東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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Contents
法人が破産するためには、破産できる状態(破産原因)である必要があります。
破産は、債務と資産を清算する手続きであるため、周囲に大きな影響を及ぼしかねません。
特に法人の場合は、取引先の会社の連鎖倒産などにも繋がる可能性があるため、破産するかどうかは慎重に検討する必要があります。
法人破産は、経営状況が悪化しただけで簡単に破産できるわけではなく、以下の要件に合致していなくてはいけません。
法人破産の要件
法人破産ができる状態(破産原因)を順番に見てみましょう。
法人破産ができる状態のひとつとして、支払不能の状態があります。
支払不能とは「債務者の資力不足で返済ができない。継続的な返済もできない状態であること」です。
財産が有っても換価できず支払いができない場合には支払不能と判断されることがある一方で、財産が無くとも信用により借入ができ、返済ができる場合には支払不能には当たりません。
一時の資金不足ではなく、一般的かつ継続的に弁済することができないと判断される客観的な状態であることが必要になります。
仮に債務者(法人)に返済したいという意思があったとしても、返済のための資力を圧倒的に欠いている状態では返済できません。
そのため、債務者である法人側の意思は支払不能とは関係ないとされています。
また、翌月に大きな額の売掛金が確実に入金されて支払不能状態が改善される可能性のあるケースなどは、返済不能に該当しないとされています。
しかし「新規事業で作る商品が大当たりすれば資金繰りの改善ができる」「宝くじが当たれば返済できる」などの不確定要素の場合は、支払能力は否定されます。
法人が支払不能かどうかは、客観的な事実によってケースバイケースで判断されますが、不確定要素など特別の事情によらず一般的に、一時的なものではなく継続的に、経営者の意志等によるものではなく客観的な状態として支払不能か、という点がポイントになります。
支払不能かどうかはケースごとに判断されるため、基準が曖昧なところがあります。
例えば、AとB、2つの会社があったとします。
A社は多くの返済を抱えており、返済数は10、総額1億円です。
一方、B社が抱えている返済数は2ですが、それぞれの返済額が大きく、支払うべき金額は1億2千万円に上ります。
返済数だけで考えるとA社の方が多くなっていますが、支払うべき金額だけで見るとB社の方が多額です。
ケースごとや客観的な事実で判断すると、A社とB社の判断に食い違いが生まれかねません。
これはあくまで例ですが、客観的判断だけでは「返済不能なのか」という判断が難しいのです。
そこで、返済不能についてはひとつのルールが運用されることなりました。
破産法15条2項に「支払停止があったときは支払不能と推定する」という推定ルールを作り、「支払停止に該当すると、支払不能だと判断される」ことになりました。
支払停止とは「債務者が資力を欠いており、債務の支払いができないことを明示的または黙示的に外部へ示している行為」のことです。
具体的には、次のようなケースが支払停止に該当します。
支払停止に該当するケース
一部の債権者にだけ支払わない場合は、基本的に支払停止には該当しません。
また、会社あるいは経営者の判断で支払わないことを決めたケースも、支払停止には基本的に含まれません。
支払停止に該当した場合は、支払不能であると推測されます。
支払不能以外では、債務超過が法人破産の要件になります。
債務超過は支払不能の前段階で、会社の負債が会社の資産を上回っている状態になります。
会社の資産をすべて使っても債務の完済ができない状態で、賃借対照表では債務超過になっています。
債務超過状態の場合は、株式会社や有限会社、合同会社などは法人破産が原則的に可能です。
なお、法人であっても、合資会社や合名会社は債務超過での破産は認められません。
なぜなら、債務超過による法人破産を認めているのは債権者保護のためだからです。
株式会社などは債権者に対して有限責任ですが、合資会社や合名会社はこの限りではありません。
合資会社は有限責任社員と無限責任社員から成り立っていますし、合名会社は無限責任社員だけで構成されます。
無限に責任を取る存在がいるため、株式会社などの有限責任の法人より、早い段階で破産を認める必要性が薄いのです。
そのため、法人の中でも株式会社などは債務超過が破産の要件になりますが、合資会社や合名会社は破産の要件にならない点に注意が必要です。
破産のための要件とは別に、破産手続きのために必要な要件もあります。
破産手続きを始めるために必要な要件は次の通りです。
破産手続きを始めるために必要な要件
破産手続きをはじめるための3つの要件を順番に見ていきましょう。
債務超過や支払不能など、先にご紹介した法人破産の要件に該当している必要があります。
経営者の「会社の資金繰りが苦しい」などの個人的な感情があっても、要件に該当していなければ、法人破産は基本的にできません。
