東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
「3カ月前に追突事故に遭って、むちうちなどの症状で事故直後から通院しています。
まだ痛みやしびれがかなり残っているのですが、昨日、加害者の保険会社から「免責証書」という書類が送られてきました。
賠償金30万円で、今後は何も請求できないと書いてあるのですが、これは示談書ですか?
同封の手紙に一週間以内に送り返してくださいと書いてあるのですが、まだ治療も終わっていないのに、この免責証書という書類にサインしなければならないものなのでしょうか?」
このように、加害者側の保険会社から「示談書」ではなく「免責証書」あるいは「承諾書」という題目の書類が送られてくることがよくあります。
「免責証書」とはどのような書類で、「免責証書」が送られてきたら、どのように対応すればよいでしょうか。
今回は、交通事故の免責証書について、書き方や記載例、作成時の注意点を解説します。
目次
交通事故における免責証書とは、事故の解決内容を記載した書類をいいます。
ここではまず、免責証書に記載する内容、免責証書と示談書の違い、免責証書作成により発生する効力について解説します。
免責証書には、以下の事項を記載します。
免責証書の記載内容について詳しくは、次章の「免責証書の書き方・記載例」で解説します。
免責証書は、示談書の一種です。
両者の違いは「加害者側の署名捺印の要否」にあります。
示談書の場合、有効に成立するためには被害者・加害者双方の署名捺印が必要です。
これに対して、免責証書は、被害者の署名捺印があれば有効に成立するため、早期に書類を作成して取り交わすことが可能です。
この違いにより、免責証書は主に、過失割合0:100(被害者の過失ゼロ)の事件や、人身損害の示談で用いられます。
免責証書の効力は、示談書と同じです。
免責証書に署名・捺印すると、免責証書に記載された金額以上の賠償金の請求が認められなくなります。
ここで、免責証書の書き方について、記載例とともにご紹介します。
(1)作成年月日
免責証書の内容に承諾し、署名捺印した日付を記載します。
(2)当事者乙(被害者)の署名捺印
被害者乙が署名捺印します。
乙が未成年の場合は、乙の氏名記載とともに法定代理人の署名捺印が必要です。
(3)当事者氏名・住所・車両登録番号
当事者甲(加害者)と乙(被害者)の氏名・住所・車両登録番号を記載します。
加害者・被害者が複数の場合は、丙・丁等として同様の欄を作成・記載してください。
(4)事故年月日・事故発生場所
事故が発生した日付と場所を記載します。
(5)賠償金額
当事者甲(加害者)と乙(被害者)が合意した賠償金額を記載します。
(6)その他
賠償金に関する合意以外に合意内容がある場合に、その合意内容を記載します。
(7)振込先情報
損害賠償金の振込先口座番号・名義を記載します。
免責証書を作成する際には、以下の点に注意しましょう。
交通事故の示談を行うタイミングは、被害者側の損害が確定した段階が適切です。
物損事故の場合は事故直後に損害が確定するのが通常ですが、人身事故の場合、人身損害が確定するのは以下のいずれかの時点です。
加害者側の保険会社は、損害が確定する前に示談交渉を申し入れてくることがあります。
しかし損害が確定していないと、治療費や慰謝料の額が本来請求出来た額よりも少なくなってしまいます。
必ず、損害が確定した段階で示談交渉を開始するようにしてください。
保険会社の対応に納得がいかない場合は、弁護士に相談してみましょう。
免責証書を一度作成すると、記載された金額以上の損害賠償請求ができなくなります。
加害者側の保険会社の提示する損害賠償額は、相場よりも低く抑えられていることが多くあります。
また、被害者側の過失割合が大きく設定されることも少なくありません。
さらに、本来請求できる金銭が含まれていない可能性もあります。
相手方の提示が適正かどうか、増額の余地があるかなどについて、免責証書作成前に弁護士への相談をおすすめします。
被害者が免責証書に署名捺印すると、その後は原則として新たな賠償請求はできなくなります。
ただし、免責証書に「現時点で予測できなかった損害が生じた場合は改めて協議する」旨の記載を入れていた場合は、相手方の同意があれば新たに生じた損害等について協議が可能です。
この記載がなかった場合も、相手方の同意があれば協議は可能です。
しかし、上記の記載がなければ、協議を拒否される可能性が高いでしょう。
免責証書の取り交わし方は、加害者側が保険に加入している場合と、保険に入っていない場合で異なります。
ただし、免責証書は、手続きを早く進めるために保険会社が作成しているのが通常です。
加害者が保険に入っていない場合は、加害者本人の賠償金支払義務を明確にするため、極力、被害者・加害者双方の署名捺印が必要な示談書を作成するようにしてください。
加害者が保険に加入している場合は、以下の流れで免責証書を取り交わします。
双方とも保険に加入していない場合は、以下の流れで免責証書を取り交わします。
なお、被害者のみ保険に加入している場合は、被害者自身と保険会社との間で特約利用等の手続きを行ってください。
「免責証書」は示談書に比べて手続きを早く進められるので、加害者側の保険会社は示談書の代わりに免責証書を作成することがよくあります。
しかし、免責証書にサインしてしまうと、その後の請求ができなくなってしまいます。
弁護士が介入することで、賠償金については保険会社の提示額の倍以上の金額、あるいは100万円単位の増額が認められることも少なくありません。
また、治療の途中で免責証書が送られてきた場合は、現時点ではサインできない旨保険会社を説得することが可能です。
保険会社から免責証書案の提示があった場合は、賠償金額が適正かどうか、交通事故に詳しい弁護士に
相談してみましょう。