記事の要約
- 遺産分割調停の成立は、1年程度かかるのが一般的
- 認知症や行方不明の相続人がいる場合は、調停が長引く可能性もある
- 相続税の未分割申告をする場合、税額軽減の制度や特例が一時的に使えず、多額の現金が必要になることも
「遺産分割の話し合いが、どうしてもまとまらない」
故人が遺してくれた大切な財産をめぐり、身内同士で争いが起きてしまうことは少なくありません。
当事者間での解決が難しい場合は、家庭裁判所での「遺産分割調停」を検討することになりますが、メリットやデメリットがあります。
また、遺産総額が基礎控除を超える場合、たとえ遺産の配分が未確定であっても、期限内に相続税の申告と納税を済ませる義務があります。
しかし遺産が未分割のままでは、本来受けられるはずの優遇制度が適用されず、一時的にではありますが、通常よりも多額の納税をする必要があります。
この記事では、遺産分割調停の基本的な流れや費用、そして遺産を円満に相続するための最適解について、相続実務の視点から詳しく解説します。
なお、VSG相続税理士法人では、相続に関するご相談を無料で受け付けております。
相続手続きや相続税に関することでご不安なことがございましたら、お気軽にご連絡ください。
目次
遺産分割調停とは?知っておくべき基礎知識
遺産分割調停とは、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で合意が得られない場合に、家庭裁判所の「調停委員会」が間に入り、解決をサポートする手続きのことです。
遺産分割調停の仕組みと「裁判」との違い
調停は、あくまで「話し合い」の場です。
裁判官が一方的に「このように分けなさい」と命令する「裁判」とは性質が異なります。
調停は、裁判官1名と民間から選ばれた調停委員2名以上で構成される「調停委員会」が手続きを担当します。
調停委員会では、当事者双方の言い分を交互に聞き、法的な観点や常識的なバランスを考慮して、解決案(調停案)を提示・調整してくれます。
【重要】調停の成立には「相続人全員の合意」が必須
調停では多数決は適用されません。
相続人のほとんどが分割案に賛成していたとしても、たった1人でも反対する人がいれば、調停は成立しません。
相続人全員が提示された分割案に納得し、合意した場合にのみ「調停調書」が作成され、判決と同じ法的効力を持つ解決となります。
合意できない場合は「審判」へ移行する
もし話し合いが平行線のまま「不成立」となった場合、手続きは自動的に「遺産分割審判」へと移行します。
審判になると、裁判官が一切の事情を考慮して強力な権限で分割方法を決定(審判)します。
審判には強制力があり、以下のリスクが生じる可能性があります。
- 柔軟な解決が難しい
- 「どうしても実家を守りたい」といった個人の希望よりも、公平性が優先される。
- 機械的な分割
- 法定相続分どおりの形式的な分割になりやすい。
自身の希望する遺産分割を実現するためには、調停の段階でいかに相手方の理解を得て合意できるかが極めて重要です。
遺産分割調停を利用するメリット・デメリット
遺産分割調停は「公平な解決」が期待できる一方で、決して万能な解決方法ではありません。
遺産分割調停のメリット
遺産分割調停のメリットは、「当事者同士の直接対決を避けられること」です。
- 1.冷静な話し合いが可能になる
- 調停委員が間に入るため、感情的な罵り合いになりにくく、頑なだった相手が態度を軟化させることもあります。
また、当事者同士が顔を合わさずに調停を進めることもできます。 - 2.柔軟な解決ができる
- 「不動産は長男がもらう代わりに、代償金を分割払いにしてもらう」など、互いが納得すれば柔軟な取り決めが可能です。
- 3.決定事項には「強制力」がある
- 調停が成立して作成される「調停調書」は、裁判の判決と同じ効力を持ちます。
もし相手が約束(代償金の支払いなど)を守らない場合、給与や預金の差し押さえ(強制執行)が可能になります。
遺産分割調停のデメリット
一方で、遺産分割調停にはデメリットや注意点もあります。
- 1.とにかく時間がかかる
- 調停期日(裁判所で話し合いを行うための指定された日時)は1~2カ月に1回程度あり、一般的に解決までには1年近くかかります。
また、平日日中の出頭が必要なため、仕事への影響も避けられません。 - 2.費用がかかる
- 精神的負担や手続きの煩雑さから弁護士を依頼するケースが多く、数十万〜百万円単位の費用が発生します。
