東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
Contents
6月24日、弁護士法人の「東京ミネルヴァ法律事務所」が巨額の債務を抱え、破産決定を受けたというニュースが流れました。
破産とは縁遠いはずの法律事務所が破産したと聞いて、驚いた方も多いのではないでしょうか。
その債務額は、51億円あまり。
弁護士法人での倒産では、過去最大の負債額です。
破産する場合、一般的には会社自身が破産申立を行うことがほとんどです。
しかし、破産する会社の債権者が、会社の残りの財産を守るために、破産申立をするケースもあります。
今回の破産は、東京ミネルヴァ法律事務所が自ら申立したものではなく、東京第一弁護士会が、債権者として申立てたのです。
その理由は、会費の未納です。
破産申立をしたのは、東京第一弁護士会ですが、債権者の大部分は、依頼者です。
東京ミネルヴァ法律事務所は、消費者金融からの過払い金回収を宣伝して集客し、数多くの過払い金を回収していました。
ところが、その回収した過払い金、つまり預り金を使い込んだだめ、依頼者に返金することができず、それが債務となったのです。
表向きは、依頼者の預り金を使い込んでしまった結果…と思われますが、この破産の裏側には、実は、複雑な事情がありました。
東京ミネルヴァ法律事務所を実質的に裏で支配していた人物がいました。
それが、武富士の支店長にまで上り詰めた人物です。
この人物は、士業専門の広告代理店会社を設立し、多額の売上を上げます。
しかし、脱税で告発されたのです。
そこで、その事業を引き継ぐ形で、当時の部下を代表取締役として新たな会社を設立しました。
新会社と旧会社との間には関係がない、と言ってはいますが、ほぼ事業を引き継いだ形で、事業内容も同じだったようです。
この会社は、経営が苦しい法律事務所に近づき、過払い顧客を集めるための広告を提示し、集客させます。
その上で関連会社がアウトソーシングをして、事務員の人材派遣を行います。
事務や経理をアウトソーシングさせることで、会社への依存度を高め、経理業務を含めた事務全般を支配するのです。
その結果、弁護士自身は身動きが取れなくなってしまいました。
今回の東京ミネルヴァ法律事務所も、外部から支配され、コントロール不能にまで陥っていったのです。
東京ミネルヴァ法律事務所の代表弁護士は3代目になりますが、引き継いだ時点でも、すでに預り金の使い込みは行われていたといいます。
何とか回復を試みようとして、集客や収益増加に力を入れ、その結果、広告代理店を頼るようになり、果ては、支配される形になってしまいました。
自らの破産申立さえできなくなった事務所は、弁護士会へ救いを求めました。
支配されたとはいえ、やはり弁護士としては、「これ以上被害を増やすわけにはいかない」と考えたのかもしれませんね。
弁護士会は、弁護士会費未納という、全体の債務額からすれば、わずかな債務額でしたが、支配され、流用されていた預り金の残りを守るため、破産申立を行ったのです。
破産した負債総額は、約51億円。
そのうち、20億5000万円は、実質的な支配をしていた広告代理店への未払金です。
残りの約30億円が、依頼者の預り金で、被害額になります。
過払い金の回収額は、依頼者によってそれぞれですが、たとえば、一人あたり100万円と高めに見積もったとしても、被害にあった依頼者は3千人にも上ります。
預り金が100万円以下や少額の依頼者もたくさんいるでしょうから、被害総額から考えると、被害者が1万人近くいることも考えられます。
歴史的な弁護士法人の破産となった事件ですが、その裏には、法律事務所が広告代理店に支配されていた事情がありました。
苦しい状況を狙って近寄り、実質的に支配されていった法律事務所。
破産という選択が、支配を免れる最後の手段だったようです。