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交通事故の被害に遭った場合、その交渉や裁判にかかる費用はすべて加害者に負担してもらいたいところですが、どのような場合に請求できるのでしょうか?
結論から言うと、示談交渉では弁護士費用の請求はできません。
一方、裁判になった場合は一定額の請求ができます。
では、弁護士費用の請求について詳しく見ていきましょう。
示談を弁護士に依頼することは、示談交渉に慣れていない人にとって大きなメリットがあります。
しかし、裁判と違って示談は被害者自身でも可能とみなされます。
示談を弁護士に依頼するかどうかは被害者の任意であり、あえて弁護士に依頼するのであれば、その費用は被害者が負担すべきとの考え方です。
ADRなどの紛争処理センターの利用も示談とみなされ、費用の請求はできません。
示談の場合は被害者自身で可能とみなされますが、裁判になると非常に高い専門性が必要であると判断されます。
また、一般的に、被害者が裁判を弁護士に依頼します。
そのような理由で、裁判になった場合の弁護士費用は相手側に請求できるのです。
つまり、交通事故の弁護士費用は、示談では請求できませんが、裁判になれば請求できるということになります。
裁判の弁護士費用は請求できますが、全額請求できるのでしょうか。
全額請求できないのであれば、どの程度を請求できるのかを説明します。
裁判で相手方に弁護士費用を請求するためには、「訴状」に請求することを記載する必要があります。
裁判をした場合の弁護士費用は、損害額からすでに支払われた額を差し引いた額の10%を請求できます。
事故と弁護士依頼との因果関係がわかるように、提示しなければなりません。
裁判の結果は「和解」と「判決」の場合がありますが、どちらの場合も弁護士費用は支払われるのでしょうか?
和解とは、裁判の中でお互いが譲歩して合意して裁判を終わらせることです。
裁判の中で互いに議論を尽くした上で、裁判所から和解案が提示されます。
その和解案に双方が合意した場合に「和解」となり裁判は終結します。
多くの場合、和解金の中で「調整金」という明細で弁護士費用が加算されるケースがあります。
このとき、「弁護士費用」と明示されることは少ないですが、弁護士費用を加味した和解金で支払われるので、和解の場合でも弁護士費用は支払われると言えます。
和解がまとまらない場合は裁判所によって判決が出されます。
最高裁昭和44年2月27日判決では、一般の人は弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動が難しく、弁護士に依頼するのが通常と認められので、弁護士に依頼してかかった費用は交通事故と相当因果関係に立つ損害と認められるとしました。
しかし、弁護士費用にかかった実費ではなく、判決の場合は賠償額の10%程度が弁護士費用として認められます。
交通事故では、示談交渉やADRなどの紛争処理センターの利用で裁判に至らない場合もあります。
しかし、それらの手段では合意できず裁判になる代表的なケースを紹介します。
示談交渉で、互いに譲歩することができず決裂した場合には裁判で決着をつけることになります。
裁判でも、裁判所から和解案が提示され、和解できた場合には和解で裁判は終結します。
和解もできなかった場合には、裁判所から判決が出されます。
示談交渉や和解案に同意できなくても判決には従わなければなりません。
損害賠償額の算定基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の三つの基準があります。
種類 | 内容 | 金額 |
---|---|---|
自賠責基準 | 最低限度の補償 | もっとも低い |
任意保険基準 | 任意保険会社が独自に設定 | 自賠責保険よりは高い |
弁護士基準 | 弁護士依頼・裁判時に採用される基準 | もっとも高い |
裁判をすることによって弁護士基準が適用されます。
自賠責基準は最低限の補償額を算定する基準であり、事故被害者が任意保険に入っていない場合でも、最低限の補償を受けることができる制度です。
任意保険基準とは、加害者側の保険会社が補償額を算定するときの基準を指します。
保険会社が独自に設定していて基準は非公開ですが、各社の基準は概ね同程度です。
自賠責保険基準とほぼ同程度か、若干高い金額が基準になります。
弁護士基準は過去判例に基づいた公正で法的正当性のある基準です。
