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医師が説明する交通事故による低髄圧症候群(脳脊髄液減少症)と治療について

この記事の監修者 
北脇クリニック 院長 北脇文雄

皆さんは低髄圧症候群という言葉をご存じでしょうか?

昨今、慢性的な頭痛の原因として一般メディアでも取り上げられつつあるので、単語くらいは耳にしたことがあるという方はいるかもしれません。

今回は、低髄圧症候群について解説させていただきます。

低髄圧症候群(脳脊髄液減少症)とは

低髄圧症候群は、またの名を「脳脊髄液減少症」と言います。

発症者数について明確な数字は出ておりませんが、少なくとも20,000人に1人とされています。

起立時に急激に悪化する頭痛症状のことで、その痛みは耐え難く、立っていられないため、とにかくどこかに横になりたくなります。

そして、横になると不思議と痛みは軽快し、頭痛がなくなってしまう方も見られます。

低髄圧症候群の歴史は意外にも古く、1988年の初版の国際頭痛分類にもその頭痛の原因として掲載されていることから、医療関係者の間ではその病態に関して比較的昔から知られています。

原因

病名にもあるとおり、脳内を循環する脳脊髄液の減少が原因であるとされています。

人間の成人では頭蓋内において、脳そのものが80%、血管が10%、髄液が10%を構成要素として占めています。

これらが硬膜やクモ膜と呼ばれる膜に覆われて存在しています。

髄液は、血液とは別に脳の周囲や脳内部の空洞の部分を循環し、脳をみずみずしく保っています。

さらに、脳内の脈絡叢(みゃくらくそう)といわれる部分で1日500mLほど産生され、脳周囲を囲んでいるクモ膜から絶えず吸収されていきます。

通常の成人の髄液量は140mL程度と言われていますから、産生量からみても髄液は1日に何回かすべて入れ替わるほどの速さで循環していることになります。

つまり、産生と吸収がちょうどよくなるようにバランスを保ちながら髄液量がコントロールされているわけです。

しかし、脳組織を覆っている硬膜やクモ膜に何らかの原因で穴が空いた場合には、そこから髄液が外に漏れだし、循環している髄液量が少なくなってしまいます。

髄液が少なくなると脳内にかかる圧力が変化し、周囲を覆っているクモ膜や硬膜、血管などが刺激され、頭痛として自覚されるようになります。

そのため、脳や周囲の膜組織が最も重力の影響を受け、刺激となりやすい体位である起立時の頭痛が顕著に認められるようになります。

この硬膜に穴があく要因として、外傷性の頸部の損傷が挙げられます。

最も多いのは交通事故や転倒などによるむち打ちをはじめとした、頸椎へのダメージです。

交通事故が起きた直後はなんともないのですが、事故時に首にかかった負担は意外に大きく、硬膜などにも損傷が及ぶことで髄液が漏れ始め、徐々に頭痛を呈するようになってきます。

また、医療機関で実施される検査において腰椎穿刺と呼ばれる検査があります。

これは腰の背骨と背骨の間あたりから注射器を刺して脊髄下部の髄液を採取し、分析する検査のことをいいます。

髄膜炎などの中枢神経感染症や膠原病をはじめとした中枢神経に炎症が及ぶ疾患の診断などに実施されることが多いのですが、この検査も硬膜に小さな穴をあけて中の髄液を採取してくることから、検査後に数日かけて徐々に頭痛症状が認められることがあります。

ほとんどの場合は、経過をみることで自然に穴が塞がり症状が治まっていきますが、慢性的に持続している場合には、あいてしまった穴が塞がらないまま髄液の漏出が続いている可能性があります。

その他にもいきみ、せき込み、気圧の急激な低下、性行為など、頭蓋内圧が上昇しやすい状況をつくることが原因となると言われています。

頭痛以外の主な症状

頭痛以外にみられる症状として項部硬直、背部痛、耳鳴り、視力低下、聴力低下、光過敏、悪心などがみられることがあります。

項部硬直とは首の前後運動に制限がみられることで、首の周囲の筋肉が不自然にかたくなってしまい、動かそうとすると頸部の痛みを伴う状態をいいます。

光過敏は、明るい場所にいると頭痛や気持ち悪さが出現して、とにかく部屋を暗くしたくなるような症状をいいます。

そして症状が酷くなると、微熱や胃腸障害、発汗異常、四肢冷感などの自律神経症状や記憶力や思考力、集中力の低下やそれに伴ううつ状態、睡眠障害などがみられ、低髄圧症候群と判明する前には精神科や内科をはじめとした他の疾患の疑いで加療されていることが珍しくありません。

