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危険運転致死傷罪とは?適用される6つの行為と刑罰の内容を解説

弁護士 石木貴治

この記事の執筆者 弁護士 石木貴治

東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/ishiki/

危険運転致死傷罪とは?適用される6つの行為と刑罰の内容を解説

この記事でわかること

  • 危険運転致死傷罪とはなにかがわかる
  • 危険運転致死傷罪に適用する行為がわかる
  • 危険運転致死傷罪の裁判事例がわかる

車を運転する際には、人を死傷させてしまう危険性が常にあります。

単に事故として人を死傷させてしまうだけでなく、赤信号を無視して猛スピードを出していた等の危険な運転行為には危険運転致死傷罪という罪が適用される可能性があります。

危険運転致死傷罪とはどのような罪で、どのような運転をしていた場合に適用されるのでしょうか。

ここでは、危険運転致死傷罪の概要や適用条件、裁判事例などを詳しく解説します。

危険運転致死傷罪とは

危険運転致死傷罪とは、危険な状態で自動車を運転した結果、人を負傷させるか死亡させる犯罪です。

危険運転致死傷罪は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称は自動車運転死傷行為処罰法)」という長い名前の法律の第2条と第3条に規定されています。

危険運転致死傷罪の制定の経緯

危険運転致死傷罪は、当初は刑法に規定される犯罪として、2001年12月25日に施行されました。

現在の危険運転致死傷罪の前身であるこの犯罪類型は、2000年4月に発生した悪質な飲酒運転事故の署名運動をきっかけに制定されたものです。

当初の危険運転致死傷罪は、運転行為の中でも特に危険な行為に限定して規定されたため、厳罰に値するような悪質な運転行為であっても、危険運転致死傷罪を適用することができないという問題点がありました。

上記の問題点に刑法の規定が対応できていないとの批判を受けて、刑法から独立した法律として、現在の危険運転致死傷罪を含む、自動車運転死傷行為処罰法が2013年11月20日に成立したのです。

危険運転致死傷罪が適用される行為

自動車運転死傷行為処罰法の第2条には、危険運転致死傷罪に該当するものとして6種類の行為が適用条件として記載されています。

危険運転致死傷罪に適用される行為

  • アルコールまたは薬物の影響による走行
  • 制御が困難なスピードによる走行
  • 制御する技能を持たずに運転
  • 人や車の通行を妨害する目的での運転
  • 赤信号を無視して危険な速度で走行
  • 通行禁止の道路を危険な速度で走行

