東京弁護士会所属。
破産をお考えの方にとって、弁護士は、適切な手続きをするための強い味方になります。
特に、周りに相談できず悩まれていたり、負債がかさんでしまいそうで破産を考えていたりする方は、ぜひ検討してみてください。
任意整理は、借金問題を解決するための法的に認められた手段です。
個人再生、自己破産を含めた債務整理の中でも、任意整理は最も利用率が高く、年間で200万件程度利用されています。
しかし任意整理をすれば、誰でも借金問題を解決できるわけではありません。
任意整理を選択したことでかえって返済が難しくなるケースや、不利益を被ることもあります。
今回は任意整理のよくある誤解を含め、任意整理しない方がいいケースについて解説します。
任意整理を含め、債務整理がよくないと言われる理由は、気をつけなければならないデメリットが存在するからです。
本来は任意整理をしない方がいいにもかかわらず、任意整理を選択し失敗した例もあります。
ここでは任意整理のデメリットや失敗例をふまえて、任意整理をしない方がいいケースについてくわしく解説します。
「ブラックリストに載る」とは、信用情報機関に事故情報として掲載される状態のことを言います。
任意整理をするとブラックリストに載り、借金を完済してもその後5年程度は掲載されたままになります。
ブラックリストに載ると、クレジットカードの利用や新規発行ができなくなり、ローンを組むこともできません。
日常生活では、現金や口座振替を利用することになります。
住宅や車の購入を控えている場合や、教育ローンの予定がありブラックリストに載ると困る、という場合は任意整理をしない方がいいでしょう。
ただし、任意整理をせずとも2カ月程度返済が滞った時点で、ブラックリストに掲載されるため、注意が必要です。
任意整理を行った場合、債務は原則3~5年間で分割して完済する必要があります。
そのため定期的な収入がなければ月々の返済は厳しく、滞納の恐れもでてきます。
任意整理を行った上で返済が滞ると、個人再生や自己破産を選択することになり、労力や費用が余分にかかることになります。
また、収入が無く返済の見込みが立たなければ、債権者が任意整理に応じない可能性が高く、任意整理をする意味がありません。
任意整理は、将来分の利息をカットして、債務総額を減額する方法です。
借入額が少ない場合は、利息もそれほど多くないため減額できる部分が少なく、任意整理の効果は低いでしょう。
また、手続きを弁護士に依頼する場合、債権者1社あたり5~10万円程度の費用がかかります。
複数社から小額ずつ借り入れている場合、減額できる金額より専門家の費用の方が高くなる可能性もあり、効果が見込めません。
借入額が100万円以下の場合や、複数社から借り入れているケースでは、任意整理をしない方がいいこともあります。
任意整理は基本的に、利息はカットできても元金を減らすことはできません。
借金の総額が数千万単位と高額である場合、利息をカットしても多額の元金が残るため、任意整理では対応できません。
多額の借り入れの場合、長期間の分割返済を設定していることが多いでしょう。
しかし任意整理によって3~5年という返済期限ができることで、月々の返済額が上がり、かえって返済が困難になるケースもあります。
3~5年で分割返済が難しいような多額の債務がある場合は、任意整理をしない方がいいでしょう。
奨学金や住宅ローン、マイカーローンなどは金利0.5~4%前後に設定されているケースが多く、低金利の部類に入ります。
低金利の場合、カットできる利息部分が少ないため、任意整理をしてもあまり減額効果は見込めません。
任意整理の失敗例として、低金利で借り入れたものを整理したところ、減額効果があまり感じられない上に、保証人に請求がいき迷惑をかけてしまったケースがあります。
また、家や車のローンは抵当権や所有権の関係から、任意整理によって現物を回収されてしまう恐れもあります。
低金利で借り入れている場合や、ローン返済中のものは任意整理に向いていないと言えるでしょう。
借り入れからそれほど時間が経過しておらず、数回しか返済していないような場合、債権者が任意整理に応じない可能性が大きいでしょう。
債権者側からすると、将来利息分が回収できなくなれば、ほぼ無利息で貸し付けたことと同じような状態になるためです。
また、ほとんど返済しないうちに滞納している場合も、交渉に応じてもらえない可能性は非常に高いでしょう。
返済回数を重ねれば、交渉の余地はあるかもしれません。
借り入れから間もない場合や、返済回数が少ない間は任意整理を控えることをおすすめします。
任意整理は強制ではなく、あくまでも当事者間の交渉による手続きです。
中には最初から「任意整理には応じない」としている業者もあります。
交渉に応じない業者に任意整理を持ちかけると、話し合いに応じないばかりか、訴訟を起こされる可能性も否定できません。
訴訟になれば、強制執行により財産を没収されることにもなりかねません。
任意整理に応じない業者がいる場合、無理に交渉することは避けたほうがいいでしょう。
親族や友人など、個人からの借り入れでも、債務整理をすることは可能です。
しかし個人間では、金利や返済期限などを設定していない場合がほとんどでしょう。
貸金業者のように金利の計算や返済計画の管理など、事務手続きを個人間で行うことは現実的ではありません。