自賠責基準や任意保険基準よりも弁護士基準を適用した方が賠償額を大きく増額できるので、裁判になりやすいといえます。
自賠責後遺障害等級は、自賠責保険の損害調査事務所で審査認定されます。
ところが、自賠責調査事務所の後遺障害審査認定の審査認定手順は非公開です。
また認定結果の理由付けも定型的・抽象的であり不明瞭なので、等級認定に不満を感じる人は少なくありません。
損害調査事務所に等級認定に不満がある場合に、裁判による適切な後遺障害認定と、それに基づく損害賠償を求める傾向があります。
人身傷害保険とは加害者が正当な賠償金を支払わない場合、あるいは不注意で加害者になった場合に使える保険を指します。
自分に不注意があって過失割合で賠償金を減額されてしまった場合、その減額分を人身傷害保険で充当するものです。
ただし、保険会社の約款には多少の違いがありますが、多くの場合この人身傷害保険を適用するには裁判による判決・和解・調停での裁定が必要となります。
そのような経緯で、人身傷害保険の適用を受けるために裁判を起こすケースが多くなっています。
弁護士費用の費用倒れとは、弁護士に依頼をしたが、賠償額の増額よりも、弁護士費用の支払いが多くなってしまうケースです。
交通事故被害で弁護士に依頼して費用倒れが起きる代表的なケースと、費用倒れを防ぐ方法を解説します。
人身事故と比較した場合になりますが、物損事故の賠償金は実損害の補填という性質があるために賠償金の大幅な増額は見込めません。
そのため、弁護士費用に関してはすべて持ち出しになると考えたほうがよいでしょう。
人身事故の場合でもケガが軽微なものであった場合は、通院期間や通院回数が少ないので入通院慰謝料も低くなり、賠償額の大きな増額は見込めません。
この場合も、弁護士費用は持ち出しが多くなると考えたほうがよいといえます。
加害者が任意保険に未加入で、加害者に資力がない場合、自賠責保険の適用となります。
自賠責保険の場合、法定の限度額以上は請求できませんので、賠償金の増額は見込めません。
この場合も、弁護士費用の賠償金による補填は難しいと考えられます。
示談交渉や裁判においては、事故の証拠が必要です。
事故を警察に届けていない、ケガをしていても病院で治療を受けていないなどの第三者による証明がない場合は、こちらの要求が受け入れられる可能性は極めて低いと予測できます。
他にもドライブレコーダーなどの記録や証拠が不足している場合は、弁護士に依頼しても交渉や裁判を有利に進めることができず、賠償金の増額は見込めません。
賠償金の算定は、過失割合により決まります。
いくら被害者であっても、被害者に大きな過失があり過失割合が高い場合には、過失相殺によって大きく賠償額が減額されます。
弁護士に依頼しても、こうした場合には賠償額の増額は見込めません。
上記のケースのように賠償金の増額が見込めない場合、弁護士に依頼しても増額分よりも弁護士費用の方が多くかかってしまい、マイナスになってしまいます。
そのような場合の対策をご案内します。
交通事故に詳しい弁護士に事故状況を説明して見積もりをしてもらいましょう。
実際に依頼する前の段階で賠償金額の受取の目安や弁護士費用を把握できれば、経費倒れのリスクは回避できます。
司法書士や行政書士など他士業は弁護士に比較して、報酬額が安価です。
だだ、できる業務の範囲が限定されており、司法書士の場合は140万円以上の示談交渉ができず、行政書士は示談交渉をしてはいけません。
少額の賠償金示談交渉や自賠責の請求手続きだけを依頼するなど、限定的な業務を依頼する場合には、弁護士以外の士業を利用するのも一つの選択肢です。
多くの自動車保険には弁護士特約が用意されています。
弁護士特約に入っていれば、弁護士費用300万円まで補償を受けることができます。
通常、弁護士費用が300万円を超えることはほとんどないため、安心してこの特約を利用して弁護士に依頼しましょう。
交通事故のときに弁護士に依頼すると、弁護士費用は相手方に請求できるのかということを説明してきました。
結論としては、弁護士費用は交通事故の示談交渉では請求することができませんが、裁判になれば損害額の10%が請求可能です。
また、物損事故など損害額が低く、受け取れる賠償金が低額の場合、弁護士に依頼すると弁護士費用の方が高くなってしまう、費用倒れが起こってしまいます。
事前に費用倒れの対策もできるので、交通事故の示談交渉を専門家に依頼したいときにはぜひ参考にしてください。