東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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会社の経営状態が悪化した際には、会社を破産するのも選択肢の1つとなります。
実際に破産を申し立てる際には、弁護士などの専門家に依頼する場合が多いです。
とはいえ、不安が大きい場合は、事前に破産手続きについての情報を集めておきましょう。
以下で、破産手続きの流れや、必要な費用について解説します。
Contents
法人破産とは、会社が支払不能や債務超過の状態に陥った場合、法的な手続きで財産を債権者に分配し、会社を清算する手続きです。
支払不能とは、取引先などに支払うべき債務があるにも関わらず、経済的能力がないため弁済ができなくなっている状態をいいます。
会社の経済的能力は、財産・信用・労務の3要素を考慮して判断されます。
債務超過とは、借入金などの負債が会社の資産を上回っている状態です。
債務超過は、会社の「債務の総額」と「資産の総額」を明らかにできる資料から、客観的に債務の超過を判断できなければなりません。
法人が破産手続きを行うには、破産手続き開始原因の要件を満たす必要があります。
破産法では、この支払不能と債務超過が法人の破産手続き開始原因として定められています。
法人破産は、会社の清算だけでなく、債権者への財産の適正かつ公平な分配や、債務者の経済的な再生も目的としています。
もし、法的な手続きによらず会社が自由に財産を処分できるなら、親族など利害関係者への弁済が優先されるでしょう。
他の債権者は不当な不利益を受けかねません。
また、会社の債務が永続的に解消されない場合、法人や事業者は経済的な再生ができないままとなります。
経済社会としても新しい事業を起こすような活力は失われてしまうでしょう。
支払不能や債務超過が一時的であり、将来的には経営の黒字化が期待できる場合、民事再生の手続きを選択するケースもあります。
破産が「清算型」の倒産手続きであるのに対し、民事再生は「再建型」の倒産手続きと呼ばれています。
主な違いは、会社の事業を存続させるかどうかです。
民事再生では、原則としては従来の経営陣や会社の財産を維持しながら、再生計画に沿って縮小された債務を弁済していきます。
ただし実務上では、事業は継続するがすべて他社へ譲渡し、債務者自身は清算するケースも珍しくありません。
この場合でも、経営主体は代わりますが事業の再生にはつながるため、民事再生の目的に沿ったとされています。
債務超過が一時的でなく、将来的にも事業の黒字化が難しい場合、破産手続きを選択するケースであるといえます。
複数の事業があり、中には利益の出ている事業がある場合、不採算事業からの撤退やリストラなどで再建できる可能性があります。
民事再生を利用すれば、負債を圧縮し利益の出ている事業へ経営資源を割くのも可能です。
ただし、民事再生には従業員や取引先などの理解や協力が欠かせません。
また、事業全体の営業利益が赤字である場合は、一時的に負債を圧縮しても将来的に破綻する可能性が高いでしょう。
民事再生には、裁判所への予納金や弁護士費用が数百万円~1,000万円以上かかる可能性もあります。
これらの費用を調達できない場合も破産を選択すべきケースといえるでしょう。
破産法では、破産手続きの開始決定と同時に裁判所が破産管財人を選任すると定められています(破産法第31条1項)。
通常、破産者やその債権者と利害関係のない弁護士が選任されます。
破産管財人の主な役割は次の通りです。
破産者の財産であり、破産手続で破産管財人が管理や処分をする権限を持つものを「破産財団」といいます。
破産財団は、破産者自身は自由に処分できず、破産管財人が管理処分します。
なお、個人が破産する場合は、債権者へ分配できる財産がないケースも多くあります。
この場合、債権者に対する財産の分配は実施されず、破産管財人も選任されません。
会社の破産を申し立てる場合には、多くの手続きが必要となります。
ここでは、会社が破産する際に必要な手続きについて確認していきましょう。
会社が破産手続きを開始する際には、取締役会の決議が必要です。
この時、会社がいつ事業活動を停止するのかも決めておく必要があります。
破産手続きを選択しなければならない状況にある会社のため、資金繰りや手形の不渡りなどの不安を抱えていると思われます。
これらの状況を見極めて、事業を停止する日を決定します。
一般的に、従業員に対する解雇通知は、事業を停止するその日に行います。
