東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産をすれば、すべての借金の返済が免除される可能性があります。
債務者にとってのメリットが大きいため、「したもん勝ち」だと感じる方も多いのではないでしょうか。
ただし、自己破産が本当に「したもん勝ち」かどうかは慎重な検討が必要です。
自己破産は破産法に基づく厳格な手続きであり、手続き中から手続き後にかけて大きな影響を及ぼす恐れがあります。
この記事では、自己破産を検討している方に向けて、自己破産が「したもん勝ち」と呼ばれる理由や知っておきたいデメリット・注意点について解説します。
数ある選択肢の中から自己破産を選択すべき基準についてもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
自己破産は多額の借金を抱え、生活が立ち行かなくなってしまった人を救済するために作られた制度です。
「したもん勝ち」には、借金による精神的・経済的な負担から解放されることを喜ぶ意味が込められていると考えられます。
自己破産をすることで、債務者は具体的にどのような利益を得られるのでしょうか。
ここでは、自己破産が「したもん勝ち」と言われる7つの理由を解説します。
前述した通り、自己破産が「したもん勝ち」とされる最大の理由は、借金の免除を受けられる点にあります。
自己破産手続きで裁判所から免責許可が降りると、債務者が抱えているすべての借金が帳消しになるのが原則です。
これにより、もはや借金に悩まされることはなくなり、自己破産後の収入は生活の再建に充てることができるようになります。
自己破産で免除される債務は、いわゆる「借金」と呼ばれるものです。
具体的には、次のようなものがあります。
こうした債務は免責の対象となり、返済する義務がなくなります。
自己破産手続きをすると、「身ぐるみ剥がされる」というイメージを持つ方が多いですが、実際には資産の一部を残すことができます。
債務者が保有するすべての財産を没収されるとなると、自己破産後の生活に支障が出てしまいます。
自己破産の目的は債務者の生活の再建にあるため、生活に必要な財産については手元に残すことが許されています。
自己破産後も残せる資産としては、一般的に次のようなものがあります。
この他、生活に必要だと裁判所が認めた資産についても残せる可能性があります。
具体的にどのくらいの資産を残せるかは裁判所の運用によって異なるため、あらかじめ弁護士に相談しておくことをおすすめします。
「借金がなくなる」と聞くと怪しく感じるかもしれませんが、自己破産は国が認めた合法の制度です。
自己破産の手続きは、破産法に基づいて裁判所を通して行います。
裁判所は自己破産を申し立てた債務者の財産・債務状況を調査し、借金の免除をするかを判断します。
誰でも借金の免除が受けられるわけではなく、制度を利用するに適しているかを裁判所が慎重に判断します。
無事に免責許可を得られれば、過剰な借金から解放されます。
自己破産の申立て時に、借金の金額がどれだけ多くても制限されることはありません。
裁判所から認められれば、債務額が1000万円でも1億円でも返済が免除されます。
借金を返すために借入を繰り返して多重債務に陥っている場合など、いくら借金が膨らんでいても問題になりません。
この点が、自己破産は「したもん勝ち」とされる理由の一つです。
自己破産は借金による経済的な負担のみならず、精神的な負担がなくなります。
多額の借金を抱えて返済が困難になると、借金を返せない焦りやストレスから精神的に追い詰められてしまう方も少なくありません。
いくら働いても、収入のほとんどを借金の返済に充てなければならず、日々の生活にも余裕がなくなってしまいます。
自己破産で借金の返済義務がなくなれば、経済的に安定し、生活レベルも元に戻ります。
収入のすべてを自分の生活のために使えるようになり、前向きな気持ちを持つことができるでしょう。
借金の返済が滞ると、債権者から督促や取り立ての連絡を受けることがあります。
毎日のように電話やメールで連絡を受けると、心理的なプレッシャーからうつ病などの症状を悪化させる恐れもあります。
自己破産をすると、裁判所や弁護士からの通知をもって、借金の督促や取り立てを止めることができます。
自己破産の申立てを受けた裁判所は、破産手続開始決定をしたことを債権者に通知します。
手続きはすべて裁判所が行うため、債権者から直接の取り立てを受けることはありません。
これには、特定の債権者に偏って弁済を行うこと(=偏頗弁済)を防ぐ目的があります。
また、自己破産を弁護士に依頼すると、弁護士から債権者に対して受任通知を送付します。
