東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
「てんかん」は、特有の発作を繰り返す脳の病気ですが、先天的な病気だと思われている方も多いでしょう。
しかし、スポーツなど運動中の接触や衝突、交通事故などによる外傷を起因とする「外傷性てんかん」もあります。
この記事では、交通事故が原因の「外傷性てんかん」について、被害に遭われた方と家族にむけて、症状と検査、後遺障害認定から慰謝料などについて説明していきます。
目次
頭部に外傷を受けた場合、脳が損傷してしまい「けいれん発作」が起こることがあります。
この発作の起きる時期で、早期てんかん(外傷後7日以内)、晩期てんかん(外傷後8日以降)にわけられます。
交通事故の後遺障害として問題になるのは、主に晩期てんかんで、わりと予後が良い早期てんかんに対して、晩期てんかんでは長期治療が必要で、最悪の場合には難治性てんかんになる可能性もあります。
てんかんの主な症状(発作)は、けいれん、意識の消失、全身にわたる筋肉の硬直・脱力などがあり、一過性の発作が数秒から数十秒、長くて数十分で回復しますが、いくつかの発作が重なったりして2回以上反復的に起こります。
交通事故による外傷性てんかんの検査と確定診断は、一般的に次の手順で行います。
1.問診
患者と家族から外傷直後の意識障害の有無と長さ、外傷直後のけいれん発作の有無と様子の聞き取りが行われます。
特に患者本人が意識喪失したため記憶が曖昧なときもあるので、家族などの発作の目撃情報が診断に有効です。
2.身体的診察・確定鑑別診断のための検査
「脳波検査」と「神経画像検査(CT、MRI)」にあわせて「血液検査」を行いますが、必要に応じて追加の画像検査(SPECT、PET、脳磁図・MEG)なども行います。
また、発作の確認が最も有効なため、患者が発作を起こすまで観察をし続ける「ビデオ脳波同時記録」検査も行われます。
3.確定診断
ここまでの問診と検査の結果を一定の診断基準(Walkerの診断基準)に照らして確定診断が行われます。
「Walkerの診断基準」
交通事故による外傷性てんかんと診断されると後遺障害等級の第5級、第7級、第9級、第12級のいずれかの症状に応じた認定を受けることになります。
また、各等級と認定基準は次の表のとおりで、数字が小さいほど障害が大きくなります。
等級 | 認定基準 |
---|---|
第5級2号 | 1か月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」または「意識障害を呈し状況にそぐわない行為を示す発作」であるもの |
第7級4号 | 転倒する発作等が数か月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1か月に1回以上あるもの |
第9級10号 | 数か月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの |
第12級13号 | 発作の発現はないが、脳波上に明らかなてんかん性棘波を認めるもの |
(参考元:国土交通省)
ここで注意しなければならないのは、1か月に2回以上の発作がある場合、外傷性てんかん以外の障害も併発している可能性があります。
この場合、一般的に高度の高次脳機能障害とされ、後遺障害第3級以上の認定対象となることがあります。
後遺障害等級の認定は、医師の「症状固定」の診断を経て審査機関に対して申請を行います。
この申請は、被害者が審査機関へ直接行うものではなく、加害者側の自賠責または任意保険会社を経由して行います。
ここでは手続きの流れを説明していきます。
被害者の症状がこれ以上の治療を続けても効果がなく、症状が改善または悪化もしないという状態を医師が診断したときに「症状固定」と呼び、この状態を基準にして後遺障害診断書が作成されます。
症状固定の時期については慎重な判断が必要で、発作の回数が多い場合や患者の知能低下や人格変化などがある場合、高度の高次脳機能障害を併発している可能性があります。
少しの異変でも必ず医師へ伝えて「症状固定」を先延ばしにし、相当の検査をしてもらうこともおすすめします。
被害者が加害者側の任意保険会社を経由して認定申請することを「事前認定」と呼び、被害者は医師に書いてもらった後遺障害診断書を保険会社へ提出するだけです。
また、その他必要な書類は保険会社が用意してくれるため非常に簡単な手続きになります。
一方で、被害者が加害者側の自賠責保険会社を経由して認定申請することを「被害者請求」と呼び、後遺障害診断書のほか次の必要書類を自分で用意して提出しなければなりません。
人身事故の被害者は、後遺障害等級の認定がなされると後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求することができます。
交通事故に遭って傷害をおった被害者が請求できる慰謝料には、入通院慰謝料と、後遺障害等級の認定がなされたときの後遺障害慰謝料があります。
