東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産をすると、生活する上で最低限の財産しか持てずに、生活保護を受けなければならない状況になることがあります。
また、生活保護を受けている場合、借金などの返済ができずに自己破産の検討が必要になることもあります。
そこで、自己破産をしても生活保護は利用可能なのか、それぞれの利用条件や併用時の注意点などについて解説します。
Contents
自己破産とは、破産手続と免責手続の2つから成り立っています。
そのため、自己破産するための条件として、次の2つの状況であることが必要です。
この2つがそれぞれどういう状況であるのかと、その手続きについて解説します。
破産せざるを得ない状況とは、次の状態のことをいいます。
借金などの返済額>返済能力
この差がかなり開いてしまい、解消することもできない状態で、通常の生活に影響が出てしまう場合は、破産手続によってこの状態を強制的に終わらせることができます。
破産手続では、裁判によって破産者の財産を換金するなどして処分し、その結果得られた金銭を債権者に公平に配当します(換金できる財産がなければ申立てと同時に終了となります)。
しかし、借金などの総額(債務)が財産額を上回っているため、債権者は破産者の財産の一部しか得ることができませんが(何も得られない場合もある)、だからといって、破産手続によって借金などの債務が消える訳ではありません。
破産手続によって、破産者は財産がなくなった状態(日常生活に最低限必要なものを除く)になりますが、残りの債務を免責手続によって債務を免除してもらうことができます。
ただし、簡単に免責を認めてしまうと、債権者ばかりが損害を受けてしまうため、下記の免責を許可できない理由(免責不許可事由)に該当しないことを条件としています。
ただし、免責不許可事由があることで、必ず免責が認められないということはなく、諸般の事情を考慮して、裁判所が裁量によって免責を許可する場合もあります(裁量免責)。
こうして、破産手続と免責手続が同時に進行することで、自己破産が行われます。
生活保護とは、資産や能力などを活用しても生活に困窮する場合、憲法で定めた「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために、困窮の程度に応じた保護を行って自立を助ける制度です。
生活保護を受けるためには、次の内容を行っても最低の生活費に満たない状態であることが必要です。
保護を受ける内容は下記の通りです。
扶助の種類 | 生活費の内容 | 支給方法 |
---|---|---|
生活扶助 | 日常生活に必要な費用 食費・被服費・光熱費等 | 食費と光熱水費等を 合算して算出 |
住宅扶助 | アパート等の家賃 | 実費を支給 |
教育扶助 | 義務教育の学用品費 | 基準額を支給 |
医療扶助 | 医療にかかる費用 | 医療機関へ直接支払 |
介護扶助 | 介護にかかる費用 | 介護事業者へ直接支払 |
出産扶助 | 出産費用 | 実費を支給 |
生業扶助 | 就労技能の修得費用 | 実費を支給 |
葬祭扶助 | 葬祭費用 | 実費を支給 |
予め定められた最低生活費から実際の収入を差し引いた額が保護費として毎月支給されます。
自己破産と生活保護は併用することが可能です。
ここでは、そのことについて解説します。
前述の通り、自己破産に必要な条件と、生活保護を受けるための要件は、重なるものはありません。
また、自己破産をしたといっても、収入が増える訳ではないため、それによって生活保護が受けられなくということもありません。
逆に、生活保護を受けている状態では、日常生活に必要な費用が十分ではないため、債務などがある場合は、返済できずに自己破産を選択する可能性が高くなります。
したがって、自己破産をしても生活保護は受けられますし、生活保護を受けている状態でも自己破産することが可能です。
では、自己破産と生活保護を併用する場合、どちらを先に行うべきでしょうか?
