補償保険法には以下のように定められています。
労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。
② 労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となつた事故を生じさせ、又は負傷、疾病若しくは障害の程度を増進させ、若しくはその回復を妨げたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を行わないことができる。
事故の発生原因が、被害者の道交法違反等による場合には犯罪行為にあたる可能性がありますが、故意に事故を起こした場合でなければ給付制限されることはないということになります。
労災保険には、特別支給金があります。
これは、被害者の社会復帰を促進することを目的として支給されるものです。
特別支給金は、労災保険給付と併せて支給されます。
また、特別支給金は損害賠償金と支給調整されず、満額が支給されます。
労災保険から給付されるお金としては、
休業損害の60%の休業補償、休業損害の20%の休業特別支給金が被害者に支給されます。
他方で、加害者側の自動車保険からは休業損害の100%が支給されます。
(本来であれば過失相殺を考えなければいけませんが、ここでは便宜上過失相殺はないものとして考えていきます)
具体的にどういった支給パターンが考えられるか、見ていきましょう。
(1)労災保険から休業補償給付と休業特別支給金を受けた場合
100%の休業損害から、労災保険から支給された60%分の休業補償給付を控除した40%分については加害者側に損害賠償請求することが可能です。
このとき、休業損害の20%にあたる休業特別支給金は控除されません。
(2)加害者側から100%の休業損害の損害賠償を受けた後に、労災保険から給付を受ける場合
既に100%休業損害については補填されているため、支給調整により休業補償給付は支給されません。
他方で、休業特別支給金は満額支給されます。
つまり、(2)のパターンでは労災保険給付を請求すれば、休業損害については加害者側から支払いを受けた100%の休業補償と、休業損害の20%にあたる休業特別支給金が支払われることになります。
この場合、被害者は実質120%の休業補償を受けられることになるということです。
労災保険を使わないとデメリットが特に多くなるケースがあります。
具体的なケースで解説していきましょう。
交通事故の加害者が任意保険に加入していなかったような場合には、事実上、自賠責保険の範囲内でしか損害が賠償されません。
傷害事故の場合は、先ほども説明しましたが、自賠責保険の支払限度額は、治療費・休業損害・慰謝料等を合わせて120万円になります。
このケースで労災保険を利用しなければどのようなことになるのでしょうか。
仮に事故の負傷が大きなもので、治療費だけで120万円に到達してしまえば、休業補償も慰謝料も受け取ることができません。
交通事故の被害者が、ひき逃げされしまい加害者が誰か分からないといったケースでは,政府保障事業という制度を使って、損害の補填を請求することができます。
ただし、政府保障事業の支払限度額は自賠責保険と同じになっています。
つまり傷害事故の場合には120万円が支払限度だということです。
この場合、加害者が任意保険に入っていないようなケースと同様治療費が大きくなると他の損害賠償が十分得られないリスクがあります。
ただ、政府保障事業は、労災保険や健康保険など他の社会保険給付を受けられるときは、その部分については支払わない仕組みになっています。(参考:自動車損害賠償保障法73条1項)
つまり、労災保険を利用できる場合には労災保険を使用することが、政府保障事業に損害の填補を請求する場合の前提になっているということができます。
被害者に過失がある場合、特に被害者側の過失が大きい場合には、労災保険を利用しないと損をする可能性があります。
具体的に見ていきましょう。
たとえば、交通事故の治療費が300万円、休業損害が60万円、慰謝料が40万円で損害賠償額300万円だとしましょう。
このケースで被害者の過失割合が6割で加害者の過失割合が4割だった場合を考えてみましょう。
労災保険を利用しなかった場合、被害者が加害者に請求できる損害賠償額を考えていきます。
治療費は300万円のうち,加害者の過失割合分4割にあたる120万円について請求することができます。
過失相殺された被害者の過失6割分にあたる180万円については、被害者の自己負担です。
ここで注意が必要なのは、被害者の過失が大きい場合には自動車保険会社が保険金の一括払いをしないことがあるのです。
そのため治療費は、まずは全額自腹で支払わなければならない可能性もあります。
労災保険を利用した場合、治療費は全額が療養補償給付として保険給付されます。
健康保険のように3割の自己負担という制度もありません。
まとめると、労災保険を利用すると、治療費は全額補償されます。
仮に労災保険を利用しないと治療費は加害者の過失分だけが請求でき、被害者の過失分については自己負担になります。
保険会社が一括支払いに応じない場合には、差し当たり治療費を全額自腹で負担しなければならなくなるかもしれません。
実際は、自由診療と労災保険診療で治療費が異なり、その結果全体の損害額が変動しますが、労災保険を使用した場合には治療費全額が支給されます。
休業損害については、どのように算出されるのでしょうか。
この場合の損害賠償額は、労災保険を利用しない場合は休業損害120万円のうち、加害者の過失4割にあたる48万円です。
他方で、労災保険給付を請求した場合は、休業損害120万円のうち、6割にあたる72万円が休業補償給付として支給されます。
