東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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Contents
自己破産で免責が認められた後、改めて住宅ローンを組んで住宅を購入したい場合、それが可能なのでしょうか。
結論から言うと、自己破産をしても住宅ローンを組むことができますが、破産後約10年間はできません。
次の内容に分けて解説します。
自己破産をすると、当分の間新たな借入やクレジットカードの申込み、新規ローンを組むことなどができなくなります。
これは、自己破産の情報が信用情報機関に記録されており、融資やクレジットカードの発行などを行う金融機関はこの情報を参照しているからです。
信用情報機関とは、銀行や貸金業者、クレジット(信販)会社など金融機関の業界毎に会員組織を持って、お互いの利用状況などを共有している会社で、現在国内には下記の3つの機関があります。
国内にある信用情報機関
この信用情報機関は相互交流ネットワークで互いに登録している信用情報を利用しているため、一つの会員企業から提供された金融事故などの重要な情報については、各機関で確認ができるようになっています(全ての情報を共有、更新している訳ではありません)。
これらの信用情報機関に登録されている情報には、次のものがあります。
信用情報機関に登録されている情報
登録されている記録については、会員企業だけでなく、本人も手数料を支払うことで入手することができるので、自己破産などの記録が残っているか不安な場合は、信用情報機関に連絡して入手することが可能です。
ただし、個人で請求する場合は、各信用情報機関が持っている情報に限られますので、全ての情報を入手したい場合は、3つの機関全てに請求する必要があります。
前述の情報が信用情報機関に記録されている期間は基本的に最大で5年なのですが、全国銀行個人信用情報センターに保有されている自己破産や個人再生の記録は10年となります。
これはあくまでも信用情報機関に登録された期間です。
特に、自己破産や個人再生などの債務整理の情報は、裁判所から信用情報機関に直接連絡が行くことはなく、あくまでもその情報を登録している会員企業が更新するものです。
クレジットやローンの情報などと合わせて、リアルタイムで情報が更新されるのではなく、また必ず更新する義務がある訳ではありませんから、5年や10年が経ったら次の日には自動的に全ての記録が消えるということではありません。
本人が信用情報機関に登録されている情報を確認して、自己破産などの債務整理の情報や、クレジットやローンの完済情報などが誤っていた場合は、信用情報機関ではなく、その情報を登録した会員企業(クレジットやローンを利用した会社)に削除や訂正を依頼することになります。
したがって、信用情報機関に記録が保存される期間は、結果的に最大約10年間となりますので、その間は新たなローンを組むのは困難です。
自己破産で免責が認められて10年が経過し、自己破産の記録が信用情報機関から消えて、信用情報機関に依頼しても情報の登録されていない状態であっても、新たな住宅ローンの審査が通るとは限りません。
ローンの審査は、信用情報機関に登録されている情報だけを見ているのではなく、勤務先や年収など申込の段階で提示された全ての情報を総合的に勘案してされるものなので、審査に通らない理由が何であるかは分かりませんし、また教えてもらうこともできません。
住宅ローンは金額が大きいものがほとんどなので、頭金の割合や担保となる不動産の評価(立地や内容)なども参考にされます。
ローンを申し込む前に購入する不動産業者などに、審査に通るかの目安を確認しておくことも重要です。
少なくとも10年を経過していれば、自己破産をしていたというだけの理由で、ローンの審査が通らないということではなく、審査が通らないということは何か他の原因があると考えるべきです。
次に、自己破産後に住宅ローン審査を通すコツについて解説します。
住宅ローンを申し込むに当たっては、自己破産をしていない場合でもローン審査に有効な手段なのですが、自己破産をした場合は尚更慎重に次の内容を実行する必要があります。
前述した通り、信用情報機関には自己破産の情報がしっかりと記録されています。
住宅ローンは、基本的に銀行や銀行系の会社に申し込むことがほとんどなので、自己破産による免責が認められてから最低でも10年を経過した後、金融事故情報の保存期間が一番長い全国銀行個人信用情報センターに本人情報開示を依頼します。
また念のため、他の2つの機関にも情報開示を依頼して、自己破産の情報が残っていないか確認しておくと安心です。
もし、この段階で事故情報が残っていた場合は、速やかにその情報を登録した会社に対して削除依頼をする必要があります(信用情報機関では削除できません)。
自己破産の情報が記録されていなかったからといって、安心するのはまだ早いです。
実際に返済能力があることを証明しておくことも必要です。
それは、免責から5年以上経った後にクレジットやローンを組んで、指定された期日にきちんと返済したという事実について信用情報機関に記録させるという方法をとります。
これをクレジットヒストリーといい、これが複数あることで返済能力があることの証明となります。
自己破産による免責後、信用情報機関での記録保存期間が過ぎると借入や買物、ローンなどの情報が全くない状態になり、これを「ホワイト」といいます(ブラックの逆という意味です)。
何もないのは、「ローンが組めないのでは?」「自己破産をしたのでは?」と逆に怪しまれる結果にもなり、実際に現金主義の人でクレジットカードを1枚も持っていなかったために住宅ローンが組めなかったということもある程です。
住宅ローンの審査は総合判断になりますから、事故情報がない、返済能力があるということだけでは結論は出ません。
