東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
自動車の衝突事故やバイクなどの転倒事故で膝を強く打つと、膝蓋骨骨折を受傷する場合があります。
膝蓋骨は「膝の皿」にあたりますが、骨折すると後遺症が残りやすいため、後遺障害慰謝料などを受け取れる可能性があるでしょう。
ただし、後遺障害等級の認定が条件になっており、非該当になると示談金を減額されるため、十分な被害者補償は受けられません。
今回は、膝蓋骨骨折で起きうる後遺症や、慰謝料の増額方法などをわかりやすく解説しますので、後遺障害を申請するときは必ず参考にしてください。
膝蓋骨骨折(しつがいこつこっせつ)とは、簡単にいうと膝の皿の骨折です。
膝蓋骨には太ももの筋肉の動きを脛骨(すねの骨)に伝え、膝の動きを滑らかにする役割があるため、骨折すると膝の曲げ伸ばしが難しくなり、強い痛みも生じます。
膝蓋骨骨折の完治期間は骨折状況によって変わりますが、3~5週間程度のギプス固定が必要になるでしょう。
ただし、ギプス固定している間に膝の可動域が狭くなり、周辺の筋力も落ちているため、3~6ヶ月程度はリハビリを続けることになります。
膝蓋骨骨折の後遺症には以下の種類があり、膝関節に障害が残るため、仕事や日常生活に支障をきたします。
いずれも後遺障害に認定される可能性があるので、具体的な症状を理解しておくとよいでしょう。
偽関節とは、骨折部分がうまく癒合(骨同士がくっつくこと)しなかったため、もともと関節ではないところが関節のように動いてしまう状態です。
膝蓋骨を骨折した際に、脚の「すね」を形成する脛骨と腓骨の骨幹部も骨折すると、癒合の過程で変形が生じてしまい、偽関節ができるケースがあります。
偽関節は運動障害や痛み(疼痛)が残る場合もあるので、状態によっては常に硬性補装具が必要になるでしょう。
膝蓋骨骨折に機能障害の後遺症が残ると、膝関節の可動域が狭くなる場合があります。
可動域制限の程度は健側(骨折していない方の膝関節)が比較対象になっており、10%以下や1/2以下など、どれだけ制限されるかで後遺障害の等級が決まります。
可動域制限の機能障害が残ると、正座などの膝を大きく曲げる動作ができなくなり、膝蓋骨骨折した足をあまり使わなくなるため、筋力も低下するでしょう。
膝蓋骨骨折は神経障害の後遺症が出やすいので、曲げ伸ばしの運動機能が回復しても、痛みやしびれが残ってしまうケースがあります。
神経障害は関節面の転位(骨のずれ)や欠損から生じる場合が多く、軽度の場合は着脱可能な伸展装具で保存治療を行いますが、症状が重いときは手術も必要です。
膝蓋骨骨折と同時に隣接する靭帯も損傷した場合、動揺関節の後遺症が残る可能性があります。
動揺関節になると、膝関節が可動域を超えて曲がるなど、正常な関節とは異なる曲がり方になるため、膝がぐらぐらして不安定になります。
重度の動揺関節は常に硬性補装具を装着することになるので、土木や建築現場の作業など、膝に負担がかかる仕事は難しくなるでしょう。
膝蓋骨骨折に後遺症が残ると、症状に応じた後遺障害等級に認定される可能性があります。
後遺障害等級は下位の14級から上位の1級までがあり、認定された等級によって賠償金が変わるため、被害者の補償に大きく影響します。
膝蓋骨骨折の機能障害や神経障害など、症状別の後遺障害等級については以下を参考にしてください。
膝蓋骨骨折に偽関節の後遺症が残ると、以下の後遺障害等級に認定される場合があります。
7級10号 | 1下肢偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
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8級9号 | 1下肢に偽関節を残すもの |
7級10号と8級9号はどちらも偽関節を残しますが、以下のように運動障害の程度によって判定が変わります。
7級10号は硬性補装具の常時装着が要件になっており、「著しい運動障害」は以下の状態を指しています。
硬性補装具はプラスチック製や金属製になるため、膝関節用の布製サポーターは対象外です。
8級9号の後遺障害も偽関節を残しますが、以下のように7級10号よりも軽度な状態を指します。
ただし、骨の癒合不全による変形障害が残るため、事故前と同じ動作は難しくなります。
膝蓋骨骨折の後遺症に機能障害が残ると、以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。
8級7号 | 1下肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの |
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10級11号 | 1下肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 1下肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの |
「1下肢の3大関節」には膝関節が含まれており、足の動きや可動域制限が後遺障害等級に影響します。
8級7号の要件となる「用を廃したもの」とは、膝関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態です。
また、8級7号には以下の認定要件もあります。
人工関節などの治療を受けると膝の痛みは軽くなりますが、膝関節の可動域は狭くなります。