元々はっきりとした取り決めのないものについて交渉をしても、問題を解消することは難しいでしょう。
そのため個人からの借り入れで債務整理を行う場合は、個人再生や自己破産を利用することが一般的で、任意整理は向いていません。
また、弁護士が間に入ることで関係性がこじれる可能性もあります。
「個人再生や自己破産を申し立てるほどではない、でも返済が厳しい」という場合は、債務者本人が事情を説明し、返済期間の猶予や減額について話し合うのがいいでしょう。
銀行のカードローンを利用している場合、任意整理をすると口座が凍結される恐れがあります。
凍結されると引き落としや支払いができなくなり、日常生活に支障が出る可能性があるでしょう。
他の口座を利用する場合も、引き落とし先変更など手続きに手間がかかります。
銀行から直接借り入れをしていなくても、銀行グループ系列の消費者金融から借り入れをしていれば、当該銀行の口座が凍結される恐れがあります。
日常生活で利用頻度の高い口座のカードローンは、任意整理をする前によく検討する必要があるでしょう。
任意整理を含め債務整理は、法律で認められた公の制度です。
一方で、プライバシーに関わることであるため、手続きなどの実情がわかりにくいという点があります。
こうした理由から、様々な誤解を抱いている人が少なくありません。
ここでは、任意整理によくある誤解について解説します。
「周囲の人に知られたくない」という理由で、任意整理に踏み出せない人もいるでしょう。
しかし、任意整理をしていることは基本的にバレません。
任意整理は、年間利用件数200万件ともいわれます。
しかしご自身の周囲で「任意整理をした」という話を耳にしたことはありますか?
おそらく大多数の人が、その事実を知らないでしょう。
任意整理は、当事者間で完結する手続きです。
個人再生や自己破産と違い、国の機関誌である官報に掲載されることもありません。
そのため公になることはなく、勤務先や関係先など、周囲の人に知られることはまずないでしょう。
ただし、弁護士からの郵便物などで、家族にはバレる可能性があります。
気になる場合は、弁護士に事前に相談しておくといいでしょう。
「任意整理によって家族の預貯金が没収される」「子どもの進路に影響が出る」という認識は大きな誤解です。
任意整理は、財産を処分して返済する手段ではありません。
そのため、債務者本人も含めて家族の財産に影響が出ることはない手続きです。
また、借金は債務者個人の問題であるため、家族の進路や就職先、結婚には関係ありません。
ただし、任意整理によってローンが組めなくなるため、進学などでまとまった資金が必要な場合は、資金の調達方法を検討する必要があります。
また、家や車などのローン返済中のものは回収される可能性もあるため、間接的に家族の生活に影響が出ることもあるでしょう。
保証人が付いている借金を整理すると、保証人に請求がいく可能性があります。
債務者本人は借金の減額や分割払いが認められますが、保証人は一括返済が原則のため、その影響は大きいです。
そのため迷惑をかけたくない、と考える人もいるでしょう。
しかし任意整理は、整理対象の債務を選択できるという特徴があります。
保証人付きの債務を除外することで、保証人に迷惑をかけることなく借金問題を解決できます。
任意整理を含め債務整理をすると、その事実が戸籍に掲載されると誤解している人がいます。
子どもの結婚や就職に影響するから任意整理に踏み出せない、と悩んでいる人もいるでしょう。
しかしその心配はありません。
戸籍や住民票は公的な身分証明書であるため、身分を証明すること以外で、プライバシーに深くかかわる事柄が掲載されることはありません。
債務整理は本人の問題であり、家族や第三者に影響を及ぼすものではなく、戸籍に掲載するような事柄ではありません。
任意整理によって、将来もらえるはずの年金や保険が差し押さえられるのでは、という誤解があります。
任意整理は自己破産と異なり、財産を没収されることはありません。
受給中の年金や将来の受給権利に影響はなく、新たに年金や保険に加入することも、問題なく行うことができます。
任意整理は個人再生や自己破産と比べ、手続きが簡易であるということから、自分でできるのではと思っている人もいるでしょう。
借入先が個人のみであれば、当事者間で返済について話し合うことは可能です。
しかし貸金業者相手に個人が交渉することは、非常に難しいと言えます。
相手は法律や制度を熟知し、債務整理の対応に慣れていることが多く、そう簡単には交渉できません。
また、個人相手では任意整理に応じない業者も少なくありません。
この場合、弁護士など専門家が間に入ると、スムーズに交渉が進むケースが多いです。
債務整理はそれぞれに特徴があり、個々の状況によりどの方法を選択するかが非常に重要です。
ここでは、任意整理を選択したほうがいいケースについて解説します。
金利が高く、返済のほとんどが利息に充てられ一向に借金が減らない、という場合は任意整理が向いています。
高金利で借り入れている場合、たとえば毎月4万円の返済のうち3万円が利息分であれば、元金は月1万円ずつしか減りません。
年間でも12万円となり、200~300万円の借金を返済するために相当の時間がかかります。
任意整理で利息をカットすれば、元金の返済に集中できるため、完済の道筋が見えてきます。
債務整理によって保証人に請求がいくと、原則一括返済を求められます。