受任通知後は、債権者からの連絡は弁護士が受けることになるため、直接取り立てを受けることがなくなります。
弁護士へ依頼すると、裁判所からの通知を待つよりも早く取り立てを止めることが可能です。
自己破産手続きで免責が確定した後は、債務者の借金が免除されるため、もはや債権者から取り立てを受けることはありません。
ただし、免責不許可となった場合は取り立てが再開する恐れがあることには注意が必要です。
自己破産は無職の方や生活保護受給中の方など、安定した収入が見込めなくても利用できます。
自己破産は借金の返済義務を免除する効果を持っているためです。
免責後は返済をする必要がなくなるため、収入は問題になりません。
なお、他の債務整理では、借金の返済義務自体は残ってしまうため、安定した収入が要件とされています。
安定した収入がなく、継続した借金返済ができない方にとっては、自己破産が事実上唯一の債務整理の手段となります。
自己破産は借金を免除できる大きなメリットがある一方、財産の没収や生活に制限がかかるなどのデメリットも存在します。
債務者本人のみならず、周囲の人にも影響を与えるリスクがあるため、慎重な検討が必要です。
ここでは、自己破産におけるデメリットや注意点を詳しく解説します。
自己破産をすると、債務者が保有する資産のうち、一定以上の資産価値を持つものは没収されます。
没収された財産は売却などの方法でお金に換えられ、債権者に平等に配当されます。
自己破産により、債権者は未払い分の借金の回収ができなくなり、大きな不利益を被ることになります。
価値ある資産の没収は、この不利益を少しでも緩和するために設けられた規定です。
一般的には、資産価値が20万円以上かどうかを基準にして没収の判断がなされます。
土地や建物などの不動産、自動車などの動産はあらかじめ査定を行い、20万円以上となる場合には没収の対象となります。
預貯金、有価証券、仮想通貨、解約返戻金が20万円以上の生命保険なども対象です。
なお、現金については99万円までは保有が認められています。
自己破産において借金の免除を受けるには、裁判所から免責を認めてもらう必要があります。
しかし、誰でも容易に免責許可が受けられるわけではありません。
破産法に列挙された「免責不許可事由」に該当する場合、裁判所は免責不許可を出すことができると定められています。
このため、申立て前後や自己破産手続き中の行動が免責不許可事由に当てはまっていないか、慎重に判断する必要があります。
免責不許可事由としては次のようなものが挙げられます。
免責不許可事由 | 例 |
---|---|
不当な財産減少 | ・財産を隠す目的で預貯金を家族の口座に移す ・不動産や自動車を子ども名義に変更する |
不当な債務負担 | ・違法なヤミ金からの借入 ・クレジットカードのショッピング枠の現金化 |
偏頗(へんぱ)弁済 | ・知人の借金だけを先に返済する ・持ち家を守る目的で住宅ローンのみを返済する |
浪費やギャンブルによる借金 | ・収入に見合わない高級ブランド品の購入 ・過剰なパチンコ・スロット・競馬などのギャンブル |
相手を騙した取引 | ・返済が不可能なことを隠して借入を重ねる |
虚偽の申告 | ・源泉徴収票や給与明細を偽造する ・資産や債務について嘘をつく |
自己破産手続きの妨害 | ・裁判所の指示に従わない |
過去7年以内の免責 | ・過去7年以内に自己破産により免責許可を受けた |
免責不許可事由に該当する場合、裁判官が詳細な調査を行い、個別の事情に応じて免責許可・不許可を決定します。
裁判官が裁量で免責許可した(裁量免責)場合には借金は免除されますが、不許可となれば借金はそのまま残ります。
自己破産は借金を抱えた債務者にとってメリットの大きい手続きですが、何度も利用できるものではありません。
繰り返しになりますが、自己破産の目的は、債務者に対して生活再建の機会を与えることです。
一度借金を免除したにも関わらず、また新たに多額の借金を抱えてしまったような場合、自己破産を悪用している可能性が考えられます。
「再度免責を認めてもまた同じことを繰り返すのではないか」と裁判所は疑うでしょう。
このため、7年以内に免責許可を受けた債務者は、原則として自己破産ができません。
自己破産後は借金に頼らないよう気をつけ、慎重に生活を立て直すようにしましょう。
自己破産はすべての支払いがなくなると勘違いされがちですが、実際は一部の支払い義務は残ります。
免責許可によって免除されるのは、ローンや借入などのいわゆる「借金」です。
借りたお金ではない支払い義務は「非免責債権」として、自己破産後も継続して支払っていく必要があります。
非免責債権には次のようなものがあります。
