東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
交通事故の被害に遭い、負傷を受け治療を続けたものの、病院や医師から「もうこれ以上は治らない(たとえば、生涯車いす状態になった場合など)」と診断されることがあります。
この状態のことを「後遺障害」といい、交通事故の実務においては、「後遺障害が残った」と説明することがあります。
また、病院が「これ以上は治らない、後遺障害が残った」と診断した時点のことを「症状固定日」といいます。
被害者は加害者に対し、傷害慰謝料の際に入通院期間に応じて慰謝料を請求するのと同様、認定された後遺障害の度合いに応じて慰謝料請求をしていくことになります。
後遺障害認定のためには、病院が作成した診断書が重要なポイントになります。
今回は、後遺障害の認定方法をはじめ、診断書作成のためのポイントや、認定された後遺障害の判断に不服がある場合について見ていきましょう。
症状固定したときから、慰謝料請求までの具体的な流れを見ていきましょう。
症状固定後も、一時的な痛み軽減などのためにリハビリ治療を続けることがあります。
症状固定は、病院から正確に「これ以上は治らない」と診断された時になります。
くれぐれも自己判断で、症状が固定したと判断しないで下さい。
症状が固定した内容を正確に医師に診断書として作成してもらいます。
ここで作成する診断書は、あくまで病院が書いた診断書ではなく、保険会社が所定した書式が必要になります。
また、診断書を書いてもらうのは、あくまで医者になります。整骨院では診断書を作成してもらえないので、注意が必要です。
交通事故の治療のために、整形外科ではなく、整骨院に通う場合も少なくありませんが、整形外科への通院を途中で辞めてしまうと、正確な後遺診断書が作成できない場合もあります。
整骨院へ通う場合は、整形外科の担当医師とも話し合いながら、通うようにしましょう。
前項で作成した診断書と、請求書(正式名称:自動車損害賠償責任保険支払請求書兼支払指図書)を自賠責会社へ提出します。
自賠責会社が調査会社(損害保険料算出機構)という機関に送り、障害等級が認定されます。
障害等級は、それぞれの症状に応じて、介護を必要とする場合の要介護1級・2級および、介護を必要としない場合の1級から14級の合計16種類に分類化されます。
調査会社が障害等級を認定するまでに、追加資料(レントゲン画像など)が必要になることもあり、3の保険会社に資料提出後、4の手続きが終了するまで2~3か月かかることもあります。
要介護1級
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
要介護2級
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
1級
両眼が失明したもの
咀嚼及び言語の機能を廃したもの
両上肢をひじ関節以上で失ったもの
両上肢の用を全廃したもの
両下肢をひざ関節以上で失ったもの
両下肢の用を全廃したもの
2級
1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
両眼の視力が0.02以下になったもの
両上肢を手関節以上で失ったもの
両下肢を足関節以上で失ったもの
3級
眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
咀嚼または言語の機能を廃したもの
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの両手の手指の全部を失ったもの
4級
両眼の視力が0.06以下になったもの
咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
両耳の聴力を全く失ったもの
1上肢をひじ関節以上で失ったもの
1下肢をひざ関節以上で失ったもの
両手の手指の全部の用を廃したもの
両足をリスフラン関節以上で失ったもの
5級
1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
1上肢を手関節以上で失ったもの
1下肢を足関節以上で失ったもの
1上肢の用を全廃したもの
1下肢の用を全廃したもの両足の足指の全部を失ったもの
6級
両眼の視力が0.1以下になったもの
咀嚼または言語の機能に著しい障害を残すもの
両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では通の話声を解することができない程度になったもの脊柱に著しい変形または運動障害を残すもの
1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
1手の5の手指またはおや指を含み4の手指を失ったもの
7級
眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
1手のおや指を含み3の手指を失ったものまたはおや指以外の4の手指を失ったもの
1手の5の手指またはおや指を含み4の手指の用を廃したもの
1足をリスフラン関節以上で失ったもの
1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
両足の足指の全部の用を廃したもの
外貌に著しい醜状を残すもの
両側の睾丸を失ったもの
8級