会社の破産手続きを自分で行うのは不可能ではありませんが、通常は弁護士に依頼します。
弁護士に正式に依頼すると、弁護士から会社の債権者に対して受任通知が送付されます。
受任通知とは、弁護士が会社の正式な代理人になった事実を通知する書類です。
受任通知を受け取った債権者は会社に対して債権の取り立てをしたり、直接連絡はできなくなります。
破産手続きを開始すると決定したら、会社の財産が特定の債権者や役員に支払われるのを防ぐため、保全が行われます。
会社の財産の保全は、会社の破産手続きの依頼を受けた弁護士にとって大変重要な役割となります。
会社の財産を保全するため、代理人となった弁護士は以下のような財産や書類を会社から預かって管理します。
破産申し立てを行うためには、多くの書類を準備しなければなりません。
そのため、破産申し立てを行う前に資料や書類を集めて、弁護士に提出する必要があります。
必要な資料・書類には以下があります。
多くの書類は会社に保管されているため、そのまま弁護士に引き渡します。
会社に関する多くの資料から、弁護士として会社が破産に至った経緯や原因の分析を行います。
そのうえで、会社の代表者などその事情に詳しい人から事情聴取を行い、会社の設立から支払不能に至るまでの経緯について確認していきます。
資料を分析した結果、あるはずの財産に関する書類が提出されていない場合には、その財産についての実態を確認します。
これは、依頼者が財産を隠したり勝手に処分したりしていると、その後の破産手続きに影響が出るためです。
依頼者や特定の債権者が不当に利益を得て、すべての債権者に対する公平な分配を妨げるような事実がないと確認するためのものでもあります。
このような事実がないと確認できたら、破産申立書を作成し、あわせて裁判所に対する提出書類の準備を行います。
破産申立書や証拠書類などの作成が完了したら、裁判所に提出し破産手続き開始の申し立てを行います。
提出する書類には、破産申立書のほか、報告書、陳述書、財産目録など、数多くの書類がありますが、すべて弁護士が会社に代わって作成します。
会社として破産の申立てを行うと、裁判所はすべての書類を分析し、破産手続きを開始する要件があるか審査します。
要件があると認められた場合、裁判所は破産手続きの開始決定を行います。
破産手続きの開始決定がなされると、会社に有するすべての財産は「破産財団」となります。
会社は財産を処分できなくなり、債権者が個別に保全処分や強制執行を行っていても、すべて無効となります。
また、破産手続き開始決定と同時に、破産管財人が裁判所により選任され、以後、破産管財人は破産した会社の財産を処分・管理する権限を持つのです。
破産管財人が選任されたら、早々に破産管財人と会社の代表者・会社の代理人弁護士とで打ち合わせが行われます。
破産管財人から、会社が破産に至った経緯や原因を詳しく聞かれ、今後の破産手続きの進め方を話し合います。
売却しなければならない会社財産、特に不動産など、売却が難しい財産を会社が保有している場合もあるでしょう。
その場合は、どのようにしたら売却できるのか処分方法について話し合います。
破産手続き開始決定から2~3か月ほど経過した後に、債権者集会が裁判所で開かれます。
債権者集会に債権者が出席するのはまれで、ほとんどの場合は、会社の代表者、会社の代理人弁護士、破産管財人、裁判官による話し合いです。
債権者集会は2回、3回と継続して行われる場合もあります。
破産管財人が会社の財産を順調に処分・換価できれば、1回の債権者集会で次の段階に進めます。
会社の財産をすべて換価し、債権者への配当の原資を確保できた場合、債権者に対する最終配当が行われます。
配当は、債権の種類によって優先順序に決まりがあります。
公租(国税・地方税)、公課(社会保険料など)、雇用関係により生じた請求権などのうち一部は優先的破産債権です。
そのため、優先的に配当を受けられます。
配当できるものをすべて配当したら、破産手続きは完了します。
この時、破産手続きの終結あるいは破産手続きの廃止決定が裁判所から交付され、会社の登記は閉鎖されます。
法人破産にかかる費用は負債額、債権者数、会社の規模などにより変動しますが、100万円~300万円程度になることも少なくありません。
申立て費用には、次があります。
破産管財人の報酬として、裁判所にあらかじめ予納金を納める必要があります。
予納金の額は負債総額に応じて大きくなりますが、裁判所の運用によって異なっています。
相場としては、数十万円~数百万円ほどです。
申立てにかかる手数料などの実費として、申立印紙代、官報公告予納金、郵便切手や債権者宛封筒などがあります。