購入する住宅価格がいくらなのか、頭金がいくら用意でき、それは総額の何割にあたるのか、年収と毎月の返済額のバランスはどうなのかなどが重要となります。
つまり、「きちんと返済できる」ための総合的な資力があるということを客観的に見せる必要があります。
自己破産した本人ではなく、家族名義で住宅ローンを組むと審査が通るケースもあります。
信用情報機関に登録されるのは破産者本人の情報だけであり、家族の情報までは登録されていません。
破産した後すぐにでも住宅ローンを組む必要があれば、親または配偶者などの家族名義で住宅ローンを申し込んでみましょう。
ただし、家族の返済能力も審査されるので、十分な資力があり、事故情報がない人を選ぶようにしてください。
住宅ローンの審査を通りやすくするためには、自己破産前に借入れしていた金融機関の利用を避けることもポイントです。
信用情報機関に登録された事故情報は5~10年で削除されますが、各金融機関には独自のデータベースがあるため、過去の取引情報も一定期間保存されています。
事故情報が判明すれば住宅ローンの申し込みは断られるので、別の銀行を利用する、またはノンバンク(信販会社など)を利用してみましょう。
銀行は全国銀行個人信用情報センター(KSC)に信用情報を照会しますが、事故情報は10年間残っています。
一方、ノンバンクが照会する日本信用情報機構(JICC)などは、5年経過すると事故情報が削除されます。
銀行よりも金利は高くなりますが、審査は通りやすくなるので、問題なく返済できるようであれば検討してみましょう。
自己破産後に、現在住んでいる住宅はどうなってしまうのか、次の3つのケースに分けて解説します。
住宅ローンを返済中の場合、その住宅は金融機関の抵当権が設定されています。
自己破産の申立を行うと、金融機関はこれ以上返済が行われないことを知り、住宅ローンの請求や督促を止めて、その代わりに抵当権を行使して住宅は金融機関によって競売を行い、その代金で債権を回収します。
そのため、提示された日付までに退去しなければなりませんが、競売が成立するかどうかに関わらずそれ以上その住宅に住むことはできません。
住宅ローンが既に完済の場合、抵当権がないため、完全に自分の持ち物となっていますが、自己破産の申立を行うと、一定以上の価値があるものは換金されて、債権者に配当することになります。
自己破産をした人には、99万円以下の現金や通常必要な普通の生活用品しか残せません。
つまり不動産は高額の財産となるため、自己破産の申立によって所有し続けることができなくなり、手放すことになります。
住んでいる住宅が共有名義の場合、その一方が自己破産したときは自己破産者分のローンの請求や督促が中止され、自己破産者の持分について競売にかけられます。
その場合、もう一方の自己破産をしていない共有名義人の持分については影響がないため、競売の結果見ず知らずの他人と一つの住宅を共有することになります。
共有名義の住宅は修繕や処分をする際にも話し合って承諾や合意を得なければならず、さらに相続が発生した場合は、ますます権利関係が複雑になる可能性があります。
そのため、共有名義の一方が自己破産した場合は、売却などを行うことになります。
なお、住宅ローンを組む際に借入額を増やす目的で、ペアローンとして夫婦別々のローンを、お互いを連帯保証人として組んだり、一方のローンにしてそれを連帯債務としたりした場合も、一方が自己破産した場合は、連帯保証人や連帯債務者として、自己破産者の残債を一括して支払うか、それができない場合は、住宅を処分して返済に充てることになります。
前述の通り、自己破産した場合は基本的に住宅を手放す必要があります。
それでも、どうしても今の住宅に住み続けたい場合にはどうしたらよいでしょうか?
これには、次の2つの方法があります。
自己破産をしても、今の住宅に住み続けたい場合、破産手続の中で破産管財人と資金に余裕のある親族との間で交渉してもらい、親族間売買の契約を行って売却します。
買い取った親族から賃貸してもらうことで、今の住宅に継続して住み続けられますし、家賃収入で親族にも代金をリターンすることができます。
ただし、こうした親族間売買の場合は、住宅ローンの審査に通りませんので、一括で支払えるような親族がいる必要があります。
なお、自己破産の前に親族間売買を行う場合は、その価格や時期などによって自己破産手続き自体が認められなくなる可能性がありますので、慎重に行いましょう。
自己破産をする場合、競売にかけられると今の住宅を手放すことになりますが、競売を避ける方法として、任意売却を行うという方法があります。
任意売却とは、住宅ローンを組んでいる金融機関に相談し、一時的に返済をストップした上で、任意売却専門の不動産会社などに依頼して住宅市場で買い手を探し、売却を行うことです。
競売が時価より3割程度低い価格で売買されるのに比べ、市場価格で売却できるメリットがあり、うまくいけば自己破産そのものを避けることも可能な方法です。
任意売却は、時間が限られている中で行う必要がありますが、競売と違い普通の中古物件として販売されるため、近隣の噂にもならず堂々と売却を進めることができます。
そして、厳しい条件でごく稀なケースではありますが、売却先に賃貸をお願いできれば見た目は何も変わらずに今の住宅に住み続けることが可能になります。
自己破産をすると住宅ローンの支払いはどうなるのか、破産後に住宅ローンは組めるのかなどについて解説してきました。
自己破産をした場合、今の住宅に住み続けることができなくなっても、永遠に持ち家を持てなくなる訳ではないことがお分かりいただけたでしょう。
自己破産を検討している場合は、今の住宅をどうしたいのか、将来家を持ちたいのかを含めてどうしたのかなどをしっかり決めた上で、まずは専門家に相談することをお勧めします。