東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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事業再生とは、経営に行き詰まった企業が、採算の取れていない事業の再建を通して経営の安定化を図る手続きのことです。
事業再生を行うための法的な条件は特にありません。手続きに踏み切るタイミングは企業ごとに異なりますが、倒産ギリギリまで資金繰りに奔走するのは避けた方が無難です。黒字化の見込みがない状態にまで経営状態が悪化すると選べる手法も限定されてしまい、事業再生が失敗する可能性も高まります。
資金に余裕があれば選択できる再建策の幅も広がりますし、事業収益力の回復もしやすくなります。資金繰りが悪化し借入金の返済に影響が出そうな場合や、業績の下降により半年以内に事業活動の継続が難しくなりそうな場合は、早めに事業再生に踏み切り会社再建を目指しましょう。
事業再生と同じような意味合いで使われる言葉で、「企業再生」というものがあります。どちらも企業経営の再建を意味する言葉ですが、それぞれ次のような意味合いで使われることが多いです。
例えば、ある企業が不動産業・飲食業・人材派遣業を行っている場合で、「採算の取れない不動産業と飲食業はやめて、人材派遣業に集中して売上を回復させる」という意味合いで使われる場合は「事業再生」になります。
一方で、不採算事業の見直しだけでなく、人件費や各種コスト削減、採算の取れている事業の譲渡による再建(M&A)など、さまざまな観点から経営の立て直しを図る場合には、「企業再生」という言葉が使われます。
とはいえ、両者に明確な違いがあるわけではありません。企業再生には事業再生が必要不可欠なので、同じ意味で使われることも多い点に注意しましょう。
事業再生の手法は、大きく「法的再生」と「私的再生」に分けることができます。裁判所の管理下で行われる法的手続きと、各債権者と個別の同意を下に行う私的再生では、それぞれメリット・デメリットが異なります。事業再生を成功させるためには、企業に合った手法を選択することが重要になります。
法的再生とは、裁判所を通した公的な手続きのことです。法律に則り手続きを進めていくため、不正が入りにくい点がメリットとして挙げられます。
法的再生は、大きく「再建型」と「清算型」に分けることができます。
再建型とは、会社を存続させたまま事業を再生する手続きです。清算型と違い、負債を整理することで事業を黒字化できる見込みがなければいけません。
一方、清算型とは、もはや事業回復が困難な場合に会社自体を倒産させる手続きのことです。どちらを選択すべきかの判断ポイントは、以下のとおりです。
最終的には、私的再生による事業再生のメリット・デメリットと比較し、自社の現状把握と将来像を考慮して適切な手法を選択すべきだといえます。
種類 | 概要 | |
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再建型 | 民事再生 | ・民事再生法による、裁判所を通した手続き ・主に中小企業や個人事業主が選択するケースが多い ・経営者は会社に残り、債権者を含む利害関係人の同意を得ながら再生計画を立てる |
会社更生 | ・会社更生法による、裁判所を通した手続き ・比較的規模の大きい会社が利用するケースが多い ・経営者は会社に残ることはできず、裁判所が選任した管財人が代わりに会社の再建を行う | |
特定調停 | 簡易裁判所の調停委員会が会社と債権者を仲裁し、債務の弁済方法について話し合う手続き | |
清算型 | 破産 | 破産法に基づいて行われる会社の清算手続き |
特別清算 | ・会社法に基づいて行われる清算手続きで、債務超過の会社を清算する場合に用いられる(債務超過でない場合の精算手続きのことを「通常精算」という) ・破産手続きよりも比較的簡単に行うことができ、「破産」という言葉を使わない精算なので悪いイメージもつきにくい | |
その他 | 再生型M&A | M&Aなどの事業譲渡による再生方法で、主に以下の4つの種類がある 【企業再生方式】 【事業譲渡方式】 【会社分割方式】 【第二会社方式】 |
私的再生とは、会社と債権者による個人的な合意に基づいて行う事業再生のことです。裁判所や特定の法律に基づく手続きではないので、会社の状況や債権者との関係によってさまざまな再生手法を取ることができます。
