東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
身体に傷害を負った場合、その損傷の部位や程度によっては、後遺症が残ることがあります。
後遺症は、主に以下のようなものが挙げられます。
被害者本人しか自覚できない「しびれ、痛み」から、他人でもはっきりと確認できる体の特定部位の「欠損」「変形」「関節が動かない」などによる運動能力の低下、中枢神経や脳の損傷による半身や全身の不随、昏睡などの意識障害まで多肢にわたります。
これらの中で、交通事故が原因とされるものについては、後遺障害等級の認定がなされれば受け取れる慰謝料などの損害賠償が大幅に増額されます。
しかし、後遺症が残ったすべての被害者に後遺障害等級の認定がなされることはなく、最低限の通院慰謝料、治療費、休業補償しか受け取れない被害者が多いことが現実です。
この記事では、交通事故の後遺障害等級の認定の難しさと認定の要件、認定を受けられなかった場合の対処法、認定を受けられた場合の慰謝料などについて説明していきます。
目次
後遺障害等級の認定については、損害保険料率算出機構という団体が審査を行っています。
この団体では、自賠責保険に関する契約、保険金支払い、後遺障害等級認定の結果などを統計資料として公開しています。
この資料の「2019年度版・自動車保険の概況」では、2019年に後遺障害等級の認定が受けられたケースが52,541件あり、「2019年度版・損害保険料率算出機構統計集」では、2019年に交通事故で傷害を負った被害者(後遺障害等級の有無を問わず)に自賠責保険から賠償金が支払われたケースが1,006,272件あったと示しています。
これらをもとに計算すると、2019年に交通事故に遭って傷害を負った被害者のうち、後遺障害等級の認定を受けられた人の割合(後遺障害等級の認定率)は、5.22%でした。
2017年4月に自賠責保険の保険料率が引き下げられましたが、この引き下げを反映してか2018年度頃から後遺障害等級の認定が厳しくなったと言われています。
先に紹介した統計資料の「自動車保険の概況」と「損害保険料率算出機構統計集」の2015年度と2019年度のデータの中から、「後遺障害等級の認定件数」と「傷害に対しての支払い件数(後遺障害を含む)」を比較したのが次のとおりです。
2019 | 2015 | |
---|---|---|
認定件数 | 52,541 | 62,305 |
支払い件数 | 1,006,272 | 1,157,070 |
参考:損害保険料率算出機構
2019年度の支払い件数が1,006,272件、2015年度の1,157,070件と比べて「-13.03%」、2019年度の認定件数が52,541件、2015年度の62,305件と比べて「-15.67%」となりました。
認定審査が厳しくなったと言われ始めた後の2019年とそれ以前の2015年の比較では、近年の交通事故発生件数の減少傾向を反映し、すべてのデータで減少を示しています。
しかしそれぞれの減少率を見ると、支払い件数の減少率「13.03%」に対して、認定件数の減少率が「15.67%」となり、実に「2.5%」も認定件数の方が減少していることがわかりました。
以上のことから後遺障害等級の認定審査が厳しくなり、認定件数が減少したと言われても不思議ではありません。
後遺障害等級の認定では、次の重要な4つの要件があります。
被害者の症状が交通事故による傷害が原因であるという因果関係が認められなければなりません。
これは事故直後に病院へ行き、診察、治療を受けることが一般的なので、事故から時間がたって最初の治療を受けた場合には事故以外の原因が疑われるので因果関係が認められないということになります。
必ず事故直後(遅くとも1週間以内)から通院し、併せて事故状況を正確に説明できるように記録を残しておくことも大切です。
具体的には、レントゲンやMRI検査などの画像所見、神経学的検査結果による所見などで被害者の症状が交通事故によって起こった傷害が原因であることを客観的に明らかにしなければなりません。
症状の固定とは、治療を続けていた医師が「被害者の症状がこれ以上治療を続けても良くも悪くもならない」と診断をしたことで、その診断日の被害者の症状が後遺障害になるかどうか判断されます。
また、被害者の自覚症状が「寒くなると痛む」や「特定の姿勢をとると痛む」などの場合には、症状の常時性がないとされます。
また、事故から症状固定までの通院が定期的・継続的(6か月以上、毎月1回以上)に行われていない場合に「適切な治療を続けなかったから症状が残った」症状の一貫性が否定されることになります。
症状固定がなされたときの被害者の症状が、自動車損害賠償保障法施行令で定められている後遺障害等級の1級から14級のいずれかの症状に該当していなければなりません。