それぞれの行為によって人を負傷させたり死亡させたりした場合に、危険運転致死傷罪に該当することになります。

アルコールまたは薬物の影響による走行

アルコールや薬物は判断能力に影響を与え、運転が困難になって危険な事故を発生させる可能性が高いことから、危険運転致死傷罪の適用条件の一つとして規定されています。

人身事故が発生しなかった場合でも、アルコールや薬物を摂取した状態で自動車を運転することは、飲酒運転や麻薬等運転として取り締まりの対象になります。

制御が困難なスピードによる走行

運転者自身がコントロールできないほどの猛スピードで車を運転することは、単独事故だけでも運転者や同乗者が大怪我や死亡する危険性が高い行為です。

加えて、周囲の人や車を巻き込んだ場合は、多くの人の身体の安全が脅かされることになります。

上記のような危険性の高さをふまえて、制御が困難なスピードによる走行は、危険運転致死傷罪の一つとして規定されています。

事故を起こさなかった場合でも、スピード違反自体が道路交通法に違反する行為として取り締まりの対象になります。

制御する技能を持たずに運転

自動車は、制御を誤ると人を容易に死傷させる危険性があります。

そのような危険を防止するための十分な技術がない状態で自動車を運転することは、運転者や同乗者だけでなく、周囲の人も危険に巻き込む行為になります。

そのため、無免許運転で自動車を運転して人を死傷させることは、危険運転致死傷罪に該当します

人や車の通行を妨害する目的での運転

他人や他の車の通行を妨害するために運転をし、その結果として人を死傷させた場合です。

他者の通行を妨害する目的での運転は、巻き込まれた相手が危険な事故に遭う可能性が高いことから、危険運転致死傷罪の適用条件として規定されています。

人や車の通行を妨害する目的での運転の例としては、走行中の自動車の進路への強引な割り込み、人や自動車に急接近すること、あおり運転などがあります。

赤信号を無視して危険な速度で走行

赤信号を無視し、かつ重大な交通の危険が生じるような危険な速度で車を運転し、その結果人を死傷させることです。

赤信号の無視と危険な速度での運転は、片方だけでも危険性の高い行為です。

その両方が組み合わさると大きな事故に発展する可能性が高いことから、危険運転致死傷罪に該当する行為として規定されています。

赤信号を無視することと、危険な速度で運転することの両方を行った場合に該当するのがポイントです。

赤信号を無視しただけの場合は該当しません。

通行禁止の道路を危険な速度で走行

通行禁止の道路を危険な速度で走行した結果、人を死傷させることです。

通行禁止の道路の例としては、車両通行止めの道路、歩行者や自転車専用の道路、一方通行を逆走すること、高速道路の逆走、立入り禁止区域などです。

通行禁止の道路を車で走行することは、人が死傷する可能性が高い行為であり、危険な速度で走行することは、さらにその危険性を更に高めることになります。

赤信号を無視して危険な速度で運転する場合と同様に、通行禁止の道路を走行することと、危険な速度で走行することの両方を行った場合に、危険運転致死傷罪に該当するのがポイントです。

第3条の危険運転致死傷罪

自動車運転死傷行為処罰法の第3条には、第2条と比較して危険性が軽微な行為が2種類規定されています。

第3条の危険運転致死傷罪の刑罰の内容としては、人を負傷させた場合は12年以下の懲役が科されます。

人を死亡させた場合は15年以下の懲役になります。

アルコールまたは薬物の影響による運転

アルコールまたは薬物の影響によって、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で車を運転し、それによって正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合に成立します。

第2条との違いは、第2条ではアルコールや薬物によって酩酊や精神錯乱に陥っているのに対し、第3条では当初は軽く酔っているだけであっても、結果として正常な運転が困難な状態になれば成立することです。

特定の病気の影響下での運転

自動車の運転に支障があるおそれのある病気として、政令が定めるものを有しながら自動車を運転し、その病気の影響によって正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合です。

