東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
会社をたたむと一口に言っても、その方法は大きく分けて3つあります。
どのような理由で会社をたたむのか、あるいはその会社がどのような状態にあるのかなどによってその選択肢は変わってきます。
まずは、その3つの方法の違いについて確認しておきましょう。
「倒産」といえば、一般的には、借金や債務の返済で苦しみ、債権者への支払いができなくなってしまい会社が営業を続けることができなくなった状態をイメージすると思います。
実際に、債務超過となって債権者への支払いが滞ってしまった会社が倒産をしています。
ただ、倒産といってもその方法にはいくつかあり、会社を消滅させるために行う「破産」と、会社を存続させることを前提とする「民事再生」とでは、その手続きは大きく異なります。
中小企業が借金や債務の支払いに苦しんでいる状態では、ほとんどの場合破産を選択することとなります。
これは、民事再生などは債権者の同意を得ることができなければ選択肢とはならず、実際に中小企業が債権者の同意を得ることは非常に難しいためで、中小企業の場合は「倒産=破産」と考えてもよいかもしれません。
「廃業」とは、会社を経営していた人がその会社の事業を自主的にやめることをいいます。
倒産と違うのは、その会社が借金や債務の返済に苦しんでいたとしても、債務超過の状態にはなっていないこと、あるいは会社にまったく借金がない場合もあることです。
廃業する場合の理由の多くは、経営者の高齢化・健康問題や後継者不足です。
会社の経営状態は問題がなかったとしても、今後今の状態を維持していくことは難しいため、まだ余力があるうちに会社をたたんでしまうケースが多いのです。
「解散」とは、会社の行っている事業活動をすべてストップし、その会社を消滅させることです。
廃業の場合、現在の会社の経営は順調なことが多いのですが、解散する場合は経営状態が悪化していることが多いと思います。
ただ、倒産に至るほど会社の財産状況は悪くないため、倒産する前に会社の事業をストップし、従業員を解雇したうえで会社を清算するという選択をすることとなるのです。
会社をたたむ方法として、「倒産」「廃業」「解散」の3つの方法があることをご説明しました。
このうち、「廃業」や「解散」については、自分で好きなタイミングを選んでその手続きを開始することができます。
廃業や解散をする際の手続きの流れについて確認していきましょう。
会社の利害関係者は非常に多く、そのような人たちに思わぬ不利益が生じることのないようにするため、多くの手続きが定められています。
会社をたたむ際には、この流れに沿って手続きを進める必要があります。
会社をたたむこととなれば、その事業を終了させなければなりません。
現在の取引先に迷惑をかけることのないよう、営業を終了する日を決めてあらかじめ説明しておく必要があります。
会社を解散するためには、株主総会で「特別決議」を成立させなければなりません。
特別決議とは、発行済株式総数の過半数の株主が出席し、3分の2を超える賛成をもって決議されるもので、解散に反対する株主が大勢いると、特別決議が成立しません。
また、株主総会で解散の決議を行った場合には、あわせて「清算人」の選任決議も行います。
清算人とは、会社をたたむ様々な手続きを実際に行う人のことで、多くの場合、会社の代表者が清算人に就任します。
株主総会で解散の決議を行ってから2週間以内に、解散と清算人の選任についての登記をしなければなりません。
登記の手続きは自分でもできますが、司法書士に依頼して行うのが一般的です。
解散の登記が完了したら、できるだけ速やかに税務署や県税事務所、市区町村役場に解散したことを届け出ます。
また、解散登記から5日以内に、年金事務所に「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を提出しなければなりません。
従業員がいる場合には、同時に「被保険者資格喪失届」も提出します。
さらに、会社が解散して従業員が退職することとなるため、10日以内にハローワークに「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を提出します。
その後、すべての従業員の退職手続きが完了したら、「雇用保険適用事業所廃止届」を提出します。
会社に対して債権を有する人が、会社が解散することを知らないままでいると、債権の取り立てができなってしまう可能性があります。
そこで、広く解散の事実を知らせるため、官報に会社が解散することを掲載します。
このことを「公告」といいます。すべての会社は、解散する際には公告を行い、公告から2か月以上の期間を経ないと次の段階に進むことはできません。