1眼が失明し、または1眼の視力が0.02以下になったもの
脊柱に運動障害を残すもの
1手のおや指を含み2の手指を失ったものまたはおや指以外の3の手指を失ったもの
1手のおや指を含み3の手指の用を廃したものまたはおや指以外の4の手指の用を廃したもの
1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
1上肢に偽関節を残すもの
1下肢に偽関節を残すもの
1足の足指の全部を失ったもの
9級
両眼の視力が0.6以下になったもの
1眼の視力が0.06以下になったもの
両眼に半盲症、視野狭窄または視野変状を残すもの
両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
1耳の聴力を全く失ったもの
神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
1手のおや指またはおや指以外の2の手指を失ったもの
1手のおや指を含み2の手指の用を廃したものまたはおや指以外の3の手指の用を廃したもの
1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
1足の足指の全部の用を廃したもの
外貌に相当程度の醜状を残すもの
生殖器に著しい障害を残すもの
10級
1眼の視力が0.1以下になったもの
正面を見た場合に複視の症状を残すもの
咀嚼または言語の機能に障害を残すもの
14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
1手のおや指またはおや指以外の2の手指の用を廃したもの
1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
1足の第1の足指または他の4の足指を失ったもの
1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
11級
両眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの
両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
1 眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
脊柱に変形を残すもの
1手のひとさし指、なか指またはくすり指を失ったもの
1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
12級
1眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの
1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
1耳の耳殻の大部分を欠損したもの
鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨または骨盤骨に著しい変形を残すもの1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの長管骨に変形を残すもの
1手のこ指を失ったもの
1手のひとさし指、なか指またはくすり指の用を廃したもの
1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったものまたは第3の足指以下の3の足指を失ったもの
1足の第1の足指または他の4の足指の用を廃したもの
局部に頑固な神経症状を残すもの
外貌に醜状を残すもの
13級
1眼の視力が0.6以下になったもの
正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
1眼に半盲症、視野狭窄または視野変状を残すもの
両眼のまぶたの一部に欠損を残しまたはまつげはげを残すもの
5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
1手のこ指の用を廃したもの
1手のおや指の指骨の一部を失ったもの
1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
1足の第3の足指以下の1または2の足指を失ったもの
1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したものまたは第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
14級
1眼のまぶたの一部に欠損を残しまたはまつげはげを残すもの
3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
1足の第3の足指以下の1または2の足指の用を廃したもの
局部に神経症状を残すもの
認定された等級に応じて慰謝料、治療費などの実費、逸失利益などの金銭の支払い額の示談交渉が行われ、示談が成立した場合は、その内容に沿った示談金の支払いがなされ、また、示談が成立しなかった場合は裁判手続きに移行されます。
正確な後遺障害が認められるためには、医師が作成した診断書が重要なポイントになります。医者であれば誰でもいいという訳ではありません。