柔軟に対応できるメリットはあるものの、必ずしも債権者の合意が得られるわけではないことがデメリットの一つです。また、債権者の数が多く各債権者の公平性を保てない場合には、私的再生による事業再生は難しいでしょう。
種類 | 概要 |
---|---|
リスケによる再生 | 銀行などの金融機関と交渉することで、返済を一時的に止めてもらったり、減額してもらったりすることで返済負担を軽くする手続き |
私的整理ガイドラインに基づく再生 | ・政府が設置した「私的整理に関するガイドライン研究会」により策定されたガイドラインにより事業再生を行う ・裁判所を通さずに債権放棄や弁済スケジュールを変更することで、事業再建を促す ・法的拘束力はないが、債権者による債権行使は基本的に停止される |
中小企業再生支援協議会による支援 | 中小企業再生支援協議会が規定する内容に則って事業再建を目指す |
事業再生ADR | 中立的な立場であるADR(裁判外紛争解決手続き)機関が、会社と債権者の間に入って事業再建を目指す |
事業再生は会社の傾いた経営を立て直す手続きなので、資金が底を尽きる前に行動を起こす必要があります。裁判所を通す法的再生と私的再生では手続きの流れに若干の違いはありますが、一般的な流れは以下のとおりです。
事業再生を検討するくらい経営困難な状態にある場合、まずは現状把握を正確に行う必要があります。財産状況や借入状況、資金繰りの現況や事業の収益性・将来性などから、経営状態が悪化した原因を洗い出しましょう。
現状を把握したら、具体的にどの手法で経営再建を目指すかを決定します。なるべく債権者に迷惑がかからないリスケなどの方法を選択すべきですが、経営を立て直せるような状況ではない場合、法的整理も視野に入れる必要があるでしょう。
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、会社の財務状況や事業内容などを基に、会社の価値やリスクを洗い出す調査のことです。事業再生に必要な調査分析であり、詳細な調査を行うことで債権者に納得してもらいやすい事業再生計画を策定することができます。また、スポンサーや各種支援を受ける際の資料としても活用できます。
デューデリジェンスを基に、具体的な事業計画案を作成します。採算の取れていない事業の整理・廃止、黒字化が見込める事業の継続、遊休資産の売却や雇用の削減など、経営を立て直すための具体的な事業計画書を作成します。一般的には、3〜5年程度の期間で事業を再生する計画を立てるケースが多いです。
事業再生を行うための資金確保も重要な手順の一つです。金融機関から融資を受けられなかった場合には、リスケなどで再生に必要な資金を確保しましょう。もし自力での資金確保が困難な場合には、資金力のあるスポンサーなどを確保する必要があります。新たなスポンサーが見つかれば、債権者や金融機関からの信用も得られやすくなります。
再生資金を確保できたら、速やかにそれぞれの手法に沿った流れで事業再生を進めていきます。法的再生であれば、民事再生法や会社更生法に基づいた手続きを行います。私的再生であれば、作成した再生計画案について債権者との話し合いで手続きを進めていくことになるでしょう。
会社の経営をいち早く立て直すためにも、事業再生のメリットとデメリットをしっかり把握しておきましょう。事業再生の主なメリットは、以下のとおりです。
事業再生であれば、破産して会社を消滅させることなく事業を存続させることができます。会社全体の経営は危機に瀕しているものの、特定の事業だけは黒字化が見込めるといった場合には、事業再生の方法を取ることでその事業に集中して経営再建を行うことができます。
破産する場合、会社に残っている設備や機材、在庫品などの財産は全て処分することになります。一方で、事業再生は、事業を消滅させることなく経済再建を目指す手続きです。手続きによっては保有資産を手放すこともないので、事業の社会的な価値を維持し続けることができます。
さらに、取引先との関係も継続できるうえ、商品やサービスの提供継続も望めるので、事業自体の信用性も損ないにくいといえるでしょう。
破産すると会社の法人格は消滅し、これまで行ってきた事業や取引先との契約全てを失います。取引相手の信用が重視されるビジネスにおいて、破産経験のある経営者が作った会社とは取引してくれないケースも珍しくありません。
一方で、事業再生であれば破産手続きほど大きな影響なく再建を図ることができます。