- 3.調停が長引くと、高額な税金を一時負担するおそれがある
- 相続税の申告期限(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内)までに遺産分割が確定できない場合、相続税の「未分割申告」を余儀なくされます。
未分割申告とは、各相続人が法定相続分で遺産を取得したと仮定して相続税の計算・申告および納税を一時的に行う申告のことです。
未分割申告では、「相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)」や「小規模宅地等の特例」が適用できず、一旦は高額な税金を期限内に現金で納付する必要があります。
※具体的な内容については、記事後半の「遺産分割調停中の相続税リスク」で詳しく解説します。
「認知症」や「行方不明」の相続人がいる場合は?調停が長期化する3つのケースと対処法
遺産分割調停は、基本的に「相続人全員」が参加して話し合う必要があります。
そのため、以下のような相続人がいるケースの場合、そのままでは調停を始めることすらできません。

(1)「行方不明」で連絡が取れない相続人がいる場合
相続人の1人が音信不通であったり、生死不明であったりしても、その人を除外して調停を進めることは法律上できません。
この場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる必要があります。
不在者財産管理人とは、行方不明の相続人に代わって財産を管理・保全する人です。
管理人が選任されるまでには数カ月かかることもあり、その分、遺産分割調停のスケジュールも遅れてしまいます。
(2)「認知症」で判断能力が低下している相続人がいる場合
相続人に重度の認知症があり、意思能力(物事を正しく判断する能力)がないと認められる場合、その相続人は、話し合いや合意といった調停の手続きをすることができません。
そのため、本人に代わって判断を行う「成年後見人」の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
成年後見人の役割は「本人の財産を守ること」ですので、「長男に全財産を相続させる」といった柔軟な分割は認められにくく、原則として法定相続分の確保が求められます。
ただし、本人の生活資金が十分に確保されているなど、「その分割内容が本人にとって合理的」と判断される事情があれば、例外的に法定相続分を下回る内容(またはゼロ)が認められる可能性もあります。
(3)呼び出しを無視・調停への参加を拒否している相続人がいる場合
「自分は遺産をもらうつもりはないから」と、調停の呼び出しを無視したり、欠席し続けたりする相続人がいるケースもあります。
しかし、遺産が不要な場合でも、以下のいずれかの手続きをとって「調停の手続きから正式に離脱」してもらう必要があります。
遺産分割調停では「解決できない」問題に注意
遺産の分け方を話し合う「前提」に争いがある場合、調停では判断できません。
別途訴訟をする必要があり、解決までに数年かかることもあります。

(1)遺言書の「有効・無効」に関する争い
「この遺言書は、認知症の親に無理やり書かせたものだ」「偽造されたものだ」といった主張がある場合、遺産分割調停の場で「この遺言書は無効にしましょう」と決めることはできません。
別途、「遺言無効確認訴訟」を起こし、遺言書の有効・無効を判断します。
(2)「遺産の範囲」に関する争い
「長男名義の通帳があるが、原資は親の金だから遺産に含めるべきだ(名義預金)」
「あの不動産は生前に贈与されたから遺産ではない」
このように、とある財産が「遺産に含まれるか否か」で揉めている場合も、遺産分割調停では扱えず、別途、「遺産確認の訴え」などで確定させる必要があります。
(3)「相続人の範囲」に関する争い
遺産分割調停は、「確定した」相続人同士で遺産をどのように分けるかを話し合う手続きです。
そのため、そもそも「誰が相続人なのか」で揉めている場合、話し合いを始めることすらできません。
遺産分割調停の具体的な流れと期間
ここからは、実際に遺産分割調停をする場合の、準備から調停成立までの流れを5つのステップで解説します。

【STEP1】申立て前の確認(遺言・相続人・財産の確定)
家庭裁判所へ申立てをする前に、以下の内容を確認しておきましょう。
(1)遺言書の有無を確認
遺言書があれば、原則としてその内容が優先されるため、調停自体が不要になる場合があります。