解散した時点での会社の貸借対照表・財産目録を作成するとともに、その事業年度開始の日から解散した日までの期間における損益計算書を作成します。
決算報告書を作成したら、その金額をもとに法人税の申告書を作成し、法人税などの税額を計算します。
解散の日から2か月以内に確定申告を行い、発生した税額を納付しなければなりません。
破産管財人は、会社が保有していた有価証券や不動産などの財産を売却するとともに、債権の金額を回収して会社の現金を増やします。
会社の財産や債権を換価したら、そのお金と従来から保有していた現預金を使って、債権者に対する借入金や債務の返済を行います。
この段階で債務を全額返済できない場合は、解散による通常の清算を行うことはできず、破産手続に切り替えなければならなくなります。
債務の弁済を完了して残った現金・預金がある場合には、残余財産として株主に分配されます。
株主に対する残余財産の分配が完了したら、その時点までの決算報告書を作成します。
作成した決算報告書について株主総会の承認を得たら、法人は消滅することとなります。
清算結了決算報告書が株主総会で承認されてから2週間以内に、法務局で決算結了の登記手続きを行います。
この登記が完了したら、会社の登記簿は閉鎖されます。
清算結了したら、1か月以内に解散の日から清算結了日までの確定申告書を作成します。
所得が発生した場合には、納税も済ませなければなりません。
会社をたたんで消滅するまでには様々な過程があり、その中で必要になる書類も多くあります。
ここでは、手続きに必要な書類について確認しておきましょう。
会社の解散を株主総会で決議し、同時に清算人の選任を行った際には、この両者についての登記を行う必要があります。
株主総会の決議から2週間以内に登記を行う際に必要となる書類は以下のとおりです。
「株主総会議事録」とは、株主総会での議決の内容を記載した書類です。
株主総会が成立するために必要な数の株主が出席したのかや、株主総会話し合われた内容、議案に対してどれだけの株主が賛成したのかといった内容が記載されます。
先述のとおり、会社が解散するためには特別決議が必要とされるため、発行済株式総数の過半数の株主が出席し、3分の2を超える賛成があったことを確認できる内容でなければなりません。
定款は「会社の憲法」とも呼ばれ、その会社の根本的な規則を定めるものです。
どの会社にも必ず定款が定められていますが、その内容は会社によって異なります。
清算人会を設置することについて、定款に規定があるか確認する必要があるため、登記をする際には添付しなければならないのです。
もし定款が見つからないという場合には、公証役場に保管されている原始定款の謄本を発行してもらうこととなります。
「証人承諾書」は、清算人に選任された人が、実際に清算人に就任する意思があることを確認する書類です。
清算人が株主総会に出席している場合は、株主総会議事録で就任の意思を確認することができるため、就任承諾書を別に作成する必要はありません。
清算人に就任した人の「印鑑届出書」を提出します。
「株主名簿」とは、株主の氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数割合を記載した名簿のことです。
「議決権数上位10名の株主」と「議決権割合が3分の2に達するまでの株主」のいずれか少ない方の株主名簿を作成しなければなりません。
清算結了決算報告書を作成し株主総会で承認を得たら、その日から2週間以内に登記を行わなければなりません。
その際に必要となる書類は以下のとおりです。
「株主総会議事録」とは、清算結了の結果、決算報告書を承認した株主総会の決議が成立していることを明らかにする書類です。
清算結了後の株主総会で承認された「決算報告書」を、登記の際に添付する必要があります。
株主名簿は、解散の時に提出したものと同様のものを提出します。
会社を解散してから清算結了するまでにかかる費用はどれくらいになるのか、その額を確認しておきましょう。
会社の解散登記と、清算人の選任登記は同時に行われますが、別の登記を行っていることとなるためそれぞれ費用がかかります。
法務局に納める法定費用として、会社の解散登記については3万円、清算人の選任登記については9,000円が必要です。
官報に会社が解散したことを掲載する際には、官報公告の掲載費用がかかります。
官報公告の掲載費用は1行あたり3,589円とされています。
会社の解散を掲載する際には10行ほど掲載することとなるため、およそ36,000円必要となります。
会社の財産をすべて分配し、清算手続きが完了したら、清算結了の登記を行います。