本来ならば、今まで継続して治療を受けた医者に書いてもらうのが一番良いのですが、もし作成された診断書の内容に納得が行かない場合は、交通事故に精通した弁護士に相談・依頼をして、弁護士を通じて正確な診断書を作成してもらったり、他の病院に相談するのも方法の一つです。
認定された介護等級が低いと、実際に請求できる損害額も低くなってしまうので注意が必要です。
正確な診断書を作成してもらうためには、「ここが痛い」「(腕が)ここまでしかあがらない」といった自覚症状は無理をせずに正確に伝え、また他覚症状もきちんと診断書に反映されているかも確認しましょう。
その他、「事故後、車に乗るのが怖くなった」といった精神的な症状もきちんと医師に伝えましょう。
精神的な症状(PTSD)が後遺障害として認められるかはケース・バイ・ケースによりますが、精神的な後遺障害も請求する場合は、整形外科などと併せて心療内科にも相談する必要があります。
実際に作成された診断書は、保険会社に提出する前に、下記ポイントを中心に記載もれがないか、曖昧な表現がないかを見直しましょう。
残った障害について、適切な治療を受けていたかという点も、後遺障害認定のために重要なポイントになります。
また、残った障害と症状固定日の期間についても重要です。
後遺障害が比較的軽い場合にもかかわらず、治療開始日から症状固定日までにあまりにも期間がありすぎる場合は、後遺障害と交通事故の因果関係を問われる可能性もあります。
たとえば、視力に障害が残ったにもかかわらず、視力に関する治療内容が一切書かれていない場合は注意が必要です。
交通事故に遭う前は何ら障害がなかったにも関わらず、この欄に曖昧な表現が記載されている場合は、残ってしまった症状が交通事故の被害によるものと認定されなくなるおそれがあります。
交通事故に遭う前は健康体であった場合、空欄ではなく、「事故以前の障害:無」と記載されているのがベストです。
自覚症状は、医師にきちんと症状を伝えないと診断書に反映されません。
医師には自分の症状を正確に、きちんと伝えましょう。
後遺障害診断書に記載される内容は下記の通り、部位ごとに記載されます
今後の見通しが「不明」などと曖昧な表現が記載されていた場合は注意が必要です。
これらの項目を全てチェックし、記載漏れが内容か確認して下さい。
実際の等級より低い等級でしか後遺障害が認定されなかった場合は、自賠責会社から支払われる限度額も低くなり、慰謝料や逸失利益の計算も被害者にとって不利になってしまいます。
調査会社が認定した後遺障害の等級に納得がいかない場合は、再審査を請求することが可能です。このことを「異議申立て」といいます。
特に回数制限は設けられていませんが、一度下された判断を覆すためには、最初に提出した資料(診断書など)より、より精密な資料を用意しなければならず、また、実際に異議申立が認められる確率は10%にも満たないのが現状です。
したがって、異議申立てをする場合には、交通事故に精通した弁護士に相談することや、交通事故の治療を得意とする病院の協力が必要不可欠です。
後遺障害が残った場合において、示談の時点で相手方から提示してくる書類には「●級」と具体的な後遺障害の等級が記載されていますが、実際の症状と一致していない場合には異議申立てを行うかを検討してください。
また、後遺障害が残った場合、被害者が請求できる慰謝料は「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」の2種類があります。
しかし、加害側が、後遺障害慰謝料と逸失利益を合算して金額を提示してきて、2種類の内訳が不明な場合もあります。相手から金額を提示された場合には、その内訳も確認しましょう。
せっかく、正確な後遺障害が認定されたにも関わらず、相手が提示した内容によっては、本来もらえるはずの慰謝料より、はるかに低い金額で合意してしまう場合もあるので注意が必要です。
後遺障害が重ければ重いほど、自賠責基準と弁護士基準の間に差額が発生してしまうのは、他の慰謝料基準と同一です。
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
要介護1級 | 1,600万円 | 2,800万円 |
要介護2級 | 1,163万円 | 2,800万円 |
1級 | 1,110万円 | 2,800万円 |
2級 | 958万円 | 2,370万円 |
3級 | 829万円 | 1,990万円 |
4級 | 712万円 | 1,670万円 |
5級 | 599万円 | 1,400万円 |
6級 | 498万円 | 1,180万円 |
7級 | 409万円 | 1,000万円 |
7級 | 409万円 | 1,000万円 |
8級 | 324万円 | 830万円 |
9級 | 245万円 | 690万円 |
10級 | 187万円 | 550万円 |
11級 | 135万円 | 420万円 |
12級 | 93万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
後遺障害とは、病院から「これ以上は治らない」と診断された時点の症状のことを指し、その症状に応じて、加害者に対し慰謝料等を請求していくことになります。
後遺障害には症状に応じて、16種類に分類されますが、正確な後遺障害が認められるには、病院が作成した診断書が必要不可欠です。病院には、自覚症状・他覚症状を問わず、きちんと自分の症状を伝えましょう。
診断書が作成されたら、保険会社に提出する前に自分の症状と一致しているかをチェックしてください。