東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
目次
交通事故によって、後遺障害が残ってしまった場合、加害者に慰謝料などを請求するためには、後遺障害の等級認定を受ける必要があります。後遺障害の等級は、障害の程度に応じて、第1級から第14級まで分かれており、第14級がもっとも軽い等級です。
後遺障害慰謝料の額は、等級に応じてその目安が定められています。
交通事故による被害としては多いとされる、いわゆる「むち打ち症」は、後遺障害等級では、第12級と第14級に定められています。
しかし、第12級と第14級とでは、慰謝料の額に大きな差が出てきます。
そこで今回は、後遺障害第12級にかかる慰謝料の相場や増額のポイントなどについて、わかりやすく解説していきます。
後遺障害の等級は、先にみたように、第1級から第14級まで分かれており、もっとも重いものが第1級で、もっとも軽いものが第14級です。
このうち後遺障害第12級は、日々の仕事や生活に支障を来さない程度の症状とされています。
以下でみる症状からすれば、健常者とさほど変わらないものも含まれているように思えますが、後遺障害第12級の労働能力喪失率は14%と定められています。
そのため、事故に遭う前と比較すると、日々の仕事や生活において、不便と感じたり精神的に辛いと感じたりすることがあるかもしれません。
後遺障害第12級には、以下のように、さらに1号から14号まで症状が細かく定められています。
1号 | 一眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの |
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2号 | 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
3号 | 七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
4号 | 一耳の耳殻の大部分を欠損したもの |
5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨または骨盤骨に著しい変形を残すもの |
6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの |
7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの |
8号 | 長管骨に変形を残すもの |
9号 | 一手のこ指を失ったもの |
10号 | 一手のひとさし指、なか指またはくすり指の用を廃したもの |
11号 | 一足の第二の足指を失ったもの、第二の足指を含み二の足指を失ったもの又は第三の足指以下の三の足指を失ったもの |
12号 | 一足の第一の足指または他の四の足指の用を廃したもの |
13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14号 | 外貌に醜状を残すもの |
このように、1号から14号に定められた症状に1つでも該当すれば、後遺障害第12級の認定を受けることができます。
後遺障害第12級には、1号から14号まで症状が細かく定められていますが、それぞれに該当する症状とは具体的にどのような症状をいうのでしょうか。
「調節機能障害」とは、遠近のピントを合わせる機能に障害があることをいいます。
この機能が2分の1以下に低下した場合には「著しい調整機能障害」に該当するとされています。
また、眼球の可動で物を追うことができる範囲を法視野といいますが、法視野が2分の1になった場合には「著しい運動障害」に該当するとされています。
このいずれかの症状に該当する場合には、後遺障害第12級の認定を受けることができます。
しかし、年齢とともに眼球の調節機能も衰えるため、55歳を超える場合には、後遺障害として認定されないのが原則です。
「著しい運動障害」とは、まぶたが完全に開かずに瞳孔が隠れたままである状態やまぶたを十分に閉じることができずに角膜や瞳孔が露出する状態にあることをいいます。
「歯科補綴」とは、歯科医による適切な治療のことをいいます。
たとえば、交通事故によって歯がとれてしまったり欠けてしまった場合に、差し歯を入れたり義歯を付けたりすることをいいます。
この場合には、歯科医による適切な治療を受けた結果、日常生活に支障を来さなくなったとしても、後遺障害が認められ、歯科補綴を行った歯の数に応じて、等級が異なります。