清算結了の登記にかかる法定費用は2,000円とされています。
会社の解散に関する手続きを専門家に依頼したいと考える人もいるでしょう。
倒産に関する手続きは弁護士に依頼するケースが多いですが、解散の場合は、登記に関する手続きを司法書士に依頼し、確定申告書の作成や残余財産の分配に関する手続きを税理士に依頼するケースが多いと思います。
登記に関する手続きを司法書士に依頼する場合にかかる費用はおよそ5万円程度、確定申告書の作成を税理士に依頼する場合にかかる費用は15~20万円程度が必要です。
ただ、これらの費用は一律ではなく、会社の規模や手続きの難しさ、さらに司法書士や税理士によっても異なるため、事前に確認しておくのが安心です。
自分が設立した会社をたたむ決断をするのは、簡単なことではありませんが、何かのきっかけで会社をたたむ決断を迫られることがあります。
どのようなことが原因で、会社をたたむことになるのでしょうか。
金融機関からの借入は、無限にいくらでもできるわけではないため、金融機関から融資を断られるような状況になった場合、そのままの状態で会社を維持することは難しくなります。
また、会社の資金だけで運営が難しい場合、経営者個人の資金を会社に貸し付けることがあります。
しかしこれは、会社としては資金が不足しており、かつ借入をすることが難しいために苦肉の策として行っているものであるため、要注意の状態にあります。
会社経営者が高齢化し、あるいは健康上の問題を抱えているため、今後の会社経営が不可能になる場合があります。
すでに後継者がいるのであれば、その人に代表者を交代することとなるのでしょうが、後継者がいない場合には、最終的に解散・廃業が選択肢となります。
生涯現役ということで、やれるうちは会社の経営をしたいという考えの方もいると思いますが、自分で動けるうちに解散しないと、手続きは複雑化してしまいます。
元気なうちに会社の経営に目途をつけるのも、経営者として重要なのです。
会社の経営を次の人に任せたい、あるいは会社の事業における重要な部分を優秀な社員に任せたいと考えていても、そのような人材が会社にいないこともあります。
そのような場合、今後の会社の業績が先細りしてしまうことも予想されるため、早めに会社をたたむ決断をすることもあるのです。
赤字になっている会社でも、資金面で問題がない限りは会社の経営を継続することができますが、赤字が続くと、会社の資金はどんどん減っていくこととなります。
一時的に赤字になることは問題ありませんが、何年も赤字が続き今後も好転しそうな兆しがない場合、さらに大変な事態になることが予想されます。
そのため、会社の経営が滞ってしまう前に会社をたたむ決断をすることもあります。
会社をたたむことを検討し始めると、どうやったらスムーズに会社を解散・清算できるかということで頭がいっぱいになってしまいますが、実際には会社をたたむ以外の選択肢もあります。
特に経営者の高齢化や後継者・人材の確保といった問題を抱える場合は、会社を残したまま有効な方法がないか検討してみるとよいでしょう。
会社をいきなり解散する前に、休眠会社にして事業を停止する方法もあります。
会社をたたむ際には多くの時間と費用がかかりますが、休眠会社にする場合は税務署などに届出書を提出するだけです。
ただ、休眠会社にして事業を停止しても会社としては残るため、根本的な解決策にはならない可能性もあるため、注意が必要です。
会社をほかの会社などに売却し、あるいはその会社を引き継いで経営したいという人を探す方法です。
その会社自体の経営状況が良い場合や、ノウハウ・技術などに特色のある会社などは、思いのほか良い条件でM&Aが成立したり、第三者の後継者が見つかったりする可能性があります。
ここでいう「専門家」とは、破産手続きや登記手続きを任せる弁護士や司法書士のことではありません。
M&Aの専門家など、会社をたたむ以外の選択肢にも詳しい専門家に今の会社の状況を見てもらうことで、M&Aで購入希望者が現れる可能性や、後継者が見つかる可能性を探ることができます。
会社をたたむことを考えると、どうしても解散・清算という方向で話が進んでしまいがちですが、それ以外の可能性も探ってみることをおすすめします。
会社をたたむということは最終的に会社を消滅させることですが、倒産する場合と解散する場合では大きな違いがあるため、どちらに該当することとなるのかを確認しなければなりません。
また、会社が抱えている問題、あるいは将来発生する可能性のある問題を解決する方法は、会社を消滅させることだけではありません。
M&Aなどによって、創業者としての利益を得ることができる場合もあるため、会社を消滅させてしまう前に、どのような選択肢があるのかを相談してから決めるようにするとよいでしょう。