なお、自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要です。
(2)相続人の調査・確定
被相続人の「生まれてから死亡するまでの連続した戸籍謄本」を集め、誰が法的な相続人かを確定させます。
(3)相続財産の調査・目録作成(遺産の範囲の確定)
預貯金、不動産、有価証券などの評価額を洗い出し、「財産目録」を作成します。
「遺産の範囲」に争いがある場合は、前述のとおり、調停の前に別途訴訟手続きが必要になることがあります。
(4)遺産分割協議
まずは当事者同士で話し合いを試みます。
遺産分割協議で合意できない、あるいは相手が話し合いに応じない場合、遺産分割調停の申立てを行います。
【STEP2】遺産分割調停の申立て
遺産分割調停は、原則として、「相手方の住所地」を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
相手方が複数いる場合は、そのうちの1人の住所地を管轄する裁判所で構いません。
ただし、以下の例外も認められています。
・相続人全員が「この家庭裁判所で調停をしよう」と合意した場合。
・申立人の健康上の理由など特別な事情があり、家庭裁判所が適当と認めた場合(申立人の住所地など)。
- 遺産分割調停申立書
- 被相続人や相続人の戸籍謄本、住民票
- 遺産に関する証明書(残高証明書、固定資産評価証明書など)
遺産分割調停の申立てには、どのくらいの費用がかかる?
裁判所に納める実費は1万円程度ですが、弁護士へ依頼する場合は別途報酬が必要となります。
調停の手続き自体にかかる費用は、実はそれほど高額ではありません。
家庭裁判所への手数料: 相続人1人につき1,200円(収入印紙代)
連絡用の切手代: 数千円程度(裁判所によって金額が異なる)
ただし、これらはあくまで「書類を受理してもらうための実費」です。
遺産分割調停を有利に進めたり、複雑な主張を整理したりするために弁護士へ依頼する場合は、別途「着手金」や「成功報酬」が発生します。
相続財産の額や争いの内容によって異なりますが、弁護士費用は数十万円〜数百万円単位になることも珍しくありません。
また、不動産鑑定士に土地や家屋の評価を依頼すると、20万円〜60万円程度かかることがあります。
【STEP3】第1回調停期日(裁判所への出頭)
申立てから約1〜2カ月後に、最初の調停期日(呼び出し日)が指定されます。
当日、申立人と相手方は、原則として別々の待合室で待機します。
調停委員が双方から交互に話を伺うかたちで進められるため、直接顔を合わせることなく、自身の事情や希望を落ち着いて伝えることができます。
やむを得ず、遺産分割調停を欠席する場合はどうすればいい?
代理人を立てる、もしくは「電話会議」などを利用しましょう。
仕事や病気などで調停に参加できない場合は、弁護士を代理人として立てるのが一般的です。
代理人がいれば、本人が欠席しても手続きを進めることができます。
また、家庭裁判所の許可があれば、弁護士以外(親族など)が代理人になれるケースもあります。
なお、遠方に住んでいて出頭が難しい場合には、電話やテレビ会議システムを通じて参加する方法もあります。
【STEP4】話し合いの継続
互いの主張が出揃った後、調停委員が中立的な立場から助言を行い、双方の妥協点を探ります。
調停は1カ月~2カ月に1回程度のペースで開かれます。
なお、令和6年司法統計年報によると、審理期間は一般的に、1年程度(実施期日回数は6〜10回程度)かかります。
解決までには「最低でも半年〜1年、長いと2年以上」かかるとみておきましょう。
【STEP5】調停の成立・不成立
相続人全員が合意すれば「調停調書」が作成され、手続きは終了です。
また、調停調書を使い、不動産の名義変更や預金の解約をすることができるようになります。
一方で調停不成立となった場合、手続きは自動的に「審判」へ移行します。
調停中も相続税の申告は必要?「未分割申告」の仕組みと納税への影響
記事の前半でも触れましたが、相続税がかかる額の遺産をお持ちの方が調停を行う際、必ず意識しなければならないのが「相続税の申告期限」と「資金繰り」の問題です。
ここでは、調停が長引いた場合に発生しうる「未分割申告」について解説します。
調停中でも「相続税の申告期限(10カ月)」は延長できない
遺産分割の状況にかかわらず、相続税の申告・納税期限は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内」と定められています。