それは、どちらを先に行っても構いませんし、両方同時に手続することも可能です。
自己破産の手続において、生活保護を受けていることが問題になることはなく、生活保護を申請する際に、自己破産をしたことが不利になることもないからです。
前記のように、自己破産をすると、日常で必要な最低限のもの以外財産がない状態になるため、最低限度の生活状態になっており、それは生活保護が必要な状態であるともいえます。
また、自己破産に回数限度はないため、7年以上経過しているなど、必要な条件が整っていれば、生活保護を受けている状況でも、何回も自己破産をすることができ、むしろ、生活保護を受けている人は、借金などの清算に自己破産を行うことが一般化しています。
尚、生活保護を受けるためには、ケースワーカーなどとの面談が必要になりますが、自己破産と同時に申請するような場合、生活費を確定するために、先に自己破産をして債務をなくしておくことが勧められ、実際は、自己破産を先に行う方が現実的です。
前章で、「自己破産を先に行う方が現実的」とお伝えしましたが、自己破産には費用がかかります。
財産の額や担当する事務所などによって異なりますが、予納金や弁護士費用として、おおよそ50万円程度かかるため、自己破産の費用が捻出できない場合、先に生活保護を受けた方がよいといえます。
なぜなら、生活保護を受けている場合、法テラスを利用(あるいは法テラスと契約している弁護士など)して自己破産手続を行うと、弁護士費用を立て替えてもらえる、民事法律扶助業務が使えるからです。
この制度は、法テラスが弁護士費用を立て替えるだけなのですが、生活保護を受けている場合、20万円を上限として、予納金も立て替えてもらうことができます。
また、この立替金は償還義務といって、基本的に返す必要があるのですが、生活保護の受給者は、申請によって、この償還義務を免除してもらえる可能性があります。
つまり、生活保護を受けている場合、自己破産の手続費用が一部免除される、ということなのです。
自己破産と生活保護を併用するときは、次の点に注意する必要があります。
自己破産と生活保護を併用しなくても、申請時において嘘をつかないのは、基本中の基本です。
ところが、預貯金や現金、株券、貴金属などを隠したり、不動産や自動車の名義変更や、貯蓄性のある生命保険の存在、所持しているクレジットカードを少なく報告したりするケースがなくなりません。
どんなに些細なことでも、虚偽の申請をすると、自己破産では免責不許可になりますし、生活保護も認めてもらえなくなります。
生活保護を申請する際に、勘違いなどで虚偽の申請をしてしまった場合、返還金を求められます。
ただし、返還を求められるのは、あくまでも、正しい状態との差額であり、これによって生活保護全体に影響することはありません。
しかし、故意で虚偽や不正な手段を行って申請したり、配偶者や親族などを使って不正に申請を行ったりして、生活保護を受けた場合、受給した費用の全額返済を求められる他、罰金や懲役刑などの刑事罰を受ける可能性があります。
申請に当たっては、内容をよく確認して不正受給にならないように気をつける必要があります。
自己破産と生活保護を併用する場合、生活保護だけが先行していたときは、自己破産申立ての事実が借金などの借入先に届いていないことになりますので、借金などの返済の督促は止まりません。
生活保護者は自己破産の弁護士費用などが一部免除されますが、返済費用が多額である場合は、何から手を付けるべきかよく考えて、できれば速やかに弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。
生活保護費として支給されたお金は、日常生活に必要な費用ですから、それを借金の返済に充てることは禁じられています。
通帳などで使途が判明してしまいますので、生活保護費を借金の返済に流用したことがバレた場合は、給付した費用の返還を求められたり、生活保護が打ち切られたりする可能性があります。
また、生活保護を受けている状態で、それを隠して借金をしてはいけません。
前記と同様、必ずバレることになりますので、絶対にやめましょう。
もし、一時的にお金が必要な場合は、自治体などで行っている貸付などの利用を検討しましょう。
ここまで、自己破産をしても生活保護は利用可能なのか、それぞれの利用条件や併用時の注意点などについて解説してきました。
自己破産と生活保護は安心して併用できることがおわかりいただけたと思います。
自己破産にせよ生活保護にせよ、どちらも検討が必要な状態である場合は、速やかに専門家に相談して申請を行い、一日も早く安心な生活に戻れるようにしましょう。