10級11号の要件となる「1関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、健側の膝関節に比べて、可動域が1/2以下に制限される状態です。
なお、人工関節や人工骨頭に置き換えた場合でも、可動域の要件は同じ要件です。
健側の膝関節に比べて可動域が3/4以下に制限されると、12級7号の後遺障害等級に認定される場合があります。
膝蓋骨骨折に神経障害の後遺症が残ると、以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
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14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
主な神経症状は痛みやしびれですが、頑固かどうかは以下のように判定します。
12級13号に認定される場合、頑固な神経症状を医学的に証明できることが要件です。
一般的にはレントゲンで関節面の転位などを検査しますが、神経症状の証明に至らなかったときは、CTやMRIの検査で明らかになるケースもあります。
14級9号の場合、神経症状を医学的に説明できることが認定要件です。
膝蓋骨の骨折状況や治療の経過などを総合的に判断し、神経症状が残っていることを医学的に説明できれば、14級9号に認定される可能性があるでしょう。
動揺関節の後遺障害は8級や10級などに準じた判定になるため、以下のように分類されます。
8級7号準用 | 常に硬性補装具を必要とする状態 |
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10級11号準用 | ときどき硬性補装具を必要とする状態 |
12級7号準用 | 強度の労務に硬性補装具を必要とする状態 |
膝関節が不安定になったときは、必ず靭帯損傷の検査も受けてください。
膝蓋骨骨折を受傷すると、加害者側から以下の慰謝料をもらえます。
慰謝料の算定基準には自賠責保険基準と任意保険基準、弁護士基準の3種類があり、一般的な相場は以下のようになっています。
入通院慰謝料とは、入院や通院に伴う精神的苦痛に対し、加害者側から償いの意味で支払われる賠償金です。
1ヶ月程度の通院で膝蓋骨骨折を治療した場合、入通院慰謝料は以下のような金額になります。
自賠責保険基準 | 12万9,000円 |
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任意保険基準 | 12万6,000円 |
弁護士基準 | 19万円 |
任意保険基準は計算方法が公開されていないので、あくまでも一般的な相場です。
後遺障害慰謝料とは、後遺症に伴う精神的苦痛に対し、加害者側から補償される賠償金です。
金額は後遺障害等級に応じており、もっとも高額になるのは弁護士基準です。
等級 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
7級 | 419万円 | 500万円 | 1,000万円 |
8級 | 331万円 | 400万円 | 830万円 |
10級 | 190万円 | 200万円 | 550万円 |
12級 | 94万円 | 100万円 | 290万円 |
14級 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
保険会社の提示額が低かったときは、弁護士に後遺障害慰謝料を算定してもらいましょう。
交通事故の示談金は示談交渉によって決まりますが、以下のように増額させる方法もあります。
弁護士の協力があれば、増額の確率はより高くなるでしょう。
膝蓋骨骨折によって仕事を休み、収入が減少したときは休業損害を請求できます。
休業損害は「基礎収入×休業日数」で計算しますが、有給休暇を使って治療したときも請求可能です。
また、就労していない家事労働者や学生、無職の方にも補償されるので、交通事故の被害に遭ったときは、必ず加害者側の保険会社に請求してください。
後遺障害を認定機関に申請するときは、後遺障害診断書が必要です。
後遺障害診断書は医師に作成してもらうので、膝蓋骨骨折の自覚症状や検査結果は漏れなく記載してもらいましょう。
診断書の内容が不十分だった場合、適切な等級に認定されないので注意が必要です。
後遺障害を申請するときは保険会社に後遺障害診断書を提出しますが、事前に弁護士のチェックを受けると、検査漏れなどを指摘してもらえます。
効果的な書き方も医師へ助言してくれるので、弁護士に後遺障害の認定をサポートしてもらうと、適切な等級に認定されやすくなります。
保険会社と示談交渉する場合、低額な示談金を提示されるケースが多いので、納得できないときは弁護士に代理人を依頼することをおすすめします。
弁護士が対応すると、弁護士基準で後遺障害慰謝料などを算定してくれるので、高確率で増額した示談金を受け取れます。
自動車保険などに弁護士費用特約を付帯していると、弁護士費用を保険会社が負担するので、ほぼ自己負担なく弁護士に依頼できるでしょう。
交通事故では膝蓋骨骨折を受傷するケースがかなり多いので、後遺症が残ったときは必ず後遺障害を申請してください。
ただし、後遺障害は書面のみで審査されるため、後遺障害診断書や添付資料の内容次第では、非該当になる可能性もあります。
また、後遺障害等級に認定されても、保険会社が示談交渉の主導権を握ると、示談金を減額される場合があるので要注意です。
適切な後遺障害等級の認定を目指すときや、示談交渉に不安があるときは、交通事故専門の弁護士に相談してください。