法人破産の手続きを進めるためには、手続きの申し立てが適法に行われることが必要です。
法人破産の申し立て人は誰でも良いわけではなく、申し立て権者に限られます。
申し立て権者は以下の2人です。
債務者とは、会社自身による破産手続きのことです。
つまり「自己破産」になります。
会社側が破産を申し立てる場合は、基本的に取締役会決議などにもとづいて行いますが、取締役間で意見が割れる可能性があるため、取締役の1人からでも破産を申し立て可能になっています。
また、法人破産は債権者から申し立てることもでき、債権者側からの申し立てによる破産を「債権者破産」と呼びます。
債権者が破産を申し立てることができる理由は、会社財産の分配にあります。
債権者は融資などによって会社にお金を貸している存在であるため、債権者が破産の申し立てをできないと、会社財産が極めて危うい状態なのに会社が借金を続けたり、無理な経営を続けたりして、債権者が融資分を回収できなくなる可能性があります。
ある程度のところで資産状況の危うい会社に見切りをつけて、債権者同士で会社財産を分配するために、債権者も法人破産の申し立てができるようになっているのです。
法人破産の手続きを進めるためには、破産障害事由に該当していない必要があります。
破産障害事由とは、一言でいうと「破産できないケース」です。
破産障害事由については、次の見出しで詳しく解説します。
支払不能や債務超過などの要件を満たしていても、破産障害事由に該当している場合は法人破産できません。
法人破産の破産障害事由は3つあります。
法人破産の破産障害事由
以上の3つが、破産障害事由に該当するケースになります。
なぜ法人破産ができないのか、それぞれのケースを順番に見ていきましょう。
法人破産の申し立てが不正であったり、申し立ての理由が不誠実であったりする場合は、法人破産が許されない破産障害事由に該当します。
法人破産は法律にのっとって行われるため、申し立ての時点で不正が見られる場合は、当然ですが法人破産は許されません。
また、法人破産が不誠実な思惑のもとに申し立てられた場合も、法人破産の破産障害事由になります。
頑張って経営しても、運や社会情勢、取引先の破綻に経営が引きずられたなど、会社が債務超過に陥ってしまうことは少なくありません。
「手を尽くしても法人破産しか方法がなかった」「誠意を持って頑張って会社を経営していたが、債務超過に陥ってしまった」というような場合は、法人破産もやむを得ないのではないでしょうか。
しかし、中には不誠実な思惑で法人破産をしようとするケースもあります。
例えば、債務が多く返済が苦しいから、今の会社を法人破産で畳んで新しい会社を設立しよう、と考える経営者がいないとも限りません。
「資産のみ設立した会社に移転して、負債だけ免れたい」「マイナスを捨てて、良好な得意先とだけ新規事業を立ち上げたい」このような思惑のもと、法人破産を申し立てる可能性も考えられます。
不誠実・不正な法人破産の申し立てを行い、簡単に逃げることは許されないという趣旨です。
なお、取引先や債権者に迷惑をかけたという事実があっても、即座に不誠実と判断されるわけではありません。
法人破産は多かれ少なかれ、債権者や取引先に迷惑をかけるものだからです。
法人破産には費用がかかります。
弁護士に支払う弁護士報酬の他に、法人破産の手続き費用として裁判所に納める予納金が必要です。
手続き費用の支払いができなければ、法人破産の手続きはできず破産障害事由になります。
予納金は、負債額などによって裁判所が判断します。
法人破産を検討しているときは、弁護士に予納金の目安について確認しておくといいでしょう。
一般的な予納金の目安は、5,000万円で70万円ほど、5,000万円以上1億円未満で100万円ほどになります。
負債額にもよりますが、数百万円程度の予納金が必要になる可能性もあります。
予納金不足の場合は、売掛金の回収などで準備できるケースもありますので、弁護士とよく相談してみてください。
会社が倒産するときの手続きには、破産以外にいくつかの種類があります。
民事再生や特別清算、会社更生などが会社の倒産手続きです。
法人破産を開始しようとしても、民事再生や特別清算などのほか手続きがはじまっていると、法人破産の破産障害事由に該当するため、破産手続きを進めることができません。
例えば、経営者などが破産を回避したいと考えていても、債権者から破産を申し立てられることがあります。
法人破産を回避するために、会社側が先に民事再生などを申し立て、法人破産障害事由に該当させる形で破産を回避することもあるのです。
法人破産は、経営難や返済苦に陥ったからといって即座にできるわけではなく、支払不能などの法人破産の要件を満たす必要があります。
また、要件を満たしても、法人破産障害事由に該当すれば破産はできませんので、事前に要件や法人破産できないケースを確認しておくことが重要です。
その他にも、予納金などの問題もあります。
法人破産を検討している経営者は、事前に破産などの手続きに知見のある弁護士に相談して、計画を立てることをおすすめします。