自己破産の手続きには、まとまった費用や時間が必要になります。
限りある財産の中から費用を捻出し、書類作成や裁判所に出向く時間を確保しなければならず、債務者に相当な負担がかかることが予想されます。
自己破産手続きにかかる費用は、裁判所への予納金と弁護士費用に大別されます。
それぞれの内訳や相場は次の通りです。
費用 | 内訳 | 費用相場 |
---|---|---|
裁判所への予納金 (東京地裁の場合) | 申立て手数料 | 1,500円 |
予納金基準額 | 最低20万円(同時廃止は11,859円) | |
予納郵券 | 4,400円 | |
弁護士費用 | 法律相談料 | 5,000円程度(30分) |
着手金・報酬金 | 40万円〜 | |
事務手数料 | 3万円程度 |
自己破産手続きを自分で行う場合には、収入・財産・債務に関わる書類集めから申立て、裁判上の手続きをすべてひとりで背負うことになります。
手続きの終了までには数カ月〜1年かかることもあり、仕事をしながら手続きをするのは困難な場合もあるでしょう。
弁護士に依頼すれば、手続きにかかる手間や時間を大幅に軽減できます。
自己破産をすると、信用情報機関に事故情報が登録されます。
いわゆる「ブラックリスト」に載っている状態です。
信用情報機関によっても異なりますが、自己破産の情報は5〜10年間残り続けます。
金融機関や貸金業者は信用情報を照会して貸付を行っているため、情報が削除されるまではレジットカードの新規作成や新たな借入が難しくなります。
自己破産の申立てから復権するまで、一定の職業や資格の就業が制限されます。
債務者は資格の登録ができなくなり、申立て前から保有している資格も一時的に取り消されます。
制限を受ける職業・資格には次のようなものがあります。
こうした職業・資格によって収入を得ている場合には、再度登録ができるようになるまで収入源を失う恐れがあります。
会社に雇用されているサラリーマンなどは、事前に自己破産をする旨を会社と話し合う必要があるでしょう。
自己破産において、裁判所が破産管財人を選定して手続きを進めると、その間の生活に制限がかかります。
よく問題になるものとして、「引っ越し・旅行の制限」「郵便物の転送」が挙げられます。
自己破産の手続きをスムーズに進めるため、債務者は許可なく長距離移動ができなくなります。
債務者が好き勝手に居住地から動いてしまうと、連絡が取れなくなり、手続きの進行に支障が出る恐れがあるためです。
やむを得ない事情があって居住地を離れる場合には、事前に裁判所の許可が必要です。
また、債務者宛の郵便物は破産管財人に転送されます。
破産管財人は債務者の財産・債務状況を管理する役割を担っており、クレジットカードの明細や滞納通知などを把握する必要があるためです。
手続きに必要のない書類は、一度チェックを受けた後で返してもらうことができます。
自己破産では、債務者の財産や債務状況に変動があるため、家族や保証人も一定の影響を受けます。
自己破産により持ち家や自動車などの財産が処分されると、同居家族は転居を余儀なくされたり、日々の移動手段を失ったりすることになります。
特に債務者と同居している家族への影響が大きくなることが考えられます。
また、債務者が免責許可を受けて借金が免除されても、保証人の支払い義務は残ります。
保証人は債務者の代わりに返済を迫られることになり、最悪の場合は債務整理を検討せざるを得ない状況に追い込まれる恐れがあります。
自己破産をすると、債務者の氏名や住所が官報に掲載されます。
官報とは、国が発行する広報紙のようなものです。
一般人が官報を閲覧することはあまりありませんが、士業や金融機関に勤めている方には知られてしまう可能性があります。
自己破産にはメリットとデメリットがあるため、どのような基準で判断すればよいか迷う方も多いでしょう。
自己破産をすべきか判断する基準は主に4つあります。
ここでは、それぞれの判断基準についてわかりやすく解説します。
そもそも自己破産を利用するには、一定の条件を満たしている必要があります。
条件は「支払不能であること」「免責可能な債務があること」「免責不許可事由に該当しないこと」の3つです。
すべての条件を満たしていないと、自己破産の効果を十分に受けられない恐れがあるため、あらかじめ弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
「支払不能」とは、債務者が抱えている借金を返済することができない状態を指します。
一般的には、3年間ですべての借金を返済できるかが目安になります。
この他、債務者の経済状況や財産額、返済状況などを考慮して判断されます。