低髄圧症候群(脳脊髄液減少症)の診断方法

診断には、頭痛の他に上記に挙げたような症状がみられていることが重要なポイントとなります。

そして、検査での低髄圧症候群の診断にはいくつか方法があります。

まず、代表的なものがMRI撮影です。

ガドリニウムとよばれる造影剤を注射して脳のMRIを撮影します。

そこで、脳の周囲を覆っている硬膜が厚く目立つように写し出されたり、脳静脈の拡張そして脳下垂体が腫れている所見などがみられます。

また、低髄圧になると脳全体が下に引っ張られるような力が働くため、頭蓋骨から頸椎に移行する部位に小脳の一部がはまりこんでしまうことがあります(小脳扁桃の下垂)。

これらの所見を確認できれば、画像でのおおよその診断が可能となります。

さらに、髄液が漏れている部位を見つけ証明することも有用な診断の根拠となります。

脳槽シンチといって放射性同位元素を利用し、髄液の流れを追跡する検査です。

腰椎穿刺と同様に腰のあたりから脊椎内に向かって穿刺をして、そこに動きを追うことのできる放射線同位体を注射します。

正常とは異なる部分から髄液が流出している場所が見つかれば髄液が漏れていることを証明することができます。

そして、低髄圧症候群という病名が示すように髄液圧が低いことを直接証明することも診断の助けとなります。

腰椎穿刺を実施して髄圧を測定するのですが、正常値はだいたい50~180mmCSF程度です。

低髄圧症候群の場合はこの圧が極端に低く、10mmCSFだったり、なかには陰圧になっていたなどの報告もあります

ただし、先に説明したように、腰椎穿刺すること自体が低髄圧症候群の原因となるリスクをもっています。

これを積極的に実施すべきかどうかはその時の主治医の判断になりますが、発熱を伴い、頭痛症状が酷い場合などは、髄膜炎などの命に影響を及ぼす重要な疾患を否定する必要もあるため、ある程度のリスクを鑑みたうえで実施することもあります。

低髄圧症候群(脳脊髄液減少症)の治療方法

発症からそれほど時間が経過していない場合、だいたい1ヵ月以内の場合は2週間程度の安静と十分な水分摂取がすすめられます。

安静に関してはできるだけ臥床しているほうが望ましいです。

そして、状態によっては食事量も減ることがあるため、点滴なども併用されます。

1ヵ月以上経過している場合には、残念ながら自然に治る見込みは少ないため、処置が必要です。

その方法として、硬膜外自家血注入(ブラッドパッチ)療法という方法が行われます。

髄液が漏れている場所がある程度特定できたら、その部位に近いところから脊髄を覆っている硬膜の外側へ針で穿刺します。

そして、患者さん本人から採取された血液をそこに注入することで髄液が漏れている穴をふさぐ方法です。

血液でパッチをあてるような意味合いであるため、このように言われています。

平成28年よりこの治療が保険適用となったことから、広く日常診療においても利用できるようになっています。

また、約2割の方は1回の注入で症状が著名に改善するといった報告があります。

複数回行うことでその確率もさらに高まります。

まとめ

今回は、低髄圧症候群に関して解説させていただきました。

診療の現場においても、精査したにもかかわらず頭痛の原因がはっきりとわからないことは実際に多いものです。

そのようななかで、低髄圧症候群はこれまで原因不明であるとされていた頭痛の原因の一部を占めているものと考えられます。

よく片頭痛などと間違われて診断されていることもあり、心当たりがある場合はかかりつけの医師に相談してみることをおすすめいたします。

診療科が多くそろっている総合病院への受診の際は、脳神経内科が診療を担っていると思われますので、ご相談されることをおすすめします。

イニシャル A.S

診療科目:脳神経内科
医師経験年数 13年

この記事の監修者

北脇クリニック 
院長 北脇文雄

平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属

骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。

保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。 保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。

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