裁判所によって運用が異なりますが、合計して数万円ほどになります。
弁護士に破産手続きを依頼した場合に必要となる弁護士費用は70万円~となります。
弁護士によって金額の算出方法が異なるため、依頼費用に差が出る可能性があります。
裁判所に対する予納金は分割払いするわけにはいきませんが、弁護士によっては分割払いを認めてくれる場合もあるため、事前の無料相談などを利用して確認しましょう。
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「破産の申立や手続きにどれぐらいの時間が必要なのか?」と疑問に思うかもしれません。
破産手続きにかかる期間は会社によって異なりますが、一般的に合計で半年〜1年かかります。
申立・手続きがスムーズに終われば、半年程度で完了します。
債権者との合意が取れなかったり、会社の財産換金に時間がかかる場合は破産手続きの期間は長くなる可能性があります。
以下では、会社の破産手続きについてよくある質問に回答しています。
従業員への給与支払いや税金などについて解説しているため、参考にしてください。
会社が倒産すると、従業員は解雇となります。
ただし、雇用者は従業員に対して未払いの給料や退職金を支払う義務があります。
従業員への未払い給料や退職金は、原則として取引先や他の債権者より優先して弁済される「優先的債権」です。
会社に十分な預貯金や資産が残っていない場合、従業員は国が未払い給料の一部を立て替える「未払賃金立替払制度」を利用できます。
また、倒産による解雇の場合、従業員は「会社都合退職」による失業保険の給付を受けられます。
いずれにしても、従業員への対応として倒産に至った経緯や未払い給料の支払、補助制度の利用など誠意ある説明が求められるでしょう。
特に中小企業では経営者が会社の債務を連帯保証しているケースも多く、通常、法人破産と同時に経営者個人の自己破産も申し立てます。
経営者個人の自己破産が認められなければ、会社の連帯保証などによる支払義務はなくなりません。
破産手続き中は、特に経営者の場合、資産を隠していないか、特定の債権者に勝手に弁済していないかなどの調査を受けます。
自己破産が認められると、支払義務などが免責される一方で、5年~10年ほどはクレジットカードやローンが作れなくなり、金融機関からの借入れもできなくなります。
なお、自己破産をした場合でも、一緒に生活している家族は責任を負いません。
また、自己破産が認められた場合でも、経営者個人が滞納している税金や損害賠償請求権は原則として支払免除がされないため注意しましょう。
会社が税金の支払いを滞納している場合、個人の破産と異なり、法人の破産手続き後は滞納していた税金などの支払義務も消滅します。
法人破産では、手続きが終了すると法人格が消滅するためです。
なお、破産手続きにおける清算では、滞納税金は他の債権よりも優先的に弁済されます。
会社が破産手続きを行った場合でも、経営者が罰則などのペナルティを受けることは原則としてありません。
代表者として責任をとらなければならないと考える方もおりますが、その必要はないためご安心ください。
ただし、たとえば勝手に特定の債権者に弁済をしたり、会社や個人の財産を隠したりした場合、破産手続きが認められない可能性があります。
それどころか、詐欺破産罪という犯罪に該当する行為とみなされる可能性もあるため、注意しましょう。
会社の破産とともに経営者個人の破産申立てをした場合、経営者個人の資産も清算の対象となります。
また、次のような制限があります。
破産手続き中も就業できますが、一定の職業に就けなくなります。
一定の職業とは、弁護士や公認会計士など、主に人の重要な資産や情報を扱う仕事です。
破産手続き終了後に原則として制限は解除されます。
信用情報機関のブラックリストに載ってしまうため、5年~10年間ほどはクレジットカードやローンの契約ができなくなります。
破産手続き中は裁判所の判断により居住地の変更や移動などに制限をかけられる場合があります。
なお、事前に破産管財人に報告した上で裁判所からの許可を得られれば居住地の変更や旅行などの移動も可能です。
会社の破産を考えた場合、いきなり弁護士に相談に行っても何を聞かれるかわからないため、不安な人が多いと思います。
ここまで解説してきた内容を見ていただければ、そんな不安も少しは解消されるのではないでしょうか。
弁護士は依頼者のために一緒に行動してくれるパートナーです。
依頼者の不安な気持ちも理解したうえで、少しでも利益になるように行動をしてくれるはずです。
破産に至った経緯について自分自身でも整理したうえで、弁護士に相談してみましょう。