東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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法人の破産手続きは、裁判所へ「破産手続」を申立てることから始まります。
その後、裁判所によって破産手続開始決定が下されると破産手続きが進行していきますが、当然この手続きは永遠に継続するわけではありませんから、最後は終了となります。
ただし、破産手続は、それぞれの事案によって終了の仕方が異なります。
本記事では、破産手続きの全体の流れを説明した後、破産手続が終了する3つの要件について解説していきます。
Contents
まず、法人破産手続の申立てから、終結までの全体の流れを確認しておきましょう。
法人破産の手続きは3ヶ月〜1年程度の期間がかかります。
裁判所へ法人破産手続の申立てを行うと、裁判所は破産手続開始の要件を満たしているかどうか検討します。
そして、要件が認められると、裁判所は破産手続開始を決定します。
この破産手続開始決定により、破産する会社の保有する不動産、債権、現金など一切の財産は「破産財団」となり、破産管財人が管理、処分していくことになります。
また、この開始決定があると、会社の債権者が破産する会社の財産に対して既に行っていた強制執行や保全処分は、その効力を失います。
破産手続開始決定と同時に、裁判所が破産管財人を選任します。
破産管財人は、手続きを依頼した弁護士とは別の弁護士が選ばれ、会社の破産財団を管理、処分する権限を持ちます。
破算管財人は、会社の財産を順次処分し現金化していきます。
この財産の管理、処分を行うために、手続開始決定後、会社の代表者、手続代理を依頼した弁護士、破産管財人の三者で打ち合わせが行われます。
破産管財人から、会社の財産内容、処分方針について事情聴取されるとともに、処分方法、処分先についての情報交換が行われます。
債権者集会とは、破産管財人が管財業務の結果や途中経過を報告するものです。
この債権者集会は、破産手続開始決定から3ヵ月程度の時期に開催され、管財業務が終了するまで月1回程のペースで続きます。
そして、管財業務が進み、財産の換価処分が完了した場合、債権者への配当の手続に進みます。
破産財団の処分、換価が終了し確保した原資を、一般債権者に対して配当します。
配当額は、債権者の債権額に応じて平等に決定されます。
ただし、優先的破産債権については、他の債権に優先して配当を受けることができます。
債権者への配当が完了したら、破産手続は終結します。
また、配当がない場合でも、廃止決定により破産手続は終了することになります。
破産手続きの流れの説明で、最後は「終結または廃止決定」となっていましたが、終了する要件によって、3つの終了方法に分かれます。
これら3つの終了方法について、個別に説明していきましょう。
各終了方法は、すべて「破産法」という法律によって定められていますので、説明にあたって、該当する破産法の条文を引用掲示します。
参考にしてください。
第1項
裁判所は、最後配当、簡易配当又は同意配当が終了した後、第88条第4項の債権者集会が終結したとき、又は第89条第2項に規定する期間が経過したときは、破産手続終結の決定をしなければならない。第2項
裁判所は、前項の規定により破産手続終結の決定をしたときは、直ちに、その主文及び理由の要旨を公告し、かつ、これを破産者に通知しなければならない。
法人破産手続では、裁判所に選任された破算管財人が会社の資産をすべて換価(現金化)し、それを債権者に配当し清算するという流れになります。
ですから、債権者への配当が完了した場合、会社の清算業務も終了となりますから、破産手続は終結します。
具体的に説明すると、最後配当、簡易配当または同意配当が終了した後に、管財人による計算報告のための債権者集会が行われます。
その債権者集会が終結したとき、破産手続終結の決定もなされます。
債権者集会は、実際の開催に代えて書面による計算報告も可能です。
書面による報告を選択した場合は、異議期間が設けられ、その期間に異議が出なければ、破産手続終結となります。
破産手続の終了方法のひとつが、「破産手続の廃止」です。
通常の破産手続では、会社の資産を換価し、債権者へ配当を行い清算終了となります。
ですが、会社の清算が終了する前に破産手続を終了させることを、破産手続の廃止といいます。
破算手続が廃止される原因は、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」です。
破産財団というのは、破産管財人が管理、処分する権利を有する会社の財産の集合体のことを指します。
ですから、会社の財産すべてを現金化できても、債権者への配当を行えないだけでなく、破産手続を進めていく費用も捻出できないとう場合、破産手続を終了させるしか道がなく、破産手続が廃止されるということになります。
破算手続の目的は、会社の資産、財産をすべて換価し、債権者へ配当を行うことです。
ですが、この目的を達しないまま破産手続を終了せざるを得ないのが、破産手続の廃止です。
破産手続の本来の目的を達成することはできませんが、実際の破産手続の終了方法の中で最も多いケースが、この「破産手続の廃止」です。
この破産手続の廃止には、廃止するタイミングによって以下の3つに分類されます。
それぞれについて、破産法の条文を交えながら解説していきましょう。
第1項
裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。
最初に破産手続開始が決定されるのと同時に、破産手続廃止が決定されることを「同時廃止」といいます。
破産手続では、破産管財人が管財業務を行っていきますが、破産手続開始を決定する時点で「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」は、破産管財人が管財業務を行っても意味がありません。
そのような場合は、破産手続開始決定と同時に破産手続の廃止も決定されます。
ですが法人破産の場合、個人の自己破産のように財産や債務、債権者が単純ではありません。
法人の破産財団は、契約関係を含めて複雑であることも多く、破産管財人の十分な調査がなければ、すぐには確定できません。
そのため、法人破産手続では、破産手続開始決定と同時に破産手続が廃止となることは、めったにありません。
第1項