「耳殻」とは、外耳の最外部のことをいい、交通事故によって耳殻を半分以上失った場合、後遺障害第12級が認定されます。
交通事故によって、鎖骨や胸骨のように、脊柱を除く大きな骨が折れて、治癒する際に著しい変形を残すこととなった場合には、後遺障害第12級が認定されます。
「上肢の三大関節」とは、手首と肘、そして肩のことをいい、片側の上肢において、三大関節のうち1つでも機能に障害が残った場合には、後遺障害第12級が認定されます。
ここでいう「機能障害」とは、たとえば、関節の可動域が4分の3以下になった場合や手のひらの回内や回外運動の可動域が2分の1になった場合などのことをいいます。
「下肢の三大関節」とは、足首と膝、そして股関節のことをいい、片側の下肢において、三大関節のうち1つでも機能に障害が残った場合には、後遺障害第12級が認定されます。
ここでいう「機能障害」は、上記「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」の場合と同じです。
「長管骨」とは、長い骨のことをいい、腕であれば上腕骨や橈骨、尺骨、足であれば大腿骨や腓骨、脛骨のことをいいます。
長管骨に障害が残ってしまった場合には、後遺障害第12級が認定されます。
たとえば、治療をしても骨がうまく癒着しなかったり、骨そのものがねじれるなどの変形を残してしまった場合などが該当します。
交通事故によって、左右いずれかの小指を失った場合は、後遺障害第12級が認定されます。
「用を廃した」とは、指の長さが半分になってしまった場合、第2関節より先の部分の可動域が2分の1になってしまった場合、指先の触感や温度などといった感覚が完全に失われた場合を意味します。
左右いずれかの手の人差し指、中指または薬指の用を廃した場合には、後遺障害第12級が認定されます。
左右いずれかの足の指で、人差し指を失った場合、人差し指に加えもう1本の指を失った場合には、後遺障害第12級が認定されます。
なお、ここでは親指は含まれないものとされています。
左右いずれかの足の親指、またはそれ以外の4本の足指が用を廃した場合、後遺障害第12級が認定されます。
ここでいう「用を廃した」とは、親指の場合は第1関節の長さが2分の1になった場合、親指以外の指が根元から第1関節までの間で切断された場合などをいいます。
「局部の頑固な神経症状」とは、主にむち打ち症のことをいいます。
もっとも、むち打ち症の立証は容易ではなく、画像所見と神経学的異常所見により立証ができれば、後遺障害第12級の認定を受けることができます。
交通事故によって、大きな傷跡などが残った場合には、後遺障害第12級が認定されます。
たとえば、顔に100円玉サイズ以上の傷跡や3cm以上の傷が残ったような場合をいい、性別は問いません。
等級を問わず、後遺障害等級について適正な認定を受けるためには、医師による適切な検査と治療をきちんと受け続け、正しく申告することが何よりも大切です。
医師に受診しないようなことをしてしまうと、交通事故と後遺障害との因果関係が明確にならずに、後遺障害証明書を作成してくれない可能性があります。
先にみたように、むち打ち症の症状は特に立証が難しく、症状を申告するだけでは後遺障害第12級の認定を受けることはできません。
そのため、専門的な医師に受診し、確実な所見で後遺障害証明書を発行してもらうことが必要です。
むち打ち症は、被害者本人が痛みやしびれなどの症状を覚えていても、そのことを医学的に立証することが難しいとされています。
むち打ち症の症状を医学的に立証するには、CT検査やレントゲンなどにより、神経障害が起こると考えられることが必要ですが、仮に、神経障害が起こると考えられる場合であっても、それがむち打ち症によるものではなく、椎間板ヘルニアによるものと診断されるケースもあります。
このように、むち打ち症の立証は困難であるため、示談交渉の場では、しばしば問題となります。
交通事故に遭うまでは、後遺障害に等級があることや、その等級について認定を受ける必要があることなどを知らなかったという人が多いのではないでしょうか。
そのような人にとって、後遺障害等級の認定申請を自分で行うことは、非常にハードルが高いといっていいでしょう。特に、先にみたような、むち打ち症で認定を受けることは、非常に難しいでしょう。
仮に、納得のいく等級で認定を受けられたとしても、加害者側の保険会社が提示してくる慰謝料の額は、認定を受けた等級を基準とした最低ラインの金額であることが多いです。