支払不能に陥る主な要因としては、急な失業や病気により収入が途絶えてしまうケースやコロナ禍で経営が急激に悪化したケースなどが考えられます。
ただし、多額の借金があっても、返済をするのに十分な不動産や有価証券を持っていれば、支払不能とは見なされません。
また、冠婚葬祭や子どもの進学などで出費がかさみ一時的に返済が苦しくても、長期的には支払いの継続が可能な場合も同様です。
前述したように、自己破産には免責できる債務と免責できない債務(=非免責債権)があります。
自己破産をするには、免責可能な債務を1つ以上抱えていることが条件です。
つまり、金融機関や消費者金融からの借入、知人からの借金に悩んでいる方が対象となります。
一方、税金や養育費、慰謝料などの非免責債権しかない場合、自己破産によって免責許可が出ても支払いが免除されません。
債務者が得られるメリットがなくなるため、自己破産の申立て自体が無意味だと言えます。
自己破産における最大のメリットは、借金の免除です。
財産隠しや偏頗弁済、ギャンブルによる借金などの免責不許可事由に該当していれば、メリットが受けられない恐れがあります。
もちろん、裁判官の判断で裁量免責を得られる可能性はありますが、通常よりも手続きにかかる負担が大きくなります。
自己破産を利用する際には、免責不許可事由に該当しないかどうかをよくチェックしましょう。
ただし、自己判断では見落としが発生する可能性があるため、あらかじめ弁護士によく確認しておくことをおすすめします。
自己破産では20万円以上の価値のある資産が没収されるため、該当する資産の有無がひとつの判断基準になります。
たとえば、持ち家や自動車、高額な貴金属などは没収対象となり、原則として手元に残すことは困難です。
自己破産をしても失うべき資産がほとんどない場合、生活に必要な最低限の資産が残ればよい場合は、自己破産をしてもそれほど影響はないでしょう。
持ち家や自動車などを残しつつ借金の整理をしたい方は、自己破産以外の方法を検討することをおすすめします。
自己破産では、一般的に裁判所が破産管財人を選任して、債務者の財産や債務の調査・管理・処分をし、債権者に配当を行います。
この一連の手続きを「管財事件」と呼びます。
管財事件となると、手続きに半年から1年ほどの時間が取られる他、最低20万円以上の予納金(=裁判所費用)が必要になります。
一方、債務者に保有する財産や債務が少なく、免責不許可事由に該当していない場合には、より簡易的な手続きを利用できる可能性があります。
同時廃止や少額管財を利用できるかは裁判所が決定します。
どちらも手続きが比較的スムーズで、予納金も少なく済む利点があります。
このうち、少額管財を利用できるのは、自己破産手続きを弁護士に依頼した場合に限られます。
借金の負担を軽減する制度は、自己破産の他、「任意整理」「個人再生」「特定調停」の3種類があります。
自己破産はこのうち最も強力な手続きであるため、一般的には他の債務整理では解決できない場合の最終手段として利用されます。
以下は、自己破産を含めた4つの債務整理を一覧表にまとめたものです。
自己破産 | 任意整理 | 個人再生 | 特定調停 | |
---|---|---|---|---|
借金への効果 | 免除 | 減額 | 大幅な減額 | 減額 |
裁判所の関与 | あり | なし | あり | あり |
裁判所費用 | 20万円〜(※) | なし | 20万円〜 | 数百円〜 |
支払能力 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 |
財産の処分 | あり | なし | なし | なし |
※同時廃止の場合は数万円程度。
自己破産は借金の免除効果がありますが、それ以外の債務整理では借金の減額は望めるものの、返済義務は残ることに注意しましょう。
このため、自己破産以外は、債務者に借金返済ができるだけの安定した収入があることが要件となります。
ただし、裁判所費用を少なく抑えられる他、財産の処分がなく、手続き後の生活への影響も比較的小さいと言えます。
持ち家や自動車などの財産を残したまま借金を減らせる可能性もあるため、自己破産に踏み切る前にあわせて検討することをおすすめします。
自己破産は借金を免除され、精神的な負担から解放されるメリットがあることから「したもん勝ち」と言われることがあります。
ただし、債務者の資産は没収され、その後の生活や周囲の人にも大きな影響を及ぼしてしまうことには注意しましょう。
自己破産をすべきかどうかは、個別の事情に応じて判断する必要があります。
少しでも判断に迷う場合は、できるだけ弁護士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。