該当する病気の例

  • 統合失調症
  • てんかん
  • 躁鬱病
  • 低血糖症
  • 再発性の失神
  • 重度の眠気の症状を伴う睡眠障害

注意点としては、その病気の影響によって人を死傷させた場合にのみ成立することです。

その病気にかかっていても、病気とは別の原因で人を死傷させた場合には成立しません。

危険運転致死傷罪の裁判事例

危険運転致死傷罪には以下のような裁判事例があります。

共同正犯による危険運転致死傷罪

被告人(加害者)Aと共同正犯になるBが、互いにスピードを競って危険運転を行い、赤信号を無視して交差点に進入し、歩行者を死亡させた事例です。

被告人Aは危険運転致死傷罪となりましたが、Bも「Aと共同して罪を犯した」とされ、危険運転致死傷罪の共同正犯が成立しています。

あおり運転による危険運転致死傷罪

あおり運転が原因となり、東名高速道路で死傷事故が発生した事例です。

加害者は、被害者一家が運転する車に急減速や幅寄せなどの危険運転を繰り返し、車道に停車させたことで、被害者の車に大型トレーラーが追突しています。

事故によって被害者夫婦は死亡、娘2人も負傷したことから、被告人(加害者)は危険運転致死傷罪で起訴されています。

なお、この事件では被告人に懲役18年の判決が下されていますが、判決を不服として控訴しています。

酩酊運転により歩行者2人を死亡させた

被告人は事件当日に同僚と酒を飲み、酩酊していたにも関わらず車を運転し、歩行者3人をはねて2人を死亡させています。

1人は軽傷でしたが、被告人は救護を行わずに現場から逃走しており、悪質性の高い運転であったことから、危険運転致死傷罪として懲役7年の判決が下されました。

危険運転致死傷罪の刑罰 

危険運転致死傷罪に対して科される刑罰は、人を負傷させた場合と、人を死亡させた場合とで異なります。

人を負傷させた場合は15年以下の懲役が科されます。

懲役とは、受刑者を刑務所に収監し、特定の作業を義務として行わせる刑罰です。

人を死亡させた場合は、1年以上の有期懲役が科されます。

有期懲役は、原則として1ヶ月以上から20年以下の期間になります。

そのため、最高で20年の懲役が科されることになります。

詳しく知りたい方は、「人身事故の罰金・罰則と違反点数は?物損事故との違いや事故後の対応も解説」を参照してください。

危険運転致死傷罪の逮捕後の流れ

危険運転致死傷罪で逮捕された場合は、逮捕、勾留、起訴、裁判の順番で刑事裁判の手続きが進行します。

逮捕とは、逃亡のおそれがある場合、または犯罪の証拠を隠滅するおそれがある場合に、被疑者(加害者)の身体を拘束する手続きです。

危険運転致死傷罪は重大な犯罪であるため、逮捕が行われる可能性は高いです

逮捕後は、被疑者を留置場などに拘禁する手続きである、勾留が行われます。

被疑者の勾留の期間は原則として10日ですが、やむを得ない事由がある場合には、検察官の請求によって裁判官が更に10日間の延長を認めることがあります。

逮捕と同様に、危険運転致死傷罪は重大な犯罪であることから、勾留と勾留の延長が行われる可能性があります。

危険運転致死傷罪の起訴と刑事裁判

事件の取り調べの結果、担当する検察官が起訴をするのが相当と判断した場合は、起訴の手続きが行われます。

起訴とは、刑事裁判を行うことを裁判所に請求する手続きです。

事件を担当する検察官は、起訴するかどうかを判断する権限を有します。

起訴をして刑事裁判にかければ有罪になることがほぼ確実な場合であっても、被疑者が真摯に反省しているなどの特別な理由がある場合は、検察官は不起訴処分にすることもできます。

もっとも、危険運転致死傷罪などの重大な事件の場合は、検察官が不起訴処分を選択する可能性は低くなっています。

検察官が起訴をした場合は、裁判所の法廷で刑事裁判が行われます。

日本の刑事裁判は起訴された事件の9割以上が有罪になるため、刑事裁判にかけられればほぼ確実に有罪になります。

危険運転致死傷罪と執行猶予

刑事事件の裁判で有罪になった場合でも、判決によっては執行猶予が付く場合もあります。

執行猶予とは、有罪の場合に情状によって刑の執行を猶予し、その期間を無事に過ごせば刑の効力が失われる制度です。

例えば、懲役2年執行猶予5年という判決の場合は、本来は懲役として2年間刑務所に入らなければならないところ、執行猶予の期間の5年を事件を起こすことなく過ごせば、懲役刑を免れることになります。

危険運転致死傷罪は重大な犯罪なので、執行猶予が付く可能性は高くはありません

もっとも、真摯に反省していることに加えて、被害者との示談が済んでいるなどの事情がある場合は、執行猶予が付く可能性は高まります。

まとめ

危険運転致死傷罪とは、特定の危険な運転によって人を負傷または死亡させた場合に該当する犯罪です。

危険運転致死傷罪は、一般的な犯罪が規定されている刑法ではなく、通称自動車運転死傷行為処罰法という特別な法律に規定されています。

危険運転致死傷罪の適用条件としては、人や車の通行を妨害する目的での運転や、通行禁止の道を危険な速度で走行することなどがあります。

危険運転致死傷罪は重大な犯罪なので、刑罰としては懲役刑のみが規定されています。

また、逮捕後に勾留や起訴が行われる可能性も高くなっています。

保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。 保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。

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