債務者本人は分割払いが認められていたとしても、保証人には認められません。
もし支払いができなければ、保証人も債務整理をすることになります。
奨学金などは親が保証人になっているケースも多く、影響が大きいと言えます。
個人再生や自己破産では、整理対象を選択することができません。
そのため任意整理で、保証人付きの債務を除いて整理するといいでしょう。
家や車など、どうしても手放したくない財産がある場合は、任意整理が向いていると言えます。
自己破産をすると、財産は最低限のものを除いてほとんど没収されます。
個人再生では、財産は基本的に没収されませんが、ローン返済中のものは所有権などの問題により、回収される可能性が高いでしょう。
その点、任意整理は財産を手放す必要がなく、家や車を整理対象から外せば回収される心配もありません。
長年にわたって借り入れをしているケースでは、過払い金の返還が見込める場合があります。
過払い金は、払いすぎた利息のことを言います。
15%以上29.2%以下の、いわゆるグレーゾーン金利と呼ばれる利率で借り入れを行っていた場合、払いすぎていた利息を取り戻せる可能性があります。
2010年の法改正によりグレーゾーン金利は撤廃されたため、2010年以前の借り入れが対象です。
任意整理は基本的に元金の減額はできませんが、過払い金がある場合は元金に充当することができます。
利息のカットとともに過払い金請求を行えば、借金の大幅な減額が見込めます。
一定の収入がある場合も、任意整理を選択するといいでしょう。
個人再生も安定した収入が手続きの条件ですが、整理対象が選べないことや、裁判所を利用した手続きのため、任意整理より労力と費用がかかります。
任意整理は、3~5年(30~60分割)で返済する必要がありますが、個人再生より簡易的な手続きで行うことができます。
ここでは、任意整理のよくある質問について解説します。
任意整理は、原則3~5年(36~60分割)の期間で返済しますが、当事者間の交渉によるため、中には5年以上の長期分割で合意したケースもあります。
返済中に病気やケガ、失業により返済が難しくなった場合、債権者と交渉することで、返済期間を延長できる場合もあります。
ただし、ブラックリストは完済から5年程度は掲載されたままです。
返済期間が長いほど、クレジットカードやローンが組めない期間も長くなることに注意しましょう。
任意整理はブラックリストに載ることや交渉の難しさなど、デメリットもあるため人生の終わりのように感じる人もいるかもしれません。
しかし任意整理をすることは、人生の終わりではなく、むしろ人生を立て直すための手続きです。
減らない借金に疲弊するより、期間を決めて完済する方がとても有意義だと言えます。
任意整理は誰にも迷惑をかけず、借金問題を解決できる前向きな手段です。
病気や何らかの事情で収入が減少し、返済が難しくなった場合は、債権者や弁護士に早めに相談しましょう。
この場合は、返済計画の見直しの交渉が必要になります。
その他の理由で返済が厳しいと感じる場合も、滞納は避けて早めに相談しましょう。
返済が滞ると任意整理では対応が難しくなり、個人再生や自己破産を検討することになる可能性があります。
任意整理を選択するべきかどうか、個人で判断することは難しいでしょう。
借金問題に困ったら、まずは専門家に相談しましょう。
ここでは、任意整理の相談先について解説します。
法テラスは、国が運営する公的機関です。
借金問題だけでなく交通事故、相続、近隣トラブルなど、あらゆる悩み事の相談ができます。
各都道府県に相談窓口があり、法テラスと契約している弁護士や司法書士の事務所で相談することも可能です。
無料相談の実施や、手続きに慣れた専門家の紹介もしてもらえます。
専門家費用の立て替えや分割払いにも対応しているため、任意整理の手続き費用で困っている場合も相談できます。
ただし収入や資産要件があるため、利用する場合は事前に確認が必要です。
弁護士は交渉事に精通したプロであり、債務整理を専門にしている事務所も数多くあります。
任意整理をスムーズに進めためには、まず弁護士に相談することをおすすめします。
依頼する場合は、債務整理に関する経験が豊富な弁護士を選びましょう。
任意整理を選択するべきか、あるいは別の方法が向いているのか、的確なアドバイスをしてもらえることが重要です。
弁護士に依頼した場合、専門家費用は1社あたり5~10万円が相場です。
これとは別に成功報酬が必要な場合もあるため、依頼する際によく確認しましょう。
司法書士も債務整理の専門家です。
司法書士会の規定により、報酬は1社あたり5万円の制限があるため、弁護士より費用を安く抑えられるでしょう。
ただし、受任できるのは債務額が1社あたり140万円までとされているため、多額の債務がある場合は依頼できません。
また、任意整理では対応できず、個人再生や自己破産を選択することになった場合、裁判所の手続きを代理してもらうことはできません。
任意整理は、借金問題解決のための有効な手段です。
しかし中には任意整理をしない方がいいケースもあります。
任意整理をすることでかえって返済が厳しくなることや、思った結果にならない場合もあります。
また、個人で対応することも非常に難しいものです。
借金返済に困ったら、まずは弁護士に相談し、任意整理が適切かどうかアドバイスをもらいましょう。