この等級は、体の損傷部位の後遺障害の程度に応じて細かく分けられていて、これに応じた具体的な損害賠償額(自賠責基準)も定められています。
2018年以降、後遺障害等級の認定審査が厳しくなってきたと言われても、これらの要件が厳しくなったものではありません。
認定申請を検討している被害者は、交通事故に精通している弁護士などの専門家に相談や依頼するなどして、認定が受けられる可能性を高めることも大切です。
被害者は、認定不可、認定された等級などの審査結果に対して不満がある場合、次の3つの方法で異議を述べることができます。
後遺障害等級認定の審査機関へ異議申立てをして再審査をしてもらいます。
ここでは、被害者に有利になる新たな資料を提供することで認定結果を覆すことが可能性になります。
また、この異議申立ての手続きは費用がかからず、自賠責保険の請求権が時効で消滅する3年間に何度でも行うことができます。
この手続きは、法律によって定められた紛争委員会が、裁判所以外で公正中立な第三者的立場で紛争を解決しようとするものです。
自賠責保険に関する紛争は、被害者がADR機関である「自賠責保険・共済紛争処理機構」へ紛争処理の申請をします。
そして、被害者から提出された資料と紛争委員会が収集した資料をもとに、医師、弁護士、学識経験者などが後遺障害等級の認定について審査し、調停を行ってくれます。
また、紛争処理の手続きに費用はかかりませんが、一度しか手続きを利用できないため、慎重に判断したうえで行うことが大切です。
後遺障害等級の認定の審査結果や紛争処理員会の調停結果にも不満がある場合、裁判所へ訴訟を提起して後遺障害の等級について争うこともできます。
また、審査機関へ異議申立てや紛争処理手続きを経ることなく訴訟を提起することも被害者の自由です。
ただし、裁判所の手続きには費用がかかり、他の手続きと比べて解決までに時間がかかってしまいます。
被害者は、後遺障害等級の認定があると後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できるようになります。
被害者が請求した損害賠償に対して、まず自賠責保険から支払われ、足りない部分を加害者へ請求することとなりますが、その足りない分について実際にいくら支払うかを被害者と加害者の話合い(示談交渉)で金額(示談金)を決めます。
交通事故で身体に被害を受けた被害者は、自賠責保険から損害賠償として慰謝料を受けとることができます。
すべての被害者が受け取れるものが通院慰謝料で、後遺障害等級の認定なされると追加で受け取れるものが後遺障害慰謝料です。
また後遺障害慰謝料は、自賠責保険に関する法律で後遺障害の等級に応じて具体的な額が定められています。
遺失利益とは「後遺障害がなければ得られた収入」のことで、後遺障害等級に応じて定められた「労働能力喪失率」を使って計算します。
具体的には「基礎収入額」に「労働能力喪失率」と「労働喪失期間に対応する係数(ライプニッツ係数)」を乗じて算出した額が逸失利益となります。
ライプニッツ係数とは、将来的に受取るはずの収入を前倒しで受取るときに「発生する利息」を控除するために使う指数で、労働能力喪失期間に応じて一定の数値があり、保険会社などで「ライプニッツ係数表」として公開しています。
後遺障害慰謝料の基準には、後遺障害の等級に応じて法律で定められている自賠責基準、任保険会社が独自に定めている任意保険基準、過去の裁判例をもとにした裁判基準(または弁護士基準ともよぶ)の3つがあります。
また、最も低額な基準が自賠責基準であり、裁判上の請求や弁護士による示談交渉のもとになる裁判基準が最も高額となっています。
後遺障害等級で最も重い1級と最も軽い14級の自賠責基準と裁判基準を比べてみると次のとおりです。
等級 | 自賠責基準 | 裁判基準 |
---|---|---|
1級 | 1,150万円 (要介護:1,650万円) | 2,800万円 (要介護も同額) |
14級 | 32万円 | 110万円 |
このように自賠責基準と裁判基準では2倍以上の差があり、弁護士に依頼したり裁判上で請求したりすれば、最高額の慰謝料・示談金を受け取れる可能性があります。
また、先に説明した後遺障害等級の認定申請、異議申立て手続きについても、交通事故に精通した弁護士に依頼したほうが同様に良い結果につながるでしょう。
交通事故の被害に遭われた方は、後遺障害等級の認定がなされるか否かでその後の生活に大きな影響を受けます。
また、被害者の苦痛が少しでも和らぎ、安心して治療・リハビリが続けられるよう適切な損害賠償がなされることが大切です。
最後になりますが、この記事が被害者とその家族の方々の一助になれば幸いです。