裁判所は、破産手続開始の決定があった後、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産管財人の申立てにより又は職権で、破産手続廃止の決定をしなければならない。この場合においては、裁判所は、債権者集会の期日において破産債権者の意見を聴かなければならない。
引用:破産法 第217条(破産手続開始の決定後の破産手続廃止の決定)
同時廃止は、破産手続開始決定と同時に破産手続廃止を決定するものでした。
これに対して、異時廃止は、破産手続開始が決定され、破産管財人が調査を行った後で「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」に破産手続廃止が決定されるものです。
同時廃止、異時廃止の内容は同じですが、廃止決定の時期が、破産手続開始決定と同時か決定後かで異なります。
異時廃止の場合は、破産管財人が会社の資産、財産を調査することになりますので、管財事件となります。
第1項
裁判所は、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当する破産者の申立てがあったときは、破産手続廃止の決定をしなければならない。一 破産手続を廃止することについて、債権届出期間内に届出をした破産債権者の全員の同意を得ているとき。
二 前号の同意をしない破産債権者がある場合において、当該破産債権者に対して裁判所が相当と認める担保を供しているとき。ただし、破産財団から当該担保を供した場合には、破産財団から当該担保を供したことについて、他の届出をした破産債権者の同意を得ているときに限る。
破産法によると、同意廃止とは、破産手続廃止について届出をした破産債権者全員が同意している場合、または同意しない破産債権者がいても、この債権者に対して相当な担保を供していて、他の債権者も担保を供していることについて同意している場合に、破産手続廃止の決定をすることをいいます。
破産債権者の全員が、「破産手続を廃止してよい」と廃止に同意しているか、同意していない債権者が「担保があれば破産手続を廃止してよい」とし、他の債権者もそれに同意しているような場合、破産手続を廃止しても債権者を害することはありません。
ただし、実際は破産債権者が破産手続の廃止に同意するケースはほぼありませんので、同意廃止となることはほとんどありません。
破産手続のほとんどは、説明した「破産手続における配当完了による終結」もしくは「破産手続の廃止」によって終了します。
非常に稀ですが、これら以外にも破産手続が終了するケースがありますので、説明しましょう。
裁判所による破産手続開始決定に対して、即時抗告により異議申し立てを行うことができます。
この即時抗告が認められた場合は、破産手続開始決定が取り消されることになりますので、開始決定はなかったことになり、破産手続も終了します。
第1項
破産手続開始の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。引用:破産法 第33条(抗告)
破産手続の申立てを行っている法人が、破産手続とは別に民事再生手続開始決定や会社更生手続開始決定を受けた場合、破産手続は失効します。
破産手続失効となった場合は、当然ですが破産手続は終了ということになります。
ただし、実際には、破産手続以外に同時に他の倒産手続きを開始することはほとんどありません。
法人破産の手続が終了すると、会社自体が消滅することになります。
会社が消滅しますので、会社の債務などの借金はすべて消滅しますし、滞納している税金があったとしても納税義務は残りません。
また、中小規模の法人の代表者で、会社の連帯保証人となっている場合は、基本的に法人破産とともに代表者個人の自己破産も申立てることになります。
法人破産の手続き終了に前後して、裁判所が代表者個人の債務等の「免責」を許可すれば、個人の債務等も免除されます。
破産手続きを検討するときに、気になるのが費用だと思います。
手続き費用は負債の金額によって異なりますが、一般的には50~150万円ぐらい必要です。
破産手続きの費用は、主に3種類あります。
では詳しく説明しましょう。
予納金は、破産手続きの際に裁判所へ支払う費用です。
破産では裁判所が破産管財人を選んで、管財人による財産・負債の整理などを行います。
管財人に支払う費用として、予納金を収めなければいけません。
予納金は負債金額によって、下記のように変動します。
負債額 | 引継予納金の額 |
---|---|
5,000万円未満 | 700,000円 |
5.000万円以上1億円未満 | 800,000円 |
1億円以上5億円未満 | 1,500,000円 |
5億円以上10億円未満 | 2,500,000円 |
10億円以上50億円未満 | 4,000,000円 |
50億円以上100億円未満 | 5,000,000円 |
100億円以上 | 7,000,000円 |
最低金額は70万円ですが、破産が「少額管財」として扱われると、予納金が20万円まで安くなります。
少額管財として扱うためには、弁護士による破産申立が必要になります。
通常の破産に比べて、申立に条件はありますが、予納金が50万円も安くなるためメリットは大きいでしょう。
少額管財については、下記の記事を参照ください。
▶︎法人破産における少額管財とは?特徴と手続きの詳しい流れについて徹底解説
法人破産では、弁護士に依頼することが一般的です。
なぜなら破産の手続きが難しく、専門家がサポートしないと、手続きを進められないからです。
そのため破産費用として、弁護士への依頼費用もかかります。
法人破産の弁護士費用は30万〜150万程度ですが、負債額・会社の状況によって大きく異なります。
負債額が大きく、それだけ弁護士の手間も増えれば、弁護士費用は高くなるでしょう。
具体的な弁護士費用について知りたい場合は、弁護士事務所に相談してみるのがおすすめです。
多くの弁護事務所では初回の相談を無料で受け付けているため、気軽に利用してみましょう。
法人破産をすると、官報という政府が出している冊子に情報が記載されます。
官報に記載する費用として、15,000円程度必要になります。
また印紙や郵送費用など、5,000円程度の細かい出費もあります。
金額は少ないですが、「2万円程度の出費がある」と覚えておきましょう。
法人破産手続の終結には、いくつかの種類がありますが、一般的には「破産手続における配当完了による終結」か「破産手続の異時廃止」となります。
いずれの場合も、破産手続が終結すると、会社が消滅し、会社の債務などの借金や税金も免除されることになります。
法人破産を考える際には、全体の流れを把握しつつ、弁護士などの専門家に相談し進めるようにしましょう。