さらに、休業損害120万円のうち、2割にあたる24万円が休業特別支給金として支給されます。
合計すると労災保険では96万円が支給されることになります。
つまり、労災保険を利用すると休業損害120万円の8割にあたる給付金が支給されることになります。
他方で労災保険を利用しなければ、休業損害は4割しか填補されません。
慰謝料については、労災保険には対応する保険給付がありませんので、労災保険を利用する場合としない場合で違いはありません。
慰謝料80万円は加害者に請求していくことになりますが、相手方の過失4割分にあたる32万円について請求することができます。
以上被害者に過失がある場合をみてきました。
労災保険を利用すると、どれくらい有利なのでしょうか。
労災保険を使わなかった場合、加害者側に損害賠償請求できる額は全損害500万円の4割の200万円にとどまります。
つまり損害賠償請求で被害者の損害が填補されるのは全体の4割だけです。
治療費の300万円については、既に自腹で負担しているような場合には既に100万円は自己負担で取り戻せません。
この場合、200万円の賠償では治療費300万円すら回収できないことになるのです。
損害賠償を治療費に充てられたとしても、自己負担は発生しますし、休業損害や慰謝料については回収が図れないことになります。
他方、労災保険を利用した場合には、加害者側に損害賠償請求できる金額は以下のとおりです。
治療費は労災保険から全額で給付されます。
したがって治療費については、満額被害が回収されることになります。
休業損害については、加害者側に48万円を賠償請求できますが、労災保険であれば休業補償給付金が72万円支給されますので、この時点で労災保険を利用した方がお得だということになります。
以上のことから、被害者に過失があるときには労災保険を利用することの方が、メリットが大きいことが分かります。
ここまで説明したように仕事中・通勤中に交通事故に遭った場合、労災保険から休業補償が支給されます。
労災保険から支払われる休業給付金や休業特別支給金は、給与の代わりに支給されるものです。
ここでは休業給付について解説していきます。
労働者が、仕事中・通勤中に交通事故に遭い負傷の治療のために労働ができず、そのために給料が得られなくなった場合、4日目から休業給付金が支給されます。
業務災害の場合には休業補償給付が、通勤災害の場合は休業給付が支給されます。
休業初日から3日までは補償されません。
この3日間については使用者が平均給与日額の60%を補償しなければなりません。
ただ、通勤災害の場合には、使用者が補償する義務はありません。
どのような条件を満たせば、休業した4日目から休業給付金と休業特別給付金が支給されるのでしょうか。
支給のためには次の3つの要件があります。
この3つの要件を満たしている場合に、休業期間の4日目から休業給付金と休業特別給付が支給されます。
支給額は「給付基礎日額」と「休業日数」を基準として算出されます。
「給付基礎日額」とは、平均賃金のことをいいます。
基本的に事故発生日や、疾病について医師の診断結果が出た日の直前3か月間に労働者に対して支払われた賃金の総額を日数によって割った金額が給付基礎日額となります。
基本的には残業手当もすべて含みますが、賞与や結婚手当のような臨時的に発生した賃金は考慮しません。
以上を踏まえて、休業給付金や休業特別支給金の支給額は下の計算式で算出します。
休業給付=給付基礎日額の60%×休業日数
休業特別支給金=給付基礎日額の20%×休業日数
具体的に考えてみましょう。
10月に労災事故により負傷したことで、最初の3日を除いて50日間休業したとします。
このケースで月給30万円の賃金だとしましょう。
直近3か月の暦日数は、7月は31日、8月は31日、9月は30日ですので、合計92日です。
給付基礎日額を求めてみましょう。
以上から給付基礎日額は9782円となります。
それでは休業給付と休業特別支給金はそれぞれいくらになるでしょうか。
よって合計29万3490円+9万7830=39万1320円が被害者に支給されます。
休業給付等を受けるためには、労働者本人が労働基準監督署へ請求書を提出する必要があります。
労災保険の休業給付を請求するためには、以下のような必要書類が必要になります。
労働災害が業務中に起きた場合には、「休業補償給付支給請求書」(様式第8号)が必要です。
労働災害が通勤中に起きた場合には「休業給付支給請求書」(様式第16号の6)が必要になります。
請求書に記載する内容は、氏名・住所・生年月日等の他に休業期間や平均賃金、給付金を振り込んでもらうための口座番号です。
記入内容は上記2種類の書類で変わらず、給付金額に差があるわけでもありません。
また、休業が長期間にわたると予想される場合、1か月毎に提出する必要があります。
労災保険の休業に関して、申請書類は以下の厚生労働省のホームページからダウンロードできますので、印刷した用紙を使用することをおすすめします。
いかがだったでしょうか。
今回の解説で重要なポイントをまとめておきます。
交通事故が労災保険の対象だった場合に、労災保険を利用することのメリットは以下の3つです。
まず、相手方に賠償責任がない場合でも保険給付がされます。
次に、労災保険には過失相殺がありません。
そして特別支給金は労災保険給与と併せて支給されます。
逆に、被害者側の過失が大きい場合は、労災保険を利用しないと損をする可能性が高いです。
休業給付金と休業特別給付金については給付されるには3つの要件があり、それぞれ
の計算式で算出します。
休業給付金と休業特別給付金の申請するために必要な請求書は、厚生労働省のホームページでダウンロードできるので印刷して利用することができます。
交通事故が労災だった場合,基本的には労災保険を使用すると覚えておくとよいでしょう。