当然、後遺障害等級の認定がなされなければ、被害者が請求できる慰謝料は入通院慰謝料のみとなります。
慰謝料は、算出基準には次の3つがあります。
自賠責基準 | 強制加入保険である自賠責保険の基準 自動車損害賠償保障法という法律で定められていますが、3つの基準の中で最も低額になります。 |
---|---|
任意保険基準 | 任意保険会社の内部基準 それぞれの保険会社が独自に定めていて、一般的に公開されていませんが、自賠責基準を少し上回る金額といわれています。 |
裁判基準 | 裁判所の過去の判例をもとに作成された基準 3つの基準の中で最も高額になります。 弁護士基準ともよび、示談交渉や裁判上での相場として広く利用されています。 |
後遺障害慰謝料は、被害者側が請求した金額のうち、まず自賠責保険から自賠責基準で支払われ、足りない部分を加害者側へ請求することになります。
この足りない部分については、双方の話合いで解決しますが、加害者側の任意保険会社は低い方の任意保険基準で金額を提示してきますので、被害者が最も高額な裁判基準で解決したいと考えているのであれば弁護士に依頼する方が得策でしょう。
外傷性てんかんで後遺障害等級の認定がなされた場合、後遺障害慰謝料について自賠責基準と裁判基準を比較してみると次のとおりです。
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
5級2号 | 618万円 | 1400万円 |
7級4号 | 419万円 | 1000万円 |
9級10号 | 249万円 | 690万円 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
後遺障害遺失利益とは、後遺障害によって労働力が低下して「後遺障害がなければ得られたであろう収入」のことをよびます。
この具体的な計算は、「基礎収入額」に「労働能力喪失率」と「労働喪失期間に対応する係数(ライプニッツ係数)」を乗じて算出します。
基礎収入とは、逸失利益の算出の根拠とする数字で、被害者の事故に遭う前年の年収が該当します。
ただし、若年の有職者(30歳未満)や家事従事者、無職者(学生,幼児など)など収入が低い、収入がないなどの場合、賃金センサスに基づく「平均賃金」を基礎収入とすることもあります。
労働能力喪失率とは、後遺障害によって失われた労働力の割合のことで、後遺障害の等級に応じて定められています。
外傷性てんかんの後遺障害等級では次のとおりです。
等級 | 喪失率(%) |
---|---|
5級 | 79 |
7級 | 56 |
9級 | 35 |
12級 | 14 |
労働力喪失期間とは、被害者が18歳以上なら後遺障害の症状固定の日から、18歳未満なら18歳から、それぞれ就労可能年齢の上限(原則67歳)までの期間のことです。
ライプニッツ係数とは、将来的に受取るはずの収入を前倒しで一括して受取るときに「発生する利息」を控除するために使う指数で、損害保険会社などが「ライプニッツ係数表」として公開しています。
年収800万円、47歳、男性、会社員が外傷性てんかんで後遺障害9級10号の認定を受けた場合、遺失利益は、31,241,700円となります。
後遺障害等級の認定は、申請をした全ての被害者に認められるものではありません。
特に、次のような原因があると認定を受けることが難しいとされています。
しかし、認定を受けられなかった方、認定された等級に不満がある方にも救済の手続きが用意されています。
審査結果に対しては、初めに申請した「事前認定」または「被害者請求」に則って異議の申立をすると再審査をしてもらうことができます。
これは、自賠責保険の請求権の時効(症状固定の日から3年)になるまで何度も申立できます。
ただし、闇雲に申請しても期待した結果につながりませんので、後遺障害等級の認定に精通している弁護士に依頼する方が得策です。
異議申立のほかに「裁判外紛争解決手続き」が利用できます。
これは認定の申請をした被害者と審査機関以外の中立的な第3者が関与して解決を図ってくれますが、一度しか利用できないため、慎重に判断したうえで手続きを進める必要があります。
最終的には裁判で争うこともできます。
裁判所は、審査機関の判断に拘束されないので、認定申請・異議申立時に提出できなかった資料なども証拠として自由に扱えます。
どの様な資料を用意するのかが重要になりますので、こちらも後遺障害等級の認定に精通している弁護士に依頼する方が得策です。
てんかんは、突発的に発作が起きるので日常生活に様々な支障をきたしますが、これから被害者が安心して治療・リハビリなどを続けていくためにも、加害者から適正な慰謝料等が支払われることが重要です。
そして、後遺障害をかかえた被害者、その介護をする家族だけで相手方と示談交渉をすすめていくことは大変困難なことです。
まずは交通事故に詳しい弁護士に相談することが賢明ではないでしょうか。
最後になりますが、この記事が悩んでいる被害者とその家族の助けになれば幸いです。