遺産分割調停中であり、誰がどの財産を相続するか決まっていない場合でも、相続税の申告・納税期限の延長は認められません。
未分割申告では「軽減制度」が使えない
相続税の申告期限までに調停が成立しない場合は、一旦、法定相続分どおりに分割したと仮定して申告・納税をする「未分割申告」を行います。
ただし、未分割申告の段階では、相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)や小規模宅地等の特例を適用することができません。
本来であれば、これらの制度を使って「相続税0円」で済むケースであっても、未分割申告では一旦、数百万円〜数千万円単位の納税が必要になる可能性もあります。
「3年以内の分割見込書」と税金の還付
未分割申告の際、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を提出しておけば、調停成立後(分割確定後)に「更正の請求」を行うことで、負担軽減制度を適用した税額に計算し直し、納めすぎた税金の還付を受けることができます。
ただし、税金が還付されるのは調停が終わり、更正の請求をしてから数カ月先の話です。
本来は払わなくて済むはずの高額な納税資金を、一旦「現金」で用意しなければならない点は、大きな負担となることがあります。
調停が長期化しそうな場合は、弁護士による法的な主張だけでなく、こうした「納税資金の確保(資金繰り)」についても、早い段階で税理士に相談しておくことが重要です。
申告期限後3年以内の分割見込書
![]()
引用元 国税庁
遺産分割調停を回避する「遺言書」作成のポイント
もし、いま遺産分割調停で苦労されている方は、ご自身の相続で子どもたちに同じ苦労をさせないよう、あらかじめ遺言書の作成を検討しておくことをおすすめします。
- 相続人を正しく把握する
- 「内縁のパートナー」や、養子縁組をしていない「連れ子」には相続権がありません。
財産を相続させたい場合は遺言書(遺贈)のほか、養子縁組や生命保険の受取人指定などの方法もあります。 - 「遺留分」を侵害しない
- 特定の相続人に偏った遺言は、相続トラブルの原因になります。
最低限の権利(遺留分)を考慮した配分にしましょう。 - 「遺言執行者」を指定する
- 未成年の子どもや疎遠な相続人がいてもスムーズに手続きを進められるよう、執行者には弁護士や税理士等の専門家を指定しておくとよいでしょう。
- 「付言事項」を活用する
- 法的効力はありませんが、「なぜこの分け方にしたのか」という想いを記すことで、残された家族の理解を促し、無用なトラブルを回避する助けになります。
調停は「法務」と「税務」の連携で進める
遺産分割調停で大切なのは、単に「いくらもらえるか」だけでなく、相続税を支払った後に「手元にどれだけ資産を残せるか」という視点です。
これを実現するためには、「法的な権利(弁護士)」と「税金の視点(税理士)」の両方をバランスよく考慮することが欠かせません。
まず、弁護士は法律(民法)と交渉の専門家です。
過去の判例や法的な根拠に基づいて主張を整理し、調停委員に対して説得力のある説明を行うことで、依頼者の正当な権利を守る役割を担います。
一方で、税理士は税金の専門家です。
「誰がどの財産を引き継ぐか」によって大きく変わる相続税をシミュレーションし、手残りが最も多くなるような遺産分割案を提案します。
たとえ調停で希望どおりの遺産を取得できたとしても、遺産の分け方が原因で特例や制度が使えず、思いがけない高額な税金がかかってしまうケースも少なくありません。
そのため、法律のプロである弁護士と、税金のプロである税理士の視点を合わせることこそが、納得のいく解決と、大切な資産を守ることにつながります。
まとめ:遺産分割調停をスムーズに進めるために
遺産分割調停は、平均して1年近くかかる長期戦です。
その間、精神的なストレスだけでなく、相続税の申告期限というタイムリミットも迫ってきます。
「感情的な対立」と「税務的な損失」という2つのリスクを回避するためには、法務と税務、両方の視点を持った専門家チームのサポートが不可欠です。
VSG相続税理士法人では、相続分野に精通した提携弁護士と密に連携し、調停のサポートから、期限内の相続税申告、そして二次相続対策までをワンストップで対応いたします。
初回の相談は無料ですので、相続でお悩みの方は、まずは一度お問い合わせください。