このような現状を踏まえると、交通事故に遭った場合には、後遺障害等級の認定申請を含め、示談交渉に関するすべてのことを弁護士に依頼した方が、被害者にとっても、以下で見るように多くのメリットがあると考えられます。
交通事故により残ってしまった後遺障害への慰謝料の額は、以下でみるように、使う算定基準によって大きく変わります。
後遺障害の等級は、障害の程度に応じて、1級から14級まで定められていますが、等級が1つ変わるだけでも、慰謝料の額が大きく変わります。
弁護士に後遺障害等級の認定申請を依頼すれば、等級をあげるための申請方法などを助言してくれる場合もあります。
交通事故による後遺障害として多いとされている「むち打ち症」は、第14級と第12級に定められていますが、仮に、第14級で認定を受けた場合の後遺障害慰謝料の額は、自賠責保険基準で32万円、弁護士基準で110万円です。
しかし、第12級で認定を受けると、第14級とくらべ、以下で見るように、金額に大きな差が出ます。
このように、、少しでも高額となる慰謝料を受け取るためには、その前提となる等級を適正に認定してもらう必要があります。
算定基準のうちもっとも低額となる自賠責保険基準では、後遺障害第12級の慰謝料の額は93万円となっており、被害者が自分で示談交渉を行う際には、この金額が最低ラインといっていいでしょう。
また、任意保険基準を使う場合であっても、一般的には、自賠責保険基準より少し高額となる基準に過ぎないため、被害者の後遺障害の症状によっては、自賠責保険基準と同じ金額を提示してくることも十分に考えられます。
弁護士に示談交渉や後遺障害等級の認定申請を依頼すると、弁護士費用はかかるものの、得られる示談金の額は、本人で対応するよりも高額となる可能性が高いです。
弁護士は、示談交渉を行う際に、算定基準の中でももっとも高額となる弁護士基準を使って慰謝料の額などを算出します。
「弁護士基準」とは、弁護士が示談交渉をする際に、過去の裁判例などを参考にして用いる基準のことをいいます。実務上は、日弁連交通事故相談センターが発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」が使われており、「赤い本」と呼ばれています。
赤い本によれば、後遺障害第12級の慰謝料の額は290万円とされています。
このように、自賠責保険基準とは慰謝料の額に大きな差があるため、弁護士費用を差し引いても、被害者が本人で対応するよりも多く慰謝料を受け取れる可能性が高いといえます。
もっとも、赤い本に記載されている慰謝料の額は、あくまでおおよその目安にすぎないため、交通事故に特化した優秀な弁護士などに依頼すると、この額よりも多くの慰謝料を受け取れる可能性もあります。
交通事故に遭った被害者が示談交渉を行う場合、その交渉相手となるのは、加害者が加入する保険会社であることがほとんどです。
保険会社の担当者は、類似する案件をほかにも多く扱っていると考えられるため、知識や経験、交渉の進め方などにおいて、一般人である被害者よりも勝っています。
そのため、保険会社の担当者との交渉で、示談金の額などについて自分に有利な条件を認めてもらうことは非常に困難です。
また、示談交渉を開始するにあたっては、被害者側であらかじめ揃えておくべき書類が多くあり、これだけでも被害者にとっては大変な負担となります。
交通事故に遭った被害者にとっては、怪我などの治療に加え、保険会社との示談交渉までも自分で対応するとなると、心労が蓄積してもおかしくありません。
その点、示談交渉を弁護士に依頼すれば、被害者は怪我の治療に集中することができ、示談交渉はすべて弁護士に任せておくことができます。
また、自分では知りえなかったことなどについてアドバイスを受けられ、最終的に受け取れる示談金の額も高額となる可能性があります。
交通事故に遭って「むち打ち症」になってしまった場合には、後遺障害等級を適正に認定してもらうことが何よりも大切です。
とはいえ、むち打ち症は、その症状を立証することが難しいとされているため、交渉の相手となる保険会社もそのことをうまく利用して交渉を進めてくることが一般的です。
後遺障害等級について適正な認定を受けられるかどうかは、受け取れる慰謝料の額に大きく影響を及ぼします。
「むち打ち症」になってしまった被害者は、後遺障害第12級として定められている症状に自分があてはまるかどうかを慎重に検討し、適正な後遺障害等級の認定を受けたうえで、慰謝料の額を算出することが大切です。
もっとも、これらのことを自分で対応することに大きな不安を持っている方は、弁護士に依頼することも一つの選択肢です。自分にとって不利な結果とならないような方法を選択することが必要です。