最終更新日:2022/6/7
【株式会社の資本金】平均300万円は妥当?業界別の相場や金額を決めるポイント・金額が少ない場合のデメリット
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
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書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 会社の資本金の金額を決める際のポイントを知ることができる
- 資本金の額がどれくらいなのか業界ごとに知ることができる
- 資本金の金額が少なすぎるとデメリットがあることがわかる
これから会社を作ろうとする人がまず頭を悩ませるのは、資本金の額をいくらにしたらいいのかです。
以前は、株式会社を設立する際には資本金の額を1,000万円以上としなければなりませんでした。
そのため、特に悩むことなく1,000万円を資本金の額としていました。
しかし、2006年5月からは最低資本金制度は廃止され、資本金の額が1円でもいいこととされています。
ただ、実際には資本金1円で会社を作ることは無理があるため、いくらが適正なのかを知りたいと考える人が多いのです。
そこで、資本金の額の平均はいくらくらいなのか、そしてその額を決めるポイントは何かを確認していきましょう。
目次
資本金額を決める場合のポイント4つ
資本金とは、会社を設立した際に株主が出資した金額のことを言います。
最低資本金制度がない現在では、資本金の額はいくらであっても会社を設立することができます。
ただ、実際には資本金の持つ意味合いや役割を理解したうえで、その金額を決める必要があります。
そこで、資本金の額を決める際の4つのポイントを確認していきましょう。
(1)数か月分の運転資金や開業資金を確保する
資本金の額は、会社を設立するために必ず必要な金額です。
ただ、会社の設立費用だけを資本金で確保すればいいというわけではありません。
会社を設立して事業を開始しても、その事業で利益を確保することができるようになるまでは時間がかかります。
事業の内容にもよりますが、少なくとも2~3か月程度は利益を上げることは難しいと思われます。
そのため、利益を上げることができるようになるまでの期間の運転資金を確保しておく必要があるのです。
また、会社を設立する際の開業資金についても、綿密に調べておく必要があります。
開業前は会社の売上は1円も発生しないため、すべて資本金から開業資金を支払わなければならないためです。
会社の設立に際して必要となる登記費用は、株式会社の場合、およそ25万円かかります。
また、司法書士に登記を依頼する場合には、これに加えて10万円ほどがかかります。
事務所や店舗を借りる場合は、その家賃や改装費用、内装や備品などが必要となります。
また、パソコンやプリンタ、電話などの設備やインターネットの開設などの費用もかかります。
さらに、ホームページを作ったり、広告費用がかかったりする場合もあります。
開業するためには、数百万円の資金が必要となる場合もあるので、事前によく試算して資本金の額を決めるようにしましょう。
(2)許認可を受けるために必要な資本金がある
設立する会社で営む業種によっては、会社法の規定とは別に、最低限必要な資本金が定められているものがあります。
そのため、事業の内容によって許認可取得の申請要件を事前に確認しておき、それを満たす資本金を確保しておきましょう。
資本金に関する決まりがある業種には、以下のようなものがあります。
- ・建設業(一般建設業の場合500万円以上、特定建設業の場合2,000万円以上)
- ・一般人材派遣業(基準資産額が2,000万円以上)
- ・旅行業(基準資産額が700万円以上)
(3)営業先や金融機関からの信用を得るために必要
新たに事業を開始するにあたって、取引を行う相手先から決算書の開示を求められることがあります。
これは、その会社と取引を行った時に、取引代金をきちんと支払ってくれるかをチェックするためです。
特に会社を設立したばかりで、収益の状況も不透明な場合には、どれだけの資本金があり、どれだけの現金があるかが大きな意味を持ちます。
その結果、支払いが滞る心配が少ないのであれば、取引を開始してもらえる可能性が高くなるのです。
逆に、資本金が少ない会社の場合は、いくら会社の将来性を力説しても、取引をしてもらえない可能性が高くなってしまうのです。
また、金融機関から融資を受ける場合にも、資本金の額が大きな意味を持つ場合があります。
資本金の額は、金融機関からみれば自己資金ということになりますが、この自己資金がなければ融資を受けられないのです。
また、融資をする際に自己資金の額までといった決まりや、自己資金の2倍までといった決まりを設けている場合があります。
(4)資本金が大きくなることによるデメリットもある
資本金の額が大きくなるほど、会社の規模が大きく安定した会社と考えられます。
しかし一方で、資本金の額が大きくなると、負担すべき税額が増えることがあるのです。
たとえば、都道府県や市町村に納める法人地方税の均等割の額は、資本金の額によって変わります。
資本金の額が1,000万円以下であれば、均等割の額は最低限の金額で済みます。
しかし、資本金の額が大きくなると、均等割の額も増えてしまうのです。
