東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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会社の経営が行き詰った場合、法人の整理を考える経営者の方もいるでしょう。
法人整理にはさまざまな方法がありますが、自己破産すべきケースもあります。
しかし、「法人の破産前には株主に知らせなければならないのではないか?」と思い、破産手続き開始をためらうかもしれません。
また、自分以外の取締役には知らせず、秘密裏に破産手続きを開始したいと思う経営者の方もいるでしょう。
そこで、この記事では法人破産前に、株主に知らせる必要があるか、取締役会の決議を経る必要があるか、詳しく解説します。
Contents
まず、法人が破産手続きを開始するために株主への通知が必要かどうか、理由を確認します。
法人破産前に、個別の株主に通知も、株主総会決議も不要です。
株主が多い株式会社では、個別の株主に法人破産を通知するのは容易ではありません。
また、株主総会を開くには、株主総会招集通知など一定の手続きが必要です。
株主が多ければ、株主総会の招集をおこなうのも一苦労です。
また、株主総会で破産の承認を得られるとはかぎりません。
株主総会の決議が成立するには、定足数や決議要件を満たさなければならないためです。
定足数とは、「最低限の出席数の要件」です。
株主総会決議は、原則として、議決権を行使することができる株主の議決権数の過半数を有する株主が出席して、その出席した議決権の過半数の同意によらなければなりません。
しかし、この同意が得られないこともあるでしょう。
法人の破産は緊急性を要するケースも多く、法人破産前の株主への通知や、株主総会決議は不要とされているのです。
ただし、株主が少数だったり家族が株主だったりする場合、株主総会決議を要するか否かは、法人破産の開始に大きな影響はありません。
法人破産前の株主への通知や株主総会が不要とされる理由には、法人の破産を事前に知った株主のインサイダー取引を防ぐ目的もあります。
インサイダー取引とは、「上場会社の株主や役員などの関係者が、未公表の投資判断に重大な影響を与える会社情報を利用して、自社株等を売買し自己の利益を図る」ことを言います。
法人が破産すれば、法人は消滅して株式も消滅してしまうので、法人破産は投資判断に重大な影響を与えます。
そこで、金融商品取引法で規制されているインサイダー取引を防止するためにも、法人破産前に株主に通知したり、株主総会を開いたりする必要はありません。
次に、法人破産時の取締役会決議について解説します。
株式会社には、取締役会を設置している会社と、設置していない会社があります。
取締役会設置会社の場合は、法人破産を申し立てるには取締役会決議が必要です。
なお、取締役会は3人以上の取締役で構成されています。
取締役会決議は、原則として、議決に加わることができる者の過半数が出席し、その過半数の賛成により成立します。
ただし、破産手続きの実務上、裁判所に取締役全員の同意を証する書面を提出するように求められるケースもあるようです。
取締役会決議をおこなえないときは、取締役の1人が準破産申立をすることができます。
取締役会を設置していない株式会社では、法人破産を申し立てるには取締役全員の同意が必要です。
取締役会全員の同意が得られない場合、取締役の1人が準破産申立をすることができます。
会社経営者として法人の破産が株主に与える影響だけでなく、破産の法的な意義を知っておくと良いでしょう。
破産手続きは、倒産処理法の1つである破産法という法律にのっとって進められます。
破産手続きが終わると、法人は消滅してしまいます。
法人が債務超過に陥った場合に、財産等の清算を行うのが破産手続きです。
債務超過とは、法人の債務を、その資産で完済することができない状態をいいます。
破産申立は、法人の債権者なども申し立てることができますが、法人自ら申し立てた場合を自己破産といいます。
裁判所が法人の破産手続開始を決定すると、法人は自由に財産の管理や処分をすることはできなくなります。
破産管財人が資産を売却して資金をつくったり、その資金で債権者に分配したりするためです。
破産手続きの終了により法人が消滅してしまえば、株式も消滅します。
株式とは、株式会社への出資を表す言葉です。
昔は株券が発行されていましたが、現在は株券未発行も許されています。
つまり、昔のイメージでいうと「法人破産により株券がタダの紙切れになる」ということです。
株券未発行会社であっても同様です。
法人の消滅と同時に株主の権利も消滅し、原則として、株主は出資額を回収できなくなります。
最後に、法人破産と会社債権者の関係や、その他の注意点を付け加えておきます。
破産をためらっているなどの経営者の方は、参考にしてください。
法人が破産してしまうと長年の取引を続けてくれた債権者に、迷惑がかかるのではないかと躊躇する方も多いでしょう。
しかし、破産法人の債権者に与える影響は、デメリットだけではありません。
債務者である法人が破産すれば、債権者は貸付金を貸倒金として損失処理することができます。
事実上回収できないという理由だけでは、税制上のメリットはありません。
しかし、正式に貸倒金処理ができるなら、債権者としてメリットとなります。
法人が自力で弁済することが望ましいですが、いつまでも中途半端な状況で放っておくよりも、破産を選ぶべきケースもあるということです。
法人の破産手続きが開始されると、債権者への任意の弁済は禁じられます。
つまり、執拗な取り立てなどに対応する必要はなくなるということです。
反面、「少しでも」と付き合いの長い債権者に優先的に弁済することも許されなくなります。
債権者間の公平を考えれば当然のことです。
言い換えれば、法人破産を選択すると、経営者として「どの債権者にいくら弁済すべきか」で頭を悩ませる必要はなくなります。
適正な手続きにのっとって破産処理がおこなわれるので、日々の重圧から解放されるかもしれません。
法人の債務を代表者が肩代わりしているケースも多いでしょう。
法人の破産をためらい続けていると、代表者も破産せざるをえなくなるケースもあります。
できるかぎり早めに法人と代表者個人の関係を整理する必要があります。
法人破産前に、株主に通知すべきかどうか、取締役会決議が必要かどうかなどを見てきました。
法人破産を考える際は、株主に与える影響も理解すべきでしょう。
会社経営者の方にとっては、株主や他の役員に秘密裏に法人破産をおこなえるかどうか、気になるところかもしれません。
しかし何よりも大切なのは、法人の倒産処理を始めるべき状況に陥っているということです。
法人の倒産処理には様々な方法があります。
破産すれば会社は消滅してしまいますが、他の倒産手続きを選択すれば、会社が息を吹き返すこともあります。
法人の経営に行き詰ったら、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
破産だけでなく最善の方法を提示してくれるはずです。
大切な会社と取引先、従業員、その家族を守るためにも思い切って行動してください。