経営者が会社の連帯保証人になっている場合、法人破産する際には連帯保証人である経営者の個人資産にまで影響が及ぶ可能性があります。個人での支払いが難しい場合には、経営者自身も自己破産することになるケースもあります。
一方、事業再生であれば、手法によっては経営者が連帯保証人であっても個人資産を持ち出さなくてすみます。
事業再生の主なデメリットは、以下のとおりです。
事業再生を行ったからといって、必ずしも経営再建がうまくいくとは限りません。民事再生であれば、作成した事業計画案につき、債権者からの反対を受ける可能性もあるでしょう。黒字化が見込める事業に注力したにもかかわらず、予測通りの利益を得られないケースもあるでしょう。
場合によっては破産する方が被害を少なく抑えられるケースもあるので、資金繰りが困難になった場合には、そもそも事業再生を選択すべきかどうかも含めて専門家に相談しましょう。
破産手続きであれば債権者の同意を得る必要もありませんが、事業再生の場合、基本的に債権者との話し合いで手続きを進めます。債権者からの理解と協力が得られないと話し合いが思うように進まず、なかなか経済債権の具体的な手続きに移れません。
また、会社の現状把握やデューデリジェンスに基づいた事業再生の方法を選択するには、高度に専門的な知識も必要になります。会社の財務状況だけでなくステークホルダーの意向まで踏まえて経営再建をするためには、専門的な知識を持った弁護士等のサポートは必要不可欠だといえるでしょう。
法的再生を行った場合、法的手続きが公になることで会社自体のイメージダウンにつながる恐れがあります。取引先やクライアントとの信頼関係にヒビが入ると、今まで通りの取引が行えなくなったり、金融支援を受けられなくなったりする恐れがあります。業種によっては、それだけで継続困難になるような事業基盤の毀損が生じる可能性があります。
時間と手間をかけて行う事業再生を成功させるためには、次の3つのポイントを意識するとよいでしょう。
なぜ経営不振に陥ってしまったのかその原因を徹底的に究明し、再建後に同じ理由で経営が傾かないような体制を整えておくことが重要になります。
事業に着目して会社全体の経営改善を図る事業再生では、収益性があり将来性が見込める事業に資源を集中させることが重要です。数年後まで視野に入れて採算が取れないであろう事業については、廃止まで視野に入れて市場調査を入念に行う必要があります。
また、場合によっては人件費の削減等も視野に入れて、事業の継続可能性を探るべきだといえるでしょう。あいまいな判断ではなく、採算が取れる事業であるかを明確に区別することが重要となります。
リスケなどで自力で再生資金を確保できないのであれば、スポンサーや金融機関の援助を早めに確保しましょう。再生に使える資金が潤沢であれば、その分、事業再生の選択肢も増えて早期に再建を目指せます。
また、スポンサーから当面の運転資金をもらうことで、取引先の企業への損害も少なくできるでしょう。もちろん、債権者から同意を得られるように対策を練ることも必要です。
経営に行き詰まり事業再生を検討しているのであれば、まずは専門家である弁護士に相談するのがよいでしょう。
事業再生を行うためには、会社の財務状況や事業の将来性などを正確に把握する必要があります。そのうえで、さまざまな事情を総合的に考慮して、取るべき手法を選択する必要があります。現状に合った方針の決定やデューデリジェンスの実施、債権者に納得してもらうための事業計画案の作成など、専門的な知識が必要になる場面は多いです。
事業再生の経験豊富な弁護士であれば、会社に合っている事業再生の方法を選択してもらえます。いざ破産するしかない状況に陥ったとしても、弁護士であれば適切に対応してもらえるでしょう。事業再生では税理士や会計士などの専門家の力が必要になる場面もあるので、さまざまな士業が協力してワンストップで悩みを解決してくれる弁護士事務所に相談することをおすすめします。
事業再生を成功させるコツは、将来性のある事業を選択することと、スポンサーや金融機関などの支援先を早めに確保することです。
事業再生にはいくつか方法がありますが、それぞれメリット、デメリットが異なります。会社の状況によっても取るべき選択肢が変わるので、悩んだら早めに弁護士に相談しましょう。
相談先に迷ったら、破産手続きに精通している”ベンチャーサポート法律事務所”にぜひお気軽にご相談ください。