また、資本金の額が1,000万円未満の場合、設立2期目までは消費税を納付しなくてもいい免税事業者になる場合があります。
一方、資本金の額が1,000万円以上になると、設立1期目から消費税の納税義務が発生する可能性があります。
このように、資本金の額を増やすほど税金の負担は増える傾向にあるため、資本金の額は多ければいいというわけではないのです。
各業界においての資本金相場とは
資本金は、会社が立ち上がってから事業が軌道に乗るまでの運転資金や開業資金に使われるものです。
そのため、業種によって必要とする金額には大きな差があります。
そこで、様々な業界における資本金の金額の相場をみていきましょう。
これから会社を設立しようという方にとっても、参考になるものと思います。
IT業
IT関連の会社を設立する際は、それほど大きな金額の資本金は必要ありません。
その理由は、大掛かりな機械に投資したり、事務所を開設したりする必要がないためです。
一方で、IT系企業ではシステム開発やパソコンの導入にかなりの費用がかかります。
また、収益化するまでに時間がかかる場合もあるため、運転資金の確保には余裕を持っておく必要があります。
そのため、300万円程度の資本金で開業する会社が多いと思います。
建設業
建設業の会社を設立する際には、建設業許可を取得することが望ましいと言えます。
そこで、建設業許可を取得するための要件を確認すると、500万円以上の財産を保有していることとされています。
会社の開設と同時に建設業許可を取得する場合、会社の財産=資本金となりますから、500万円以上の資本金が必要なのです。
不動産業
不動産業を始めるためには、土地や建物を購入するためにまとまった資金が必要です。
そのために自己資金をあらかじめ準備しているのであれば、資本金の額を多めにすることもできます。
しかし、資本金の額を1,000万円未満にすることによるメリットがあります。
それは、資本金の額を1,000万円未満にすれば消費税の免税事業者となり、消費税を納税しなくて済むことです。
そのため、自己資金が多くある場合でも、資本金の額は500万円程度としている会社が多いのです。
小売業
小売業の会社を開設する際には、店舗の家賃や光熱費、スタッフの人件費、広告費など多くの運転資金が必要です。
また、商品を仕入れるための資金も確保しておかなければなりません。
また、一般消費者相手の商売であれば、売上金が回収できないといった貸倒れが発生するリスクはありません。
しかし、掛け売りやネット販売の場合は、代金回収のリスクもあります。
このような運転資金をあらかじめ計算して、2~3か月分の運転資金や仕入代金を資本金として準備しておくのが安心です。
資本金として300万円程度は必要と考えておきましょう。
資本金が少なすぎる場合のデメリットについて
現在の会社法では、資本金の額は1円からとされています。
そのため、資本金の額を1円にするなど、極端に少ない資本金額で会社を作ることもできます。
しかし、資本金の額を極端に少なくしてもいいことはありません。
確かに資本金を1円として会社を作ることは可能となりました。
しかし、実際に会社を1円で作ることができるわけではありません。
また、最低資本金制度がなくなったからと言って、会社の設立資金や運転資金が少なくなったわけでもありません。
資本金を1円とすると、会社の運営に絶対に必要な金額を、資本金として準備せずに設立したということを意味します。
そして、そのことは後から決算書の「資本金」の額を見ればわかるのです。
しかし、実際には資本金の額を極端に少ない状態で会社を設立しても、その後で何とかなるということはありません。
むしろ、資本金の額から、事業を始めるにあたって無計画な人であると判断される可能性もあります。
そうすると、融資を受けにくくなる場合や、取引を始める際の障害になる場合があります。
したがって、資本金の額を少なくしてもいいことはないのです。
資本金が見せ金と判断された場合は罰則がある
会社を設立する際には、まず発起人と呼ばれる個人の銀行口座に資本金となる金額を預け入れておきます。
その後、会社の設立登記が完了したら、個人の銀行口座から会社の銀行口座に払い込みをするのが一般的な流れです。
しかし、資本金を準備する際に、「見せ金」と呼ばれる方法でお金を調達する人がいます。
見せ金とは、発起人として資本金の額を準備する際に、消費者金融やカードローンなどの借入金からお金を調達します。
そして、会社を設立した後に、本来は会社の口座に払い込むはずの金額を消費者金融やカード会社に返済することです。
この行為は、会社法では罰則規定も定められている違法行為です。
また、このように設立された会社については、金融機関からの融資が受けられないため、絶対に避けなければなりません。
まとめ
会社を設立する際に、資本金をいくらにするかを決めることは、これから起業しようという人にとっては大きな決断です。
しかし、事業計画を作成しているのであれば、開業資金や運転資金がどれくらいかかるのかはわかります。
開業資金や2~3か月分の運転資金に相当する金額を事前に確保し、その金額を資本金とすれば問題はないのです。
その金額は会社によって大きく異なるため、いくらが正解ということはありません。
ただ、実態にあった金額を資本金とすることができるよう、事前の計画をしっかりと練っておきましょう。